コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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カステーラ王国からの船

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「何度も言っておろう!アスタリアに国を治めるだけの余力は残っておらん!先日届いた隊長からの報告にもそう記載されていたであろう!」

「だからと言ってあのような僻地に誰が行きたいものか!一年二年で済む話ではないのだぞ!」

「ではアスタリアへの転地により領地を倍…いや、三倍にすると謳い募っては如何だろうか」

「いやいや。土地が倍になったところであの地で何が採れる。枯れた土は生産性が悪く国を囲む山々でさえ大きな鉱山はない。何の旨味がある!」

「だが誰かが行かねばならんのだ!民が居る以上放置はできまい!」

「無理だな。あの国へ派遣された者は国から切り捨てられたと憤慨しましょう」

「王陛下…」

「うむ。どの一手も軋轢を生むであろう。下手に無理強いし貴族たちが私怨を募らせるようなことあらばそれは新たな諍いの火種となる」

彼らが頭を悩ませているのは、王の治める国でありながら王位継承者のほとんどを失ってしまったというアスタリアの現実だ。
第三第四王位継承者であるファブリチオ、カッシオの息子は国を傾けた戦犯の息子、その数には含まれぬ。

そして残されたアスタリア貴族に一国を治められるだけの力量を持つ者がどれだけ残っているか…
そのためこのサルディーニャは総督を派遣しなければならないという事態に直面している。

「そもそも長きにわたり内乱の続いた国アスタリアは治水すら碌に整っておらぬのだぞ!土壌を潤し生活水準を上げるための水路、海すらもたぬアスタリアでは必須であろう!だがそれには資材を運ぶ馬車道の整備がまず必要になる!ああそうそう、壊れた建物も修繕せねばならぬのであったな。あの国を維持するためには巨額の予算が出て行くばかりではないか!我が国に何の利がある!」

声をあげたのは財務大臣を務めるコレッティ候。ぴしゃりと言い切る姿がイヴと重なる。
一瞬こちらに視線を向けられたが…実に耳の痛いことだ。


「…皆さま、一言よろしいか…」

「君は…コレッティ候の義理の息子殿だったね」
「はい。ビアジョッティ伯爵家当主フラヴィオと申します。不肖ながらアマーディオ殿下の勉強会に名を連ねております」

「ふむ…、あのイヴァーノを手懐けた聖人か。良かろう、話してみたまえ」

聖人…。イヴの伴侶であることが私の信用となっている事実をどう受け止めれば良いのか…いや、今は忘れよう。
声の主はタランティーノ公爵。あのパンクラツィオの父親である。

「今回ご助力くださったというカステーラ王国はアスタリア国と大変密接なつながりを持つ国でございます」
「そのようだ」
「カステーラの末妹はアスタリアの王族に嫁いでおります」
「何が言いたい。あの地は僻地なれど息子パンクラツィオが手に入れた名誉の証。ただでカステーラにくれてやれというのであればあまりにも愚かな考えだ」

「もちろんそのような考えではございません。パンクラツィオ殿の目的も私は存じ上げておりますれば」
「そうか君たちは…続きを」

パンクラツィオの父であるタランティーノ公爵家当主は息子がアスタリアへ出向くに至った経緯を全てご存知だ。
私がそれを知る者であると気付き、軽く顎を動かし言葉の続きを促した。

ここからだ。慎重に言葉を選ばねば…。どうにかして流れをアレクサ様へと導くのだ。

「その末妹あればこそ面倒ごとを全てあの国に押し付けることが出来るのではないか、そう思えるのですが…」

「というと?」
「これは親交のある貿易商から小耳に挟んだことなのですが…カステーラの国はアスタリアから多くの難民を受けいれています」
「ほう?」
「その多くがアスタリアの養蚕農家だということです。彼らの教えあって今ではカステーラも養蚕を国の産業と捉えております」
「それがどうした」
「何故アスタリアで養蚕が盛んだったか、それは蚕の餌となる桑の木がアスタリアの山々には多いからです」
「つまり?」

「サルディーニャにとって不要なアスタリアであってもカステーラにとっては有用ということです。カステーラ…あの国もさして大きくはない。カステーラがアスタリアより栄えていたのは海に面している、ただそれだけの違いでございます」
「ふむ」

ああ…頼む!どうか上手くいってくれ!


「カステーラの末妹でありアスタリアの王弟妃、彼女を統治代理者に、私はそう提案いたします。さすればあの地にに利を感じ、また末妹が治めるアスタリアへカステーラはいくらでも助力を惜しまぬでしょう。くれてやるのではありませぬ。上手く手を携えるのです。さすれば宗主国となる我がサルディーニャの負担も軽減するのではないか、そう愚考いたします」







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