銀色狼と空駒鳥のつがい ~境界の守り人~

彩田和花

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中学生編

10羽 初めてのデート −後編− 君とランチしたり映画を観たりして過ごすとても尊い一日

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Angelinaを後にした直後にスマホを見ると、時間は11時を回ったところだった。
「これからどうする?」
とAngelinaの紙袋を下げた璃音りねが可愛らしくこちらを覗き込んできたので、頼輝らいきはドキッととしてまた顔を赤く染めると同時に、その紙袋を持ってあげたい衝動に駆られた。
だが璃音と今度デートすることになったと兄春輝に報告したときに、

「気をつけなきゃなんねーのはお前らのデートの目的である”下着"を買った紙袋だ。
それはまだ関係性が発展してねーお前らの場合は持たないほうがいい。
何故だかわかるか?」
「・・・無神経って思われる?」
「そーだな。
お互いの下着くらい見慣れてる関係ならどーってことねーだろーけど。」

という会話をしたことを思い出したために紙袋を持つことは思い留まり、璃音の質問に答えることにした。
「そうだな・・・。
俺、璃音と映画を観てみたかったんだけど、どう?」
「わぁ!良いね!
私ね、丁度観てみたい映画があるんだ!
あっ、でも頼輝はあまり興味がないかな・・・?
女子に人気の恋愛小説が映画になったものなんだけど、女優の〇〇ちゃんが主演でね・・・」
と言ってスマホを取り出し、その映画のコンテンツを見せてくれる璃音。
頼輝はそれを見て苦笑いをすると、少し申し訳無さそうに眉を寄せてこう言った。
「あー・・・恋愛物な・・・。
ごめん、正直あまり関心のないジャンルだから、一緒に観るのは別にいいんだけど、俺は途中で寝るかもしれないな・・・。
そしたら璃音は怒るんだろ?」
「うっ・・・そうだね。
私の観たかった映画なのに、そんなにつまらなかったのかなってショックを受けて、きっと頼輝にちくちくと嫌味を言っちゃうと思う・・・。
あっ、なら頼輝が見たいのを私が一緒に観るのはどうかな!?
私の観たかった映画は留奈るなも観たいって言ってたから、別の日に留奈と観に来ればいいし!
私は普段観ないジャンルでも頼輝が好きなものなら興味あるし、最後まで観るよ?
頼輝は何を観たいの!?」
璃音にキラキラと空色の瞳を輝かせながらそう訊かれた頼輝は、自分のスマホを取り出して今上映中の映画を検索し、その一覧から自分が観たいものを選んで璃音に見せた。
「これかな?」
「えっ?時代劇!?
渋いねっ!」
くすくすと笑う璃音。
「ははっ!
結人ゆいととかヤコブにも良くからかわれるよ(笑)
でも俺、忍者とか侍が出てくるのが好きなんだよ。
それにこの監督の映画の殺陣たてって本格的でマジカッコよくてさ!
境界守りの役目の時に出す必殺技の参考にもなるし・・・っておい、そこ笑うとこ?」
璃音は笑いのツボにハマったのかぷるぷると震えながら本格的に笑っている。
「ごめんね!
何か頼輝、凄いキラキラした目で熱く語るから、可愛いなぁと思って!」
「可愛い・・・俺が・・・?」
自分を指差し複雑そうに顔を歪めながらも、璃音にウケたことには悪い気がしない頼輝なのだった。
「じゃあ一緒にそれを観ようよ!」
と璃音。
「あ、でも待って。
この監督の映画、結構血飛沫しぶきとかリアルだけど、璃音は平気?
つーか、良く見たらこれR-15指定って書いてあるし、俺等まだ14だから駄目じゃん!
俺いつも結人の店のDVDコーナでこの監督の映画を借りて観てたんだけどさ。
一度も年齢確認とかされたこと無かったから、R-指定だとは知らなかったよ・・・ごめん。
かといって今他に面白そうな映画もなさそうだしな・・・。
それならやっぱ璃音の観たいのを観ようよ!
それでもし俺が寝てしまっても、ちくちくと嫌味を言わないでいてくれると有り難い!」
といたずらっぽく笑う頼輝。
「えーっ!
そこは寝ないように頑張って観るって言ってよぉ!
私、ただこの映画を観れればいいわけじゃなくてね。
一緒に観た頼輝がこの映画に何を思ったのか、何処に感動したのか、それを知ることにもとっても意味があると思うの!
それでちょっとでも共感しあえるところがあると嬉しいかなって・・・・・。」
と頬を染めてはにかむ璃音。
頼輝はキュン!とハートを鷲掴みにされたようなむず痒い感覚を感じると、顔をまた真っ赤に染めながら頷いた。
「・・・うん、わかったよ。
寝ないでちゃんと最後まで観るから、後で感想を言い合おう・・・。」
「うん!
頼輝、だーいすき♥」
そう言って頼輝の腕に小さな子供の頃のようにギュッと抱き付く璃音に、頼輝の心臓は飛び出しそうな程強く反応し、早くなった動悸を鎮めるのに我に返った璃音が腕を離してからも暫くの時間を要するのだった。
「だ、大丈夫?
お顔、まだ真っ赤だよ?」
「だ、大丈夫・・・。
さっきの腕をギュッってされたのが幸せすぎて、俺の心臓がまだ暴れてるだけだから暫く放っておいて・・・。」
「・・・・・。」
璃音は自分が無意識に取った行動が、頼輝をそこまで取り乱させたのかと思うと恥ずかしくなり、顔中真っ赤に染めて黙り込んだ。
「・・・つーか、次の上映時間って13時だし、それまでに昼飯済ませとこうか。
璃音は何を食いたい?」
頼輝は何とか持ち直し、璃音にそう尋ねた。
「私、FruitsPartyのパンケーキがいいな!」
「FruitsParty?」
頼輝は聞き慣れない店名に首を傾げた。
「FruitsPartyはここの近くにあるカフェなの!
留奈と洋榎ひろえさんと何度か来たことがあるんだけど、フルーツを使ったメニューが売りで、見た目も綺麗だしとても美味しいんだよ!
ちょっと男の子には入りにくい見た目のお店かもしれないけど・・・。
付き合って貰ってもいい・・・?」
と少し心配そうに頼輝を見上げる璃音。
「俺、さっきランジェリーショップ・ミッションをクリアしたんだぞ?
カフェくらい全然大丈夫だよ!
あ、でもそこって甘くないメニューもある?」
と苦笑いしながら尋ねる頼輝。
「あ、そっか。
頼輝は甘いの好きじゃないものね。
確かオムライスとかカレーライスとかもあったと思うよ?」
「それならそこでいいよ。
行こうか!」
頼輝は璃音と手を繋いでFruitsPartyへと向かった。

