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二人の打ち上げ翌日
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ガバッ!
陽が高い!しまった寝過ごした!
「ご、ご飯!みんなのご飯!今何時フラヴィオ!」
「イヴ、心配いらない。今朝の朝食はリコに申し付けてある。ゆっくり休むといい」
「リコに…?」
ピンク色の夜を過ごした翌朝。慌てて身体を確認するといつものパジャマが着せられている。
ヘッドボードにはキチンとたたまれた濡れタオル(躾けた)。ってことはフラヴィオがキレイにしてくれたんだろう。
今は何事も無かったかのように紳士の皮をかぶっているフラヴィオだが、彼がオオカミだということはもうすでにバレバレだ。
毎夜…とかバカなこと言ってたけど…冗談じゃない。あんなの毎晩とか…身体が持たないよ。フラヴィオってば…
そのフラヴィオがサイドチェストのハンドベルを鳴らすと、そこにやって来たのは恭しく傅くロデじい。その手にはピンチョスと飲み物の乗ったトレイを持っている。
…何やら様子がおかしく感じるのは…気のせい?
「ま、まさか…」
「おめでとうございますフラヴィオ様。これでようやく真の夫夫となられましたな」
「うむ。エヴァの姿をメルカートで知って以来、気の休まる時が無かったのでね。これで絆が確固たるものとなった」
「イヴ様。男同士の婚姻など…と思ったこともありましたが…なんのなんの!イヴ様はまさに当家の宝!これからもフラヴィオ様をよろしくお願いしますぞ」
フルフルフル…
「イヴ?」
「う、うそだぁぁぁ!」ガバァ!
初エッ…の翌朝に知られてるとか!何の冗談だよ!アカンて‼ 何笑って話してんの!
き、貴族舐めてたわ…こわ~、貴族こわ~…
寝ててもいい、というフラヴィオを振り切り階下へ降りれば、そこには仲良く皿洗いをする兄弟とダイニングテーブルで花を活けてるルイルイの姿が。
「あっ、イヴ様」
「リコ。…朝ごはんの支度ありがと。いきなりごめんね」
「いえ!以前フラヴィオ様から言いつかってましたので。イヴ様が八時までに階下へ降りないときは俺が用意するように、って」
「えっ…?」
し、仕込みは上々だったわけか…、フラヴィオォ…
「よ、よく作り方覚えてたね、ピンチョス」
「切って乗せるだけだから俺でも出来ます。これからも寝坊するときはお任せください」
それ…、寝坊イコールやりました!みたいじゃん。いやだよ!
「ルイージ君おはよう。朝からお花?きれいだね、それ」
「花はお兄様とイヴ様へのお祝いです。ストック…この花には〝愛の絆”という意味が込められているのですよ」
ガタガタ
「どうしましたイヴ様」
「別に…」
「ふふ、イヴは恥じらっているのだよルイージ」
「何故?おめでたいことですのに」
「ルイージ、その花瓶は寝室に飾ろう。絆を紡いだ愛の部屋に」
「…んなっ!」
いつの間にか背後に居たのは二割増しツヤツヤして見える僕の夫である。
く、くそぅ…まさかこんなところにこんな特大のスピーカーが…
「そうだイヴ様。僕は階下のロデオと部屋を替わるつもりでいます」
「なんで?下の部屋より二階の方が良い部屋だよ?」
「その…、…実はお声が少々」
ふぁ!?
「ああすまないルイージ。そこまで気が回らなかった。思いのほかイヴの声は大きくてね」
「ルイージ様。早急に防音対策いたします故、部屋はそのままお使いくだされ。階下は狭うございます」
ヨロヨロ…トスン
「…イヴ?」
「イヴ様?」
燃えた…燃え尽きたよ…真っ白な灰に…
-------------------
夫婦の営みに関し他言無用とイヴは憤慨しているが、そもそも執事や従者とはそういうもの。営みの翌朝、主人の様子を確認をしゆるりと過ごせるよう整えるものだ。
そんなことくらいイヴもわかっているだろうに。
ふむ…私たちのこれは後継者をなすための行為でなく純粋な愛の営み。それゆえ恥じらっているのだろうか?
