銀色狼と空駒鳥のつがい ~境界の守り人~

彩田和花

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中学生編

5羽 さよなら北海道 ただいま森中村

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5月9日──。
頼輝が北海道に飛ばされて来てから3日目の朝。
彼は谷川村境界の10連の鳥居を潜って姿を現した。
服装は隼人に借りた学ランを脱いで、ここに来たときに着ていた白のオーバーTシャツにグレーのジョガーパンツに戻っていた。
靴は、闇医者のお爺さんのところの患者さんが忘れていって何年も取りに来ないというスニーカーが丁度同じサイズだったので、それを履かせて貰っていた。
(俺達が魔獣殲滅に出てる間にお爺さんが俺の服を洗ってくれていて助かった・・・。
隼人さんに学ランと帷子とブーツを返さなくてはいけないから、それを陰干ししてる間に着るものが無かったら困ってたからな・・・。)
森の木の枝が彼の顔に斑に影を落とす。
(朝の運動がてらに境界を一通り見回って来たけど、あれから大した魔獣も湧いて出ていなくて良かった・・。
神官さんがいないから、境界の全部を見て回らなければいけないのは大変だけど・・・。)
境界内には随所で魔獣を探知する為の札がかけられており、それらは縄を通して神社へと繋がっているため、魔獣が現れればそれが神官の元に伝わることになっている。
神官はどの地点で魔獣が現れたのかを境界守りに伝え、境界守りはその地点に向かい、魔獣を狩ればいい。
今は緊急時でその機能が働いていないため、頼輝は境界内をすべて見て回る必要があった。
(小さな境界だから何とか一人で見て回れたけど、これが森中村だとしたら父さんと兄貴と俺で手分けをしても全部は見て回れない。
やはり神官さんの役目は重要なんだな・・・。)
頼輝はそんなことを思いながらログハウスの扉を開けた。
「ただいま戻りました!」
すると、避難所に知らせに行っていた神崎兄妹が戻ってきており、頼輝の顔を見ると手を振った。
「よぉ頼輝、見回りご苦労さん!」
「隼人さんに美紅さん!
戻って来られたんですね!
避難所のほうはどうでしたか?」
「あぁ、知らせてきたぜ!
村人も俺らと一緒に村へ戻って来てる!
ただ、携帯を持ってる村人は居なかったけどな・・・。」 
と隼人がため息をついた。
「この村の人、若い人は殆ど町へ出て行って、残っているのはお年寄りばかりですしね。
あ、境界守りのドラ息子は持ってたらしいですけど、避難所には流石にいませんでしたね。
もしいたらしばき倒してたところですけど・・・。」
と美紅が眉を吊り上げて言った。
「・・・まぁ、彼はただ利用されただけの人間だから、あまり責めないでいてあげて欲しいかな・・・。」
お爺さんが苦笑いを浮かべながら皆に珈琲を出した。
「利用された?どういうことだ?
爺さん、何か知ってるのか!?」
隼人が怪訝な顔をして尋ねた。
「・・・達央君は境界守りの家に産まれたためにこの田舎に縛られなくてはいけないことに嫌気をさしてはいたが、貴重な武器を売ってしまったり、瘴気の壺を境界内に開け放ったり、電話線を切ってしまったり、そんなことをしでかす子では無いように見えた。
彼は僕の知っているある女にそそのかされて・・・いや・・・おそらく操られてやったんだろう。
彼の瞳に印もあったしね・・・。」
「・・・瞳に印・・・?
お爺さんの知っているある女の人とは?」
美紅が眉を顰めてお爺さんに尋ねた。
「・・・両の瞳にダイヤ模様が刻まれた女だ・・・。
名前はわからない・・・。
その時々で違う名前を名乗っているようだから。
その女は心に隙がある人間に付け入るのが異様に上手いんだよ。
僕も若い頃に騙されて、家族も失って、今はこんな北の地で隠れるように闇医者なんてやって暮らしてる・・・。」
お爺さんは項垂れて、小さなため息をついた。
「・・・その女性はお爺さんが昔出会った人ですよね?