FruitsPartyは先程入ったランジェリーショップAngelinaがある通称”女子通り”にあった。
ケーキの形をした看板と、白地に色とりどりのフルーツが描かれた外壁が特徴的で愛らしく、璃音が”男の子には入りにくい見た目のお店”だと言ったことにも頷けた。
大変人気の高い店のようで、二人が店の前に着いたのはまだランチタイムには早い時間だったのにも関わらず既に行列が出来ており、30分程並んでようやく二人が席に案内されたときには、丁度いいお昼時となっていた。
「この店すげー人気だな!
俺いつも富蘭ふらんに来たときにはファーストフードで適当に昼食を済ませてたからさ。
こんなに待つことなんてなくて驚いたよ!」
と笑う頼輝。
「あっ、そうだよね!
ごめんね!30分も待つことになっちゃって・・・。
いつもはそこまで待つことなく早く入れるんだけど、今日はデパートでバーゲンセールをやってる影響かな?
アーケードにもいつもより多く人が来てるみたいだし、FruitsPartyにもその人達が流れてきてるんだと思うの。」
璃音の言うとおり、周囲の席を見渡すと良くこの店に来ていそうな若い女性客やカップルだけではなく、デパートに来たついでにアーケードまで足を伸ばしたと思われる中高年のおばちゃん達も何割か混ざっていた。
「いや、この感じだとファーストフード店でもない限り、どの店に入ってもそれなりに混んでただろうし、別に気にしなくていいよ。
それに、璃音となら行列待ちの時間も悪くなかった・・・。」
とはにかむ頼輝。
「えへへっ、そう・・・?」
「うん・・・。」
二人がそんな会話をしながら注文したメニューを待っていると、近くの席にいた高校生かと思われる女子4人組が、
『あの二人、絵になると思わない?』
『ホントだ!
男の子も女の子もお人形さんみたいに美形だね!』
『高校生・・・いや、中学生かなぁ?』
『まだ初々しいけどあのラブラブオーラ・・・チューくらいはしちゃってると見た!』
『えーっ、本当!?』
等とひそひそ話しているのが頼輝の耳に聴こえてきた。
(あのラブラブオーラとか言ってたお姉さん、鋭いな・・・。
チュー・・・か・・・。
璃音とつがいの契りを交わしたあの日からずっと、璃音の周りがバタバタしててなかなか二人きりになるチャンスがなく、あれ以来一度も出来ていないんだよな・・・。
今日こそは出来るといいな・・・。)
頼輝がそんな事を思って璃音の唇をチラッと見て一人赤くなっていると、
「お待たせしました!
こちらリコッタチーズのパンケーキ ラズベリーソースがけとアイスミルクティー、カレーライスとアイスコーヒーブラックになります!」
と店員が二人の注文した料理を持ってきた。
璃音が目の前に置かれたラズベリーがゴロゴロ乗っかったパンケーキの写真を「可愛い~♥」と言いながら撮っていると、頼輝がふふっと笑いながら、
「この店では自分の頼んだ料理の写真を撮ってから食うんだ?
じゃあ俺もカレーライスの写真を撮らなきゃ駄目かな?」
と冗談めかして言った。
「うふふ!
FruitsPartyではイソスタとかのSNS用に写真撮影が許可されてるからみんな撮ってるってだけで、別に撮らなくてもいいんだよ?
私はSNSってライムしかやってないけど、留奈と洋榎さんにこれ食べたよって写真を上げようかと思って撮ってるの!
頼輝もライムやってるんだし、カレーライスの写真を撮って本多ほんだくんや屋古やこくんに見せてあげたら良いんじゃない?」
と璃音。
「いや、俺ら普段食い物の写真とか見せ合わないのに、そこにいきなりカレーの写真を上げたらすげーシュールじゃね?
明日学校で「あのカレーは何だよ」って笑いのネタにはなるかもしれないけどさ(笑)
それよりも俺は、そのパンケーキを食ってる璃音の写真が撮りたいな・・・。
・・・撮ったら駄目?」
頼輝は少し身を乗り出し、璃音にカメラを向けて微笑んだ。
普段の頼輝であれば恥ずかしくてこんなことはとても言い出せなかったが、記念すべき初デートの可愛すぎる璃音を何としても写真として残しておきたかったのだ。
(そのラズベリーを食ってる可愛くてちょっとエロい璃音の写真があれば、俺は何度でも気持ち良くなって境界まで飛んで行けそうだ・・・。)
というおかず使用目的でもあったが。
だが、
「えっ?
でも食べてるところを撮られるのは恥ずかしいよ・・・。」
と璃音は頬を染めて俯いた。
(あ・・・これってもしかして、璃音に俺の使用目的が見透かされてるとか?
璃音は媚薬とか精力増強薬とか中折れの薬とかを日頃から作ってたあのばあちゃんに育てられたからな・・・。
男の性事情とかにも案外詳しかったりするのかも・・・?)
頼輝はそんな心配をちらっとしながらも、璃音の写真を簡単に諦めたくはなかったので、もう少しだけ押してみることにした。
「駄目?
俺が個人的に保存しとくだけで、誰かに見せたりはしないよ?」
「うーん・・・。
じゃあ頼輝が撮ったのを私が確認して、変に撮れてるのは消してもらってもいい?
私、頼輝の手元に変な顔の写真を残したくないの・・・。」
(あっ、なんだ。
そういう理由か。)
頼輝はホッとして頷いた。
「もちろんいいよ。
じゃあ撮るな?
はいチーズ!」

─パシャ!─

そうして璃音のお許しを得た3枚の写真をゲットした頼輝なのだった。
(やった!
この3枚目のとか舌先がちろっと出ててかなり下半身にクるものがあるぞ・・・!
璃音はそのエロさには気がついていないようだけど・・・。)
等と思いながら頼輝がゲットした写真をドキドキしながら見ていると、璃音のスマホにライムの通知があり、それを確認した璃音が言った。
「ねぇ頼輝。
さっき撮ったパンケーキの写真をライムの留奈と洋榎さんのグループに上げたんだけどね。
二人共頼輝とのツーショットの写真も見せてっていうの。
だから撮ってもいい?
ツーショット写真・・・。
・・・というかね?
私も個人的に欲しいなって思って・・・頼輝とのツーショット・・・。
駄目・・・かな・・・?」
璃音は顔を真っ赤に染めて髪の毛先をくるくると指で巻き取りながら、上目遣いでお願いしてきた。
頼輝の鼓動がまたドッキーン!と強く跳ね上がる。
「えっ!?いや!
俺もすげー欲しいよツーショット!!
つーか俺、ツーショットはおろか自撮りって一度もしたことがないんだけど、一体どうやるんだ?」
璃音はクスッと笑うと席を立ち、頼輝のソファー席のほうへ移動してくると、隣にくっついて座った。
(うわっ・・・璃音近っ!
すげーいい匂いがする・・・!!
また勃起しそう・・・・・;;)
と等と心の中で大騒ぎしている頼輝を他所に璃音は、
「実は私も自撮りってしたことがなくて、クラスの先輩達がやってるのを見ただけなんだけど・・・多分こうかな・・・?」
と言って自分のスマホを構えた。

