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男爵と文通 ④
黒髪のジェロームへ
先日は貴重な情報をありがとうございます。ジェロームは物知りですね。この情報はお役立ちです。
ところで十一月の初めに学院で文化祭がありました。
僕も苦労して書き上げた分厚いレポートを展示しました。一部の人からはとても評価されたんですよ。すごいでしょ?寝ずに頑張った甲斐がありました。ジェロームにもいつか見せたいです。
その文化祭で、僕はカフェの給仕を手伝いました。
男性給仕の腰布みたいなエプロンをつけようとしたら、店主から女性もののフリル付きを渡されてしまいました。
予備が無かったそうですが、カッコよく決めようと思ったのに。無念です。
ところでカフェの店員さんは大変ですね。右からも左からも斜めからも注文に呼ばれて、僕は身体が3つあっても足りないな…って、そう思いました。グラスも三つ割ってしまっt、僕は結婚したら夫を助け働こうと思っていましたが、飲食店だけはやめておくつもりです。
ジェロームは働く妻をどう思いますか?とくに深い意味はないです。聞いてみただけです。
そうそう。僕には来春、血の繋がった弟が出来るんですよ。今からとっても楽しみです。
でも異母弟をハブるのは良くないです。僕と異母弟は微妙な仲でしたが仲直りをしました。彼は今必死でいい男になるため奮闘中です。
追伸
金平糖すごく嬉しかったです。あれをチョイスするジェロームのセンスは最高です。あれは僕が困った時きっと力になります。
シャノン・プリチャードより
良かった…私の送った手紙が彼の役に立った、その事実に心が震える。
この北東の果てにあるエンブリーから、南にいくつもの山を超え、ひっそりと信仰される小さな密教。それがカマ神教。
田舎に行けば行くほど、小さな集落で得体の知れぬ神が祀られているのはどこの国でもあることだ。
それらの実態が深く知られることはほとんど無い。
私が行商から聞いた話しも「カマ神とは博愛と快楽の神様だって話だ。いやー、いいねぇ」などと言った、男特有のどうでもいい下卑た話であった。
そのような神を崇める不埒な輩に狙われておいでだというのに給仕の真似事など…、皆がシャノン様に殺到したのは容易に想像がつく。
疑いを知らぬのがシャノン様の魅力なのかもしれないが、いささか油断が過ぎよう。ああ…、何故私はここに居るのか!
だが貴族学院の文化祭は貴族であれば誰でも観覧は可能だ。たとえ田舎の下位貴族であったとしてもだ。
いつか必ず…私は自分自身をそう奮い立たせた。
光明は差し込み始めている。
『山には夢が詰まっている』その言葉に一筋の期待をかけ、山中を探索すること一か月。あのスコップは地面を探せということだろう。
するとシャノン様の示唆した通り…私は驚きと共に『夢』の欠片を手にしていた。
これは『琥珀』だ。小さな欠片だが間違いない。川の上流近くで見つけた…これは『琥珀』の輝きに違いない。
『琥珀』それは北部を超えた向こうにある、極寒の海岸でのみ採れる『北海の金』と呼ばれる大変希少な宝石であったはずなのだが…
それが何故このエンブリーの山中にあったか、それを知る手段は無い。恐らく海岸の琥珀はこの山中より川を下って流れ着いたものなのだろうと予想する。
が、それは問題ではないのだ。
肝心なのは、これが金にも相当する、極めて価値の高いものであるという事実。
『琥珀』の採掘、そして最良な取引先さえ見つかれば…
借財をすべて返済し得るかも知れない。有能な家令を雇う事も出来よう。そうすれば恐らく、数か月程度なら王家への表敬を理由に領地を空けることも出来るようになるだろう。
そうすれば一目…、たとえ遠くからでも…
ああシャノン様…。あなたへの思慕は日々募るばかりだ…
シャノン・プリチャード様
楽しそうな文化祭のご様子。その場にいないこの身が口惜しくて仕方ありません。
あなたの助力を独り占めする王子殿下を羨むばかりの私ですが、私が妻に望むのは、妻となる人が健やかでいられること、ただそれだけです。
いつか御目文字叶う日が来たら…、そうしたらせめて、憐れな私に教えてはいただけませんか?
