断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
109 / 310

68 断罪と本人

しおりを挟む
せっかくの下町デートを自らパーにしてしまった僕は愛の迷い子、シャノン・プリチャード16歳…

その汚名を挽回…返上…挽回…返じ…。とにかく、あと10日ほどしか居ないジェロームと、どうやって仲を深めようか、今もこうして明日の計画を立てている。

えーと、ギリ学校が始まるから制服姿も見てもらって…、その頃はブラッドも帰って来てるはずだから最後の夜は何が何でも泊まってもらって…それから…

「シャノン様、少しよろしいですか?」
「ルーシー、どうしたの?」

「モリセット邸の執事が使いをよこしまして…、エンブリー男爵の訪問を延期していただきたいと」

「な!なんで!」

「なんでもバーナード伯がエンブリー卿との面会をお望みのようで…そのバーナード伯の日程が明日しか取れないそうです」

う~ん、ジェロームにも王都の繋がりはあったほうがいいだろう…。良妻たるもの、夫の足は引っ張らない。

「じ、じゃあ明後日で…」
「商業ギルドへ行かれるそうです」

だぁぁぁぁ…オフィシャルなら仕方ない…

「ぐっ!…明明後日!」
「シャノン様の出仕がございます」

おのれ!ここでも阻むか!燃え落ちろ王城!

「明明明後日…これ以上は無理…」

僕の忍耐が…

「畏まりました。そうお伝えいたします」

くっ!残一週間を切ってしまった。なんてこった!

けどその翌日、僕はジェローム来訪の延期を不幸中の幸いと考えていた。なぜならアノンが重めの夏風邪をひいたからだ。
こんな時にお会いしても気が気じゃない…。僕は病人ファーストな男だ。

なので僕は「シェイナの面倒は大船に乗った気分で任せろ!」と、ミルクとおむつを持って自室へと彼女を連れ込むことにした。…なんか響きが良くないな…、自室で子守することにした。

ピンポン感染はよくない。それに乳母たちも病人の看病しながらシェイナの相手をするのは大変だろう。それに僕はこう見えて、前世でまだ元気な頃は弟妹たちの面倒をよくみていた。
僕のために色々我慢してくれた弟妹たちの代わりに、せめて今の弟妹たちに恩返し…と常々考えている。自己満だけど。

「良いのですかシャノン様?奥様が社交でお留守の間に勝手をして…」
「乳母の許可はもらったけど?」

「あれは許可とは言いません。有無を言わせなかったじゃないですか」
「いいの」

僕は高飛車シャノンだから。

それに、いちど二人っきりになりたかった。乳母やニコールさんの目を気にしてコソコソじゃなく。正真正銘の二人っきりに。だって僕とシェイナは二人で一つ。
今日はお父様もブラッドもまだ領地から帰って無くてニコールさんも不在で、しかも乳母たちはアノンに掛かり切りときた。千載一遇のチャンス!

「ニコールさんが帰るまではカイルもルーシーも立ち入り禁止。兄妹水入らず!いいね!」
「か、かしこまり…ました…」

そして現在に至る…

「シェイナ、お兄ちゃんと腹割って話そう。シェイナは本当にもう神子じゃないんだね?」
「アプ~?」
「…もしかして…だけど、記憶はあるよね?」
「……」フイッ

この反応…

「あるんだねシェイナ。お兄ちゃんの目を誤魔化そうったってそうはいかないよ!こっち見なさい」
「…」サッ

ふーん、バックレるつもり…?

