断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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35 断罪後への三手

アシュリーが少し早めの晩餐を整えてくれたので夕食をご馳走になってから帰ることにした。
すでに平民Bから騎士Bに戻った黒髪のイケメンが侯爵邸じたくには伝言済みだ。
人の厚意は無駄にしてはいけない。時に甘えるのも大事なマナーだ。

だからと言って王族であるアレイスターまで同席するのはアシュリーにも想定外だったみたい…。

肉料理を一品増やすよう、慌ててシェフに言いつけているのが聞こえてしまった。とっておきのワインも出すらしい…。き、気の毒にアシュリー。あとでお父様秘蔵のワインを一本贈ってあげよう…。

さて、アシュリーの奮闘の甲斐あって、こうして食事が始まったわけだがこれが意外と楽しい。
アシュリーもアレイスターも地味目なタイプで…、僕の苦手なめんどくさい貴族っぽさがそれほどない。まわりくどくて分かりにくい装飾語も使わないし…

僕は下町で対決した輪回し(どっかの子供に借りた)の結果を鼻高々でアシュリーにドヤっていた。
因みに輪回しとは、大きな輪っかを棒で転がしてゴールを目指す遊びである。

「それでアレイスター様ってば輪回しのやり方も知らないんですよ。もう!下手くそなんだから」
「もう言わないでくれ。王宮ではそのような遊びはしないのでね」

「ではシャノン様はご存知なのですな、輪回しを」

もちのろん。あれは小学生の時、町内の運動会で参加した競技だ。順位?……え?良く聞こえない。

「そう言えば…。街の人に聞いたのだが、スキッド地区がセント・シャノンに名を変えたとか」
「そうなのですよ。いつの間にかそう呼称されておりまして」

「アシュリー、あまり僕の名前出さないでくださいね…」

断罪後、僕はひっそりと暮らす方針なのだ。へんな足跡は必要ない。

「もちろん承知しておりますが、彼らはすでに農場をも『シャノン・プチ・ファーム』と名付けておりまして…困ったものです」

は?な、何のこと…

「ほう?子爵、それはどういう事だい?」

「シャノン様からたくさんの苗を頂いたのでございますよ。あれを治療院裏に放置してあった空閑地の藪を全て刈り込み地を耕し、小さな農場としたのです。もちろんバーナード伯爵から許可をいただいて」

ああ!あの苗か!

「いやはや、フレッチャー侯爵からの横槍で困っておりましたが、シャノン様のおかげで最後はこう、すんなりと」

「さすがシャノンは機転が利く。ところで藪を全て開拓するのは大変だっただろうに」
「それはもう。ですが藪を放置すれば蚊などから厄介な伝染病が広がりますからね。良い機会でございました」

マジか!あ…っぶな…、ア、アシュリー、ファインプレー…!
てっきり流行り病は平民街のボランティアさんが感染源とばかり思っていたが…、盲点だった…。媒介はそこか!

「手伝いを募ったところ、下町全体からそれは多くの者が参加しましてね。あれだけ人が居れば意外とすぐでございました」
「そ、そそそ、それはご苦労様でした。ありがとうアシュリー」

いやホントに。

「お礼など…。農場は治療院の勤労奉仕だけでなく、町民にも収穫物の一部を提供することで貸し出しておりまして。みな畑を得たことに喜んでおります」

「それは良かった。何と言っても最後に勝つのは自給自足ですからね」

寝床と畑さえあれば、最悪死ぬことはない。あ、あと健康な身体ね。

「先ほどの石鹸と言い…シャノンの支援にはいつも深みがある」
「と申しますと?」

「シャノンは町民たちに石鹸を自作するよう作り方を教えたのだよ」
「なんと!庶民は野菜のゆで汁なんかを使うのが普通でしたが…」

「…衛生観念は大切ですから」

念には念を。全部自分のためです、とか言えないわー。

「そ、それより北部なんですけど…」
ピクリ「北部がどうかしたかい?」

「本を作って贈りたいんです。修道院に。娯楽の本をたくさん」
「娯楽本…?修道院では簡単な検閲がある。道徳に背く物はとても受け入れられまい」

そー言うと思ったよ。だからこそ僕はコツコツ考えを練って来たのだ。
第三希望とは言え、つるっと修道院送りになっても退屈しないように。あれとかこれとか、毎日を彩る娯楽の数々を。と言っても、主に漫画や小説だけど。

「娯楽の登場人物は神々です。それでしたら大丈夫ではないですか?」

「神々…」
「こう天界での…その…、暇を持て余した神々の遊び…的な?」

比喩っておけばイケるっしょ!

「何故?」

アレイスターめ、食い下がるな…

「えーと…、お、大人から子供まで、もっと身近に神々を感じられるように。メインとなる神様は…、シッタカブッタ」
「シッタカブッタ…?それは一体…」
「知らないんですか?北部の奥地に伝わる伝説の伝道者ですよ?」

これはジェロームが送ってくれた、最新の手紙に記載されていた補足項目だ。それを目にしたとき閃いたのだ。娯楽の抜け道を…。なんか前世でも、そんな感じの見たことあるし。

そこで僕は語って聞かせた。彼と彼の弟子たちによる尊いビーエ…、絆の在り方を。
弟子ナンダカンダを中心に、競うように捧げられる引くほどスゴイ献身の数々。あれは見る者が見れば、ビーエ、ゲフンゲフン。不謹慎でゴメンナサイ。でもそれらをマンガや小説にして子供たちに読み聞かせをする…という名目で修道院の書棚を飾るのはどうだ!

「そういう事なら作って贈るのでなくあちらで作ればいい。写本は彼らの修行、似たようなものだ。違うだろうか?」

ぱぁぁぁぁ!ナイス、アレイスター!それいいね!僕だって出来たら人様の創作物が見たい!

「じ、じゃぁネタだけ送ります!それで後はあちらで製作に入っていただけますかね?」

そこからは夢みたいな時間が続いた。アレイスターの力を借りて、どんどん湧き上がるアイデアの数々。終いにはパラパラマンガによるアニメもどきの案まで出たりして…。ああ久々のオタ活(もどき)…充足感…。

「こうしておりますと、いや、実にお二人お似合いで、おっと!これは失礼…」

「いや、光栄だよ子爵…」
「確かにアレイスター様とは気が合う気配がしますけど…」

まさか北部でのオタ活にノッて来るとは思わなかった。彼はイイ王子だ。問題は一つ。

「けど何だい?」

「気になることが」
「気になること?それは何だろう」

「僕は灰色なのが好きじゃありません…、もっとこうハッキリしてたほうが」

何度も言うが、僕は黒髪至上主義だ。

「あ、これは北部がなんちゃらは関係ないですよ。誤解しないでくださいね?」

「もちろん分かっている。君が何を言わんとしているかは…。そう…か。はっきり…。いいだろう。今ここでそれを誓おう。安心して欲しい。いずれ機を見てそうするつもりだ。私は君を失望させたりはしない」

…いつか染めてくれるってこと?いやー、けど…

「あの…無理強いはしませんよ?」

「そうではない」
「でも…」

「もう覚悟は決まった。私は君を…護りたい」

僕を守りたい…?僕の趣味嗜好を守るってこと?え…ちょ…手…手ー!!!
アレイスターが僕の手の甲にキスをするのをアシュリーまでもが固唾をのんで見守っている。な、何が起きているのかさっぱり分からない…


ああもしかして僕は…僕は…

とんでもないハラスメントをしてしまったんではないだろうか…




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