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中学生編
4羽 魔獣殲滅戦
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闇医者のお爺さんのログハウスを出た頼輝は、境界の門の前で神崎兄妹と合流した。
頼輝は左手を歯で噛み傷付けると、一番手前の鳥居にその手を付けて念じた。
─開門しろ!!─
すると10連の鳥居に浮かぶ白く光る”封”の字が、奥に向かって順に消えていった。
三人は通行可能になった鳥居をくぐり抜けるとすぐに魔獣の殲滅にかかる。
一晩明けて更に魔獣は増えていたが、神崎兄妹の放つ不思議な魔法(彼らはそれを術と呼んでいる。)による広範囲攻撃と、隼人から貰った刀”疾風”が編み出す風を帯びた剣戟とのコンビネーションで、思ったより早く殲滅が進んだのだった。
だが、彼らの体力・霊力や魔力にも限りがあるので、半分程度魔獣の数を減らした午後18時辺りで魔獣が入ってこれない簡易的な”結界”を張り、長めの休憩を挟むことになった。
「お爺さんのところで多めにおにぎりを作らせて貰って持って来たのですが、途中の小休憩で食べ尽くしちゃいましたからね。
残りの携帯食料だけでは回復が追いつきません・・・。
魔獣はどっさり狩れましたから、それを食べられると良いんですけど・・・。」
森の中に張った簡易キャンプで焚き火を囲みながら美紅が言った。
「食べられますよ?
全部じゃないですけど、角イノシシとか竜巻うさぎ、羊系に牛系、鳥系、蜥蜴系、魚系も全て食べられます。
俺の母さんは俺らが狩ってきた魔獣の肉を食用として加工・調理して売ってます。
むしろ家畜の肉より美味くて栄養価も高く高級品なんです。
都会の人には抵抗があるのかゲテモノ肉扱いですけどね(笑)
地元の人間は皆食べますよ?」
「マジで!」
頼輝の話を聞いた隼人は目を輝かせて亜空間にしまっていた角イノシシやら岩鳥やらをいそいそと取り出した。
「じゃあどんどん食っちまおうぜ!
美紅、調理を頼む!」
「いくらなんでも出しすぎですよ。
その角の生えたイノシシ1体で充分なので後はしまってください・・・。
というか、私より頼輝さんに調理してもらったほうが良いのでは?
魔獣専門の方ですし。
シビエ料理とかきっとお得意でしょう?」
頼輝は美紅にそう振られ、苦笑いを浮かべて汗をかいた。
「えっと・・・・・俺、料理は作らないほうが良いって兄貴に言われてて・・・・・。」
「そんなこと。
頼輝さんはさっきの戦いぶりもそうですけど、色々と謙遜しすぎですよ。」
美紅が言うと隼人も続いて頷いた。
「そうそう!
良いから作ってみろって!
お前の作る飯は絶対美味いやつだし!」
「・・・・・腹がどうなっても知りませんよ・・・・・?」
頼輝はそう言いつつも少し嬉しそうに頬を緩め、腕まくりをしてみせるのだった。
そして30分後──。
出来上がった地獄絵図(牡丹鍋の成れの果て)を見た美紅が呆れ顔をして言った。
「・・・この地獄絵図、誰かさんを思い出す致命的っぷりですね・・・。
何をどう調理したらこうなるんですか。」
「・・・・・だから言ったじゃないですか・・・・・。
俺料理はマジで駄目なんです・・・・・。
料理すること自体は好きだから、期待されるとつい張り切って作ってしまいますけど・・・・・。」
頼輝が項垂れていると、隼人が苦笑いしながらもその鍋に箸をつけた。
「まあまあ、茜と違って頼輝はまともなんだから、見た目は兎も角食ってみれば・・・・・」
と言いながら口にして、そのまま泡を吹いて倒れてしまった!
「・・・やっぱり食べたら駄目なやつじゃないですか。
・・・はい、解毒薬。
ついでだから少し寝てるといいですよ。
その間にお鍋を作り直しますから。」
美紅は手慣れた手付きで隼人の口に薬を含ませ飲み込ませた。
「・・・俺の料理がすみません・・・。」
頼輝は二人に平謝りした。
最も隼人は気を失っていたが。
「いいんです。
兄さんは昔の仲間にしょっちゅうヤバい料理を食べさせられていて、各種毒物の耐性は高めなので、すぐ復帰すると思います。」
美紅は手早く調理を進めながら言った。
「・・・そっか、なら良かったです・・・。」
頼輝は調理する美紅の姿を璃音の姿に重ねて見た。
「・・・・・毒の対処に慣れてる所とか、料理上手な所とか、マジで璃音に似てるな・・・・・。」
頼輝がボソッとそう零すと、美紅が頼輝の方を見た。
「璃音さん・・・?
貴方の幼馴染さんですか?
そんなに私に似てますか?」
「えっ、あぁ・・・そうですね。
見た目とかは割と・・・。
でも璃音のほうがもっと泣き虫だし、子供っぽくて気が強いです。
だからすぐに喧嘩になるんですけど、怒った顔も可愛くて・・・」
頼輝は恥ずかしくて赤くなり、目を逸らしながら言った。
「ふふふ、そうですか。
彼女にも会ってみたいですね。
そのうち兄さんと一緒に貴方の村に遊びに行ってもいいですか?」
「はい!勿論!」
「じゃあ、連絡先を交換・・・と言いましても私達はこの世界では住所不定で持っている携帯電話も異世界のもので意味を成しませんしね・・・。
ではひとまず、貴方の連絡先をここに書いてもらっていいですか?
