断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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スパの一コマ 

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結婚式まであと一か月…となった初夏の風吹く緑の北部。
…え?北部なのに緑とはこれ如何に?だって?
失礼な。北部にだって緑薫る季節くらいは一応ある。…あっという間に終わっちゃうだけで。

そんなある日の出来事。

「…というわけでここにスパが欲しいな…と思ってて…、これはロイドが作ってくれた試作スパです」
「スパ…保養所だと説明を受けたが…」

「はい。スパ内ではこれらの水着を着用して炭酸泉に入っていただきます。この炭酸泉には血行促進、老廃物の排出、美肌効果、またそれに付属するさまざまな二次的健康効果が期待されます」

「ほう?」

この『向こう側』シリーズの中世寄りの近世、隠し味に現代、が混ざり合った世界観に〝大勢で温泉に裸で浸かる”…という概念は残念ながらまだまだない。ギリ入浴という概念があっただけでも儲けものだ。
一人用サイズの湯船に身体を横たえることすら出来ない世界観もありえたんだから…恐ろしい…

とにかくルテティア国教のもとでは、むやみに他人の前で裸になるのはNGである。(屋外で真っ裸とか現代もNGだけどね☆)

そのためこのスパでの入浴だが、女性はひざ丈のコットンフランネルで作られた専用のワンピース、受け男は薄手のシャツとひざ丈のドロワーズ、一般男男性は前世でいうワンピース型男性用水着みたいなものを着用するのがルールになった。

「こっちがマッサージルームです。ここではリンパと血流の滞りを解消し不定愁訴の改善に努めます。これは筋肉、そして精神の緊張をほぐすのにも効果的です」

そしてここでは薄手のガウンを着用たままマッサージを受ける。このマッサージを教えてあげたのは何を隠そうこの僕だ。
僕は長い入院生活で身体が固まることも多かった。そこで時々リハビリ室でマッサージを受けたり電気を当てたりしていたのだが、それがここで生かされるとは…これだから生きること、すなわち日々勉強、ムダなことなんて一つもないってそう思う。



「今日は僕とアレイスターだけの貸し切りです。だから泳いだって良いですよ?」
「泳ぎはしないが…君が言うようそれほど身体に良いものならば期待しよう」

というわけでここは脱衣場なのだが…

「うっ!」

ここのところメキメキと身体が変化してきたアレイスター。少年のしなやかさを残しつつも青臭さの抜けた身体は、一歩間違えたら囚人服になるこのワンピース型水着を、オリンピック選手かのように着こなしている。
やっぱり紺地に流星型のマークを入れたのが…

「どうかしたかい?」
「いえ…、カッコいいですね…」
「おや、お気に召したかい?それは光栄だ」

「……」

そうなってくると気になるのが自分の姿だ。
正直言うと僕はこのドロワーズというものがあまり好きではない。
画的にはシャノンの容姿に良く似合うこのフリルがいっぱいついたブルマー…カッコいい大人に憧れる僕としてはちょっと子供っぽすぎて…イケてない。

そうだ!上のシャツだけならワンチャン、ただのラッシュガードに見えないだろうか?…うん、イケる!

「待てシャノン!何をしている!」
「なにって…ドロワーズを脱いでます。お湯に入るには重いですし…ああ、安心してください。穿いてますよ?」

この国の男性用下着とはいわゆるスパッツみたいな形だ。それが長中短あるのだが、短いのは一見ボクサーパンツみたいで、フンドシとか腰布みたいな下着じゃなくて良かったと、僕は転生直後心の底から安堵した。だがその直後すぐに受け男はフリルの少ないドロワーズ(みたいなの)だと知り心の底からガッカリしたのだ。慣れてしまった今となってはあれももはや良い思い出だ。
脱線したが、ここには忘れた人のために、ちゃんと替えの下着も用意がある。僕はドロワーズの代わりに一番短いパンツをちゃんと穿いていたのだよ。裸はNG、規則は守らないとね。

「それなら良い…、驚いたよ…」
「何のことですか?まあいいです。さあ行きましょう」

湯船に入る前に、用意されているかけ流しのシャワーでいったん身を清める。これも大切な入浴マナーだ。穴の開いた竹竿をパイプ代わりに並べてお湯を流しているだけなのだが…アレイスターはそれにも目を見開いて感心していた。問題はこれが未だ尚、人力…という一点だろう。

さて、かけ湯が終われば待ちに待った温泉だ!ああ!この日をどれ程待ちわびたことか…では早速記念すべき一歩を…

チャポ…「アレイスター、飛び込んじゃいけませんよ。マナーですからね」
「飛び込まないが…」

僕に続いて小さな露天に身体を沈めていくアレイスター。その表情を見るにまんざらでもなさそうだ。

「どう?気持ちいいでしょう?」
「ああ。四肢を伸ばして湯に浸かるのは気持ちの良いものだな」

「このシュワシュワがなんとも…んあー!気持ちいい…」プクプクプク…
「シ、シャノン!」
ザバァ!「プワッ!ふうサイコー」

久し振りの温泉に舞い上がる僕をアレイスターはさっきから呆れて眺めている。その表情からは困惑が滲み出ていて…なんだろう?王子の嫁がはしたない!とか思って見てるんだろうか?

「アレイスターも潜ったらいいのに」
「そうだな…頭を冷やしたい…」

と言いながらお湯に潜るアレイスターだが、頭を冷やすなら逆効果じゃないだろうか?

ザバァァ!

ほら見ろ。慌ててお湯から飛び出たアレイスターときたら真っ赤っかじゃないか。

「のぼせたなら外でお水でも掛けたらどうですか?」
「い、いや…シ、シャノン、その、そのシャツは身体に張り付き丈が些か…」
「些か?」
「何でもない…」

なんだろ?言いたいことがあるのなら言えばいいのに。これはそのための試入泉なんだから。

「…確かこの建物は男女ごとに分けられていたね」
「ええそうですよ。当然です」

混浴はNG、覗きはヨクナイ。あ、受け男は女湯ね。

「それならいい。シャノン、だが君はいずれにしても私が同行しない入泉を固く禁じる」
「ええっ⁉ 」

何という暴君!

僕はその後出来得る限りの説得と抵抗を試みたのだが…
いつもなら途中で折れるアレイスターが、何故か今回ばかりは最後まで頑なに主張を曲げなかった。

プンスコ!






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