私の金平糖があなたの心を癒せたかどうか。それが知れれば、それだけで私は本望です。
私の曖昧な記憶がお役に立ったようで何よりです。あれからいくつか調べてみましたが、やはり文献などで残されているものは何一つ無いようですね。
行商からは美男美女を集め、快楽にふけり人を堕落させる退廃的な信仰だと聞いております。そういう彼は羨ましそうに、いや、よしましょう。あなたは聞く必要の無いことです。
そう言えば少し思うところあり、北部の向こうについて調べていたところ、そこにも小さな神様を見つけました。
その名はシッタカブッタ。
彼と彼の弟子たちが極めようとした教えは非常に奥深いものです。ですが、布教すら望まぬ慎ましい教えゆえに広がらなかったといわれております。
シッタカブッタの弟子たちによる主への敬愛を別紙に書きまとめておきますので、ぜひ目をお通しください。
それらは私の心に通じるものです。
追伸
シャノン様…、あなたの言う『夢』を私は見つけた気がします。
私はあなたに捕らわれた小さな虫。そう。まるで山中で見つけた『琥珀』のように。
先走った私をどうか…、どうか責めないでいただきたい。
ジェローム・エンブリー
先日は貴重な情報をありがとうございます。ジェロームは物知りですね。この情報はお役立ちです。
ところで十一月の初めに学院で文化祭がありました。
僕も苦労して書き上げた分厚いレポートを展示しました。一部の人からはとても評価されたんですよ。すごいでしょ?寝ずに頑張った甲斐がありました。ジェロームにもいつか見せたいです。
その文化祭で、僕はカフェの給仕を手伝いました。
男性給仕の腰布みたいなエプロンをつけようとしたら、店主から女性もののフリル付きを渡されてしまいました。
予備が無かったそうですが、カッコよく決めようと思ったのに。無念です。
ところでカフェの店員さんは大変ですね。右からも左からも斜めからも注文に呼ばれて、僕は身体が3つあっても足りないな…って、そう思いました。グラスも三つ割ってしまっt、僕は結婚したら夫を助け働こうと思っていましたが、飲食店だけはやめておくつもりです。
ジェロームは働く妻をどう思いますか?とくに深い意味はないです。聞いてみただけです。
そうそう。僕には来春、血の繋がった弟が出来るんですよ。今からとっても楽しみです。
でも異母弟をハブるのは良くないです。僕と異母弟は微妙な仲でしたが仲直りをしました。彼は今必死でいい男になるため奮闘中です。
追伸
金平糖すごく嬉しかったです。あれをチョイスするジェロームのセンスは最高です。あれは僕が困った時きっと力になります。
シャノン・プリチャードより
良かった…私の送った手紙が彼の役に立った、その事実に心が震える。
この北東の果てにあるエンブリーから、南にいくつもの山を超え、ひっそりと信仰される小さな密教。それがカマ神教。
田舎に行けば行くほど、小さな集落で得体の知れぬ神が祀られているのはどこの国でもあることだ。
それらの実態が深く知られることはほとんど無い。
私が行商から聞いた話しも「カマ神とは博愛と快楽の神様だって話だ。いやー、いいねぇ」などと言った、男特有のどうでもいい下卑た話であった。
そのような神を崇める不埒な輩に狙われておいでだというのに給仕の真似事など…、皆がシャノン様に殺到したのは容易に想像がつく。
疑いを知らぬのがシャノン様の魅力なのかもしれないが、いささか油断が過ぎよう。ああ…、何故私はここに居るのか!
だが貴族学院の文化祭は貴族であれば誰でも観覧は可能だ。たとえ田舎の下位貴族であったとしてもだ。
いつか必ず…私は自分自身をそう奮い立たせた。
光明は差し込み始めている。
『山には夢が詰まっている』その言葉に一筋の期待をかけ、山中を探索すること一か月。あのスコップは地面を探せということだろう。
するとシャノン様の示唆した通り…私は驚きと共に『夢』の欠片を手にしていた。
これは『琥珀』だ。小さな欠片だが間違いない。川の上流近くで見つけた…これは『琥珀』の輝きに違いない。
『琥珀』それは北部を超えた向こうにある、極寒の海岸でのみ採れる『北海の金』と呼ばれる大変希少な宝石であったはずなのだが…
それが何故このエンブリーの山中にあったか、それを知る手段は無い。恐らく海岸の琥珀はこの山中より川を下って流れ着いたものなのだろうと予想する。
が、それは問題ではないのだ。
肝心なのは、これが金にも相当する、極めて価値の高いものであるという事実。
『琥珀』の採掘、そして最良な取引先さえ見つかれば…
借財をすべて返済し得るかも知れない。有能な家令を雇う事も出来よう。そうすれば恐らく、数か月程度なら王家への表敬を理由に領地を空けることも出来るようになるだろう。
そうすれば一目…、たとえ遠くからでも…
ああシャノン様…。あなたへの思慕は日々募るばかりだ…
シャノン・プリチャード様
楽しそうな文化祭のご様子。その場にいないこの身が口惜しくて仕方ありません。
あなたの助力を独り占めする王子殿下を羨むばかりの私ですが、私が妻に望むのは、妻となる人が健やかでいられること、ただそれだけです。
いつか御目文字叶う日が来たら…、そうしたらせめて、憐れな私に教えてはいただけませんか?
私の金平糖があなたの心を癒せたかどうか。それが知れれば、それだけで私は本望です。
私の曖昧な記憶がお役に立ったようで何よりです。あれからいくつか調べてみましたが、やはり文献などで残されているものは何一つ無いようですね。
行商からは美男美女を集め、快楽にふけり人を堕落させる退廃的な信仰だと聞いております。そういう彼は羨ましそうに、いや、よしましょう。あなたは聞く必要の無いことです。
そう言えば少し思うところあり、北部の向こうについて調べていたところ、そこにも小さな神様を見つけました。
その名はシッタカブッタ。
彼と彼の弟子たちが極めようとした教えは非常に奥深いものです。ですが、布教すら望まぬ慎ましい教えゆえに広がらなかったといわれております。
シッタカブッタの弟子たちによる主への敬愛を別紙に書きまとめておきますので、ぜひ目をお通しください。
それらは私の心に通じるものです。
追伸
シャノン様…、あなたの言う『夢』を私は見つけた気がします。
私はあなたに捕らわれた小さな虫。そう。まるで山中で見つけた『琥珀』のように。
先走った私をどうか…、どうか責めないでいただきたい。
ジェローム・エンブリー
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