暫くはこの世界にいることになりそうですし、後で何とかここで使える携帯電話を調達してみます。」
「あ、はい!」
頼輝が渡されたメモ帳に連絡先を書いていると、隼人が少し前から意識が戻って聴いていたのか、やっと訊けるようになった口を開いた。
「・・・お、おい・・・美紅・・・?
何でこっそりと連絡先交換してるんだよ・・・?
まさか頼輝に乗り換えようとか思ってないよな?
確かに頼輝はいい男になりそーだけど、俺の霊力が無いとお前は・・・」
「はい?
何を言っているんですか・・・。
この世界での情報を色々と得るためにも頼輝さんとは繋がっておくべきだと思っていましたし、私に似てるという彼の幼馴染さんにも会ってみたいですから、話の流れ的に丁度良かったので兄さんの代わりに連絡先を聞いたまでです。
兄さんに任せていたら、連絡先を聞き忘れたままサヨナラになってしまいそうですからね。
兄さんはそれで良いんですか?」
隼人は美紅の言葉にハッとすると眉間に皺を寄せて頭を振った。
「・・・・・それは嫌だ・・・・・。
頼輝のことは、なんとなく兄弟みたいっつーか、同じ親から生まれた仲間みたいな気がしてるんだ。
って、何言ってんだろーな??
でも、俺が”疾風”をあげてもいいって思えたお前とはこれからも繋がっていたいっつーか・・・。
例え、それがこの世界にいる間だけだとしても。
・・・だから頼輝・・・。
俺らとトモダチになってくれね?」
隼人は穏やかな微笑みを頼輝に向けてそう尋ねた。
「・・・えぇ、勿論!」
頼輝は微笑んで頷くと、隼人に森中村ではお馴染みの行為”クロス当て”をしようと腕を差し向けるが、彼はその行為を知らないようなので、
「俺らの村では男同士が友情や親愛を示すときに腕同士をぶつけ合うんです。
だから隼人さんも!」
と教えるのだった。
「こうか!?」
「はい!」
二人はクロス当てを交わし、出来上がった美紅の美味しい牡丹鍋を囲って、楽しい食事の時間を過ごすのだった。
食事の後は再び殲滅に向けての戦いが幕を開ける。
彼らは夜になって強化された魔獣も何のそので、順調に倒しながらどんどん境界の奥へと進み、ついに鬼門の前へと辿り着いた。
鬼門・・・そこは洞窟のようになっており、中は黒くて様子がわからないが、何かゾッとするようなモヤモヤしたオーラが常に溢れ出していた。
頼輝は、(森中村の西の鬼門よりも小さいな・・・。)と思った。
鬼門の目前には瘴気の壺だと思われる黒く小さな壺が置かれており、その壺からもゾッとする黒いモヤのようなオーラが溢れ続けていた。
頼輝はその壺の近くに木で出来た丸い蓋を見つけた。
(これが蓋か・・・。)
頼輝が蓋に近づき手に取ったところで、すぐ側にある鬼門から異様な気配を感じた。
「頼輝!
鬼門から何か出てくるぞ!
下がれ!!」
隼人が構えを取りながら叫ぶと同時に頼輝は飛び退いた。
すると、明らかに鬼門の出口よりも大きな黒いモヤが塊となって現れ、そのモヤが次第に具現化していき、長い角のある大きな黒い熊の形を象った。
「オーガベアー・・・鬼熊だ!!」
頼輝はそう言うと、疾風を抜いて身構えた。
「何だそれ・・・黒牛ってのより強いのか!?
なんとなくとんでもない熊だってのは感じるけどよ・・・。」
「えぇ・・・黒牛よりワンランク上のA・・・闇属性の魔獣です・・・!
俺も戦うのは初めてです・・・。」
「だがこいつで恐らく最後・・・
この魔獣殲滅戦のボスってとこだろ!
美紅、お前は援護を・・・」
隼人がそう言い終わらないうちに美紅が血のように赤い刀を召喚し身構えたかと思うと、消えるような速度で鬼熊の背後に回り込み、技を放った!
─斬桜夢解!─
はらはらと桜の花弁のような幻想を纏わせながら大胆に刃が軌道を描き、鬼熊の体に傷をつけた。
鬼熊は相当な苦痛だろうにボーッとその場に立ち尽くしている。
「やっぱり。
見たところ相当な力馬鹿ですが、反面幻術にもハマりやすいようですね。
今の技の付属効果の幻術にハマってでくのぼうになってくれているうちに、どんどん畳み込みましょう!
装甲は固めですが、強めの技なら充分通じるようですから!」
「美紅さんすげー・・・カッコイイ・・・」
頼輝が見惚れて素直な感想を漏らすのを聞いて、隼人が焦った。
「お、おい美紅、俺が頼輝にいい所を見せたかったのに!」
「もたもたしてる兄さんが悪いんですよ。」
そう二人が言い合っているうちに頼輝が鬼熊の正面に跳躍し、鬼熊の左目と右目に風を纏った2連撃を加え、スッと着地した!
「目を潰しましたから美紅さんのかけた幻術っていうのが解けても奴の攻撃は当たりにくくなるはずです!!」
「頼輝すげー・・・カッコイイ・・・!
って、俺だけ活躍できてねーじゃねーか!
負けてられるか!!」
続いて隼人が炎を纏った刀身を鬼熊目掛けて振り翳す。
─紅蓮無双乱舞!─
鬼熊の右腕に相当打数の剣戟を加え、アッサリと切り落とした。
「すげー・・・隼人さんマジカッコイイ・・!」
(今はまだ全力を出していないようだけど、本気を出せば兄貴と同等もしくはそれ以上に強いよな・・・この人達・・・。
父さんのほうがやはり強いかも知れないけど・・・)
「・・・俺も負けてられない!!