─パシャッ!─

そうして撮れたツーショット写真を二人で並んで座ったまま確認する。
「あっ、璃音可愛く撮れてるな!
でも俺のその顔はなしだって!
顔赤いし目が泳いでるし・・・。
それを花井さんと洋榎姉さんにも見られるのは正直勘弁願いたいな・・・。
撮り直したら駄目・・・?」
と複雑そうに顔を歪める頼輝。
「えっ?そうかなぁ?
素のままの頼輝が出てて可愛いと思うけどなぁ?」
「俺は璃音には可愛いじゃなくて、カッコイイって思われたいんだけど・・・。」
「うふふっ!
頼輝は普段キリッとしててカッコイイのに、たまに見せてくれる素の表情が凄く可愛くてギャップ萌えなんだよ!
でも・・・そんな可愛い頼輝が写ってる写真をいくら留奈や洋榎さんでも見せるのはやっぱり勿体無いかな・・・・・。
ねぇ、それならこの写真は私が個人的に宝物としてスマホに保存しててもいい?
それでみんなに見せてもいいツーショットは別に撮るの!」
「うん・・・。
璃音ならいいよ・・・。
特別に許す・・・!」
頼輝は自分とのツーショットを宝物にしたいと璃音が言ってくれたことが素直に嬉しくてそう言うと、頬杖をついて璃音の顔を覗き込み、柔らかく微笑んだ。
璃音はその笑顔に見惚れて頬を染めぽーっとしていたが、
「ん?璃音?どうした?」
という、先程璃音を魅了したことなど全く無自覚な頼輝の問いかけにはっとして我に返り、
「ううん!
ありがとう・・・この写真、大切にするね・・・!
それじゃ、みんなに見せる用のツーショット写真を撮ろっか!」
とまた顔を近づけてスマホを構えた。

─パシャッ!─

そうして撮れたツーショット写真は頼輝も璃音も笑顔で良く撮れており、頼輝のスマホにもデータを転送してもらうのだった。
「やった!
これ、スマホのロック画面に設定していい?」
「うん!
私もする!」
頼輝と璃音はスマホのロック画面をツーショットに変更した。
「さっきから写真を撮ってばかりで全然ランチが進んでないね!
そろそろ食べちゃおっか!
じゃないと映画、間に合わなくなっちゃう!」
と璃音は少し名残り惜しそうに席を立ち、元の席に戻って行った。
「ん、そうだな。
あ、カレーすっかり冷めてるし、アイスコーヒーも氷が溶けて薄くなってら!」
と笑う頼輝。
「私もパンケーキ冷めちゃってる!
でも不思議・・・。
頼輝と楽しい時間を過ごして気持ちがぽかぽかしてるからかな?
いつもより美味しく感じるの・・・。」
とはにかみながらパンケーキを食べる璃音。
「うん、俺も!
冷めてるのに今まで外で食ったカレーの中ではこれが一番美味い気がするよ。
でも俺、カレーライスは璃音が作ってくれるのが一番好きだけどな!」
と璃音に笑いかける頼輝。
「えーっ、褒めすぎだよ!
ごくごく普通のお家カレーだよ?
でも嬉しいな・・・。
おじいちゃんにも私のカレーを食べて貰いたいし、また近いうちに作るつもりだったから、その時頼輝もうちで晩御飯を食べていったら?
そしたらいつもより長く一緒にいられるし・・・ねっ!」
と璃音。
「マジで!やった!
俺も璃音と長く居られるの嬉しい・・・!」
と笑い合いながら、少し冷めてしまったランチも美味しく食べる銀色狼と空駒鳥のつがいなのだった。

FruitsPartyでのランチを終えた二人は映画館へと向かった。
富蘭町にある映画館はここ一箇所だけで、頼輝は小学生低学年の頃に母と兄と一緒に当時話題だったアクション映画を観に来たことがあったが、ここに来るのはそれ以来だった。
(あの頃とあまり変わってない・・・。)
頼輝は璃音と一緒にチケットを購入しようと券売機に向かった。
「えぇと、観る映画はこれ、上映時間は13時から・・・座席は・・・カップルシートなんてのがあるんだな。
普通の席と何が違うんだろう?」
と座席を選ぶ所で手を止めて首を傾げる頼輝。
「あっ、ここの映画館のカップルシートはね、カップルがくっついて座れるように肘掛けが無くて、カップルのムードを壊さないようにと配慮されてて他の席との間のスペースを広く取ってあるんだよ!」
と璃音が説明した。
「あ、そうなんだ。
女子ってそーいうのに詳しいよな。」
と感心する頼輝。
「うふふっ!それはね、前に洋榎さんが春輝さんと映画を観に行ったときのことを話してくれたから知ってたの!」
「へぇ~!
うちの兄貴、洋榎姉さんとここに来てたのか。
何を観たんだろう?」
「えっと、確かその時話題になってたラブロマンスって言ってたと思うよ?」
頼輝は、
(兄貴、小学生の頃に観に来たあれ程見たがってたアクション映画でも開始10分後には飽きて寝てたのに(笑)
きっと洋榎姉さんがどうしても観たいって言って無理矢理付き合わされたんだろうけど、果たして最後まで寝ずに観れたんだろうか?
その時の話、帰ったら訊いてみよう・・・。)
と思って苦笑いした。
「でね、その時受付でカップルシートのチケットと一緒に小指の赤い跡を見せたらドリンクを無料サービスしてくれたって言ってたの!
私達もつがいの証の赤い跡があるから、カップルシートのほうがお得かも!
くっついて座れるから頼輝が寝そうになったらすぐに起こしてあげられるしね!」
と言ってうふふっと笑う璃音に頼輝は(可愛い・・・♥)と頬を緩ませた。
「じゃあ俺らもカップルシートにしようか!」
「うん!」
そうして購入したチケット代を頼輝は2人分払おうとしたが、璃音が割り勘にしようと言い半分の代金を渡して来たので、あまりそれを遠慮して険悪なムードになるよりはと思った頼輝が折れ、端数だけ頼輝が持つことにしておおよそ割り勘にしてから受付へと向かった。
そして受付でチケットを見せると、璃音が洋榎から聞いた話の通り、
「結婚指輪やペアリング、つがいの証の赤い印等をお持ちではないですか?
お持ちでしたらドリンクをサービス致しますが・・・」
と言われたので、二人はつがいの証の赤い跡を見せて、それぞれ好きなドリンク(頼輝はコーラ、璃音はオレンジジュース)を選び、ポップコーンも買ってからシアターに入ったのだった。