長谷川さんの息子さんをそそのかした人とは別の人ではないですか?」
と頼輝が言った。
「普通に考えたらそうだよね。
あれから40年も経っているし、同一人物だとしたら僕くらいのお婆さんになっている筈だ。
でも聞いた話では達央くんが入れ込んでいた女性はキャバ嬢だっていうし、若い女性でしかありえない。
だけど瘴気の壺を持ち出してきたり、田舎を活動拠点にしたり、自分は直接手を下さずに人にやらせる辺り、やり口がとてもよく似ている。
別人だとは考えにくいよ。」
「・・・もし同一人物だとしたなら、その女性は”鬼”かもしれませんね・・・。」
美紅が言った。
「「鬼?」」
頼輝とお爺さんが尋ねる。
「私達の世界では、鬼門から出てくる妖かしの類の最上位種で、人の形をした人ざらなる存在をそう呼ぶのです。
彼らの外見的特徴としては人の姿に加えて頭部に角が生えています。
それは私達の耳と尻尾と同じく、隠すことができますが・・・。
奴らは不老で神に近い強さと異能を持っていますが、あの世に籍を置く存在のため、この世で活動するには幾つかの制限があるんです。
私達も半妖だから多少その制限はあるのですが、まず”都会では生きづらい”んです。
大地や植物等の自然物からは霊的存在の活動エネルギーとなる”霊力”が溢れ出ているのですが、人工物が多い都会になるほどその”霊力”が少ないんです。
”霊力”が補給出来ない大都会は奴らにとって、人間で言うところの空気の無い場所・・・とても苦しく生きてはいけません。
私達は半分は人ですので、長居しなければ都会でも耐えられるのですが、純粋なあの世の存在ならばまず都会を拠点には選ばないでしょう。
そして、奴らは”太陽の光”が苦手です。
私達は半妖ですが、片親が妖かしの中でも比較的の光に強い”妖獣ようじゅう”なので、昼間に活動することには然程影響は受けないのですが、奴ら人型の妖かしや鬼は、太陽の光が溢れる昼間に具現化し続けることができないので、人の世に紛れるならば夜に活動出来る仕事を選びます。
そこそこ自然が近い町の水商売なんかは奴らにとってうってつけでしょうね。
そして、神社のような”神の力を祀ってある神聖な場所”も苦手で、そういった場所に近づくことが出来ないのです。
そのため、そういった場所に用がある場合は異能の力を使い、人を操ったりしてやらせるのです。
その女性の行動にとても良く当てはまるでしょう?」
頼輝とお爺さんは納得して顔を見合わせて頷いた。
「・・・なるほど・・・。
確かにあてはまる・・・。
彼女はきっと、君たちの言う”鬼”なのだろう・・・。」
お爺さんはそう言ってから、更に続けた。
「彼女に取り入られた人の片方の瞳には、ダイヤの印が刻まれるんだ。
それが刻まれた人間は、彼女が好きなときに憑依し、操ることが出来るみたいだ。
僕も昔取り入られて、左目にダイヤの印が刻まれてね・・・。
僕の医者という職業が彼女には都合良かったのか、時々操られては、僕の知らない間に悪いことをさせられていたようだ・・・。
僕はこれ以上の悪事に手を染めるのが嫌だったから、自分のダイヤのある左目をくり抜いて、この谷川村へと逃げて来たんだ。
それから30年以上経つけど、あれ以降僕の知らない”空白の時間”は消えたし、ダイヤが再発することもなかった・・・。
でも、この間見かけた達央くんの瞳にダイヤの印があったからギョッとしたよ。
その時彼は操られていなかったし、僕が印のある目をくり抜いたお陰なのか、彼女は僕のことに気がついていないようだったけれどね。」
お爺さんの話に、神崎兄妹は顔を見合わせて頷いた。
「・・・その鬼のことで他にわかることはないか?」
隼人が尋ねた。
「・・・彼女は瘴気の壺を持っていて、それに瘴気を貯めるために人の世に紛れ、人を操っているようだった。
おそらく鬼門の瘴気を広げて誰か呼び出したい人がいるのだろう。
僕を最初に操って、故郷の鬼門に瘴気の壺を開放しようとした時、断片的にだけど僕の意識があって、彼女が僕を通してそんなことを言っていたのを覚えているから・・・。」
「お爺さんの故郷の鬼門に瘴気の壺を!?
その時はどうなったんですか・・・!?」
頼輝が尋ねた。
「操られた僕が鬼門に壺を持っていく前に、僕の父が瘴気の壺を持っている僕に気がつき、止めようとして、その中身を一部受けてしまったんだ・・・。
そのせいで、父は死んでしまったけれど・・・。
でも、父の犠牲により彼女の狙いを果たすには壺の中の瘴気が足りなかったようで、後は村の境界守りが対処してくれたよ。」
「・・・・・そうだったんですね・・・・・。
お父さんを・・・・・。
すみません・・・辛いことを訊いてしまって・・・。」
頼輝が申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、いいんだよ。
もう40年も前の話さ。
君が悪いんじゃない。」
お爺さんは頼輝の肩をポンッと叩いた。
「そうですよ。
元々は私がお爺さんに鬼のことを話した会話の流れから、お父さんの話へと繋がったのですから、謝るのは私の方です。」
美紅がそう言うとお爺さんが首を傾げた。
「・・・そうだったかい?
歳を取ると忘れっぽくていかんね(笑)」
お爺さんがそう笑うので、頼輝も神崎兄妹も釣られて笑った。
「さて、村の人が帰って来ているなら、そろそろそちらに行ってみようか。」
お爺さんがそう言って席を立った。
「はい、そうですね!
あっと、その前に・・・」
頼輝は陰干しが終わった学ランと帷子とブーツを隼人に渡した。
「隼人さん、これお返ししときます。
ありがとうございました!」
「おい、まだ着ていてよかったのに・・・。」
と隼人がそれを受け取りながら言った。
「お爺さんが俺の服を洗ってくれていたし、靴も患者さんの忘れ物で丁度サイズがあうのがあったから・・・。
この境界の見回りではDランク魔獣をちょこっと相手するだけですし、この格好でもなんとかなると思います。」
と頼輝。
「・・・そっか。
じゃあ受け取っとく。」
隼人はそう言うと学ランと帷子とブーツを亜空間に片付けた。
「じゃあ行こうぜ!
村のばーちゃんたちで炊き出しを作るとか言ってたから、何か美味いもんが食えるんじゃね?」
「マジですか?
俺見回りの後だから腹が空いてて(笑)」
頼輝がグーグー腹を鳴らしながら笑った。
「それでしたら私も女性陣に加えて頂いて、鬼熊とか黒牛をお料理してみましょう。
ふふふ、どんなお味なのか楽しみです。」 
と、美紅も目を細めて笑うのだった。

谷川村の中央広場にて──。
村人や神官達と一緒に地元の女性陣が作ったおにぎりや豚汁、山菜の天ぷらの他、美紅が作った絶品黒牛のすき焼きと鬼熊のしぐれ煮が振る舞われる中、東京から来た今回の功労者である境界守りの少年”狼谷頼輝かみたにらいき”は、村の老人たちに”銀色狼”と愛称で呼ばれて大層可愛がられた。
頼輝は宴会会場と化した広場の皆の中心の席に添えられ、どんどん食えと碗に料理を装われた。
「神様が遣わせてくれた銀色狼の少年とな・・・!