それに・・・こいつを倒して壺を回収したら、璃音に電話をかけるんだ・・・!!」
頼輝は 自分一人では勝てなかったであろう鬼熊を、こうもあっさり追い詰めることができたのは、この神崎兄妹のお陰だと素直に感謝し、その心の臓に螺旋状に風を纏わせた刃を突き刺すのだった──。
三人で倒した鬼熊をアイテムボックスに回収した頼輝は、瘴気の壺の蓋を再び拾うと、鬼門の前に置かれた瘴気の壺に歩み寄り、お爺さんに言われた通りに真上から”ストン”と落とした。
すると、瘴気が溢れ出ていた壺の口が綺麗に塞がれ、黒いモヤは鬼門から発せられるもののみとなった。
続いてアイテムボックスに触れて亜空間軌道を作り出し壺を囲うようにして描くと、手で触れずしてそれを回収することができた。
「ふぅ・・・。
これでいつもの境界に戻った筈・・・。」
緊張が解けた頼輝は額の汗を拭った。
戦いが済んでみれば辺りは夜が明けて明るくなっていた。
(夜通しで殲滅したからな・・・。
流石に疲れた・・・。
隼人さんはやはり別格なのか全然疲れていないみたいだけど・・・。
美紅さんは少し消耗したのかな・・・?
顔色が悪い・・・。)
頼輝が美紅を心配そうに見ていると、それに気がついたのか美紅が言った。
「・・・大丈夫ですよ。
流石に霊力を使いすぎましたけど、私は兄さんに分けてもらえますから。」
と頬を染めて隼人にもたれかかった。
隼人は美紅の肩を抱くと、耳まで真っ赤にして頼輝から目を逸らし頭を掻きながら言った。
「・・・頼輝、すまねぇ。
ちょっと美紅に霊力をわけてやらねーとならねぇから、先に爺さんとこに戻っててくれねーか?
終わったら直ぐに行く。」
(・・・・・?
俺が居ると出来ないことなのかな・・・?)
頼輝はそう思うも、二人の異様なピンク色の雰囲気を何となく察し、頬を少し染めて唇を波打たせると頷いた。
「は、はい・・・。
・・・では、俺は先に行きますね。」
頼輝が二人に背中を向けて境界の出口の方へ進んで5分くらい経過した頃だろうか。
頼輝が想像したとおり、森の奥の方から美紅のものだと思われる甘い嬌声が微かに響いて来た。
「・・・あっ♥・・・・・あ・・ぁ・・・・・♡お兄ちゃ・ん・・・はや・・く・ぅ・・・♥」
(・・・・・やっぱりか。
美紅さんのエロいとこ、見てみたかったな・・・・・。
そしたら璃音のエロい姿に置き換えて・・・・・って、何考えてんだ俺!)
頼輝はそんなことを思い、一人赤くなるのだった。
頼輝は鳥居の側の木の根元で、まだ綺麗なままの姿で息絶えている境界守りのおじさんの姿を確認すると、そっとその遺体を担ぎ上げた。
アイテムボックスは死んでいる魔獣を入れることが出来るので、恐らく人の遺体も入れることは可能なのだろうが、頼輝はその行為は人道に反する気がして、したくはなかった。
(ずっと放置しててすみません・・・。
今、村に連れて戻りますから・・・。)
すると、彼が懐に持っていたのか、一通の手紙がパサッと音を立てて落ちた。
頼輝が屈んでそれを拾うと、封筒には”達央へ”と書かれてあった。
頼輝はそれを懐へ仕舞うと、黙って10連の鳥居を潜るのだった。
「頼輝君!」
ログハウスのお爺さんが頼輝の無事な姿に安心したといった顔で出迎えた。
「隼人さんと美紅さんのお陰で魔獣を殲滅し、壺も蓋をして、触らずに回収出来ましたよ。
理由あって俺が先に戻りましたが、二人も後でこちらに来ます。」
「そうかい。皆無事で良かったよ。」
お爺さんは頼輝が担いでいる人を見て言った。
「・・・長谷川さんの遺体を連れ帰ってあげたんだね。」
「はい・・・。
この方、長谷川さんというのですね。」
「あぁ、何度か彼の治療をしたことがあるからね・・・。」
「本当は遺体を発見してすぐに持ち帰ってあげたかったですが、あのときは無理でしたので・・・。
俺は今からこの人の遺体を神社に運ぼうかと思います。
境界守りの人は亡くなったら神社で儀式をしてから弔うので・・・。
それが終わったら、公衆電話から家に電話をかけたいのですが、俺、財布を持って来なかったので、お金を幾らかお借りしてもいいですか?」
「それは全然良いけど、僕も一緒に行くよ。
君一人で長谷川さんを村まで運ぶのは大変そうだ。」
「俺、角イノシシとか境界から担いで帰る日常だったし、この人は角イノシシよりは重いけど何とかなりそうですよ?」
「いや、君は怪我人なんだから無茶したら駄目だよ。
うちに担架があるからそれを使って二人で運べば担ぐよりは楽だよ。
後で来た神崎くんたちがわかるように”村にいる”とメモを残しておこうか。」
「ありがとうございます。」
そうして頼輝はお爺さんと一緒に村へと向かうのだった。
(早く璃音の声が聴きたい・・・!
