断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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アレイスター

北部から帰還した私を待っていたのは剣呑な顔をしたルテティアの王、私の父だ。

父は平民位である第三側妃、私の母を誰よりも寵愛している。その恩恵に預かり私のことも随分と可愛がってくれたように思う。
宮を分け隔てて育つコンラッドやトレヴァーを思えば、父と過ごす時間は格段に多かっただろう。

かといって、父は決して王家の尊き血を軽視される方ではない。
それは私の継承順位、そして与えられる予定の地、北の公爵領が、トレヴァーが与えられる西の公爵領と比べ、領地も収穫も半分に満たないことなどから伺えるというものだ。

難航を極めた統治権の分割、だが、ようやく父が話し合いの場を用意下さったのは王妃アドリアナ様の多大な尽力あってこそだ。

私の感謝に対しアドリアナ様は
「あなたの為ではありません。これは国益を鑑み最良だと思えばこそ、そして…私の息子が踏みにじったシャノンの献身に対し、私がしてやれる唯一のことだからよ」
そう仰った。

面倒そうに王が口を開く。

「先ずは北部への過度な徴兵徴収を詫びるとしよう。だが一つ国を支える各領に差があっては不平等ではないか?」
「それを進言したのはフレッチャー侯ですか?」
「うむ」

不平等…などと、随分聞こえの良い言葉を選ぶものだ。だが平等とは必ずしも公平ではない。フレッチャーの言う平等がひどく不公平なものだと王は何故気付かないのだろう…
力で奪うことを良しとする戦火の王は、弱肉強食こそ世の条理だと信じて疑わない。

「あなた!だからと言ってわたくしの目を欺いて良いはずがないでしょう!あなたは誰と手を携え国を動かしているおつもりですか!」

「う、うむ、だが」
「これ以上わたくしを愚弄するのであれば考えねばなりません!」
「あ、いや。そうだな。私が悪かった…」

王妃アドリアナ様はフレッチャー候に対する王の依存を是正しようと動いている。
フレッチャー…、国益を考えぬあの家門を切り離さねばいずれ王家は瓦解する、王妃、そして私にはそう思えてならない。

「まあよい。母の出自ゆえ弁えてきたようだが…お前は実に優秀な子だ。北を己の力だけで栄えさせてみせると、そこまで自信があるならやってみせるがいい」

「自信など…、ただ国に不要な争いを起こさぬ為、その為に私に出来ることがあるならなんでもしようと、そう思うだけです」

「全ては『神託』の導き…なのだな?ならば構わぬ。だが私は王家の血を護らねばならん。そのためにいくつかの条件をつける」

「何でしょうか」

王の付きつけた条件は三つ。

まず一つは、私の代で北部の統治を軌道に乗せ、次代からは正しき血筋に統治権を戻すこと。つまり庶民の血が混じらぬ後継者に統治を移すと言うこと。だが私は何も自身の野心や野望のために動いたのではない。後継がそれに足りる者であるなら文句はない。
そして二つ目、分割統治の主国は常に南であること。これにも全く不満はない。もとよりそのつもりだ。
そして三つ目…

「南はトレヴァーが継ぐこととなろう。お前も知る理由によって。だがそのためにはトレヴァーに国政のための王妃を用意しなければならん。だが神子候補であるアーロンはバカな真似をし全てを棒に振った。そして『神託』シャノンは長きにわたりコンラッドの婚約者であり、解消したとしてその印象は拭えぬだろう。十数年は長すぎる」

胸の奥で安堵する自分が居る。そんな都合の良いことを一瞬でもお考えになられたとは…、恐らくその考えを止めてくださったのはアドリアナ様だろう。

「だがここに来てもっとも相応しい候補が見つかった」
「それは誰でしょう?聞いても構いませんか?」

「うむ。プリチャード家のシェイナ、シャノンの妹子だ。今度こそ間違いない。あの赤子こそ『神子』足る存在。ならば何故シャノンが『神託』であったかも得心が良く。真実の『神子』をトレヴァーが娶るまで、仮の統治者アレイスターよ、お前はどれほど望んでもシャノンを娶ってはならぬ」

曖昧に誤魔化すこともせず明確に告げられる言葉。私のたった一つの望み…それを王は気付いていたというのか。

「…トレヴァーを、南を超えてはならぬと、そう仰せなのですね」
「流石に理解が早い。分かったのであればよい。それが条件だ」

暗澹たる気持ちで部屋を出た私を追いかけてきたのはアドリアナ様だ。

「アレイスター。王は当初あなたとシャノンの婚姻そのものに難色を示されたわ」
「ええ。ええそうでしょう」

聡明と名高いシャノン。ましてや『神託』として格さえも高めたシャノン。そのシャノンを北の統治者、平民の血を引く私の伴侶にすることを王は許さない。

「ですがシャノンの幸せを望むのはわたくしも同じ。…良い事?これでも王はわたくしの説得により随分譲歩なされたの。早ければトレヴァーは10年でシェイナを娶る。どうかそれまで堪えて頂戴」

「充分ですアドリアナ様。そのお気持ちだけで」

プラチナに輝く未来はまだ遠い…





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