ありがあやありがたや・・・」
「銀色狼や、このままこの村にいてくれるんじゃろ?
境界守りが不在だと、また魔獣が出てこられたら敵わんからのぅ!」
「東京の狼谷一家っていったら日本の境界守りを代表する一族じゃろ?
そんな少年が村に居てくれるなら心強いわ!」
と村人達が代わる代わる口にする。
頼輝は表面上は笑って、
「それは・・・俺はこの村の人間じゃないですし、一時的にしかここにはいられませんけど、村の電話が繋がるようになったら父さんに連絡してみます。
そうしたら、俺の代わりにちゃんとした境界守りをここへ手配してくれると思うから・・・。」
と返した。
「そんなら電話線なんか繋がんでええわ!」
「そうじゃそうじゃ!」
村人達の大半は酒も入っている為か、そんなことを言い出した。
「ずっとこの村にいてくれ!銀色狼!」
「わっちもこの村の境界守りは銀色狼、お前さんがいい!
なんと言ってもええ男だから、見てるだけでこっちも癒やされるわい!頼む!なっ!」
「いや、俺、学校もあるから森中村に戻らないと。」
頼輝が引き攣って笑いながらそう言うと、すぐにこう返ってきた。
「学校ならこっから通うとえぇ!」
「そうじゃそうじゃ!」
「ここにいてくれたら美味いもの毎日食わしてやるし、別嬪べっぴんだと評判のわしの孫を将来嫁にやってもええぞ!」 
「・・・おい、じーさんばーさん達、いいかげんに・・・むぐっ!」
隼人が耐え兼ねて村人達に一言言おうとするが、その口に天ぷらを突っ込まれて塞がれてしまう。
「お前さんたち兄妹もじゃよ?
ずっとここにいたらえぇ!
若いもんが居てくれたら村が活気づくからのぉ!」
頼輝は村人達の頼輝の気持ちを考えもしない発言の数々に遂に我慢の限界が来て、ぐっと膝の上で拳を握りしめた。
「おい、その辺にしておいてやれよ。
そんなだからここの若い奴らは嫌気が差して皆出て行っちまうんだよ・・・。」
そこへ20代前半の若者が現れてそう言った。
彼は金に染めた髪に耳には羽根と牙のピアス、首には一つ牙の首飾りをつけており、左目にはダイヤの模様が刻まれていた。
「「「達央!!」」」
村人たちが彼の名を呼んだ。
(この人が達央さん・・・。)
頼輝は彼の顔をじっと見た。
(何処かで会ったことがある気がする・・・。)
と思っていたら、彼に先に言われた。
「お前、狼谷んとこの次男坊だよな?
俺が境界守りになった18のときの会合で一度会ったことがある。
あん時はお前まだ小学生だったけど、でかくなったな。
覚えているか?」
頼輝は小学生のときの境界守りの会合で、暇している兄と頼輝の相手をしてくれた高校生のお兄さんのことを思い出した。
「あっ!覚えています!
兄貴に花札で一度も勝てなかった・・・!」
「そうそうそれな!
何であいつあんなにつえーんだよ!」
「兄貴は昔から何でもさらっとこなすからな・・・。
俺も兄貴との勝負事で一度も勝てたことがないです。」
ふたりは5年前のことを思い出して笑い合うのだった。
「コラ達央!
お前のせいで魔獣が境界外に出て、親父さんは強い魔獣を相手にしなけりゃならなくなって亡くなったんじゃぞ!
今更どの面下げて戻ってきやがった!!」
そこへ村長が達央に掴みかかってきた。
「・・・俺もなんでそんなことしちまったかわかんねー・・・。
後半記憶がねーし・・・。
気がついたら行きつけのキャバクラの前にいたんだよ。
でも断片的に俺がしたことの記憶があるから、不安になって村に戻ってきたんだが・・・。
そうか・・・。
親父、死んじまったのか・・・・・っくっ・・・。」
彼はその場で崩れて涙を流した。
頼輝は懐から彼宛ての手紙を取り出すと、達央に渡した。
「・・・お父さんが大事そうに持っていました。」
「・・・親父が・・・?」
達央はその手紙をそっと広げて読んだ。
「・・・なんと書いてあるんじゃ?」
村長が尋ねた。
「この村の境界を頼むって・・・。
確かに退屈で代わり映えのない生活かもしれない。
だけど、若いお前が村での暮らしを楽しめるように、これから少しずつ変えていけばいい。
村人の信頼を取り戻すのには時間がかかるだろうが、これからのお前の行動を、いつかきっと村の人が認めてくれるって・・・・・。
親父・・・・・。」
手紙を抱きしめて涙を流す達央の肩に、神官、村長、そして村の人たちが次々とそっと手を当てていくのだった。

「頼輝、俺は親父の跡を継いでこの境界を守っていく。
武器は売り払ってしまったが、親父の残した斧を修理して使うよ。
そんで、いつか売り払った武器も買い戻す。」
一通り泣き尽くして目を腫らした達央が、真っ直ぐな目をして頼輝に言った。
「はい・・・!」
「でも達央さんの瞳のダイヤ印・・・。
そのままではまた鬼女きじょに都合がよい時に操られるのではないですか?