暗い通路を進み、自分達の席を探す頼輝達。
席自体はすぐに見つかったが、他のカップルシートに座っている恋人達は何処も親密な関係の人達ばかりで、暗いシアター内であるためか既に軽くイチャイチャしている者達もいた。
(俺ら、もしかして場違い・・・?)
と赤い顔で冷や汗を垂らしながら隣の璃音を見ると、璃音も同じ事を感じたのか顔を赤く染めて苦笑いを返してきた。
周りがそんな空気なので、その席に座ることはまだ璃音と付き合いたての頼輝にはかなり恥ずかしくはあったのだが、折角カップルシートなのだからと少し勇気を出して、耳まで赤く染めながら璃音の手を取り、手を繋いだ。
璃音ははっとして頼輝の顔を見た後、また顔を赤く染めて俯いた。
そして二人は口元を波打たせたまま、暫く沈黙する。
(移動中の手繋ぎは、璃音が歩きにくい靴で危なくないようにとか、人混みではぐれないようにとかいう名目が立つけど、こうして必要も無いのに手を繋ぐのは、単に俺が繋ぎたいからっていうのが璃音にバレバレだし、凄く緊張するな・・・。
・・・ドクドクドクドクと俺の鼓動の音がさっきから煩い・・・!
これ、璃音にまで聴こえてしまうんじゃないのか?
手汗も何か酷くかいてる気がするし、キモイとか思われないかな・・・?)
等と頼輝が心配していると、上映開始のアナウンスが流れた。
『頼輝、始まるね!
後で感想言い合うんだから、寝ちゃ駄目だからね?』
とアナウンスで我に返り、顔の赤みが引いていつもの調子に戻った璃音が小声で囁いた。
『う、うん、わかってるよ・・・。
・・・なぁ、上映終わるまでこうして繋いでていい?
そしたら俺、絶対寝たりしないと思うし・・・。』
とまだ赤い顔のままで、照れくさそうに目を逸らしながら言う頼輝。
『えっ、どうして?』
とくすくす笑いながら訊く璃音。
『俺、こういうのまだ慣れなくて、手を繋ぐだけでドキドキするんだよ・・・。
こんな状況じゃ寝れっこないだろ・・・?』
と更に顔を赤くして白状する頼輝。
璃音は嬉しそうに頬を染めると、
『そうなんだ・・・・・。
私もだよ?
こんな状況じゃ映画に集中出来ないね!』
と笑った。
『駄目じゃん!』
『あははっ!そうだね・・・!
でも・・・ずっと繋いだままがいいの・・・・・。』
『・・・・・俺も・・・・・。』
頼輝がそう言って笑い、二人がいい雰囲気になったところで映画が始まったので、会話は終了となった。
璃音は映画に集中出来ないかもと言った割に、始まってしまえば集中出来たようで、真剣にスクリーンを見て、楽しいシーンでは口元を緩め、シリアスなシーンでは瞳を潤ませていた。
頼輝は映画を見ながらもそんな璃音の表情の変化を時々チラチラと確認し、
(俺のつがい、くっそ可愛い・・・♥)
と口元を緩めるのだった。
そして映画はクライマックスにさしかかり、ずっと想い合っていながらもすれ違っていたヒーローとヒロインがようやく想いを伝え合い、キスを交わす。
(隣りにいるのが璃音だと、家族と見てるテレビで濡れ場をやり始めた時よりも気まずいぞ・・・。
こんな局面、どうやって乗り越えればいいんだよ・・・。)
と頼輝は頭に手を当てて画面から目を逸らし、璃音の反応を確認しようと隣の彼女に視線を移した。
すると璃音も同じだったのか、バッチリと目が合ってしまった。
そして更に恥ずかしくなった頼輝が逃げるように反対側を向くと、隣のカップルがスクリーン顔負けの熱烈なキスをしている最中だったので、頼輝はギョッとして汗を飛ばし、慌てて璃音の方へと向き直った。
すると、頼輝のそんな様子を見ていた璃音にくすくすと笑われた。
そうしているうちに長かったキスシーンもようやく終わりエンドロールが流れ始めたので、頼輝はホッと胸を撫で下ろし安堵のため息をついた。
璃音はというと、映画の感動的なシーンを振り返るように編集されたエンドロールを見て感動が蘇ったのか、綺麗な空色の瞳をうるうると潤ませていた。

映画が終わり、映画館を出た二人は映画の感想を話すために座れる場所が欲しかったので、近くのカフェを探した。
しかしデパートのバーゲンによる人出と丁度15時前という時間帯も手伝ってか、何処もそれなりに並ばないと入れないようだったので、頼輝がこのアーケードに来たときに良く訪れる馴染みのファーストフード店に入ることにした。
「ごめん、璃音は普段こういったところには来ないだろ?
あまり居心地が良くないかもしれないけど、あまり待たずに座れそうな店ってここくらいしか無さそうだからさ。」
と注文をするために店のカウンターに並びながら頼輝が謝った。
「そんなことないよ!
このお店、留奈と一緒に時々来るよ?
美味しいし安くて頼んだものがすぐに出てくるからいいよね!」
と璃音が笑顔で言ってくれたので頼輝はホッとした。
「へぇ?
璃音も花井さんも、ランチで行ったFruitsPartyみたいなお洒落な外観の店にばかり行くのかと思ってた。」
と笑う頼輝。
「FruitsPartyは勿論好きだけど、ハンバーガーとかポテトとかが食べたくなることもあるもの!
今日はポップコーンを食べてばかりでお腹がいっぱいだからドリンクだけにするけどね!
頼輝は何にするの?」
「俺はドリンクとポテトを頼もうかな?」
頼輝はジンジャーエールとポテト、璃音は抹茶シェイクを頼むと空いている席を探して2階に移動した。
日曜の15時という時間帯のためか店内はほぼ満席だったが、この店は普段から客の回転が早く運良く目の前の二人掛けの席が空いたところだったので、待つことなく座ることができた。
「それじゃ、早速感想を話そっか!
頼輝はどうだった!?」
と璃音が抹茶シェイクを口にしながら笑顔で尋ねてきた。
(映画は、仲の良い女子高生二人が同じ男子生徒を好きになってしまったところから始まった。
ヒーローはヒロインのことを好きだったが、ヒロインの内気な性格が災いして先に告白をし、ヒーローと付き合うことになったのは勝ち気なヒロインの親友のほうだった。
失恋して傷ついても尚変わらない優しさと苦難にもめげない芯の強さを見せるヒロインに親友は次第に心を動かされていき、最終的に親友の幸せを願って身を引いた。
そしてヒロインはヒーローと今までの想いを伝え合い、キスをしてハッピーエンド、という恋と友情をテーマにした青春物語だった。
璃音のこの表情を見ると、璃音にとってはかなり満足の出来る内容だったようだ。
だが俺は正直この手のドラマや映画に疎いし、気の利いた感想なんて言えそうもないんだが・・・。
同性であるヒーローにも全く共感出来なかったしな・・・。
でもここで璃音が言って欲しそうな感想を無理して言うのは、

