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115 断罪と諜報員
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フレッチャーが王様の汚れ仕事担当だとわかっていれば見えてくることもある。
僕とシェイナはその日、ウィジャ盤を挟んでそれを話し合っていた。彼女のスワイプ速度はまさに全盛期の僕。(スマホね)指先の動きが見えないくらいだ。ちょま、待って…も少しゆっくり…
「フレッチャーが絡むところには必ず王様の何かがある。そう考えて間違いない!」
ーアーロンの母親?ー
「それもだし溶岩石も」
ー困ったね。王陛下が関わる話なら僕たちだけで調べるのは限界があるー
僕っ子ー!シェイナが僕っ子になってるー!
ムギュゥゥゥッ!!!「シェイナっ!萌えー!!!」
「アブー!ノーン!ムー」ポカポカ
はぁはぁ…理性が吹っ飛んでしまった…
ーそんなことしてる場合じゃないでしょー
「ゴ、ゴメン。えっと、隊長に頼んだらどうかな?」
ー隊長でも無理…、待って、彼なら…、ノン、今すぐロイドを呼んでー
「へっ?ロイド?王様のことを聞くなら王妃様じゃないの?」
ーいいから早くー
「はいはい」
どうせ僕はシェイナの下僕ですよーだ。
因みにそのまま一人称を変えないでってお願いしたら、変態を見る目でドン引きされたのは何故なんだろう?すごく重要な事なのに…
それはさておき、使いを出すと思いのほかすぐにロイドはやって来た。今日は屋敷に在宅中だったらしい。
「はーはー、ど、どうしましたかシャノン様。わ、私を名指しでお呼びになるとは珍しい。はーはー」
「少しロイド様にお願いしたいことがあって…それよりすごい息切れですけど大丈夫ですか?」
「はーふー…お気になさらず。それより何の用件でしょう?私にできる事であれば何なりとお伺いしますが」
ロイドを待つ間にシェイナの意図は確認済みだ。何をどう頼むかは打ち合わせしてまとめてある。そして僕は貴族の駆け引き…とか飾り立てた言葉が得意ではない。
ということで、ここはストレートに。
「ロイド様のお父様、マーベリック伯爵を通じて王の周辺というか…、過去を調べていただきたいんです」
「王陛下の!? それはまた難易度の高い…」
僕は王様のことなら王妃様に聞いたら早いんじゃないかと思ったのだが、シェイナが言うには、下手に王の周辺を嗅ぎまわれば王家の醜聞を嫌う王妃様はむしろ警戒を強めるだろうとのこと。なるほど、一個覚えた。
そこで王に一番近しい宰相…の補佐であるマーベリック伯爵を攻めるのが最も容易い、というのがシェイナの読みだ。マーベリック伯爵は真面目で朴訥な…すこし…扱い易い人だ。いや誤解だって。シェイナが言ったんだよ?
ロイドは言う。彼は未だにコンラッドの側近で、そのコンラッドが王族離脱を訴え出ている今、彼の為にも王様の周囲で目立つ動きはしたくない、と。
「そうでしょうね。仰る通りです。そこを敢えてのお願いです…」
「ですがそれだけでなく、万が一にも父に影響が及ぶようなことがあれば…」
煮え切らないロイドの返事。
ロイドが言うよう、お父様にフレッチャーについて調べてもらった件と難易度が桁違いだ。
マーベリック氏は伯爵位で、相手は絶対王政であるルテティア国の王様。何かあれば一族存続の危機だ。うーん…
ウロウロと歩き回って悩む僕の足元でシェイナが不穏な動き。え?ちょ、シェイナ何して…、あっ!ああー!
「ロイド様あぶないっ!避けて!」
「えっ?シャ、シャノン様!? なあっ!」ドサッ!
お兄ちゃんの足元を掬うとは…何たる悪童!見ろ!ロイドまで巻き込んで…椅子に腰かけたロイドが僕の下でつぶれてるじゃないか!
「ごっ!ごめんなさいロイド様!重く無かったですか!?」
「は、はひっ!dfghjkl」
ああどうしよう…ロイドがおかしい。どうも打ち所が悪かったみたいだ。え?何シェイナ?さっきの件もう一回聞いてみろって?いいけど…この状態で?