境界に出入りする守り人が、いつ操られるのかもわからない”駒”のままでいるのは、大変危険だと思います。」
美紅が心配そうに眉を顰めてそう言った。
「そうだね・・・。
達央くん、君が本気でやり直すというのなら・・・。
僕のように左目を抉る勇気はあるかい?」
お爺さんが静かに目を光らせて達央に言った。
「えっ!!
のりじぃ、マジかよ!!」
達央がお爺さんの発言に焦り、冷や汗をかく。
だが、心配と不安が入り混じった顔で自分を見つめる村人達を見て、ぐっと拳を握り締め、静かに頷いた。
「・・・・・わかった・・・・・。
くり抜いてくれ・・・。」
それを見て、お爺さんは頷き、達央の肩に手を当てた。
「よく決意したね。
では、すぐに手術をするから僕の家に行こうか。」
 お爺さんがそう言ったところで美紅が引き止めた。
「待ってください。
鬼の力に侵されているダイヤだけを取り除けば良いのですよね?
それでしたら、兄さんの炎で焼き切れるかもしれません。」
「そうか・・・!
俺の炎は霊的存在だけを焼き払うから・・・」
隼人がそう言って手から炎を出した。
「えっ、えっ、待ってくれ!!
それ、俺ごと燃やされるんじゃ・・・」
慌てて逃げ腰になる達央を捕まえて美紅が言った。
「目を抉られる覚悟をしたついでです。
ちょっと試して燃やされてみてください。
それで駄目でしたら予定通り目を抉ればいいんです。
熱くはありませんよ?・・・多分。」
「あ、そんじゃ燃やすぜ?」
隼人があっさりと”そんじゃ湿布を貼るぜ?”程度の挨拶で、その手を達央の左目に翳した。
─ボオッ!─
達央の左目が真っ赤な炎で焼かれた。
「あちちちちちちちっ!!
・・・・・ってあれ?
熱くない・・・。」
達央がそう言ってポカーンとしているうちに炎は消え、そこにはダイヤ印が消えて元通りになった左目があった。
「うまくいきましたね。
左目が眼帯のほうがモテたかも知れませんのに残念ですね?
達央さん。」
と美紅が悪戯に笑った。
(こういうドSなところは全然璃音に似てないな・・・。)
と頼輝は苦笑いを浮かべた。
「マジで!
よ、よかった!!」
達央は安堵のあまり力が抜けて、その場にへたり込みそうになる。
「おいおい、大丈夫か?にーさん。」
それを隼人がハハハ!と笑いながら支えた。
「・・・そんな手があるなら僕も早く君達に出会いたかったよ。
そしたら左目を失わなくて済んだのに。」
とお爺さんは笑った後、
「いや・・・僕はこれで良かったのかも知れない。
失った左目を見る度に、過去の過ちを反省して正しく生きることができたと思うから。」
と呟いた。
頼輝がそれを聞いてお爺さんに何と声をかけようかと考えていたら、達央が頼輝の側に来て、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出し、差し出した。
「頼輝、家と連絡が取りたいんだろ?
これを使えよ。」
「携帯・・・!
良いんですか!?」
頼輝の菫の瞳が希望に満ちて輝いた!
「いいよ、そんくらい。
電池まだ結構残ってるからさ。」
「あ、ありがとうございます!!」
頼輝は達央に頭を下げると、携帯電話を受け取るのだった──。

頼輝はドキドキしながらまずは自宅の番号を押した。
トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…
呼び出し音が数回鳴った後、
「はい、こちら狼谷・・・頼輝だな?」
と珍しく父颯輝そうきが出た。
「えっ!?父さん!?
うん・・・頼輝だよ。
ずっと連絡できなくてごめん・・・。」
頼輝は父がまるでこの電話が頼輝からのものであるとわかっていたかのようだったので驚いた。
「父さん、俺、今北海道の谷川村というところにいるんだけど・・・。」
「あぁ、わかっている。」
「えっ?
それってどういう・・・。」
頼輝が疑問を口にすると、父颯輝そうきは事情を説明し始めた。
「お前がいなくなった5月6日の夜・・・。
春輝が異変に気がついて、俺のところに教えに来た。
その後俺の権限で境界にお前の形跡がないかを調べてみたら、北海道の谷川境界にてお前の血で封印術が行われていることがわかったんだ。
すぐに状況を確認するために谷川神社に電話をかけたが、電話線が切られているのか繋がらない・・・。
お前が何故北海道にいるのかはわからないが、居場所はわかっているのだから、すぐに菫を迎えに行かそうかとも思ったのだが・・・。
あちらの状況がわからず、危険かもしれない場所に菫を一人でやるわけにも行かなかったのでな・・・。
そこで、森中神社の神官さんに相談をしたんだ。
そうしたら、すぐに土地神であらせる森中様から御神託があり、頼輝なら行ったときの方法と同じ手段で自力で帰って来れるから、森中村で待つようにと言われたんだ。
電話もこの日時に頼輝からかかってくるとのことだったので、俺が待機していた。」
「そうか・・・そうだったんだ・・・。」
「それで、谷川の境界はどうなったんだ?」
頼輝は颯輝そうきに谷川境界で起こったことと、その結末を説明した。
「そうか・・・。
長谷川さんが亡くなったのは残念だが・・・頼輝、よくやった。
瘴気の壺は、触らずにアイテムボックスに入れたのなら大丈夫だろうが、帰ったら俺に見せなさい。
谷川境界の後のことは達央くんと谷川神社の人達で対応出来るだろうから、お前は出来るだけ早く帰って来なさい。
最上さいじょうさんちの璃音ちゃんが、酷く心配しているから・・・。」
「璃音が!?」
「あぁ。
お前が北海道にいることは、森中様のご指示でうちの家族と神官さん達以外の人には伏せておくことになったんだ。
それで、表向きはお前は境界内で行方不明になったことになっている。
だから、璃音ちゃんは7日から学校を休んでお前を探して境界に入ってる・・・。」
「璃音が境界に!?
