コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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待ちに待った公爵家主催の婚約披露、兼即位のお祝いパーティー。
僕はこんなこともあろうかと、ちゃーんとドレス以外のゴスロリ貴族受け服(長い)もワンセット持参していた。

これはとあるモバゲーのキャラにインスパイアされて作った限りなくコスに近い、でもまごうこと無きオリジナルである。

まず白と黒のストライブが甘みを抑えるこのブラウスだが、その袖と胸元は大きめの三段フリルと黒のクロスリボンが貴族の華やかさを演出している。
ウエスト部分にはアクセントとして、長めのフィッシュテールをつけた特製の黒いコルセットでゴスっぽさを更にプラス。
そしてボトムスはなんと、ぱっと見ひざ丈のドロワーズにも見える、フリルの付いた黒のハーフパンツが受けの可憐さを大きく主張!
足元はひざ下までの黒ソックスに黒の編み上げショートブーツ。これによって膝小僧がある種の絶対領域を生み出している。
極めつけは頭に乗せた直系十センチほどの自作王冠。右寄り…左寄り…悩みに悩んで右寄りにオン!

「こ、これは…」
「似合う?どうかなフラヴィオ」
「子供着のようで子供着ではない…貴族服のようで何かが違う…」
「おかしい?」

「いや。とても可憐だよ」
「……」グッ!


さて、僕とフラヴィオが宿泊している部屋は三階の角部屋。そして一階ホールではすでに夜会が始まっている。
というか、会の始まりと終わりに明確な合図は無い。人が集まりだしたらなんとなく始まって、最後の人が帰ればようやく終わりであり、その時刻は日を跨ぐことすらあるという…

「さあイヴ。人が増えてきたよ。そろそろ下りよう」
「っし!」パン

気合十分!販促開始だ!



ザワザワザワ…

と思ったのに…
階下に下りた僕とフラヴィオの姿を見てホールに集まった人々は何故か妙な空気に包まれている。
これは一体…

ザワザワザワ…

ち、ちょっと前衛的過ぎただろうか…?いや絶対可愛いって!王冠がまずかった…?いや、こんなちっこいの本物のわきゃないでしょーが!

とその時、人波を掻き分け駆け寄ってくる男の姿が!

「こ!これはもしやフラヴィオで※$%&」ジャジャジャーン!♪~♬~

「あ、楽団の演奏始まったみたい。うわっ!」ドンッ

「生きておられたのか!でん!#$※%」ジャカジャカジャン!♬~♪~

僕を押し退けフラヴィオに迫るジジイときたら、まるで幽霊でも見たかのような表情だ。
その男をきっかけにしてあっという間に人波の中へ埋もれていくフラヴィオ。

「み、皆落ち着かれよ!」
「今までどこにおられたのだ!」
「ま、少し待っ」
「いつこちらに戻ってこられた!」
「イ、イヴはどこに…」
「兄君たちのことはご存知なのか!」

気が付いたら僕は円陣の外に追いやられていた。
え?気にしてないよ。全然。ホントに。いやマジで。ソレ僕のだけどね!!!


プンスコ!僕はその場を離れることにした。だから拗ねて無いって!

「皆さま。本日の主催である女公爵アレクサ様、そしてご同伴の側妃ペネロペ様が参られました」

いいもんこっちが本命だし!

「まあ!なんと色鮮やかなドレス!アレクサ様のドレスはこの国を体現しているかのようだわ!」

そうでしょそうでしょ。ほらね!だから言ったじゃん。

「それにあのペネロペ様の黄色のドレス…。裾の動きがまるで風に舞うようだわ!」

「ペネロペ様…もともと美しい方だけれど…なんだかキラキラと輝いて…あれほど神々しさのある方だったかしら?」
「キャラメルブロンドの髪がドレスの色味と相まって…まるで…まるで豊穣の女神だわ!」

そう。ラインストーンの効果は抜群、髪色のマッチは偶然!というかこれこそが神の導き!狙い通り!
会場内の女性はもれなくみんなあのドレ、ペネロペ様に陶酔している。
…おや~?僕の地獄耳が何かをキャッチしたよ?

