コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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イヴァーノの事情 ⑥

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ここで少しだけ自分語りをしてもかまわないだろうか?

サルディーニャにおいての僕は、取り巻きと称する幾人かの子女はいても、対等に語らう友人…は何故か少なかったように思う。
それは僕の立場を考えれば仕方のないことなのだろう。僕は名門コレッティ侯爵家の息子であり、十二の時には公爵家嫡男であるパンクラツィオとの縁組がほぼ内定していた社交界の頂点。畏敬の念とともに萎縮するのも至極当然である。

その上僕は…受け形。近寄り難い美貌がある。こうみえて冗談の一つも言ったりするのだが…この整いすぎた容姿ゆえ、そうは見えなくとも、これまた当然である。

そこらの令嬢たちよりも美しい容姿を持って生まれる華奢な男…それがサルディーニャの地に脈々と受け継がれる〝受け形”と呼ばれる男だ。

その美貌に加え、同性ならではの、女性には理解不能な男心を知り抜いた心配りと、媚びた肉感を感じさせぬ涼やかな肢体。とかく審美眼の問われるサルディーニャでは、むしろ令嬢よりも受け形が好まれる傾向にある。
他国にも同性同士で愛し合う嗜好が皆無なわけではない。が少数派だろう。

ゆえに男たちからは女性と同様に扱われ大切にされる。その環境に不満は無い。その反面、受け形は結婚と同時に婚家から「所詮子の産めぬ、代用品チチスベオ」として第二夫人に格下げされる…

はじめから地位を持たぬ庶民や下位貴族であれば、その程度のことはさほど問題ではないのだろう。だけど僕は名門コレッティ家の息子としての誇りを持ち合わせている。上げて落とされる…などとても耐えられない!

ああ…幼い頃から抱えた僕の憂鬱が誰に理解できる?

長兄はコレッティの名を継ぎ、次兄もとても豊かな伯爵位を受け継ぐことが決まっている。…なのに僕が持つのは馬小屋程度の領地も持たない名前だけの伯爵位、それも受け継ぐのは僕でなく僕の夫!貴族社会において妻とは常に夫の付属品なのだ!

ギリ…公爵家を継ぐパンクラツィオは僕の持つ伯爵位になど塵ほどの価値も見出さないだろう。…つまり僕の矜持を支えるものはコレッティの名しか無い。

そのコレッティ家は筆頭侯爵家にして、建国初期より王家を支えた王族にも引けを取らない名門貴族。領地は広大にして豊穣。その財は公爵家にも届くと言われている。

…十二になり初めて招待された王宮の一番豪奢なサロン。コレッティの名に恥じぬよう、精一杯装い毅然と背筋を伸ばし挑んだ、パンクラツィオとの初対面。

その扉の向こうで奴は「タランティーノの力があっても王は足りぬとお思いなのか!私がコレッティごときの息子を娶らねばならぬとは少々解せぬな」僕が居ることも知らず、そう…ギリギリギリ…言い放ったのだ。

顔色を変え大汗をかきながら取り繕う案内の近衛と従者。だがあの瞬間、僕にとってパンクラツィオは敵になった。
婚約者でありながら敵…、矛盾するようだが所詮契約婚などこんなもの。良くある話だ。

僕は婚約に際し〝筆頭夫人の座”を条件に掲げ、「それが駄目ならこの婚約はお受け出来ない!」そう毅然と言いきった。それは問題なく受け入れられたが、あの時のパンクラツィオ…奴もあの時気が付いたのだ。そう。この僕が己の〝敵”だと。

僕の拠り所であるコレッティを「所詮侯爵家」と見下げ続けるパンクラツィオ。だから僕は負けじと誰よりも誇り高く振舞い続けた!