けどまずは長谷川さんの遺体を安置して、家から先に連絡しないと・・・・。)
谷川村──。
森を下って10分程歩いたところにそう書かれた立て札があった。
(ここは谷川村というところだったんだな・・・。)
その立て札を通り過ぎると村の全景が見えてきた。
村と名はついているが集落に近く、森中村より随分と人口が少ないことは見て取れた。
神社は森への入り口のすぐ脇にあった。
神社の建物には施錠されていなかったので、頼輝達は長谷川さんの遺体を建物の中へと運び込んだ。
その建物の中を見渡すと、事務所らしき部屋に固定電話があった。
「長谷川さんの遺体を安置したらすぐにタバコ屋の公衆電話に急ごうと思ってたけど、こちらに電話があるならそれをお借りしよう・・・!
後で神官さんに事情を話せばいいし。
お爺さん、話が終わるまで待っててもらえますか?」
頼輝はお爺さんにそう断った。
「あぁ、ゆっくり話しておいで。
僕はここで休んでるから。」
お爺さんは待合にある椅子に座りながらそう言った。
頼輝は早速受話器に手をかけた。
頼輝が確実に暗記している電話番号は”自宅”と”桜駒鳥の薬屋”そして”璃音の携帯”だ。
頼輝はまず自宅の番号を押すがおかしい。
「・・・あれ?
呼び出し音がかからない・・・。」
もう一度受話器を置いてから耳に当ててみるが、通常のときみたいにツー・・・という音が鳴らない。
「電話線が切れてるみたいだ・・・。」
頼輝はその電話機の電話線を辿ってみるが、特に抜けたり切られてる様子もない。
「繋がらないかい?
おかしいね。」
お爺さんもこちらに来て受話器を確認し、首を左右に振った。
「これは大元からやられてるかもしれないね。タバコ屋の公衆電話はどうだい?」
頼輝は急いで神社を出てタバコ屋を探す。
神社の前の通りを10mくらい進んだ所に”たばこ”と書かれた古ぼけた赤い看板があったため、頼輝は走って行きその隣に置かれた緑色の公衆電話の受話器を手に取った。
しかしやはりツー・・・という音が鳴らず、お爺さんから借りた100円玉硬貨を入れてみてもすぐに出てきてしまう。
「頼輝君!あれ!」
頼輝を追いかけてきたお爺さんが、近くの電信柱の上の方を指差した。
すると、電信柱の電線が切られ、垂れ下がっているのが見えた。
「おそらくあれが原因だね・・・。
これじゃあ村中の電話が使えないだろう。
これも長谷川さんの息子さんがやらされたことなんだろうけどね・・・。」
頼輝はそれを見てショックを受け、その場で崩れて膝をついた。
「・・・そんな・・・!
俺、こんな遠くの村に飛ばされて来るなんて思わなくて、璃音に何も言わずに普通に出てきてしまったのに・・・!
やっと境界を元通りにして、連絡が取れると思ったのに!」
そこへ遅れて来た神崎兄妹が頼輝の様子に驚いて駆け寄った。
お爺さんから事情を聞いた隼人が唇を引き結び、そっと電信柱に登ろうと手をかけた。
すると妙に艶々した肌の美紅がその肩に手を置いて頭を振った。
「素人の兄さんが繋げるものではないと思います・・・。
というか切れてるのは電話線だけじゃなさそうですし、下手したら幾ら頑丈な兄さんでも感電死してしまいますよ?」
「えっ、線を繋げは解決、じゃねーの!?」
「ホントにお馬鹿なんですから・・・。」
「でもよ・・・何とかしてやりたいだろ・・・?」
頼輝の様子を見て、隼人が心配そうに眉を潜めた。
「私達に今出来ることは、避難している村の人に境界が元に戻ったことと、村の電話線を切られていることを伝えることです。
もしかしたら避難している人の中に携帯電話を持っている人がいるかもしれませんし。」
「・・・そうか!
携帯なら電話線は関係ねーよな!」
隼人はそう言うと、亜空間から─HAYATE─と書かれた大型バイクを取り出し跨った。
美紅もその後ろにひらりと乗り、兄に掴まる。
「頼輝、俺達は避難所に連絡してくる!
お前は疲れてるだろ?
爺さんのところでゆっくり寝とけ!
”果報は寝て待て”って言うだろ?
あんまり悩んでねーで、いっそのこと寝ちまってるほーがいい報せってのは来るものなんだよ!」
「兄さん、それ意味が違います・・・。
でも頼輝さん。
貴方はやるべきことを精一杯やったのですから、あとは成り行きを見守るしかない。
”果報は寝て待て”の正しい意味の通りですよ?」
「えっ、えっ、えっ・・・???」
隼人は美紅の言ったことの意味がわからなかったのか、疑問符を沢山浮かべていた。
頼輝はそんな二人の明るさに励まされ、ふふっと小さく笑うと言った。
「あっ、それってそういう意味だったんですね?
俺、あんまり頭が良くないから、今初めて正しい意味を知りました。」
「頼輝さんは私の言ったことで理解しただけまだマシです。
兄さんはまだわかっていないようですよ?」
美紅がくすくすと笑う。
「うるせー!
・・・それじゃ、行ってくるな!
”笑う門には福来る”だぜ!頼輝!」
「今のは合ってますよ。兄さん。」
「マジで!?良かった!!」
隼人がそんなことを言いながらブウゥゥン!とアクセルを煽る。
そして、二人の姿はあっという間に見えなくなるのだった。
「・・・お腹が空いただろう?