いつもながら可愛らしい人だ。
だがつい逸る気持ちのまま声をあげさせ続けたのだから、イヴには少々悪いことをしてしまった。
サルディーニャの王子や青年たちのエヴァを見る目…
それは〝エヴァ” という幻を見ているに過ぎぬのだが、私の胸には何とも言えぬ感情が去来していた。
メルカートでイヴに群がった彼らとは違う、手を伸ばせば届くと信ずる、あれはそういう視線だ。
真の貴公子である彼らは腕ずくで、などという無粋で下品な真似はすまい。だが、己であればエヴァを振り向かせられる、そう思えるだけの自信は持ち合わせているのだ。
財…地位…容姿…何をとっても不足はない。
私が抱いた感情。それは嫉妬だ。
夫である私があの程度のやり取りに妬くなど狭量なこと。それでもそうを感じてしまうのは、私とイヴが夫夫としての最期の一線を越えていないからに他ならない。
どれほどイヴと私が目に見えぬ心を通わせていても、私たちには目に見える絆が無い。
私は身体の結びつきを些事とは考えない。それは互いの絆をより深めるための重要な行為だ。何故なら肌を重ねることとは己をさらけ出す行為と言えるからだ。
イヴは初めから〝紅白の結婚”を望んでいた。行為そのものを拒否している訳では無い。であれば彼が拒むのは〝愛無き行為”
そう思い至ったからこそ私は、イヴを見守り己の心を伝え、ゆっくりと時間をかけ愛を育んできたつもりだ。
その努力は最良の形で結実したように思う…
「僕は見た目で人を好きになったりしない!僕が好きなのはフラヴィオの中身!内面だから!」
その言葉は想像以上に私の心を貫いたのだから。
私はアスタリアの王子である。役に立たぬ籠の鳥であろうとまごうこと無き第六王位継承者。そして私の母は、僻地の男爵令嬢でありながらその容姿で父を虜にした美貌の側妃だ。
アスタリアの第四宮で私には常に令嬢方が群がっていた。教育を受けた令嬢たちは、家門のためにと豪奢に着飾りあの手この手で私を誘った。
未亡人などと戯れに耽ることも時にはあったが、それでも私が二十歳を超えてなお婚姻相手を選ばなかったのは、彼女たちの目に映る私が、〝第三王子”でしかないことを嫌というほど感じていたからだ。
私が妃を娶らず後継者を持たぬことを第二王子の母、現王妃ミランダ様は歓迎された。それをいいことに私は婚約者も持たず独り身を貫いていた。
彼女たちが悪いわけではない。それもまた切り離せぬ私の一部だ。
それでもアスタリアの私はどこか空虚な感情を持て余してきたように思う。
イヴは初めて会った時から私の情けない姿を見続けてきた。
何も持たぬ、何も知らぬ、自分一人の足で立つことも出来ぬ赤子のような男の姿を。
いつ呆れて見放されてもおかしくはなかったのだ。イヴに私を養う理由などなかったのだから。
それを叱咤し時に鼓舞し、支え力になり続けてくれたイヴ。
その彼が私に言うのだ。その内面こそが好きなのだ、と。
イヴ…
外敵に対しては容赦なく牙を剥き威嚇する、が…家族に対してはどこまでも愛情深い温かな人。
高慢だ、我儘だ、と言われる姿は…自己を確立した気丈さの現れにすぎない。
誰も気付かない…私だけが知るイヴの内面。
この歓びが誰に分かるだろう。…私とイヴを結びつけるのは…一切の虚飾を捨てた剥き出しの互いなのだ。
今も時折無意識に腰を撫でさするイヴには申し訳ないが…
やはりこれからも自制は効きそうにない。
陽が高い!しまった寝過ごした!