「お前が璃音に遠慮して欲求とか言いたいことを我慢しすぎるのは良くねーと思う。
そういう我慢ってのはかえって不信を招くからな・・・」

って兄貴も言ってたし、今後のことを思うとお互いのためにならないと思う・・・。
それよりも、俺がどんな奴なのか、今までの幼馴染みとしての関わりだけではわからない部分も徐々に見せていって、璃音に素のままの俺を受け入れてもらうほうがいい・・・。
だからきちんと俺の感想を伝えよう。
となると、最初は良かった所を挙げて璃音の気持ちを出来る限り上げておいて、後から悪かった所を挙げたほうがいいな。
最初から悪い点を挙げすぎると、璃音の機嫌を損ねて「もういい!」となり、良かった点を挙げる間もなく話題を打ち切られてしまい兼ねないからな・・・。
そして悪い点を挙げる時には言葉を慎重に選ぶことが最も重要だ。
うっかり配慮のない言い回しなんかしてしまったら、璃音は見た目に反して案外気が強いから、その場で喧嘩になることもあり得る・・・。
よし・・・そうと決まれば!)
と頼輝は脳内会議を終えてから口を開いた。
「俺は恋愛物って普段見ないし璃音とは感じ方も違うと思うから、璃音が喜びそうな感想ばかりはきっと言えないと思うぞ?
それでもいいか?」
「うん・・・!
頼輝が感じたことを正直に聞かせて?」
璃音は真剣な表情でそう言った。
「わかった・・・。」
頼輝は頷くと、映画の感想を語り始めた。
「まず良かったと思う所を言うな?
映画のメインキャストって俺らとそう歳も変わらないと思うけど、みんな演技が上手くてすげーと思った!
特にヒロインの親友役は迫真の演技だったと思う。」
「!!
頼輝もそう思った!?
あの女優さん、若手女優の中で今最も注目されてるの!
映画だと原作の小説から省かれてるセリフもあるんだけど、その女優さん、省かれたセリフに該当する気持ちを丁寧に演技で補っててホントに凄かった!」
璃音は頼輝と俳優の演技について共感出来たことが余程嬉しかったのか、キラキラと目を輝かせながら熱く語った。
「うん。
俺は原作未読だけど、それでも十分すぎるくらいその親友の気持ちが伝わってきたし、凄かったよな!」
と頼輝も明るいテンションで返す。
「私、その女優さんも好きだけと、ヒロインの役の女優さんが特に好きなんだぁ!
演技も上手いし清楚で可愛くて憧れちゃう!」
「えっ?
演技は確かに上手いと思ったけど・・・俺は璃音の方が可愛いと思うな・・・。」
かぁ~~~っと顔中赤く染めながら呟くように言う頼輝。
「えっ!?
そ、そんなことないよ・・・!」
顔中真っ赤にして謙遜して汗を飛ばし、顔の前でぶんぶんと左右に手を振る璃音。
「いや、マジで俺はそう思うし・・・。」
と頼輝は赤くなった顔を冷ますように冷たいジンジャーエールを口にしながら言った。
「・・・そ、そんなこと言ってるのをその女優さんのファンの人に訊かれたら、バカップル全開だし恥ずかしすぎるよぉ・・・」
と羞恥に堪らず両手で顔を覆う璃音。
(俺が璃音のこと好きで贔屓目に見てることを除いても璃音はマジ可愛いし、謙遜することないと思うけどな。
でもこれ以上”璃音の方が可愛い”と言い続けても璃音はますます困るだろうし、ここは話題を変えてあげたほうがいいか・・・。)
頼輝はそう思うと、ようやく羞恥から抜け出して顔を上げた璃音に笑いかけてこう言った。
「でさ、他に良かったと思うのは映像の空気感?
あのちょっとフィルタがかかった感じとか、独特な構図を使うところも好きだったな。」
「あっ、私もそう思った!
映像が鮮明すぎないところが逆に青春って感じがして!
映画中で流れるサントラもすごく綺麗だったね!」
「あぁ、あのピアノの曲か。
うん、映画の雰囲気に自然と溶け込んできて、主張し過ぎないところが俺もいいと思った。」
二人はまた嬉しそうに微笑みあった。
「じゃあじゃあ、お話の方はどうだったの!?
私は凄く感動したし、ヒロインにも親友の子にも共感できてエンドロールでは泣けちゃったけど、頼輝は同じ男の子としてヒーローの気持ちに共感出来ちゃったりした!?」
と璃音が興味津々に身を乗り出して訊いてきた。
(・・・ついに来たか。
俺がこの映画で悪いと思った点を語らなければならない時が・・・。
でも璃音のこのテンション的に、これが一番訊きたかった感想なんだろうな。
・・・慎重に言葉を選んで、丁寧に・・・・・。)
頼輝は緊張からゴクッと喉を鳴らしてから答えた。
「・・・ごめん。
俺はあのヒーローには共感出来ないよ。
好きな子がいるのに、どうして親友のほうと付き合ったのかが理解出来なくてさ・・・。」
璃音は軽くショックを受けたのか、眉を寄せると一生懸命にヒーローについてフォローしてきた。
「そ、それは・・・親友のほうがヒロインより前から彼のことを好きで、ヒロインは内気な子で親友に恋でも他のことでも勝てる自信がなかったから、自分の気持ちを隠して二人をくっつけようと応援しちゃったからでしょ?
だからヒーローもヒロインのことを良いなと思ってはいても、彼女は自分のことを好きじゃないんだろうと思って親友の告白を受けちゃったんだよ!」
「そこが俺には理解出来ない。
俺がその状況なら親友の告白を受けないけどな。」
と頼輝。
「えっ?
それは・・・あれだけ美人でスタイルも良い女の子から真剣に告白されれば、気持ちがグラッと来ちゃうのも仕方ないんじゃないかな?
好きな子からも親友との関係を本心ではなかったとはいえ応援されちゃってたわけだし。
頼輝だって、例えばだけど私とつがいになる前に留奈に告白をされていたら?
留奈ってすっごく可愛いしスタイルも良いんだもの。
そんな留奈が一生懸命に告白してくれたら、振っちゃうのが勿体無いなって思わないかな?」
璃音は訴えかけるように頼輝に尋ねた。
「思わない。
俺はずっと璃音が好きだったんだから。
例え璃音が誰かと付き合ってみたら?と勧めてきても、他の女子と恋をする気になんかならない。
つーか、そんなことを璃音に勧められたらめっちゃ傷付くよ俺・・・。
例え話の今でさえいい気分がしないのにさ。
そこのところだけはあのヒーローに共感するよ。
だからといって他の子の告白を受け入れたことは、俺なら絶対にそうしないから共感出来なかったけどな。」
と真剣に答えた後、口元を引き結ぶ頼輝。
璃音は頼輝に嫌な思いをさせたと申し訳無さそうに眉を寄せて更には長いまつげを伏せ、
「そっか・・・・・。
・・・ごめんね・・・!
例え話でも嫌な気持ちにさせちゃって・・・・・。」
と頭を下げた後、
「でも・・・頼輝が私のことをそれだけ想ってくれてるんだなって知ることが出来て、凄く嬉しい・・・・・」
と次第に表情を緩め、最後にははにかんでそう付け足した。
「うん・・・・・。」
頼輝は璃音が自分の気持ちをわかってくれたことに安堵して頷いた。
「・・・今思えば頼輝は昔からそうだったよね・・・。」
璃音が何かを思い出したのかそう呟いたので、頼輝は何のことだろうと訊き返した。
「ん?」
「あのね、頼輝って基本的に優しいけど、他人の感情に流されないというか、普通の人がすぐに決められないようなことでもサッと決めちゃうところがあるなぁって。
今の映画の感想からもそれを感じたけど、今までも頼輝の決断に助けられたことが何度もあったから、もしも頼輝がヒーローの立場に置かれたら、さっきの言葉通りにキッパリと振っちゃうんだろうなって思ったの・・・。
でもそれって誰でも出来る事じゃないし、そういう決断が出来る頼輝はやっぱりカッコイイと思う。
私を含めて大抵の人は、特に仲良くしてる人から真剣に愛を告白されれば、多少は心が揺れ動いたりするだろうし、そうでなくても今までの関係を壊すのを恐れるから、簡単には振れないと思うもの・・・。」
と璃音。
「あぁ、それは俺が境界守りだからかもしれない。
倒さなければならない魔獣がまだ子供で見た目が可愛くても、情をかけて逃したならいつかそいつに殺られるのは村人達だ。
一瞬の迷いが人命を左右する、そう父さんに教えられたから、それが日常でも影響してるんだと思う。
映画でもさ、ヒーローが親友の子と付き合ったことで、親友のほうは一時的にでも自分が選ばれたという自信にはなったかもしれないけど、ヒロインはそのぶん余計に傷付いたよな?
それにやっぱりヒロインのことが好きだからって親友と付き合ってからも関係がギクシャクしてた。
そういうどっちつかずな態度って、結局ヒロインと親友のどちらにも失礼だと思うんだ。
それなら最初から振り回したりしないで、キッパリと親友の子を振ったほうがいい。
例えそれで相手が傷ついたとしても、付き合ってギクシャクするくらいなら、それに悩むストレスも時間もなくて済むほうがいいだろう?
それが勇気を振り絞って告白してくれた相手への一番の優しさなんじゃないかと俺は信じてる。
それだとヒロインと親友の子との関係は映画みたいに良くはならなかったと思うし、お話としてはつまらなかっただろうけど・・・。
つーか、映画の感想なのに何か自分語りになってるし・・・何か恥ずかしいな・・・・・」
そう言って照れくさそうにポリポリと頬を掻く頼輝。
「そっか・・・。
頼輝はそうなんだね・・・・・」
璃音は頼輝の語りを驚きを含めた表情で真剣に訊いた後、そう呟いた。
そして白く小さな両手を膝の上に置いて姿勢を正すと、そのさくらんぼのようにふっくらした唇を開いた。
「・・・あの、今日は私の見たい映画に付き合ってくれてありがとう!
映画の感想を通して頼輝の恋愛観を知ることも出来たし、凄く貴重な時間だったと思う・・・。
今日訊けた頼輝の恋愛観は、つがいの私としてはとても嬉しいものだったよ・・・!
だって、私のことを凄く大切にしてくれそうなんだもの!
私、頼輝とつがいになれて良かったぁって改めて思った・・・!」
璃音はそう言い終えると、えへへっと花開くように微笑んだ。
その笑顔があまりにも可愛いので、頼輝は直視できずに目を泳がせた。
「あ、ありがとう・・・・・。
俺もずっと好きだった璃音とつがいになれてめっちゃ幸せ・・・・・。」
頼輝は真っ赤になりながらも何とかそう言うと、照れくささを誤魔化すかのように「コホン!」と咳払いをしてから続けた。
「こんな機会でもないと俺、璃音に自分の恋愛観について話したりとかしなかったと思うし、璃音と一緒に観るなら恋愛映画も悪くないと思った・・・。
また観に来ような?
それで今みたいに感想を言い合おうよ。」
「うん!
でも次は頼輝が観たいのを一緒に観よう!
R-指定じゃない忍者が出てくるカッコイイのとか!
私、頼輝の怪我の手当てで血は見慣れてるし、血飛沫とか出てもきっと大丈夫だよ?」
とVサインをする璃音。
「あははっ!そいやそっか!
でもそれだと恋愛観の話にはならないと思うぞ?」
「良いんだよ!どんな話でも。
頼輝がどんな事に興味があるのか、何に心を動かされて何を思うのか、今までの幼馴染みとしての関わりだけでは見えてこなかった特別な頼輝を、こうして少しずつ知っていきたいの!
だからこれからいっぱいデートしようね!
富蘭町だけじゃなくて、森中村の中も外も、色んな所に頼輝と出掛けたいな!
そして、いっぱい楽しいことや嬉しい気持ちを見つけていこうよ!
これから二人で一緒に過ごす沢山の時間・・・すっごく楽しみだね!」
璃音はそう言って天使のように眩しい笑顔で微笑んだ。
頼輝は、
(うわっ・・・!
この笑顔、今日見た璃音の笑顔の中でもマジとびきりでこの上なく目茶苦茶で最上級に可愛い・・・♥♡♥)
とあまりの可愛さに語彙力を失いながらその笑顔に見惚れた後、
「あぁ、そうだな・・・!」
と璃音と過ごす沢山の未来を思い描き胸の奥がぽかぽかと暖かくなるのを感じながら、自分もまた璃音が見惚れてしまう極上の笑顔で微笑むのだった。

