コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人はデート中

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「それで…何を見るのだい?」
「始めての外国なんだから全部!」

とは言え、サルディーニャの商店街と違ってどこか閑散とした商店街。1/3が空きテナントになっている。
それに観光客らしき人は…ほとんど見当たらない。地元民がチラホラ買い物しているだけだ。まるで前世の過疎った商店街…

「見る店がない…なんか…侘しいですねここ。フラヴィオ来たことあります?」
「いや、残念ながら…だが想像はつく。恐らく以前はもっと活気に満ちていたはずだ」
「なんでこうなっちゃったんだろう?跡取り問題とか?」

若者が都会に出て人口減、みたいな?待て!ここが都会だったわ。

「早々に見切りをつけここを出たのだろう。見てごらん?建具がかなり傷んでいる…」
「見切り?…」
「収まったとは言え…長年続いた争いの後だ。直ぐに元通りとはいかないよ」

ゲッ!もしかして戦争でもしてたのかな…。あー…ワケアリってそういう系…
横目で確認したフラヴィオの顔はなんだか悲しそう…

「ま、まあ収まったなら良かった」

「なにがいいもんか!」

ビクッ!

「身勝手な王家のせいで俺たちがどれほど貧しいか…とんだとばっちりだ!」
「父さんやめて!不敬だよ!」
「うるせえ!」

横から叫んだのはどうやら乾物屋の店主らしい男だ。

がこなけりゃアレはまだまだ続いてたんだ…それに比べて王家は何をした!国から出ることを禁止したんだぞ!」
「父さん…」

「ホセの一家に誘われた時俺たちも出ていきゃあ良かった。今じゃ見ろ!満足に売り物もねえんじゃいずれ俺たちも飢え死にだ!」

そんなの僕に言われても…けど空気の読める僕はお口チャックだ。

争い事は色んなものを奪っていく。その一つが気力だ。こうして怒りがあるうちはまだいい。最後の気力がなくなると人は文句すら言わなくなる。見切った彼らは静かに撤退し…いずれそのジャンル、イベントは衰退する。そんなのを僕はいっぱい見てきた。運営が調子に乗るとこうなるっていう悪い見本だ。

彼らは怒っている。つまりまだ諦めていないんだろう。ふむ…

「やめなよ父さん!」
「すまねえ…お嬢ちゃんに言ってもしょうがねえな…」

見るからに貧しそうな乾物屋。店主もお姉さんにも笑顔はない。

「あの…僕に出来ることはあるかな?ここで買い物したら助かる?」

マッティオ氏のおかげで旅費の浮いた僕は実を言うとちょっぴり小金持ちだ。乾物ならお土産にもいいし買い物上等!

「ありがとよ嬢ちゃん。けどよ、そんな問題じゃねえ」
「そうなの?」

「全てが不足しているのだ…するとどうなるかわかるかいエヴァ?」
「わかりますよ。モノの値段が上がるんですよね」

前世の記憶を紐解く…。お母さんから「これ食材費。余ったら自由に使っていいわよ」と予算を渡されていた僕は、日々いかにしてお金を余らせるか頭を悩ませたものだ。それを邪魔したのが天候に左右され高騰した野菜たち…くっ!

「売りもんどころか俺たちが食う食料すら満足に入ってこねえ…。手に入ったと思やぁ高い。どうしろってんだ!」
「ケーザイのカンフル剤?…こ、コーエキ事業?とかは…」

これワイドショーコメンテーターの受け入りね。けど多分合ってる。

「そのための金がこの国はとうに尽きているのだよ…」

溜息をつき遠くを見るフラヴィオ。その方角にあるのは……

空き店舗?



----------------------




「あんたたち見たところ外国の人だね?どこから来たんだい?」

どうやら店主の娘らしい。婦人の問いかけにどこか上の空で答えるイヴ。

「えっと、サルディーニャから」

「嬢ちゃんサルディーニャから来たのかい!」
「なんだよ!早く言えよ!」

笑みを浮かべ歓迎の意を示す彼らを見るに、どうやら『黄金の剣』が内乱を鎮圧した事実は好意的に受け止められているようだ。

閉鎖的なアスタリアの民は自国への愛がとても強い。
本来ならば他国の介入など決して受け入れぬだろう。その彼らがサルディーニャの騎士を受け入れる…その事実にそれほど彼らは追い詰められていたのだとより一層思い知らされる。

もとより豊かでないアスタリアの農地。二年もの間続いた内乱は領主たちから様々なものを奪うに至った。苗…肥料…農具、時に人手すら。
手をかけられぬ農場運営では恐らくどの領主も例外なく収穫を減らしているだろう。

それだけではない。下船してからの道中ただの一台も商家の荷馬車とすれ違わぬとは…。争うばかりのこの国にはもはやうまみが無いのだろう。

それを思えば、如何にマッティオ殿が苦労して貸し馬車と宿を手配してくれたかが改めて察せられる。


「あんたたちサルディーニャの客人かい?こんな時に良く来てくれたな。安酒だが一杯飲んでってくれ!」
「いや店主、貴重な酒をいただく訳にはいかない」

アスタリアの人々が持つどこか野暮で、だが深い情を感じさせる気性が私は好きだ。

サルディーニャが愛と自由の国であるなら…ここアスタリアは愛と情熱の国だ。
ここはサルディーニャほど洗練された国ではないし、人々はあそこまで陽気で社交的なわけではない。だがアスタリアの民ほど出会いと絆を大切にする人々は居ない、そう私は自負している。

こうして…困窮した暮らしの中でも出会ったばかりの客人をもてなそうとする目の前の店主のように。

「おじさん。お酒はいいからそこの空き店舗に人を集めてくれる?」

私と店主の押し問答を一蹴したのはイヴの不思議な提案だ。

「そりゃいいが…お嬢ちゃんどうすんだい?」

「実は僕サルディーニャの有名な服飾デザイナー…とオーナーから食料預かって来てて」
「エヴァそれは…あの袋の事だね」
「うん」

その思惑が全く読めない。彼の考えはいつでも私の考えの及ばない遥か彼方で動いている。

「もちろんその場しのぎだけど…せっかくの厚意だからパーッとやろうよ!」



宿屋へ戻る道すがら、私たちは先の話を語り合っていた。

マッティオ殿は下船後のエヴァとイヴを別行動だと思っている。そこで彼は私たちに二台、エヴァに一台の馬車を用意し、エヴァにはたくさんの食材を持たせたのだ。どうも彼はエヴァの身の上を〝病弱な家族のために王都へ出稼ぎにきた健気な少女”と信じているようだ。

「僕が言ったんじゃありませんよ。なんかまあ…出所は分ってますけどそれが出回って気が付けばそんなことに」
「イヴ、君はあれらの野菜を「宿屋ポサダで厨房借りて自炊する」と言ってなかったかい?」

「そのつもりだったけど…でも元気付けてあげたいし…それにこれは先行投資です」
「先行投資…かい?」

イヴは言う。
いつか彼らが力を取り戻した時、その時こそ彼らはイヴの意志を継いだ先駆者になり得るのだと。

「時代の転換期、これこそがある意味革新のチャンス!そのためにもここは一発彼らにパワーをチャージしないと!」
「それはつまり…」

目の前には不適に笑うイヴが居た。




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