「あ、あのロイド様…。こんな時に何ですけど、さっきの…やっぱりだめですか?ロイド様にしか頼めなくて…」
「わっ!私に任せたまえ!身命を賭して立派にやり遂げてみせるとも!なーに、私の手にかかれば父を操るくらい容易いものだ!」
それを聞いてニヤリと笑う0歳児。イヤな幼児だな…。けど…よくわからないけど上手くいったみたい。これで良し、っと。
せっかく呼びつけたのでブラッドとアノンも呼んで、冬晴れのお庭でアフタヌーンティーを楽しむことにする。
「わぁ!あんよがますますしっかりしてきたね!ほーらアノン、こっちだよ」
「あーい」
「じょうずじょうず!」
シェイナがよちよちとはいえ歩き始めたようにアノンもすこーし話し始めている。アノンが話すのは今のところ「マッマ」(マミー?まんま?)と「ダッダ」(多分ダッド?)と「あーい」(ハーイ)だけ。代りにその足取りは何とも力強い。
アノンとも親睦を図っておかないとブラッドにキングオブお兄ちゃんの座を奪われちゃうからね。今日の僕はアノン担当保父さんだ。
その間ロイドとブラッドの真ん中に座らされたシェイナはどこか憮然としている。諦めて目一杯二人に可愛がられるがいい!
先日あげた編みぐるみの聖剣はあれ以来アノンのお気に入りだ。
30分ほど、この大魔王シャノン様に立ち向かったアノンは精も根も尽き果てたようだ。
気が付いたらウトウトし始めたのでナニーを呼んで、僕も休憩することにする。目の前にはお菓子とお茶。あ…三段トレイだ…
三段トレイに絶望したのも今は昔。懐かしい思い出だ。すっかりアフタヌーンティーマナーも覚えた僕だが、思えばあれがアレイスターとの初めての出会い…
「どうしましたか兄さん?」
「えっ?ううん。今頃アレイスター何してるのかなって、そう思って」
北部の修道院。あそこではシッタカブッタとナンダカンダのBL同人誌が鋭意作成、そして配布されているはずだ。
僕は元ネタ…というか、ラフで作成した原本を渡してあとはどうなったか知らされていない。だからアレイスターには「僕のお土産はその完成本でいいですよ」って伝えておいた。
描き手が代われば味わいもまた変わるもの。新鮮な気持ちで鑑賞できるだろうって思って…
「アレイスター早く帰って来ないかな…(お土産が)待ちどおしいな…」
「兄さん、やはりあなたは…」
「シャノン様…私はあなたの味方です…」
ん?何?どうしたの二人とも…。
ああ!二人もお土産期待してるんだ?ふんふん、可愛い所あるじゃないの。
シェイナ?何?その深いため息。
僕とシェイナはその日、ウィジャ盤を挟んでそれを話し合っていた。彼女のスワイプ速度はまさに全盛期の僕。(スマホね)指先の動きが見えないくらいだ。ちょま、待って…も少しゆっくり…
「フレッチャーが絡むところには必ず王様の何かがある。そう考えて間違いない!」
ーアーロンの母親?ー
「それもだし溶岩石も」
ー困ったね。王陛下が関わる話なら僕たちだけで調べるのは限界があるー
僕っ子ー!シェイナが僕っ子になってるー!
ムギュゥゥゥッ!!!「シェイナっ!萌えー!!!」
「アブー!ノーン!ムー」ポカポカ
はぁはぁ…理性が吹っ飛んでしまった…
ーそんなことしてる場合じゃないでしょー
「ゴ、ゴメン。えっと、隊長に頼んだらどうかな?」
ー隊長でも無理…、待って、彼なら…、ノン、今すぐロイドを呼んでー
「へっ?ロイド?王様のことを聞くなら王妃様じゃないの?」
ーいいから早くー
「はいはい」
どうせ僕はシェイナの下僕ですよーだ。
因みにそのまま一人称を変えないでってお願いしたら、変態を見る目でドン引きされたのは何故なんだろう?すごく重要な事なのに…
それはさておき、使いを出すと思いのほかすぐにロイドはやって来た。今日は屋敷に在宅中だったらしい。
「はーはー、ど、どうしましたかシャノン様。わ、私を名指しでお呼びになるとは珍しい。はーはー」
「少しロイド様にお願いしたいことがあって…それよりすごい息切れですけど大丈夫ですか?」
「はーふー…お気になさらず。それより何の用件でしょう?私にできる事であれば何なりとお伺いしますが」
ロイドを待つ間にシェイナの意図は確認済みだ。何をどう頼むかは打ち合わせしてまとめてある。そして僕は貴族の駆け引き…とか飾り立てた言葉が得意ではない。
ということで、ここはストレートに。
「ロイド様のお父様、マーベリック伯爵を通じて王の周辺というか…、過去を調べていただきたいんです」
「王陛下の!? それはまた難易度の高い…」
僕は王様のことなら王妃様に聞いたら早いんじゃないかと思ったのだが、シェイナが言うには、下手に王の周辺を嗅ぎまわれば王家の醜聞を嫌う王妃様はむしろ警戒を強めるだろうとのこと。なるほど、一個覚えた。
そこで王に一番近しい宰相…の補佐であるマーベリック伯爵を攻めるのが最も容易い、というのがシェイナの読みだ。マーベリック伯爵は真面目で朴訥な…すこし…扱い易い人だ。いや誤解だって。シェイナが言ったんだよ?