あー、…少々勉強が身につかなかったのは弁解のしようもない。人には得意不得意がある。ピアノや刺繍も…残念ながら僕は手先がやや硬めだ。乗馬…も好きではない。

代りと言っては何だが、僕は僕の得意分野である、装いや宝飾品や娯楽、そういった、社交界における美と流行を牽引することに心血を注いだ。
結果「流行を知りたければイヴァーノ様を見よ」、とまで言われるようになったのは偏に僕のたゆまぬ努力あってこそ!なのに!…それを邪魔したのが憎き二コラだ。

あの小賢しい庶民は学院の男どもを軒並み篭絡すると、それに飽き足らずいつの間にかパンクラツィオやアマーディオ殿下に取り入り、
「でもぉ…僕はお高い宝石よりぃ…殿下が下さるなら道端のクローバーで十分ですぅ」
とか
「パンクラツィオ様と見るなら新作のオペラよりぃ…狩場の美しい夕日の方が感動的じゃないですかぁ」
などとのたまったのだ!

あああーーー!あんな分かりやすい手管にコロリと騙される愚か者が己の婚約者とか…嫉妬心の欠片も無いが恥ずかしいにも程がある!
二コラの持つ所持品はす・べ・て!男どもからの高価な貢物なのに何が「だからこそ手に入れる価値がある」だ!馬鹿か!馬鹿なのかあの男は!

その隠しても隠してもあふれ出る苛立ちを全力で正々堂々本人にぶつけた結果が卒業パーティ。
…僕はやり過ぎてしまったのだろう。そして今僕はここに居る。




長い自己紹介になってしまったが、何が言いたいかというと、イベント会場からの送迎を経て、僕とオーキはあれ以来友好を温めていた。これは僕にとって初めての友人といえる。なにしろここには貴族が居ないのだから。

本来なら庶民など相手にしない僕だが、ここは異世界、そしてオーキは僕とイブキの入れ替わりを目撃した男だ。だからこその特別待遇。そう。これは特別、例外なのだ。

んん?〝入れ替わりを目撃”とは何のことか、だと?
これは送ってもらったあの写真を見たミキオによる、「これはまさに魂転移の瞬間写真!」との説だ。
そして目覚めなかった三日間は魂の定着期間だったのだろう…とも。

「イヴァーノ君。定着が失敗してたら君…」
「言うな!」

危ないところだった…。だがこれでお分かりだろう。

特別なオーキとの特別な交友。そう思えばの意味が、写真を送る、手紙メールで、という意味だと知り羞恥に頬を染めたぐらいは些細なことである。

ああ…この高貴な僕と対等に交友を結べるオーキはなんと幸運なのだろうか。

リンリンから「この子事故の後遺症で少し脳みそとんでて」と説明を受けたオーキは、送迎後、「お茶をご馳走する!」と言う僕の招待を受け、厨房で僕のためにお茶を淹れ、あの狭い部屋に寄り、二人きりで〝メール”、そして”SNS”について一つ一つ丁寧に教えてくれた。
新しき文化に触れるのはいつだって胸が高鳴るものだ。僕はいつになくドキドキしていた。

そして練習も兼ね毎日〝ライン”をやり取りし、「じゃあ少しづつインスタあげてみようか」とオーキが言うので、「次の仕事の無い日に朝からここへ来るように」と命じたのだ。


ピーンポーン

「オーキ、よく来た」
「お?今日はすっぴん?まあそうか。イベントじゃなきゃそうだよな」

ふふん!見るがいい。僕たちはすっかりくだけた口調で話す仲になっている。

「大木くーん、待ってたよー!」
「は?お、お父さん?ど、どうも」
「オーキの写真が見たいらしい」
「ああ、あれですか」

ミキオは「カメラマンなら連射してるはず」と、あの写真が他にもあるなら見てみたい、と休みを取って家で待機していたのだ。

だからと言って…
僕を放って盛り上がるとは何事か!

イライライラ「ミキオいい加減にしろ!オーキ!もう部屋へ行くぞ!」
「ああ悪い悪い」
「いいか!部屋には立ち入り禁止だからな!ミキオ!来るんじゃないぞ!」
「分かった分かった」

まったくもう!オーキは僕のものだぞ!

……

…今僕は何を…



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