コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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シャイなあんちくしょう

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夜会本番を明日に控え、そのボンキュッボンにサイズ合わせの必要を感じた僕は、挨拶を終えると秒で義母を拉致っていた。
有無を言わせぬ僕の剣幕に誰も異を唱えられらなかったのは言うまでもない。

いやーしかし…、カタリーナ様が若かりし頃のナタリーポートマンなら義母、ペネロペ様は天使だった時のエマニュエルべアールって感じ。いろっぽかわええ…

「ねぇイヴァーノ…こんなに胸元のあいたドレスだなんて…恥ずかしいわ」
「いいえ!超超超!イイ感じ!です」
「慎みが無いのではなくて?」

あー…やっぱそう言うか…

「いいですか、ここから…」シュッ「ここまで…」シュッ「この間さえ露出させなきゃ痴女とは言われません。大丈夫です」

上はチューブトップライン、下はマイクロミニまでを僕は指で差し示した。ヘソだしは向こう百年封印だな…

「…神の怒りに触れないかしら…」
「神様の包容力を見くびっちゃいけませんね。オルトゥス神を信じましょうよ」

そんな器の小さい神様、願い下げである。

「それもそうね…ふふふ、とっても軽いわ」クルリ

くるくるとスソを翻すペネロペ様はまるで少女のようだ。

フラヴィオの生まれは田舎の男爵家だったはず。ってことはこの人も元は男爵令嬢。貴族の生まれにしてはあの貴族特有のドヤドヤしさが無い。田舎生まれだから?

「これがサルディーニャのドレス…洗練されていて…とても素敵ね…」

素敵ね、と言いつつ視線を伏せるのは何故⁉ 意味が分からない。

「わたくしが何を着てもきっと皆さんお笑いになるわ。イヴァーノ、こんなに素敵なドレスを用意してくださったのにごめんなさいね」
「え?どうして?ペネロペ様はこんなにきれいなのに!」

ここ美醜逆転の国だっけ?いや違うって。

「わたくしは生家の爵位も低く…田舎暮らしで淑女教育も満足に受けられずに嫁いだの。だからあの人に見初められた後も社交界のご婦人がたはわたくしを顔だけの妃と呼び馬鹿になさるのよ。何年たっても…」

つまりトロフィーワイフってやつか…

「見初められた…そこに愛は?」
「もちろんあるわ。あの方はわたくしを誰よりも愛し大切にしてくださったもの」
「あー」

だから虐められたんじゃね?主に正妻とその取り巻き付近に。
イヴァーノはまさにその正妻の側だったわけだが、そりゃこれほどの美女を夫が連れ帰ったら、正妻は平静でいられないだろう。僕ならそもそも連れ帰らせない。チラ見した時点で夜叉降臨。
それは置いといて…

「僕はビジュアルが良いのだって十分才能だって思いますよ?家柄が良いからって敬われるなら顔が良いからってチヤホヤされたっていいじゃないですか。頭がいい、剣が得意、それと何が違うんです?」

「まあイヴァーノ…」
「僕の友人、エヴァなんてその最たるものです」

そもそもコスプレなんてどれほど再現出来てるかって、まさにビジュアル勝負だからね。

「イヴァーノ…、あなたはサルディーニャの名門コレッティ家のご子息なのに気取りが無いのね。わたくしを田舎の男爵令嬢と笑いはしないの?」

「笑う?どうして?」

ペネロペ様が女公爵の友人でフラヴィオが公爵子息の家庭教師、ということは、彼女の夫はそれなりの爵位に違いない。
むしろ僕は、長年伏魔殿しゃこうかいで過ごしていながらその素朴さを維持できている彼女に感心しているのに。

そう言うと彼女は嬉しそうに、でもちょっとだけ寂しそうに頬を緩めた。

「わたくしの王がそのままで良いと仰って下さったの…だから…」
「それって…」
「そうよ。病に倒れ亡くなられたあの方よ」

いやそうじゃなくて。いや、それもだけとそうじゃなく。

わたくしの王…

あー…この乙女チックな義母はもしや、夫を王、息子を王子とか彼氏君とか呼ぶタイプか…あいたたた…

「あなたのような方があの子の伴侶で良かったわ。これは本心よ」
「いやー、それほどでも」

あるけど。

「王子はわたくしと奥で目立たぬよう過ごしてきた世間知らず、あなたにも相当迷惑をかけたのでしょう?」

はいビンゴー!王子様いただきましたー!