大丈夫なのか!?」
「あぁ。
常に俺か春輝が付いて入るようにしているから大丈夫だ。
今は春輝が付いてくれている。」
頼輝はそう聞いてひとまずホッと胸をなで下ろした。
「だがずっと寝ていないようだし、大分消耗している・・・。
早く帰って安心させてあげなさい。
気の毒で見ていられない・・・。」
颯輝そうきが言った。
「・・・行ったときの方法と同じ手段で帰れるって森中様が言ったんだよな?」
頼輝は父に確認した。
「あぁ。」
「・・・・・わかった。
やってみる・・・!」
頼輝はそう言うと通話を切った。
(璃音が今境界に入っているなら携帯は繋がらない筈だけど・・・)
頼輝は念の為すぐに璃音の携帯にかけてみるが、電波のない所にいるらしく、繋がらなかった。
(やっぱり境界にいるんだ・・・!)
「達央さん、携帯ありがとうございました!」
頼輝は達央に携帯を返すと、すぐさま辺りを見渡した。
(来た時と同じ方法って・・・射精だよな!?
今すぐ何処かで射精しないと・・・!
だがどうする!?
こんな急に射精なんて出来るのか!?
でも、急がないと璃音が・・・!)
辺りは日が落ち始め、宴会もすっかりお開きモードになっていた。
いつの間にか神崎兄妹も居なくなっており、お爺さんは宴会の片付けを手伝っていた。
頼輝はとにかく独りになれる場所を探して人気の無い方へと走り出した。
「お、おい、どこ行くんだよ?」
達央が声をかけるが頼輝の耳には届かなかった。
「・・・あいつ、トイレか?」

頼輝は神社の裏で息を整えると、アイテムボックスから結人の原稿を取り出した。
それを見て股間を弄り、気分を高めようとするが気持ちばかりが焦ってどうもうまくいかない。
そんなとき、少し離れた物陰から乱れた呼吸が聴こえてきた。
はぁ…はぁ…はぁ…
頼輝はそっと近づき、何だろうと覗き込んだ。
すると、そこには耳と尻尾を出した半裸の美紅が壁に手を付いており、後ろから同じく耳と尻尾を出した隼人に身体を弄られていた!
頼輝は結人の原稿をそっとアイテムボックスに仕舞い込むと、その行為に意識を集中し、自分の手を動かし始めた。
「に、兄さんったらこんな時に・・・っあっ♥何でっ・・・盛ってる…んですか・・・あっ♡
きの・・・う、シてばかりじゃ・・・んっ♥ないっ…ですかぁ・・・っあっ♥」
隼人がすっかり勃ちあがった股間のものを美紅の白い尻に擦り付けながら言った。
「知るかっ・・・!
何か村で一番若いとかいうおばちゃんに勧められたドリンクを飲んだら・・・急にムラムラしてきたんだって・・・!」
「それっ・・・兄さん、誘われてっ・・・♡」
「はあっ!?ねぇよ!
相手50代くらいのおばちゃんだぜ?
俺は美紅、お前さえいれば、それでっ・・・!」
隼人は美紅の白い下着を引き下ろすとその濡れた花弁に股間のものを挟み込み、絡めるように腰をくねらせた。
「何だよ・・・美紅だって感じてるじゃねーか・・・。」
「やっ・・・ああっ・・・♥
だって・・・こ、こんな…場所でっ・・・誰かに見つかるかも知れないと…思うとっ・・・♥」
「・・・美紅、お前マジでこういうシチュ弱いよな・・・♡
昨日境界でシたのだって・・・頼輝に気づかれてたんじゃね?」
隼人はペロッと自分の唇を舐めながら美紅を煽った。
自分の名前が出て頼輝はピクンっと反応する。
だが、手の動きは止まらなかった。
「やっ・・・♥
兄さんのっ・・・熱くて・・・硬ぁ・・・いっ♡♥・・・ああっ♥」
「こんだけ濡れてりゃ充分だな・・・
行くぞっ・・・!」
隼人はそう言って勢い良く美紅の濡れた鞘に滾りに滾った一物を捩じ込んだ!
「ひゃあぁぁぁっ♡♥」
美紅が真っ赤に顔を染めて身をのけぞらせ、一際甘く高い声をあげた。
そして最初はゆっくり、パチュン…パチュン…!と水音を含めた肉のぶつかり合う音がし、
それが彼らの吐息の荒々しさと共に段々とパチュン!パチュン!パチュン!と激しくなっていく。
「あっ、あっ、ああっ・・・♥兄さんっ・・・♡
あっ、ああっ・・・やあぁ♥」
美紅の甘い声がどんどん大きくなり、揺さぶられる激しさが増していく・・・。
「あっ、あっ、あっ、あぁあ・・・♡お兄ちゃ…ぁんっ♥
あっ、あっ、はあっ、あっ、ああぁっ♥・・・お兄っ・・・ちゃ・・・ん♡♥」
「美紅っ・・・くっ・・・はっ・・・俺の・・・美紅っ・・・!」
パンパンパンパン!と肉が激しくぶつかり合う。
頼輝はその二人の姿を璃音と自分に置き換えてひたすらに手を動かした。
(うくっ・・・璃音っ・・・璃音っ・・・!!)