まずは僕の家に帰ろうか。
しっかりと食事を摂って、昨夜眠れていないだろうから、そのぶんゆっくりと寝るといい。」
お爺さんが穏やかに微笑んで言った。
「はい、ありがとうございます。」
頼輝は内心では家族と璃音に連絡が取れなかったことをまだ引きずっていたが、この優しい人たちの為にそれは表面上隠し、お爺さんと一緒に森へと帰るのだった──。
頼輝は左手を歯で噛み傷付けると、一番手前の鳥居にその手を付けて念じた。
─開門しろ!!─
すると10連の鳥居に浮かぶ白く光る”封”の字が、奥に向かって順に消えていった。
三人は通行可能になった鳥居をくぐり抜けるとすぐに魔獣の殲滅にかかる。
一晩明けて更に魔獣は増えていたが、神崎兄妹の放つ不思議な魔法(彼らはそれを術と呼んでいる。)による広範囲攻撃と、隼人から貰った刀”疾風”が編み出す風を帯びた剣戟とのコンビネーションで、思ったより早く殲滅が進んだのだった。
だが、彼らの体力・霊力や魔力にも限りがあるので、半分程度魔獣の数を減らした午後18時辺りで魔獣が入ってこれない簡易的な”結界”を張り、長めの休憩を挟むことになった。
「お爺さんのところで多めにおにぎりを作らせて貰って持って来たのですが、途中の小休憩で食べ尽くしちゃいましたからね。
残りの携帯食料だけでは回復が追いつきません・・・。
魔獣はどっさり狩れましたから、それを食べられると良いんですけど・・・。」
森の中に張った簡易キャンプで焚き火を囲みながら美紅が言った。
「食べられますよ?
全部じゃないですけど、角イノシシとか竜巻うさぎ、羊系に牛系、鳥系、蜥蜴系、魚系も全て食べられます。
俺の母さんは俺らが狩ってきた魔獣の肉を食用として加工・調理して売ってます。
むしろ家畜の肉より美味くて栄養価も高く高級品なんです。
都会の人には抵抗があるのかゲテモノ肉扱いですけどね(笑)
地元の人間は皆食べますよ?」
「マジで!」
頼輝の話を聞いた隼人は目を輝かせて亜空間にしまっていた角イノシシやら岩鳥やらをいそいそと取り出した。
「じゃあどんどん食っちまおうぜ!
美紅、調理を頼む!」
「いくらなんでも出しすぎですよ。
その角の生えたイノシシ1体で充分なので後はしまってください・・・。
というか、私より頼輝さんに調理してもらったほうが良いのでは?
魔獣専門の方ですし。
シビエ料理とかきっとお得意でしょう?」
頼輝は美紅にそう振られ、苦笑いを浮かべて汗をかいた。
「えっと・・・・・俺、料理は作らないほうが良いって兄貴に言われてて・・・・・。」
「そんなこと。
頼輝さんはさっきの戦いぶりもそうですけど、色々と謙遜しすぎですよ。」
美紅が言うと隼人も続いて頷いた。
「そうそう!
良いから作ってみろって!
お前の作る飯は絶対美味いやつだし!」
「・・・・・腹がどうなっても知りませんよ・・・・・?」
頼輝はそう言いつつも少し嬉しそうに頬を緩め、腕まくりをしてみせるのだった。
そして30分後──。
出来上がった地獄絵図(牡丹鍋の成れの果て)を見た美紅が呆れ顔をして言った。
「・・・この地獄絵図、誰かさんを思い出す致命的っぷりですね・・・。
何をどう調理したらこうなるんですか。」
「・・・・・だから言ったじゃないですか・・・・・。
俺料理はマジで駄目なんです・・・・・。
料理すること自体は好きだから、期待されるとつい張り切って作ってしまいますけど・・・・・。」
頼輝が項垂れていると、隼人が苦笑いしながらもその鍋に箸をつけた。
「まあまあ、茜と違って頼輝はまともなんだから、見た目は兎も角食ってみれば・・・・・」
と言いながら口にして、そのまま泡を吹いて倒れてしまった!
「・・・やっぱり食べたら駄目なやつじゃないですか。
・・・はい、解毒薬。
ついでだから少し寝てるといいですよ。
その間にお鍋を作り直しますから。」
美紅は手慣れた手付きで隼人の口に薬を含ませ飲み込ませた。
「・・・俺の料理がすみません・・・。」
頼輝は二人に平謝りした。
最も隼人は気を失っていたが。
「いいんです。
兄さんは昔の仲間にしょっちゅうヤバい料理を食べさせられていて、各種毒物の耐性は高めなので、すぐ復帰すると思います。」
美紅は手早く調理を進めながら言った。
「・・・そっか、なら良かったです・・・。」
頼輝は調理する美紅の姿を璃音の姿に重ねて見た。
「・・・・・毒の対処に慣れてる所とか、料理上手な所とか、マジで璃音に似てるな・・・・・。」
頼輝がボソッとそう零すと、美紅が頼輝の方を見た。
「璃音さん・・・?
貴方の幼馴染さんですか?
そんなに私に似てますか?」
「えっ、あぁ・・・そうですね。
見た目とかは割と・・・。
でも璃音のほうがもっと泣き虫だし、子供っぽくて気が強いです。
だからすぐに喧嘩になるんですけど、怒った顔も可愛くて・・・」
頼輝は恥ずかしくて赤くなり、目を逸らしながら言った。
「ふふふ、そうですか。
彼女にも会ってみたいですね。
そのうち兄さんと一緒に貴方の村に遊びに行ってもいいですか?」
「はい!勿論!」
「じゃあ、連絡先を交換・・・と言いましても私達はこの世界では住所不定で持っている携帯電話も異世界のもので意味を成しませんしね・・・。
ではひとまず、貴方の連絡先をここに書いてもらっていいですか?