「ご、ご飯!みんなのご飯!今何時フラヴィオ!」
「イヴ、心配いらない。今朝の朝食はリコに申し付けてある。ゆっくり休むといい」
「リコに…?」
ピンク色の夜を過ごした翌朝。慌てて身体を確認するといつものパジャマが着せられている。
ヘッドボードにはキチンとたたまれた濡れタオル(躾けた)。ってことはフラヴィオがキレイにしてくれたんだろう。
今は何事も無かったかのように紳士の皮をかぶっているフラヴィオだが、彼がオオカミだということはもうすでにバレバレだ。
毎夜…とかバカなこと言ってたけど…冗談じゃない。あんなの毎晩とか…身体が持たないよ。フラヴィオってば…
そのフラヴィオがサイドチェストのハンドベルを鳴らすと、そこにやって来たのは恭しく傅くロデじい。その手にはピンチョスと飲み物の乗ったトレイを持っている。
…何やら様子がおかしく感じるのは…気のせい?
「ま、まさか…」
「おめでとうございますフラヴィオ様。これでようやく真の夫夫となられましたな」
「うむ。エヴァの姿をメルカートで知って以来、気の休まる時が無かったのでね。これで絆が確固たるものとなった」
「イヴ様。男同士の婚姻など…と思ったこともありましたが…なんのなんの!イヴ様はまさに当家の宝!これからもフラヴィオ様をよろしくお願いしますぞ」
フルフルフル…
「イヴ?」
「う、うそだぁぁぁ!」ガバァ!
初エッ…の翌朝に知られてるとか!何の冗談だよ!アカンて‼ 何笑って話してんの!
き、貴族舐めてたわ…こわ~、貴族こわ~…
寝ててもいい、というフラヴィオを振り切り階下へ降りれば、そこには仲良く皿洗いをする兄弟とダイニングテーブルで花を活けてるルイルイの姿が。
「あっ、イヴ様」
「リコ。…朝ごはんの支度ありがと。いきなりごめんね」
「いえ!以前フラヴィオ様から言いつかってましたので。イヴ様が八時までに階下へ降りないときは俺が用意するように、って」
「えっ…?」
し、仕込みは上々だったわけか…、フラヴィオォ…
「よ、よく作り方覚えてたね、ピンチョス」
「切って乗せるだけだから俺でも出来ます。これからも寝坊するときはお任せください」
それ…、寝坊イコールやりました!みたいじゃん。いやだよ!
「ルイージ君おはよう。朝からお花?きれいだね、それ」
「花はお兄様とイヴ様へのお祝いです。ストック…この花には〝愛の絆”という意味が込められているのですよ」
ガタガタ
「どうしましたイヴ様」
「別に…」
「ふふ、イヴは恥じらっているのだよルイージ」
「何故?おめでたいことですのに」
「ルイージ、その花瓶は寝室に飾ろう。絆を紡いだ愛の部屋に」
「…んなっ!」
いつの間にか背後に居たのは二割増しツヤツヤして見える僕の夫である。
く、くそぅ…まさかこんなところにこんな特大のスピーカーが…
「そうだイヴ様。僕は階下のロデオと部屋を替わるつもりでいます」
「なんで?下の部屋より二階の方が良い部屋だよ?」
「その…、…実はお声が少々」
ふぁ!?
「ああすまないルイージ。そこまで気が回らなかった。思いのほかイヴの声は大きくてね」
「ルイージ様。早急に防音対策いたします故、部屋はそのままお使いくだされ。階下は狭うございます」
ヨロヨロ…トスン
「…イヴ?」
「イヴ様?」
燃えた…燃え尽きたよ…真っ白な灰に…
-------------------
夫婦の営みに関し他言無用とイヴは憤慨しているが、そもそも執事や従者とはそういうもの。営みの翌朝、主人の様子を確認をしゆるりと過ごせるよう整えるものだ。
そんなことくらいイヴもわかっているだろうに。
ふむ…私たちのこれは後継者をなすための行為でなく純粋な愛の営み。それゆえ恥じらっているのだろうか?