頼輝も限界が近づき、息が荒く、手の動きもどんどん早く強くなっていく・・・!
「あっあっあっああぁんっお兄ちゃん♥
あっはあっあっあっお兄ちゃんv♥
わ、私・・・いっちゃう・・・あっあっはあぁあっ♡♥」
「俺もっ・・・一緒に行くぞっ・・・美紅っ・・・!!」
「あぁあぁああぁあーーーーー♥♡♥!!」
(璃音っ・・・俺のっ・・・大好きな・・・璃音っ・・・!!)
隼人が美紅のナカに精を放つと同時に、頼輝も壁に向けて精を放った!
そして彼の身体は透き通り、宙へと浮かび上がって行った──。
荒い息を付きながら何となく上を見上げた隼人が、宙に浮かぶ頼輝の姿に気がついて声を上げた。
「あっ・・・!
ら、頼輝っ!!?」
「ええっ!?
頼輝さん!?」
美紅も空を見上げて目を見開いた。
「あっ・・・えっと・・・その・・・ご、ごめんなさい・・・・・。」
頼輝が耳まで赤くして空から彼等に頭を下げた。
「えっ・・・!?
やっ、待てっ、もしかして、おまっ、さっきの見たのか!?」
隼人が真っ赤になって狼狽えている。
美紅は頼輝に見られた事実にとても耐えられなかったのか、無言で隼人の胸に飛び込み顔を埋めた。
頼輝が遠くの空に何かを感じてそちらを見ると、そこには森中村の景色が浮かび上がっており、そこを選べば森中村に戻れると言うことを直感で感じ取ることが出来た。
「あっ・・・お二人のおかげで森中村に帰れそうです!
えっと・・・沢山ありがとうございます!!
また・・・お会いしましょう・・・!!」
頼輝は笑顔で彼らに頭を下げると、森中村の景色を頭の中で選び取った。
すると、凄い勢いでそちらに引っ張られて空を翔け出した!
頼輝はもう見えなくなった神崎兄妹に手を振ると、真っ直ぐに森中村をほうを見つめるのだった。
「・・・えっと・・・もしかしたらあいつ、射精して空を飛んでここに来た・・・とか・・・?」
谷川村に残された隼人が呟いた。
「・・・・・そんな馬鹿な。」
まだ赤い顔で隼人の胸に顔を埋めたまま、美紅が言った。
「いや、だってよ。
最初に会ったとき、寝間着のまま、エロ漫画持ってたし・・・?」
「・・・・・言われてみれば、状況証拠は揃ってますね・・・。
連絡先を聞いておいて良かったです・・・。
問いただして、今回の視聴代としてそれ相当なものを奢らせなければ気が済みません・・・。
出来ればスイーツがいいです・・・。」
美紅がメラメラと怒りの炎を滾らせながら拳を握りしめた。
「あ・・・もういつもの調子に戻ってやんの・・・。
エロいときのが素直で可愛いのに・・・。」
隼人がボソッと呟いた。
「・・・何か言いましたか?」
ジト目で隼人を睨む美紅。
「い、いや・・・何も?」

頼輝が空を飛ぶところをもう一人、頭に黒い一本角のある派手な着物の女が、両の瞳にダイヤの印のある眼を赤く光らせながら谷川村付近の電信柱の上に立って見ていた。
彼女は携帯電話を片手に誰かと通話をしていた。
「今回の功労者の銀色狼くん・・・可愛いじゃない♥
森中村なんてド田舎、ウザい女神もいるし、もううんざりだったけど、彼がいるなら久々に行ってみようかしら?」
女は赤い唇の端を吊り上げた。
「・・・わかっているわよ。
あの半妖の兄妹が彷徨うろついているうちは目立った行動は起こせないわ。
ただ・・・今回ので溜め込んだ瘴気を使い切ってしまったから、また1から溜め直さなくちゃいけないでしょ?
それには都会の方が効率が良いのだけど、都会はいくら私でも居るだけで疲れちゃうからね・・・。
暫くは森中村のクソ田舎で地道に溜めていくことにするわ。
あそこなら貴方のいる中枢にも一番近いし、逆に手っ取り早いかもだし?
そのぶん手強い銀の狼が守ってるけどね・・・。」
電話の相手に否定的な事を言われたのか、女は眉を軽く歪めた。
「あら、田舎でもつけ入れそうな人間にどんどん付け入っていけば、あっという間に瘴気なんて溜まるのよ?
まぁ、それでも次の行動が起こせるまで1~2年はかかるでしょうけど、それくらい待って頂戴よ・・・。
あら大変!
早く追わないと銀色狼くんに置いて行かれちゃうわ!」
そう言うと女は携帯電話をピッと切って、その姿をカラスに変えると空へと飛び立つのだった──。

約一時間後──。
頼輝は森中村の西の境界の上空に帰り着いていた。
境界内であれば、降りる地点をある程度選べるようだったので、門の近くで降りようかと思って低い位置を滑空していたら、下の方から「キャーーーッ…」という璃音のものだと思われる悲鳴が聴こえた!
頼輝はすぐさまシュン!と音を立てるようにして声のした地点に降り立った。
すると、丁度璃音が野熊(Cランク魔獣)に襲われかけている場面だった!