「ええまあ…ずいぶん手のかかる王子様でしたよ」(遠い目…)

「ごめんなさい。でも優しい子なの。王に似て真は強いのよ」
「知ってます」テレテレ「あのこれ…」

僕は指輪を嵌めた指を差し出した。後であげたあげないのトラブルになるのを回避するために。

「まあ!これはわたくしと王の指輪ではないの!」
「お、お返しした方がいいですか…」イジイジ…

「いいえ。あの子がこれをあなたに渡したのならばそれは真実の愛を見つけたということなのでしょう」

ジーン…フ、フラヴィオ…か、感無量…

「イヴァーノ、この指輪は右にするのよ」
「へっ?結婚指輪って左だと思ってたのに…」
「この国では右手なのよ」
「へー、じゃあここに居る間は右にしとこうかな」キュキュ

お義母さん公認の結婚指輪…ニンマリ…

「…シリル男爵家とコレッティ侯爵家は宿縁でもあるのかしら。二度も婚姻を結ぶなんて…不思議ね」
ホクホク「ですね」

いやー、それにしてもBL妻になった叔父さんとペネロペ様とフラヴィオ…シリル男爵家のデオキシリボ核酸…恐るべし。

「わたくしあなたと仲良くなれそうだわ。ふふ、嬉しい!」

がっ!か、かわいい!

こうして僕は衣装の最終チェックを終えると、ポワポワした気分のまま、僕に話しかけようとしたフラヴィオを振り切りさっさと自室へと引きこもった。
一晩中かけてドレスに追加のラインストーンをつけるために!

義母の事情が分かった以上、僕に出来るのは限界まで魅力の底上げを図ることだ。そう。僕の持つ武器は…ただそれだけ!



そして翌日…、朝から、というか数日前から準備に余念の無い公爵邸では使用人たちが浮き足立っている。

「だって夜会など久しぶりなんですもの」
「最後の夜会は前王が逝去なさる随分前ですものね」

「ふーん…」

そこに通りがかったのは女主人。アレクサ様だ。

「イヴァーノ、ちょっといらっしゃい」
「は、はい」

静かな怒気を滲ませるアレクサ様、僕は何かしてしまっただろうか…

「あなたはわたくしにこれを着ろと、そう言うのかしら」
「え?何かダメでした?けっこう良いのが出来たと思ったのに」

用意したのは衣裳室にあった一着のドレスから一切の装飾を取り外し、アウトラインをAラインに整え胸元をバッサリ切ってオフショルダーへと改良した真っ赤なドレス。

「赤はトマトの国アスタリアの色です」
「…せめて情熱の色と言って頂戴」

「じゃそれで。で、オフショルダー部分は後付けなので取り外すとビスチェタイプになります。このドレスはあえてパニエは無しで。そのほうが流れるようなラインがクールでしょ?」

「そういうことではありません」
「あっ、装飾のこと?でも女公爵で摂政ならこれくらいシンプルな方が知的さが感じられ…でもちゃんとバックリボンは中央に巻きバラ入れてあるから!」

「イヴァーノ!実に素晴らしいデザインです、ですが肌が見えすぎだと言っているのです!」
「この衣装はこのオフショルダーで完成するんですけど…」
「ならばストールを」
「ダメ!」
「ですが」
「譲れません!」

「なんて頑固なの!」

僕は真顔で説得した。
カタリーナ様、ペネロペ様が素肌を出す以上、ここは実質トップとなるアレクサ様の着用が何より重要だってことを!

「この国は新しく生まれ変わるんですよね?」
「その通りです」
「新時代の証に女性の地位向上はうってつけです!」
「一理あるわね」
「ならアレクサ様が先陣に立たなくってどうするんです!」

その向こうにしかコスプレ文化は存在しないのにー!

「アレクサ様!ペネロペ様が一人でこれ着て後ろ指刺されても良いんですか!」

おっと。ドレス用意した元凶おまえが言うなは聞こえなーい!

「ふー…、よく分かりましたイヴァーノ。いいでしょう。このドレスを身につけます」


屁理屈オタクは勝つ!




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