いつもながら可愛らしい人だ。
だがつい逸る気持ちのまま声をあげさせ続けたのだから、イヴには少々悪いことをしてしまった。
サルディーニャの王子や青年たちのエヴァを見る目…
それは〝エヴァ” という幻を見ているに過ぎぬのだが、私の胸には何とも言えぬ感情が去来していた。
メルカートでイヴに群がった彼らとは違う、手を伸ばせば届くと信ずる、あれはそういう視線だ。
真の貴公子である彼らは腕ずくで、などという無粋で下品な真似はすまい。だが、己であればエヴァを振り向かせられる、そう思えるだけの自信は持ち合わせているのだ。
財…地位…容姿…何をとっても不足はない。
私が抱いた感情。それは嫉妬だ。
夫である私があの程度のやり取りに妬くなど狭量なこと。それでもそうを感じてしまうのは、私とイヴが夫夫としての最期の一線を越えていないからに他ならない。
どれほどイヴと私が目に見えぬ心を通わせていても、私たちには目に見える絆が無い。
私は身体の結びつきを些事とは考えない。それは互いの絆をより深めるための重要な行為だ。何故なら肌を重ねることとは己をさらけ出す行為と言えるからだ。
イヴは初めから〝紅白の結婚”を望んでいた。行為そのものを拒否している訳では無い。であれば彼が拒むのは〝愛無き行為”
そう思い至ったからこそ私は、イヴを見守り己の心を伝え、ゆっくりと時間をかけ愛を育んできたつもりだ。
その努力は最良の形で結実したように思う…
「僕は見た目で人を好きになったりしない!僕が好きなのはフラヴィオの中身!内面だから!」
その言葉は想像以上に私の心を貫いたのだから。
私はアスタリアの王子である。役に立たぬ籠の鳥であろうとまごうこと無き第六王位継承者。そして私の母は、僻地の男爵令嬢でありながらその容姿で父を虜にした美貌の側妃だ。
アスタリアの第四宮で私には常に令嬢方が群がっていた。教育を受けた令嬢たちは、家門のためにと豪奢に着飾りあの手この手で私を誘った。
未亡人などと戯れに耽ることも時にはあったが、それでも私が二十歳を超えてなお婚姻相手を選ばなかったのは、彼女たちの目に映る私が、〝第三王子”でしかないことを嫌というほど感じていたからだ。
私が妃を娶らず後継者を持たぬことを第二王子の母、現王妃ミランダ様は歓迎された。それをいいことに私は婚約者も持たず独り身を貫いていた。
彼女たちが悪いわけではない。それもまた切り離せぬ私の一部だ。
それでもアスタリアの私はどこか空虚な感情を持て余してきたように思う。
イヴは初めて会った時から私の情けない姿を見続けてきた。
何も持たぬ、何も知らぬ、自分一人の足で立つことも出来ぬ赤子のような男の姿を。
いつ呆れて見放されてもおかしくはなかったのだ。イヴに私を養う理由などなかったのだから。
それを叱咤し時に鼓舞し、支え力になり続けてくれたイヴ。
その彼が私に言うのだ。その内面こそが好きなのだ、と。
イヴ…
外敵に対しては容赦なく牙を剥き威嚇する、が…家族に対してはどこまでも愛情深い温かな人。
高慢だ、我儘だ、と言われる姿は…自己を確立した気丈さの現れにすぎない。
誰も気付かない…私だけが知るイヴの内面。
この歓びが誰に分かるだろう。…私とイヴを結びつけるのは…一切の虚飾を捨てた剥き出しの互いなのだ。
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