「璃音!!」
頼輝は即座にポケットに入れたアイテムボックスから亜空間を作り出して”疾風”を引き出すと、野熊の腕を大きな軌道を描いて斬り落とし、璃音を庇うようにして前に出た。
「頼輝!!」
璃音は突然の頼輝の登場に驚き目を見開くと、泣きながら頼輝に駆け寄った。
「璃音、怪我は!?」
「だ、大丈夫・・・してない!」
璃音は首を横に振りながらそう答えた。
「良かった・・・少し離れてて!」
頼輝はそう言い残すと疾風を上段で構え、野熊の心の臓目掛けて一気に突き刺した!

動かなくなった野熊の亡骸と疾風をアイテムボックスに収納した頼輝が顔を上げると、璃音がグズグズに泣いた顔で飛びついてきた。
頼輝は璃音を受け止め、その柔らかさと体温と髪の香りに思わず泣きそうになり、ギュッ!と強く抱き締めた。
「頼輝の馬鹿!!
何で黙って居なくなるの!?
何処行ってたのよ!!」
璃音が泣きながら怒って頼輝の胸を力いっぱい拳で叩いてきたので、頼輝は堪らず抱きしめた腕を緩めた。
解放された璃音はその拳を下におろして眉を吊り上げ、空色の瞳に涙を浮かべたまま俯いた。
「・・・ごめん・・・。
ちょっと境界の奥まで行ってしまって、帰ってくるまでに時間がかかった・・・。」
頼輝は父が電話で言ったことを思い出し、差し当たりのない言葉を選んで説明をした。
「ちょっとじゃないよ!
3日だよ!?
もう帰ってこなかったらどうしようって、私、凄く心配したんだから・・・!
境界の森で迷子になっちゃうくらいなら、境界守りなんてやめちゃえばいいのよ!」
頼輝はその言葉にカチンときて言い返した。
「何だって!?
境界守りを何だと思ってるんだよ!
人の命が関わっているのに、簡単にやめられるわけが無いだろ!!
それに、俺は境界守りの役目が好きで、誇りを持ってやっているんだ!
それを璃音は奪おうと言うのか!?」
頼輝が怒鳴ると、璃音が震えながら頼輝の胸元を掴むと縋った。
「わかってる・・・
わかってるけど・・・
もう、頼輝が居なくなるのは嫌なの・・・!
私、頼輝がいなくなって、頼輝が私にとってどれだけ大切で特別なのかがわかったの・・・・・。
お願い・・・もう、どこにも行かないで・・・・・!」 
頼輝は涙をぽろぽろと溢し、震えながら訴えかけてくる璃音の姿に胸がいっぱいになり、その細い顎に指をかけそっと引き上げると、薄紅色の柔らかな唇に自らの唇を重ねるのだった──!
目を閉じたまま、璃音の唇の感触を確かめるように何度も角度を変え、10秒程が経過した頃だろうか。
突然ガクッと璃音の身体が崩れ落ちて柔らかな唇が離れたので、頼輝は、
「えっ!?り、璃音!?」
と、素っ頓狂な声を上げ、慌てて璃音の身体を支えた。
「クックックッ・・・!」
そこでよく知った笑い声が聴こえてきたため、頼輝は声のする方へバッ!と振り返った。
そこには案の定、しなやかに靡く銀の髪に紺の星を散りばめた瞳、そして誰もが見惚れる程穏やかな美形をした頼輝の兄の春輝が笑いを堪えて口を手で抑え、更には腹も抱えている状態でぷるぷる震えながら立っていた。
「い、いや・・・このお姫様に付いて頼輝探しに付き合ってたらよ。
突然”こっちに頼輝がいる気がする”とか言って物凄いスピードで走って行くからよ。
俺、全速力で追いかけたけど、このお姫様、足だけはやけに早いじゃん?
すぐに追いつけなくて、その間に野熊に襲われかけてるしよ。
何とか助けに入れそうだって斧を構えたら、お前が格好良く上から降り立って助けに入ったから、お邪魔虫にならねー様に少し離れた所で様子を見てたんだわ。
そしたら言い争いを始めて、お前が突然キスするじゃん?
俺はあのシャイボーイなお前がここでキスするとは思わなかったから、”よくやった!!弟!!”ってガッツポーズを取ってたんだがよ。
お姫様、お前にキスされて3秒後くらいにはもう目を回して気を失ってるのに、お前、それに気が付かずに10秒もっ・・・!
しかも唇の感触を知ろうと何度も角度まで変えてよ・・・このドスケベが!!」
春輝はそう言った後、やはり笑いを堪えきれなかったのか、
「プッ・・・クッ・・・アーッハッハッハッ!!!」
と、境界中に響き渡るくらいの大声で大爆笑するのだった。
その様子を両の瞳に◆印がある赤い眼をしたカラスが近くの木の枝に留まってじっと見ていた──。


─追記その1〈キスしてしまった・・・!〉─ 

その後、頼輝は気を失った璃音を背負って、兄と並んで境界の出口へと向かって歩いていた。
道中兄にキスのことを散々からかわれたが、頼輝が北海道に行っていた間のことは、”北海道って5月でも寒かったか?蟹食った?”と訊いてきたくらいで、あまり詮索はしてこなかった。
頼輝は兄のそういうところが実は優しいのだと良く知っていた。
璃音を桜駒鳥の薬屋に送り届けた際、真瑠ばあさんに、
「頼輝、よく帰ってきたね!
持ち場の西の境界で3日間も迷子になるなんて、銀色狼もまだまだじゃの(笑)
腹の傷はどうだい?