二人がファーストフード店を出でスマホで時間を確認すると、16時10分前になっていた。
「楽しくてあっという間に時間が経っちゃったね・・・。
もっと頼輝と富蘭で遊んでたいけど、晩御飯の支度もあるしそろそろ帰らないと・・・。」
と璃音が少し寂しそうに眉を寄せてそう言った。
「あれ?
家出る時法璃さんが夕飯の支度はしておくからゆっくりしておいでって言ってくれてなかったっけ?」
と首を傾げる頼輝。
「うん、おじいちゃんはそう言ってくれてたけど、良く考えたら今日は日曜だからお客さんも多いし、一人で店番をしながらご飯も作るのは大変だと思って。
だから17時頃には帰っていつも通りご飯の支度をしたほうが良いかと思ったんだ。
ごめんね・・・。」
と璃音は両手を合わせた。
頼輝はもう少し璃音とデートが出来ると思っていたので正直残念な気持ちではあったが、そういう事情なら仕方が無いと頷いた。
「そうか・・・わかった。
それなら次の16時20分発の下り電車に乗って帰・・・」
と頼輝が言いかけたところで、スマホにメッセージの通知音が鳴った。
(誰からだろう?)
頼輝が璃音に「ちょっとごめんな」と断ってスマホを確認すると、母からのメッセージだった。

─デートはどう?
上手くいってるかしら?
碧鶫あおつぐみさん、あんた達に気を利かして夕食の支度はしておくからゆっくりしておいでって言ってくれたんじゃないかと思うけど、今日は何処のお店も忙しい日曜日だし、店番をしながら夕食まで支度をするのは碧鶫さんも大変だと思って、あんたが昨日狩ってきた光魚をフライにしてタルタルソースをかけたのを作ったから、他にも幾つか合いそうなおかずと合わせてさっき届けて来たわ!
だから夕飯のことは心配いらないと璃音ちゃんに伝えてあげてね!
おかず、あんたの分もあるから、一緒に食べて少しでも長く一緒にいなさいな♡─

(母さんグッジョブ!!)
頼輝は頭の中でグッジョブポーズを取ると、嬉しそうに璃音に報告をした。
「母さんが法璃さんのとこにさっきおかずを持って行ったから、夕飯の支度は心配いらないってさ!
俺も一緒に食べて来いって言ってるけどいい?」
「えっ!?
おばさんに凄く気を使わせちゃって悪いな(汗)
でもまだ帰らなくて良くなったのと、頼輝と一緒に晩御飯を食べられるのは凄く嬉しい!!」
そう言って璃音はえへへっと微笑んだ。
「うん、俺も嬉しいよ!
つーわけで帰るのはもう少し後の電車でも良くなったし、ここの近くのゲーセンにでも行ってみる?」
と頼輝は提案した。
「ゲームセンター!?
実は私、一度も行ったことがないの。
どんなところなのかって興味はあるんだけど、留奈はゲームセンターって不良の人の溜まり場みたいな場所だと思ってて、入るのが怖いみたいだから・・・」
と璃音は期待と不安が入り混じったような顔をした。
「えっ、マジで!?
確かに昔の漫画だとそういうゲーセンが出てくるような気もするけど、今は夜はどうか知らないけど、昼間は普通の客ばかりだぞ?
親子連れや女子だけで来てる人達も見かけるし。
でもやっぱり、璃音と花井さんの二人だけで行くのはしたほうがいいとは思うけどな。」
「どうして?」
と璃音が小首を傾げた。
「・・・ナンパ野郎が湧きそうだから。」
と頼輝は璃音に言い寄る男を想像し、不愉快そうに顔を歪めて呟いた。
「あっ、確かに留奈は可愛いから男の人が放っておかないか・・・。
わかった!
今まで通り、二人だけのときには行かないようにするね!」
と笑顔で返す璃音。
「・・・いや、野郎が放っておかないってのは璃音にも当てはまることだからな・・・。
ホントそういうところ、わかってないよな・・・・・。」
はぁ・・・と心配そうに璃音を見て、ため息をつく頼輝。
「まぁ、今日は俺が一緒にいるから大丈夫だよ。」
「うん!
私ね、前からクレーンゲームをやってみたかったの!」
そんな事を楽しそうに話しながら二人はゲームセンターに入った。

