コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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再会の時

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ところで何故サルディーニャの高位貴族である僕たちが庶民街のホテルに居るか、今さらだけど疑問に思ってる人も居るだろう。

まずは理由そのいち。
マッティオ氏に旅行の段取り全てを丸投げしていた僕は、宿泊先に関し「家族でのんびりしたいので貴族の家はパスイチで」とはじめっから伝えてあった。
何故なら、貴族の宿泊とは大抵おなじ位の貴族宅、と聞いていたからだ。

いくらゴージャスな貴族邸でも見知らぬ人んちで気を遣って間借りするのはごめんだ。それなら格安ビジホのほうが全然いい。なのでそういう意思表示をしておいたってわけ。

理由そのに。
貿易商、といっても最重要案件でもなきゃ自ら国外には行かないCEOマッティオ氏。当然この件もこの国の商人仲間に頼んで手配している。
そしてこの国とサルディーニャでは「見栄えの良い宿泊先」の認識に若干の誤差があるようだ。

見栄えの良い宿泊先…、それがあのうねうねした外観なのだろう。歴史的建造物らしいが…確かに個性的だ。

理由そのさん。
これはここへ来てから…というか、最近分ったことだがここは内乱のあったアスタリアである。
二年以上の長きにわたって敵対しあう二派の貴族同士がぶつかり合った結果…貴族街はこの庶民街より火種が多いのだとか。

庶民街のように閑散としているわけではないらしいが、今はまだ無能貴族の仕分け…とか淘汰の最中みたいで、新しい宮廷に生まれ変わるまでサルディーニャの貴人は近づかない方がいい、そう判断したのではないかというのがフラヴィオの意見だ。

「僕は庶民街でむしろ良かったけど…、でもなんで?」

「今や宗主国となったサルディーニャの高位貴族だ。取り入ろうとする者は多いだろう。中には良からぬ思惑を持つものが居ないとも限らない」

あー、なるほど。
いたいた。やたらトップインフルエンサーにゴマすって再生数のためにコラボしようとしてる奴。あんな感じか。



ってことで、「ルイージ様が公爵邸へと戻るのを機に我が家へ移られては如何か」という、フラヴィオの友人マヌエル氏の誘いを丁寧に断り、未だ僕たちは庶民街のホテルにいた。

なんでも、庶民街にサルディーニャの有名人が来ている、というのは貴族街でもフワッと噂されているらしいが、あまりにもエヴァの評判が大きすぎてビアジョッティ家の名は搔き消されているとか。

エヴァの人気が嬉しくもあり、でもイヴとしてはエヴァの人気がジェラシーでもあり…うーんジレンマ!

そうしてルイルイがルイージ殿下へと進化を遂げ五日ほどたった頃、ついに待ちに待った一報がホテルに届けられた!

「イヴ様。ルイージ様から招待状が参っております。カタリーナ姫殿下が公爵邸でお待ちですぞ」






初めて訪れたモンテ…公爵邸は、この国に来てから見た中で一番立派だが、それでもコレッティのお屋敷には及ばない。これが国力の差か!

異国の貴人を歓迎するために公爵家では次期当主自らお出迎えだ。

「五日ぶりですね。なんだか気恥しいです」
「まあルイージ様ったら」

傍らで笑うのは彼の姉さん婚約者。

「カタリーナ様!会えてよかった…もしかして旅行先違いで会えないんじゃないかってホント心配だったんだから」
「ふふ、ルイージ様から聞いていてよ。おかしな勘違いをするのね」

あいたー!それは言わない約束でしょ!

「それより今日はイヴァーノなのね」
「さすがに初見の公爵邸にエヴァで来るのはちょっと…」

「ふふ、我が家の家人は噂の〝エヴァ嬢”に会いたがっていましたのに」
「じゃ帰るまでにはって伝えといてね」

すっかり公爵令息に戻ったルイージ君。カタリーナ様と並ぶ姿はまさに一枚の絵画!けど僕たちだって負けてないよ?

