コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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マネキンフラヴィオの成果

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イヴの用意してくれた新しい衣装…。そのクラバットを飾る中央のダイヤモンドは…イヴがコレッティ家から持参した中で最も価値あるものだ。
3キャラットのダイヤ…、その透明度とカットからしてコレッティ家が誇るには些か足りぬだろうが、高位貴族として王族の前へ立つに不足の無い逸品である。

彼がそれをブローチから外したと知った時、私は感動に身を震わせながらも「何故ここまで!」と彼に問うたのだ。
だが彼は事も無げに、「だってフラヴィオを引き立てるためだから…。むしろこんな事くらいでフラヴィオが高貴な方々の目に留まるなら…僕はブローチぐらいいくらでも解体します!」満面の笑みで言い放ったのだ。

なんという深き愛情…。彼の愛情と期待に応えるためにも、この国の未来とも言える彼らと何としても友誼を結ばねばならぬ。

そうしてそれが上手くいった暁には…イヴ…今夜こそ彼と結ばれたい。そう願ってはいけないだろうか。




城に招かれたと聞き、厚意で馬車を出してくれたのはメルカートで知り合ったマッティオ殿だ。彼は市井でかなり大きな貿易商を営む商会主。父親から受け継いだ小さな店を自分の力で大きくしたのだという。
彼はイヴがギルドに登録した意匠のことを知っており、その才能にかなり興味があるようだった。


サルディーニャの城は王都の東に広がる国有林を抜けたその先に広がっている。
コロネードの特徴的なその建物は生活を営む宮殿、政を執り行ういくつかの建物、大聖堂に分かれ、その全広さは我がアスタリア城のゆうに五倍はある。
中は豊かなサルディーニャらしく惜しみなく金が使われ、また美意識の強い彼らを反映し、豪華にして絢爛な装飾が至る所になされている。

連れて来られたのは宮殿内の私的な部分。サロンほど華美でなく書斎ほど無粋でない、恐らくは勉強会のために整えられた部屋だ。

「やあ。君がエヴァ嬢の又従兄どのフランコ君か」
「はっ!こ、ここ、このような場所にお招きいただき、あ、ああ、ありがたく存じます」

「まあそう固くならないでくれたまえ。そして君が同居の男爵子息、セルジオ殿だね」
「王太子殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう。一介の男爵子息である私ごときをお招きいただき感謝の念に堪えません」
「何を言うか。君たちは衛兵として日々王都の治安を守る立派な者たちだ、王に代わって感謝しよう」
「ありがたき幸せ…」

「そして君が…二人の友人、ビアジョッティ伯爵だね」

華やかな相貌、明朗な雰囲気。
イヴはアマーディオ殿下を「みんなの王子様って感じの人」と評していたが言い得て妙だ。

「殿下、この度は御尊顔を拝し恐悦至極に存じます」
「伯爵、今日は気のおけぬ集まりゆえ肩の力を抜いてくれて構わない」
「ではお言葉に甘えて。本日はかような集まりにお呼びいただき光栄にございます」

「ふっ、君があのイヴァーノ殿のご夫君か。どうだね?彼は元気かい?」
「コレッティ侯も随分思い切ったものだが…彼の事だ。癇癪を起しては滅入っているのだろう?」

ビアジョッティの名を知らぬ者など今ではおらぬのだろう。声をかけてきたのは私よりも少し歳は上であろうか、勉強会の同志、ジョリッティ侯爵家のご嫡男マリオ殿と同じくアンドラーシュ伯爵家のご嫡男エミリオ殿だ。
彼らの父親はコレッティの義父殿と平素より懇意なはず。なれば私の素性以外は何もかもご存じなのだろう。

イヴは「血圧高目系なパンクラツィオとパンクラツィオ一派はキツネ狩りに行って居ないはずだから安心して。アマーディオ殿下とその一派は…意識高い系だからフラヴィオなら多分大丈夫」とそう言っていたが…

意識高い系…

つまり誠意をもって接すればよいだろうか?

「イヴは日々献身的に私を支え家内を良く取り仕切っております。皆さまがイヴの身を案じて下さったこと伝えておきましょう。きっと喜ぶに違いありません」

「おや、これはこれは…ずいぶん素直な御仁なのだね」
「そのまま受け取るとは…パンクラツィオと真逆ではないか」

つまりイヴの元婚約者は露悪的なものの見方をされるお方か。

「なるほど。イヴァーノは卿のように穏やかで優美な貴公子が好みだったか。これでは私の従兄弟と気が合わぬわけだ」

「ふふ、そのようですね」

「あのイヴァーノにねえ…信じられない。卿は相当寛大とみえる」
「何を仰る。イヴがどれほど私に尽くしてくれるか」

ああそうだ。イヴがどれほどの献身を捧げてくれているか、それだけは忘れず彼らに伝えておかなくては。

「今日のこの衣装もイヴが私のために新しく考えてくれたのですよ。見て下さい。このダイヤのタイピンはイヴからの贈り物です」

「ほう?先ほどから気になっていたのだよ」
「その洗練された衣装はイヴァーノが考えたものなのか」

「彼は在学中から事あるごとに衣服を取り替えていたからね。もともとそういった事が好きなのだろう」

彼らは私に近寄りぐるりと一周しながらその意匠を確認するが、

「これは何と斬新な意匠だ!無駄をそぎ落としたからこそより洗練された品格を感じさせる!」
「見掛けの飾りでなく素材の質が品位を表す。これこそが我らの求める高雅な趣味ではないか!」

「イヴァーノ…見直したよ。ビアジョッティ伯、どうか彼にそう伝言を」
「殿下…ええ必ず。きっとイヴも光栄に思うでしょう」

イヴを排除した社交界がこうしてイヴ自身の力によって彼を認めようとしている。
それだけで私が今日ここに来た意味はあったと思えた。







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