まだ明るい時間のためか頼輝の言った通り客層はごく普通で、仲良しグループでプリを撮る女子高生や、親兄弟と一緒に来ている小学生などもいた。
(もしかしたら保城先輩たちと鉢合わせするかもしれないと心配したけど、どうやらここには居ないようだな。
良かった・・・。)
と頼輝がホッと安堵のため息をついていると、璃音があるクレーンゲームの前で足を止め、中に入っている動物マスコットを見てキラキラと目を輝かせながらこう言った。
「頼輝、これ可愛い!」
「あぁこれ、アニパーのキャラだな!
再現性高いし良く出来てる・・・。」
「えっ?それってゲーム?」
「うん。
”アニマルパーク”略して”アニパー"と呼ばれてる、好きな動物になって仮想世界で色んな動物と交流したり冒険したりしながら暮らすソーシャルゲームだよ。
結人に誘われて始めたから俺もアカウントを持ってるんだ。
最近ログイン出来てなかったから、きっと村の中が雑草まみれだろうな・・・。
今夜辺りログインして少し毟っとこう・・・。」
「えっ!?
なにそれ楽しそう!」
璃音が食いついてきたので頼輝はゲームについてその場で簡単に説明をした。
「私もやってみたい!
頼輝とゲームの中でお話ができるんでしょ!?」
「うん。
話をするだけでなくてアイテムの交換とか一緒に採掘クエストに出たりも出来るよ?
やってみたいなら後で招待メールを送っとくな。
あ、因みにこれ、俺のアバター。」
と頼輝はクレーンゲームのショーケースの中にいる銀色の狼のマスコットを指差した。
「きゃーっ!可愛い!
頼輝の通称の特徴まんまなんだね!
私、この子が欲しい!
学校のカバンに付けるの!」
「あはは!
でもこいつは位置と角度が悪いから、取るのは難しいと思うぞ?
初心者ならこのシューター近くで落ちそうになってる狸が狙い目だな。」
「えーーー!
わたしは頼輝のアバターのがいいの!
とにかくやってみるね!」

10分後─。
璃音がクレーンゲームの前でガックリと項垂れていた。
「うー・・・もうこれだけで1000円も使っちゃったし、流石にこれ以上はお小遣いがなくなっちゃうから無理だよぉ・・・。」
「だから言っただろ?
こいつは難しいって・・・。」
「でも諦めたくない~!
次に来るときまでこの子、待っててくれるかなぁ?」
と涙目になる璃音を見て頼輝は優しく微笑むと、自分の財布から100円玉を取り出して台に投入した。
「待ってな?
璃音が1000円も使って奴のタグが良い感じで出ている今ならきっと・・・」
璃音が見守る中、慎重にクレーンを操作する頼輝。
そして狼についているタグに器用にクレーンのアームを引っ掛けて、そのままシューターに落とすことに成功した!
「きゃーーー!
凄い凄い頼輝ーーーっ!!」
璃音は感激の余り頼輝に飛びついた。
頼輝は、
(ふあっ!!
璃音の甘い匂いが唐突に!!
胸も俺の腹辺りに当たってやわらかっ・・・!!)
と真っ赤になり、
(このまま時が止まればいいのに・・・)
等と思いながら股間がむくむくと反応してしまうのを感じていたが、ふと周囲から注目を集めている事に気が付き、我に返って股間に集まっていた血の気が一気に引いた。
『璃音!璃音!
俺らめっちゃ見られてる!』
「えっ!?」
頼輝の言葉で我に返った璃音は慌てて頼輝から離れ、周囲に向かってペコッと頭を下げた。
だが周囲の人達は別に二人の事を迷惑だと思って見ていたわけではなく、大半が微笑ましいと思って好意的に見ていたようで、
「欲しかったマスコットが取れて良かったね!」
と拍手が返ってきたので、頼輝も璃音に続いて慌てて周囲に頭を下げるのだった。

集まっていた人達が元の場所へ戻って行き、ゲームセンター内が落ち着きを取り戻すと、璃音は頼輝から狼のマスコットを受け取って、
「ありがとう頼輝・・・。
明日学校に付けていくね!」
と大事そうに籐のバッグにしまった。
その後は頼輝の奢りで一緒にプリを撮ったり、(目が異様にデカくなり、宇宙人みたい!と二人して大笑いし、更に宇宙人っぽく見えるようにと触角やUFOを描き足した)他には太鼓を叩くゲームを一緒にプレイしたりしたが、璃音は動体視力と反射神経が異様に高く、このゲームに慣れている頼輝と並ぶ程のハイスコアを叩き出していた。
「璃音、すげーな・・・。
持久力が続かず後半になると遅れがちになるという欠点はあるけど、そこさえ補えれば優れた境界守りになれるかもしれないぞ?」
「えっ?
太鼓名人じゃなくて境界守りの話?
私なんて足が早いだけで力も体力もないし、全然無理だよ!」
と璃音は笑いながら謙遜し、手を左右に振った。
「確かに璃音には前衛に出る戦い方は不向きだけど、薬や毒の知識もあるし素早く動けるから、俺が前に出て戦って、それを後ろからサポートする役目としてはかなり有望だと思うぞ?
俺の母さんも昔父さんとつがいの頃、父さんのサポート役として森中神社に登録して境界に入ってたらしいし、もし璃音が望むなら俺とつがいになった今ではそれも可能な筈だよ。
あ、勿論危険も伴うことだし、璃音には薬屋の手伝いもあるから、俺のつがいになったからといってサポートの無理強いはしないけどさ。
洋榎姉さんも一応サポート役として登録はしているらしいけど、森の青鹿亭の手伝いがあるから殆ど境界に入ってないって言ってたしな。」
「・・・それって私も神社にサポート役として登録すれば、頼輝の境界守りのお役目に一緒について行けるってこと?」
「うん。
普段の森中境界の雑魚退治は俺一人でいいんだけと、魔獣が同時に沢山出て何日も境界に籠もる時とか、違う境界に助っ人として何日か出向く時なんかには、璃音に同行してもらえると正直助かるし、嬉しい・・・。
本当はばあちゃんの49日が済んでから改めて話そうと思ってたことなんだけど、今丁度その話題になったから軽く話しといた。」
「そっか・・・つがいになるとそういう特権もあるんだね・・・。
私ね、この間頼輝が3日間境界から帰ってこれなかった時、一緒に着いて行ければ良かったのにって本気で思ったの。
それが叶うのなら是非登録したいな!
でも危険も伴うことだから、おじいちゃんに相談して決めないと・・・。」
璃音は真剣な表情でそう言った。
「うん。
大切なことだからゆっくり考えて欲しい。
49日が済んだら改めて父さんからその話があると思うし、今はまだ頭の隅に置いとくだけでいいよ。
さて・・・ゲーセンも満喫したし、そろそろ駅に向かおうか!」
「うん!
ゲームセンター楽しかった!
また連れてきてね!」
「うん、勿論!」
二人はそう言って微笑み合うと、手を繋いでゲームセンターを後にするのだった。