暫くはこの世界にいることになりそうですし、後で何とかここで使える携帯電話を調達してみます。」
「あ、はい!」
頼輝が渡されたメモ帳に連絡先を書いていると、隼人が少し前から意識が戻って聴いていたのか、やっと訊けるようになった口を開いた。
「・・・お、おい・・・美紅・・・?
何でこっそりと連絡先交換してるんだよ・・・?
まさか頼輝に乗り換えようとか思ってないよな?
確かに頼輝はいい男になりそーだけど、俺の霊力が無いとお前は・・・」
「はい?
何を言っているんですか・・・。
この世界での情報を色々と得るためにも頼輝さんとは繋がっておくべきだと思っていましたし、私に似てるという彼の幼馴染さんにも会ってみたいですから、話の流れ的に丁度良かったので兄さんの代わりに連絡先を聞いたまでです。
兄さんに任せていたら、連絡先を聞き忘れたままサヨナラになってしまいそうですからね。
兄さんはそれで良いんですか?」
隼人は美紅の言葉にハッとすると眉間に皺を寄せて頭を振った。
「・・・・・それは嫌だ・・・・・。
頼輝のことは、なんとなく兄弟みたいっつーか、同じ親から生まれた仲間みたいな気がしてるんだ。
って、何言ってんだろーな??
でも、俺が”疾風”をあげてもいいって思えたお前とはこれからも繋がっていたいっつーか・・・。
例え、それがこの世界にいる間だけだとしても。
・・・だから頼輝・・・。
俺らとトモダチになってくれね?」
隼人は穏やかな微笑みを頼輝に向けてそう尋ねた。
「・・・えぇ、勿論!」
頼輝は微笑んで頷くと、隼人に森中村ではお馴染みの行為”クロス当て”をしようと腕を差し向けるが、彼はその行為を知らないようなので、
「俺らの村では男同士が友情や親愛を示すときに腕同士をぶつけ合うんです。
だから隼人さんも!」
と教えるのだった。
「こうか!?」
「はい!」
二人はクロス当てを交わし、出来上がった美紅の美味しい牡丹鍋を囲って、楽しい食事の時間を過ごすのだった。
食事の後は再び殲滅に向けての戦いが幕を開ける。
彼らは夜になって強化された魔獣も何のそので、順調に倒しながらどんどん境界の奥へと進み、ついに鬼門の前へと辿り着いた。
鬼門・・・そこは洞窟のようになっており、中は黒くて様子がわからないが、何かゾッとするようなモヤモヤしたオーラが常に溢れ出していた。
頼輝は、(森中村の西の鬼門よりも小さいな・・・。)と思った。
鬼門の目前には瘴気の壺だと思われる黒く小さな壺が置かれており、その壺からもゾッとする黒いモヤのようなオーラが溢れ続けていた。
頼輝はその壺の近くに木で出来た丸い蓋を見つけた。
(これが蓋か・・・。)
頼輝が蓋に近づき手に取ったところで、すぐ側にある鬼門から異様な気配を感じた。
「頼輝!
鬼門から何か出てくるぞ!
下がれ!!」
隼人が構えを取りながら叫ぶと同時に頼輝は飛び退いた。
すると、明らかに鬼門の出口よりも大きな黒いモヤが塊となって現れ、そのモヤが次第に具現化していき、長い角のある大きな黒い熊の形を象った。
「オーガベアー・・・鬼熊だ!!」
頼輝はそう言うと、疾風を抜いて身構えた。
「何だそれ・・・黒牛ってのより強いのか!?
なんとなくとんでもない熊だってのは感じるけどよ・・・。」
「えぇ・・・黒牛よりワンランク上のA・・・闇属性の魔獣です・・・!
俺も戦うのは初めてです・・・。」
「だがこいつで恐らく最後・・・
この魔獣殲滅戦のボスってとこだろ!
美紅、お前は援護を・・・」
隼人がそう言い終わらないうちに美紅が血のように赤い刀を召喚し身構えたかと思うと、消えるような速度で鬼熊の背後に回り込み、技を放った!
─斬桜夢解!─
はらはらと桜の花弁のような幻想を纏わせながら大胆に刃が軌道を描き、鬼熊の体に傷をつけた。
鬼熊は相当な苦痛だろうにボーッとその場に立ち尽くしている。
「やっぱり。
見たところ相当な力馬鹿ですが、反面幻術にもハマりやすいようですね。
今の技の付属効果の幻術にハマってでくのぼうになってくれているうちに、どんどん畳み込みましょう!
装甲は固めですが、強めの技なら充分通じるようですから!」
「美紅さんすげー・・・カッコイイ・・・」
頼輝が見惚れて素直な感想を漏らすのを聞いて、隼人が焦った。
「お、おい美紅、俺が頼輝にいい所を見せたかったのに!」
「もたもたしてる兄さんが悪いんですよ。」
そう二人が言い合っているうちに頼輝が鬼熊の正面に跳躍し、鬼熊の左目と右目に風を纏った2連撃を加え、スッと着地した!
「目を潰しましたから美紅さんのかけた幻術っていうのが解けても奴の攻撃は当たりにくくなるはずです!!」
「頼輝すげー・・・カッコイイ・・・!
って、俺だけ活躍できてねーじゃねーか!
負けてられるか!!」
続いて隼人が炎を纏った刀身を鬼熊目掛けて振り翳す。
─紅蓮無双乱舞!─
鬼熊の右腕に相当打数の剣戟を加え、アッサリと切り落とした。
「すげー・・・隼人さんマジカッコイイ・・!」
(今はまだ全力を出していないようだけど、本気を出せば兄貴と同等もしくはそれ以上に強いよな・・・この人達・・・。
父さんのほうがやはり強いかも知れないけど・・・)
「・・・俺も負けてられない!!