今日ばかりは公爵邸の使用人に分かりやすいようダンディズム封印。旧貴族服に身を包んだフラヴィオはキラキラして眼がつぶれそう!
そして僕自身も、アッシュゴールドの髪に良く合う若草色のロリータブラウスは、胸に三段のフリルと大きなリボンをあしらった受けの可憐さを最大限に引き出すデザインだ。おっと、もちろん袖はビショップ袖ね。

ということで、本日の僕とフラヴィオはちゃんとした貴族の正装である。
ここは公爵家の中でも王族公爵。ようするにパンキーと同位ね。同じ公爵令息だってのにこのエレガント差は何故…


「お兄様、ここには当家の家人とカタリーナ様の付き人以外おりません。どうか肩の力をお抜きください」
「ありがとうルイージ。気遣い痛み入る」

「カタリーナ様はお城に泊まるんですよね?どれくらい居るんですか?一か月?二か月?」
「まあイヴァーノ。あなたってば何も分かっていないのね」
「何をでしょう?」
「わたくしはモンテシノーシス公爵家のご子息と婚約しこの国に移住すると言ったでしょう」

あ!

「じゃあこれって旅行じゃなくて引っ越しですか?」
「そうよ。…あなたって服飾以外のことは本当に興味が無いのね」

失礼な!料理にも興味あるって!

「覚えていて?わたくしはこの国の王妃となるのよ。それがどういう意味かもうわかるわね?」
「意味………」

「イヴ、王妃の横に居るのは誰だい?」

フラヴィオのヒントにようやく答えを見い出す僕。それってつまり…

「…もしかしてルイルイが王様になるってことですか?」

その場に居る全員の顔に「今気づいたのか」と浮かんだのは言うまでもない。

「イヴァーノったら。ヴィットーレ先生の仰った通りね」
「え?ヴィットーレ先生から何を聞いたんですか?」
「「イヴァーノ君はあまり学業に熱心ではなかった」と」

…怒りたいけど怒れない。何故なら事実だから。イヴァーノも…前世の僕も…

「そ、そんなことどうでもいいじゃないですか!あの人!女公爵様は今何してるの?」

「お母様は私と姫のために宮廷を整えるべく王宮にて差配を振るっておいでです」
「生き残りの古狸、旧大臣たちもお義母様を前に膝をついたわ。ホホ、愉快だったこと」

フラヴィオが僕にも分かるようかみ砕いて説明してくれたが、自分勝手な貴族っていうのはどこにでもいるもので、そういう貴族が混乱に乗じて宮廷を好き勝手しないよう監視していたのがパンキーの置いてったサルディーニャの厳つい騎士団らしい。
で、上から順に消えてったアスタリア王族の中で、現状最高位に近いのが王弟の妻であるあの女公爵様とかで、その人が戻って来たのでやっとサルディーニャの騎士団はお役御免なんだとか。

「モンテシノーシス公爵家の騎士たちがカステーラより戻り次第『黄金の剣』はサルディーニャへと帰還なさるそうだ」

「へー」

サルディーニャ側ってマジでザクロ以外に関心ないんだな…。いっそすがすがしいわ!

「ねえイヴァーノ。お義母様はわたくしに庶民街に関する法整備の草案をお任せくださったの」
「え?ホントに!」

「もちろん識者による多くの手直しが必要となるのでしょうけど…わたくしの力が国の礎の一つとなるなんて感動だわ。サルディーニャでは考えも出来ないことですもの。ここがわたくしの国…なんて素晴らしいの!」

「そのための言葉をこれから嫌というほど交わすことになるのですよ、私たちは」
「まあ!ちっともロマンティックじゃないのね」
「お嫌ですか?」
「いいえ。望むところよ」


どうやらここには一足先に春が訪れたようだ。






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