「…ちゃんとお話しできたら明明明後日ジェロームに合わせてあげる」
「バブブバブバ?」

今のは「何が聞きたいの?」かな?
ジェロームで釣れるとは…さすが僕の分身…

「じゃあえっと、ジェロームが好き?」
「アウ」
「やっぱりー。趣味良いね。僕も。じゃコンラッド」
「ブーブー」
「だよねー。じゃあ本題、二~三謝っておこうかな…」
「バブゥ?」

僕は良い機会とばかりに、シェイナに数々の暴挙を謝りたおした。何をって?そりゃもちろん、宝飾品を売った事をだ…。だってしょうがないじゃないか…、シャノンが転生してくるなんて思わなかったんだから…

「ブー!ブー!」ポコポコ

「痛っ!痛いってシェイナ!し、仕方ないでしょ!色々とすることがあったんだから」
「ブー!バブブブバブー!」

何言ってるか分からないけどスゴク罵倒されたのは伝わってくる…
僕は言い訳半分、その手に入れたお金で何をしたのか、詳細に語って聞かせた。

シェイナが生まれた頃、僕は双子をあやしながら、身の上に起きた驚愕の出来事をまるで童話の読み聞かせみたいに聞かせてはいたが、赤ちゃん相手にそれほど詳しく話している訳でない。

なので改めて、断罪後の三つの分岐、そしてそのために何をすべきだったか、そのために何をしたのかをもう一度説明した。

「ねっ?だから許してくれる?」
「…アブ…」
「ちゃんと要らないの売ったから大丈夫。なんかゴテゴテして趣味の悪いのとか」

「…アププププ」

見せて見ろ…って言われた気がする…

「あんまり怒らないでね」

僕は諦めてキャビネットの引き出しを開けた。
売ったものは、三つあるゴージャスなキャビネットのうちの一つ、その中のたった引き出し一つ分だ。引き出しの中にはジャラジャラといろんな宝飾品が並べられている。
僕は常々こんなに持っててどうするんだろう?と思っていた。シャノンはたしかに受けキャラだけど、男の子だから大して装飾品は使わないのに。だからこその断捨離である。

けどまあ…、この三つのチェストこそが、名門プリチャード侯爵家の息子で、王家に連なるカサンドラ様の息子で、第一王子殿下の婚約者でもあるシャノンの力を分かりやすく表している。
チェストの一つはまるまるシャノンにすり寄る貴族家から贈られたプレゼントなのだ。それくらいシャノンの宝石好きは知られてた。

「だからね、売ったのはほとんど貰い物の宝飾品だよ。さすがに僕も代々伝わる家宝は売らないって」

って、それを目録見て分別してくれたのニコールさんだけど…

「パ、ププウゥ!アブッブ!」

焦ったように何かを探すシェイナ。な、なに…?あ、もしかして…

「シェイナ。あの最高級のルビーは売ったよ。怨念こもってそうだし」

「…」フルフル

「それじゃないの?あ、自分で買い集めてた裸石?あるよ。こっち」

シャノンの趣味である宝石収集。その中でも大きな石は、ベルベッドの布が張られたキレイな箱に並べられている。
これもノベルゲーの断罪後は奪われてしまったんだな…と思うと実に切ない…

んん?キョロキョロするシェイナ。ああ!あれか!

「シェイナ、記念のファーストジュエリーはこっちだよ」

緊急時のへそくり、とっておきの金平糖。
僕はシェイナに説明した。これはジェロームからの贈り物で、小さな裸石はキレイな六角形の箱に詰められた金平糖の中に混ざっている、と。

中身を見るなり、シェイナは金平糖の方をその小さな手で一粒摘まんだ。

「シェイナ、危ないから口に入れちゃダメだよ」
「…」フルフル…

思えばこれは、ジェロームから贈られた記念すべきファーストギフ…ト…?

「え?シェイナ…それ欲しいの?」

彼は金平糖に思い出でもあるんだろうか…?その顔には赤ちゃんには見えないような切なさが浮かんでいる。
箱ごと胸にギュッと抱きかかえて離さないシェイナ。

…裸石はもともとシャノンのものだし、返せというなら返すのもやぶさかでない。
けど!金平糖はジェロームが僕に贈ってくれた初めてのプレゼントで…ウググ…、くっ!ぼ、僕は長男だから耐えられる!

「…持っていきなさいシェイナ(血涙)」

大丈夫。僕にはお手製のキャンドルがある…ぐすん…





しおりを挟む
感想 871

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...