ロイドは言う。彼は未だにコンラッドの側近で、そのコンラッドが王族離脱を訴え出ている今、彼の為にも王様の周囲で目立つ動きはしたくない、と。
「そうでしょうね。仰る通りです。そこを敢えてのお願いです…」
「ですがそれだけでなく、万が一にも父に影響が及ぶようなことがあれば…」
煮え切らないロイドの返事。
ロイドが言うよう、お父様にフレッチャーについて調べてもらった件と難易度が桁違いだ。
マーベリック氏は伯爵位で、相手は絶対王政であるルテティア国の王様。何かあれば一族存続の危機だ。うーん…
ウロウロと歩き回って悩む僕の足元でシェイナが不穏な動き。え?ちょ、シェイナ何して…、あっ!ああー!
「ロイド様あぶないっ!避けて!」
「えっ?シャ、シャノン様!? なあっ!」ドサッ!
お兄ちゃんの足元を掬うとは…何たる悪童!見ろ!ロイドまで巻き込んで…椅子に腰かけたロイドが僕の下でつぶれてるじゃないか!
「ごっ!ごめんなさいロイド様!重く無かったですか!?」
「は、はひっ!dfghjkl」
ああどうしよう…ロイドがおかしい。どうも打ち所が悪かったみたいだ。え?何シェイナ?さっきの件もう一回聞いてみろって?いいけど…この状態で?
「あ、あのロイド様…。こんな時に何ですけど、さっきの…やっぱりだめですか?ロイド様にしか頼めなくて…」
「わっ!私に任せたまえ!身命を賭して立派にやり遂げてみせるとも!なーに、私の手にかかれば父を操るくらい容易いものだ!」
それを聞いてニヤリと笑う0歳児。イヤな幼児だな…。けど…よくわからないけど上手くいったみたい。これで良し、っと。
せっかく呼びつけたのでブラッドとアノンも呼んで、冬晴れのお庭でアフタヌーンティーを楽しむことにする。
「わぁ!あんよがますますしっかりしてきたね!ほーらアノン、こっちだよ」
「あーい」
「じょうずじょうず!」
シェイナがよちよちとはいえ歩き始めたようにアノンもすこーし話し始めている。アノンが話すのは今のところ「マッマ」(マミー?まんま?)と「ダッダ」(多分ダッド?)と「あーい」(ハーイ)だけ。代りにその足取りは何とも力強い。
アノンとも親睦を図っておかないとブラッドにキングオブお兄ちゃんの座を奪われちゃうからね。今日の僕はアノン担当保父さんだ。
その間ロイドとブラッドの真ん中に座らされたシェイナはどこか憮然としている。諦めて目一杯二人に可愛がられるがいい!
先日あげた編みぐるみの聖剣はあれ以来アノンのお気に入りだ。
30分ほど、この大魔王シャノン様に立ち向かったアノンは精も根も尽き果てたようだ。
気が付いたらウトウトし始めたのでナニーを呼んで、僕も休憩することにする。目の前にはお菓子とお茶。あ…三段トレイだ…
三段トレイに絶望したのも今は昔。懐かしい思い出だ。すっかりアフタヌーンティーマナーも覚えた僕だが、思えばあれがアレイスターとの初めての出会い…
「どうしましたか兄さん?」
「えっ?ううん。今頃アレイスター何してるのかなって、そう思って」
北部の修道院。あそこではシッタカブッタとナンダカンダのBL同人誌が鋭意作成、そして配布されているはずだ。
僕は元ネタ…というか、ラフで作成した原本を渡してあとはどうなったか知らされていない。だからアレイスターには「僕のお土産はその完成本でいいですよ」って伝えておいた。
描き手が代われば味わいもまた変わるもの。新鮮な気持ちで鑑賞できるだろうって思って…
「アレイスター早く帰って来ないかな…(お土産が)待ちどおしいな…」
「兄さん、やはりあなたは…」
「シャノン様…私はあなたの味方です…」
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