「ご覧になってゴメス夫人、あの側妃の慎みの無い姿を」
「まあ…なんというはしたないドレスかしら!」
「これだから田舎者は嫌ですのよ」
「アレクサ様にまであのような姿を強要なされて…何をお考えなのかしら!」

ああん?強要したのは僕だし何を考えてるかって言ったら…ビジネスの成功だけど?

感嘆のため息に混じって聞こえてきたのは意地の悪い陰口。多分この人たちが意地悪な正妻の取り巻きなんだろう。

ツツツ…「あのドレスは僕が友好の証にペネロペ様へプレゼントした特注品です。なにか問題でも?」

僕の声にぎょっとする四人の婦人たち。ぎょっとするってことはやましい気持があるってことだ。

「ご存じないんですか?あれは大国サルディーニャで今一番ホットな最新のトレンドですよ?」

「なんですって!」
「サルディーニャの!」

ザワザワッ

大国サルディーニャの名にざわつく四人。これはあれだ。前世で言う〝ミラノで買った”とか聞くとなんか「すげー…」となるあれである。

「あれこそ女性の解放を願った新時代のファッション。サルディーニャではとっくの昔に修道女みたいなドレスは廃れてます。あんなの着てパーティーでたら社交界の笑いも、あ、失礼…」

オーバートーク気味な僕の言葉にご婦人がたは一斉に扇を開いて前身ごろを隠し始める。

「あれ見て下さい。洗練されたシルエットでしょう?あの良さが分かるのはセンスの良い真の貴婦人だけです」
「もちろん…」チラ
「そうよね…」チラ

会場中の視線を釘付けにするアレクサ様とペネロペ様、二人の美魔女。それを盗み見る四人の眼は嫉妬と羨望の間を行ったり来たりだ。

「ペネロペ様素敵でしょ?」
「え?」
「え、ええ…」


と、ここでダメ押し!隠しキャラのご登場だ!

「ルイージ殿下、その婚約者であられるサルディーニャの第一王女カタリーナ姫殿下、ご入場です!」

「おおお…!」
「なんという美しさだ…」

コレッティ家の夜会で初披露したあの青いドレスの幻想的な輝きはここでも最大級の販促効果だ!

「あれがサルディーニャの姫殿下…素敵…」
「見て!オーロラ色に輝いているわ!」

「…あんなに背中がバックリ開いてるのに慎み無くてはしたないとは言わないんですね」

視線を逸らしバツの悪そうな四人。だが今日の僕は営業マン。嫌みは言うけどケンカを売る気はない。

「いいですか?神はこう仰いました。服装に大切なのはTPOだと」
「TPO…?」
「タイ…???……トライ、パッション、オリジナリティ、…です」

首が千切れそうなほど頷く四人。変わり身早いなおい!とは思うが、これもまた社交界の処世術…

「と、ところであなたはどこのどなたかしら。珍妙な格好だけれど…」
「アスタリアの社交界では見ない顔ね…」

「僕?僕はサルディーニャの王室ご用達デザイナー、イヴァーノ・ビアジョッティ。あれらドレスの製作者です」
「まあ!王室デザイナーですって!」

盛るべきところは盛る!まだカタリーナ様のドレスしか手掛けていないが…直にそうなる!誤差の範囲だ!

「イヴァーノ様、わたくしゴメス伯爵家の当主夫人ですの!ぜひお見知りおきを」
「わたくしたち前王妃の侍女も務めておりましたのよ。ぜひドレスをお作りくださいませ!」

どうやら僕の目論見であるドレスの販促と害虫無害化はどちらも無事完了したもよう。ふっ、造作もない。

「僕のドレスは尋常じゃなく高いですよ?」
「ええっ!」

「でも大丈夫。ひと月半ほどお待ちいただければ皆様も最新のドレスに手が届くようになりますからね。販売店は貴族街のマダムの店です」

「ひと月半ね!」
「待ちどおしいわ!」

ふっ、カステーラの港当てに代理店契約の旨を記した手紙はすでに郵送済みだ。僕は商機を逃さない。

と、その時…

「サルディーニャのデザイナー…ではあなたが第三王子殿下フラヴィオ様の奥方であられるか!」

素っ頓狂な声がホール中に響き渡った。




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