明日ゆっくりと顔を出しな。」
と言われ、璃音を託して自宅へと帰った。
そして、父と母と兄に北海道でのことを改めて報告した。
やはり北海道まで飛ばされた切欠については、”射精したら何故か空に浮かんで北海道まで飛んで行った”とは言えなかったので、お爺さんと神崎兄妹に説明したのと同様に、”寝ている間に飛ばされて、気がつけば谷川村の境界にいた”と説明した。
そして、アイテムボックスにしまっていた忌々しい黒い壺は、どうやって触らずに取り出せばいいのかがわからなかったので、アイテムボックスごと父に渡した。
すると、父はそれを起動させ、別のアイテムボックスの魔石がついた指輪を指にはめた状態で亜空間の中に手を入れて、壺だけをその指輪のアイテムボックスへと抜き取って、元のアイテムボックスは頼輝に返したのだった。
瘴気の壺の中にはもう然程瘴気は残っていなさそうだが、それでも人が触ると良くないようだ。
父は瘴気の壺を、このままアイテムボックスの指輪に封じ込めたままで神官に渡し、それから森中様に渡して貰い、その処分は森中様に委ねると言った。
その後、軽くシャワーを浴びた頼輝は、自分の部屋で一人になると、璃音の唇の感触を思い出して、心の中で叫ぶのだった。
(うわあぁぁぁぁーーー!!!
璃音とキスしたキスしたキス・・・!!!
すげー熱くて柔らかかった・・・!!!)
今日は色んな事があったのに、一番頭の中を占めていたのはそればかりだった。
頼輝は部屋のドアにもたれた状態で自分の指を唇に運び、あの時の感触を再現しようとするが、これじゃないと思って頭を振った。
もっと熱く柔らかくて、璃音の体温が直ぐ側にあって、吐息が微かに感じられて、とにかく璃音の全てが愛おしくて堪らなかったのだ。
頼輝はベッドに横になると、目を閉じて璃音の唇の感触を思い出した。
すると、直ぐに下半身に血が集まり、性器が硬く熱り勃つ。
(北海道から戻るときに、隼人さんと美紅さんのエッチを見て、俺と璃音にその姿を置き換えてシたばかりなのにまたこんなに・・・
っ・・・璃音っ・・・)
頼輝は目を閉じたまま璃音の唇の感触をまた思い出し、それが自分の下半身の今熱り勃っている部分に触れたのなら・・・と想像する。
(はあっ・・・璃音・・・っ!)
そのまま璃音の口と手で、されているものだと考える。
それだけで興奮して堪らなくなり、手で扱くと同時に腰が疼いて堪らないので、ゆっくりと振ってみた。
璃音の熱く柔らかな口内を、自分の熱く滾ったものが行ったり来たりして犯している・・・。
璃音は涙を浮かべ、少し苦しそうだけど、一生懸命に舌を使ってくれる・・・。
セーラー服姿の璃音の控えめな胸元がはだけて、ピンク色の乳首がチラチラと覗く。
頼輝は妄想の中でその乳房に手を伸ばし、好きなだけ弄ぶ。
「っ・・・璃音・・・璃音っ・・・はっ、はっ、はっ・・・好きだよ・・・」
頼輝はそう喘ぎながら気がついた。
(・・・よくよく考えたら告白もしてないのに勢いでキスしてしまった・・・!
でも・・・璃音・・・っ
すぐに気を失ってしまったけど、嫌がってはなかったよなっ・・・!?
兄貴も境界からの帰り道にからかいながら言ってたけど・・・脈・・・あるよな・・・?
・・・明日の璃音の誕生日にちゃんと告白しよう・・・!
そして今度こそ”空駒鳥の髪飾り”を渡すんだ・・・!!)
頼輝はそう決意して更に手の動きを早めて追い込んだ。
「はっ、はっ、はっ、あっ、ああっ・・・璃音・・・好き・・・だ・・・っあっ、はっ、はあっ、はっ、はっ、あっ・・・で・・・出るっ・・・・・・・・っうっ・・・!!」
頼輝は本日二度目の精液を吐き出した後、再びスウッ・・・と身体が透き通り、宙に浮かび上がるのを感じてハッ!とする。
(そうだった・・・!
俺、射精したらっ・・・!
まさかまた北海道に飛ばされたりしないよな・・・!?)
そう思って自宅の上空、夜空の上で身構えるが、そこから見える景色に、谷川村の風景と同時に森中村の風景も浮かび上がっていたため、頼輝は森中村の方を選ぶ。
するとその身体が西の境界の方へスッ・・・と引っ張られた。
北海道から帰郷したときのように、境界のどこで降りるかは任意で選べるようだった。
頼輝は今度は出口の鳥居近くを着地地点に選び、シュン!と降り立つと、全部で30本ある鳥居を小走りで潜り出た。
鳥居を抜けると少し森があるが、すぐに狼谷家が見えてくる。
(よ、良かった・・・。
これなら何とかこの力と付き合っていけそうだ・・・。
つか、この力について、もっと色々と知る必要があるな・・・。)
頼輝は自室のある2階の屋根へとヒラリと舞い上がると、汚れた足をはたいてから自分の部屋へ戻るのだった。
(今度からアイテムボックスに予備の靴を入れておこう・・・。
アイテムボックスの魔石も小さいから、いつまでもポケットに入れていたら失くしかねない。
父さんと兄貴みたいにピアスに加工しないと・・・。
っと、その前に、璃音に渡す髪飾り・・・!)
頼輝は机の引き出しからあと少しで仕上がる段階まで来ていた髪飾り取り出すと、夜遅くまでかけて、最後の仕上げに取りかかるのだった──。
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