それに・・・こいつを倒して壺を回収したら、璃音に電話をかけるんだ・・・!!」
頼輝は 自分一人では勝てなかったであろう鬼熊を、こうもあっさり追い詰めることができたのは、この神崎兄妹のお陰だと素直に感謝し、その心の臓に螺旋状に風を纏わせた刃を突き刺すのだった──。
三人で倒した鬼熊をアイテムボックスに回収した頼輝は、瘴気の壺の蓋を再び拾うと、鬼門の前に置かれた瘴気の壺に歩み寄り、お爺さんに言われた通りに真上から”ストン”と落とした。
すると、瘴気が溢れ出ていた壺の口が綺麗に塞がれ、黒いモヤは鬼門から発せられるもののみとなった。
続いてアイテムボックスに触れて亜空間軌道を作り出し壺を囲うようにして描くと、手で触れずしてそれを回収することができた。
「ふぅ・・・。
これでいつもの境界に戻った筈・・・。」
緊張が解けた頼輝は額の汗を拭った。
戦いが済んでみれば辺りは夜が明けて明るくなっていた。
(夜通しで殲滅したからな・・・。
流石に疲れた・・・。
隼人さんはやはり別格なのか全然疲れていないみたいだけど・・・。
美紅さんは少し消耗したのかな・・・?
顔色が悪い・・・。)
頼輝が美紅を心配そうに見ていると、それに気がついたのか美紅が言った。
「・・・大丈夫ですよ。
流石に霊力を使いすぎましたけど、私は兄さんに分けてもらえますから。」
と頬を染めて隼人にもたれかかった。
隼人は美紅の肩を抱くと、耳まで真っ赤にして頼輝から目を逸らし頭を掻きながら言った。
「・・・頼輝、すまねぇ。
ちょっと美紅に霊力をわけてやらねーとならねぇから、先に爺さんとこに戻っててくれねーか?
終わったら直ぐに行く。」
(・・・・・?
俺が居ると出来ないことなのかな・・・?)
頼輝はそう思うも、二人の異様なピンク色の雰囲気を何となく察し、頬を少し染めて唇を波打たせると頷いた。
「は、はい・・・。
・・・では、俺は先に行きますね。」
頼輝が二人に背中を向けて境界の出口の方へ進んで5分くらい経過した頃だろうか。
頼輝が想像したとおり、森の奥の方から美紅のものだと思われる甘い嬌声が微かに響いて来た。
「・・・あっ♥・・・・・あ・・ぁ・・・・・♡お兄ちゃ・ん・・・はや・・く・ぅ・・・♥」
(・・・・・やっぱりか。
美紅さんのエロいとこ、見てみたかったな・・・・・。
そしたら璃音のエロい姿に置き換えて・・・・・って、何考えてんだ俺!)
頼輝はそんなことを思い、一人赤くなるのだった。
頼輝は鳥居の側の木の根元で、まだ綺麗なままの姿で息絶えている境界守りのおじさんの姿を確認すると、そっとその遺体を担ぎ上げた。
アイテムボックスは死んでいる魔獣を入れることが出来るので、恐らく人の遺体も入れることは可能なのだろうが、頼輝はその行為は人道に反する気がして、したくはなかった。
(ずっと放置しててすみません・・・。
今、村に連れて戻りますから・・・。)
すると、彼が懐に持っていたのか、一通の手紙がパサッと音を立てて落ちた。
頼輝が屈んでそれを拾うと、封筒には”達央へ”と書かれてあった。
頼輝はそれを懐へ仕舞うと、黙って10連の鳥居を潜るのだった。
「頼輝君!」
ログハウスのお爺さんが頼輝の無事な姿に安心したといった顔で出迎えた。
「隼人さんと美紅さんのお陰で魔獣を殲滅し、壺も蓋をして、触らずに回収出来ましたよ。
理由あって俺が先に戻りましたが、二人も後でこちらに来ます。」
「そうかい。皆無事で良かったよ。」
お爺さんは頼輝が担いでいる人を見て言った。
「・・・長谷川さんの遺体を連れ帰ってあげたんだね。」
「はい・・・。
この方、長谷川さんというのですね。」
「あぁ、何度か彼の治療をしたことがあるからね・・・。」
「本当は遺体を発見してすぐに持ち帰ってあげたかったですが、あのときは無理でしたので・・・。
俺は今からこの人の遺体を神社に運ぼうかと思います。
境界守りの人は亡くなったら神社で儀式をしてから弔うので・・・。
それが終わったら、公衆電話から家に電話をかけたいのですが、俺、財布を持って来なかったので、お金を幾らかお借りしてもいいですか?」
「それは全然良いけど、僕も一緒に行くよ。
君一人で長谷川さんを村まで運ぶのは大変そうだ。」
「俺、角イノシシとか境界から担いで帰る日常だったし、この人は角イノシシよりは重いけど何とかなりそうですよ?」
「いや、君は怪我人なんだから無茶したら駄目だよ。
うちに担架があるからそれを使って二人で運べば担ぐよりは楽だよ。
後で来た神崎くんたちがわかるように”村にいる”とメモを残しておこうか。」
「ありがとうございます。」
そうして頼輝はお爺さんと一緒に村へと向かうのだった。
(早く璃音の声が聴きたい・・・!
けどまずは長谷川さんの遺体を安置して、家から先に連絡しないと・・・・。)
谷川村──。
森を下って10分程歩いたところにそう書かれた立て札があった。
(ここは谷川村というところだったんだな・・・。)
その立て札を通り過ぎると村の全景が見えてきた。
村と名はついているが集落に近く、森中村より随分と人口が少ないことは見て取れた。
神社は森への入り口のすぐ脇にあった。
神社の建物には施錠されていなかったので、頼輝達は長谷川さんの遺体を建物の中へと運び込んだ。
その建物の中を見渡すと、事務所らしき部屋に固定電話があった。
「長谷川さんの遺体を安置したらすぐにタバコ屋の公衆電話に急ごうと思ってたけど、こちらに電話があるならそれをお借りしよう・・・!
後で神官さんに事情を話せばいいし。
お爺さん、話が終わるまで待っててもらえますか?」
頼輝はお爺さんにそう断った。
「あぁ、ゆっくり話しておいで。
僕はここで休んでるから。」
お爺さんは待合にある椅子に座りながらそう言った。
頼輝は早速受話器に手をかけた。
頼輝が確実に暗記している電話番号は”自宅”と”桜駒鳥の薬屋”そして”璃音の携帯”だ。
頼輝はまず自宅の番号を押すがおかしい。
「・・・あれ?
呼び出し音がかからない・・・。」
もう一度受話器を置いてから耳に当ててみるが、通常のときみたいにツー・・・という音が鳴らない。
「電話線が切れてるみたいだ・・・。」
頼輝はその電話機の電話線を辿ってみるが、特に抜けたり切られてる様子もない。
「繋がらないかい?
おかしいね。」
お爺さんもこちらに来て受話器を確認し、首を左右に振った。
「これは大元からやられてるかもしれないね。タバコ屋の公衆電話はどうだい?」
頼輝は急いで神社を出てタバコ屋を探す。
神社の前の通りを10mくらい進んだ所に”たばこ”と書かれた古ぼけた赤い看板があったため、頼輝は走って行きその隣に置かれた緑色の公衆電話の受話器を手に取った。
しかしやはりツー・・・という音が鳴らず、お爺さんから借りた100円玉硬貨を入れてみてもすぐに出てきてしまう。
「頼輝君!あれ!」
頼輝を追いかけてきたお爺さんが、近くの電信柱の上の方を指差した。
すると、電信柱の電線が切られ、垂れ下がっているのが見えた。
「おそらくあれが原因だね・・・。
これじゃあ村中の電話が使えないだろう。
これも長谷川さんの息子さんがやらされたことなんだろうけどね・・・。」
頼輝はそれを見てショックを受け、その場で崩れて膝をついた。
「・・・そんな・・・!
俺、こんな遠くの村に飛ばされて来るなんて思わなくて、璃音に何も言わずに普通に出てきてしまったのに・・・!
やっと境界を元通りにして、連絡が取れると思ったのに!」
そこへ遅れて来た神崎兄妹が頼輝の様子に驚いて駆け寄った。
お爺さんから事情を聞いた隼人が唇を引き結び、そっと電信柱に登ろうと手をかけた。
すると妙に艶々した肌の美紅がその肩に手を置いて頭を振った。
「素人の兄さんが繋げるものではないと思います・・・。
というか切れてるのは電話線だけじゃなさそうですし、下手したら幾ら頑丈な兄さんでも感電死してしまいますよ?」
「えっ、線を繋げは解決、じゃねーの!?」
「ホントにお馬鹿なんですから・・・。」
「でもよ・・・何とかしてやりたいだろ・・・?」
頼輝の様子を見て、隼人が心配そうに眉を潜めた。
「私達に今出来ることは、避難している村の人に境界が元に戻ったことと、村の電話線を切られていることを伝えることです。
もしかしたら避難している人の中に携帯電話を持っている人がいるかもしれませんし。」
「・・・そうか!
携帯なら電話線は関係ねーよな!」
隼人はそう言うと、亜空間から─HAYATE─と書かれた大型バイクを取り出し跨った。
美紅もその後ろにひらりと乗り、兄に掴まる。
「頼輝、俺達は避難所に連絡してくる!
お前は疲れてるだろ?
爺さんのところでゆっくり寝とけ!
”果報は寝て待て”って言うだろ?
あんまり悩んでねーで、いっそのこと寝ちまってるほーがいい報せってのは来るものなんだよ!」
「兄さん、それ意味が違います・・・。
でも頼輝さん。
貴方はやるべきことを精一杯やったのですから、あとは成り行きを見守るしかない。
”果報は寝て待て”の正しい意味の通りですよ?」
「えっ、えっ、えっ・・・???」
隼人は美紅の言ったことの意味がわからなかったのか、疑問符を沢山浮かべていた。
頼輝はそんな二人の明るさに励まされ、ふふっと小さく笑うと言った。
「あっ、それってそういう意味だったんですね?
俺、あんまり頭が良くないから、今初めて正しい意味を知りました。」
「頼輝さんは私の言ったことで理解しただけまだマシです。
兄さんはまだわかっていないようですよ?」
美紅がくすくすと笑う。
「うるせー!
・・・それじゃ、行ってくるな!
”笑う門には福来る”だぜ!頼輝!」
「今のは合ってますよ。兄さん。」
「マジで!?良かった!!」
隼人がそんなことを言いながらブウゥゥン!とアクセルを煽る。
そして、二人の姿はあっという間に見えなくなるのだった。
「・・・お腹が空いただろう?
まずは僕の家に帰ろうか。
しっかりと食事を摂って、昨夜眠れていないだろうから、そのぶんゆっくりと寝るといい。」
お爺さんが穏やかに微笑んで言った。
「はい、ありがとうございます。」
頼輝は内心では家族と璃音に連絡が取れなかったことをまだ引きずっていたが、この優しい人たちの為にそれは表面上隠し、お爺さんと一緒に森へと帰るのだった──。
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