それから二人は富蘭町駅へ戻り、下りの電車へと乗った。
電車内には都心部から乗ってきていた人もそれなりにいたが、丁度二人掛けの席が空いており、他に立っている人も周囲に居なかったので、二人はそこに並んで座った。
ゴトンゴトン─。
心地良く揺れる列車と一日遊んだ疲れからか、璃音は発車してすぐにウトウトとし始め、次の駅に着く頃には頼輝の肩にもたれ掛かって軽く寝息を立てていた。
(あぁ・・・・・めっちゃ幸せ・・・・・♥
俺も寝たふりしてこのまま終点まで乗っていたいくらいだけど、流石にそれは帰りが遅くなって法璃さんに心配をかけるだろうし・・・。)
頼輝はそう思って「次は森中駅ー、森中駅ー」というアナウンスが流れると同時に璃音をそっと揺り起こした。
「・・・はっ!私寝ちゃってた!?
ごめんね!」
と慌てて起きて汗を飛ばす璃音。
「少しだけな。
璃音が肩にもたれ掛かって来てて幸せだったから、起こすのが勿体無かった・・・!」
と頼輝が茶目っ気を込めて笑うと、璃音は顔を真っ赤に染めて、
「もう・・・頼輝の馬鹿・・・・・」
とはにかんだ。
そうこうしているうちに、
「森中駅ー、森中駅ー。
お降りの方はお忘れ物のなきよう─…」
というアナウンスが流れ、電車が止まってドアが開いたので、二人は森中駅で降りた。

夕焼けに赤く染まる川沿いの小道を手を繋ぎ、今日の出来事について会話しながら歩く二人。
「夕日がとても綺麗だね・・・。」
と璃音が呟いた。
「うん・・・。
夕食にはまだ早い時間だし、少し見ていく?」
「うん!」
二人は土手を下り、柔らかな芝生の上に座って夕日を眺めた。
さっきまで犬の散歩をする人やランニングをする人が上の道を通っていたが、今この瞬間には辺りに誰も居なかった。
頼輝は意を決すると、璃音の手に自分の手を重ね、そっと顔を近付けた。
そして触れる柔らかく暖かい唇。
3秒ほど頭の中で数えてから薄目を開けて璃音の様子を確認すると、璃音は顔を真っ赤にして目を閉じたままで、頼輝の次の行動を待っているようだった。
頼輝は一旦唇を離すと、今度は璃音の頬に手を添えて自分の方へと引き寄せ、もう一度唇を重ねた。
そして時々璃音の様子を見ながら、何度も優しく触れては離す短いキスを繰り返した。
そのうち璃音にも耐性がついたのか身体の力が抜け、ついには自らの唇をちょんと頼輝のそれに触れさせて来た。
頼輝はそんな璃音がたまらなく愛おしくなり、一気に押し倒して彼女の首筋や胸元にもキスを落としたい衝動に駆られたが、遠くから聞こえる犬の鳴き声により、ここが外であることを思い出して我に返り、そっと璃音を開放した。
「「・・・・・・・・・・」」 
そのまま暫く沈黙する二人。
頼輝はその沈黙の最中、璃音に買った水着のことを思い出した。
「あっ・・・俺、璃音に渡すものがあるんだった・・・。
法璃さんがいる前だと渡しにくいものだから、今ここで渡しとくな・・・。」
と言って右耳に触れてアイテムボックスを起動させ、亜空間の中からランジェリーショップAngelinaの紙袋を取り出すと、真っ赤な顔で璃音にそれを差し出した。
「これは・・・?」
不思議そうに小首を傾げる璃音。
「これ、Angelinaで璃音を待ってる間に見つけた水着なんだけど、璃音に凄く似合うと思ったからサプライズでプレゼントしようと買っておいたんだ・・・。
これを着た璃音を俺に見せて欲しいから、夏休みに何処かへ泳ぎに行こうよ・・・・・」
頼輝は勇気を振り絞り、何とかその誘い言葉を最後まで口にした。
「えっ・・・これ、水着・・・・・?
・・・・・今ここで開けて見てもいい?」
と璃音が小さく消えそうな声で言った。
「う、うん・・・。
っても大分暗くなってきたから、ここで開けても良く見えないと思うけど・・・。」
と頼輝は苦笑いした。
璃音はハッとして、
「あっ、そうだね・・・!
何言ってるんだろう私・・・。
後で部屋で見るね!」
と少しテンパりながら水着を紙袋に戻した。
「うん・・・気に入ってくれるといいけど。」
「頼輝が選んでくれたんだもの!
気に入るに決まってるよ・・・・・。
でもビキニだと見せるのが恥ずかしいかも・・・・・。」
と璃音は真っ赤な顔で口元を波打たせて呟いた。
「いや!
上下は分かれてるけど、確かタンキニ?とか言ってたっけ?
ビキニみたいに露出は高くないやつだから、多分大丈夫・・・だと思う・・・・・」
と頼輝はまた真っ赤になって汗を飛ばし、居た堪れなくなって俯いた。
「うん・・・ありがとう・・・・・!
夏休みになったら二人で泳ぎに行こうね・・・。
約束・・・・・」
と言って璃音ははにかみ、そっと小指を差し出した。
頼輝もはにかみながらその小指に自らの小指を絡めた。
その小指が離れると、璃音がハッと何かに気がついて、申し訳無さそうに眉を寄せて呟くように言った。
「でも・・・何だか貰ってばかりで悪いな・・・。
水着って結構高いでしょ?」
「いや、こないだの璃音の誕生日にあげた髪飾り、手作りの物で金をかけてなかったのが気になってたから、そこは気にしなくていいよ・・・。」
璃音は空駒鳥の髪飾りにそっと触れながら頭を振った。
「ううん!
お金に変えられないすっごく特別な髪飾りをくれたんだもの!
だからちゃんとこの水着のぶんはお返しさせて欲しい・・・。」
「・・・・・・・。
・・・さっき貰ったので俺は充分幸せだから・・・・・」
頼輝はそう言って真っ赤になった顔を膝に埋めると、更に顔から蒸気をしゅわしゅわと立ち昇らせた。
「えっ・・・?
さっき貰ったって一体何を・・・?」
璃音がそう言って小首を傾げたので、頼輝はまだ赤いままの顔を上げると、璃音の耳元に顔を寄せてこう耳打ちした。
『さっきのキス・・・最後璃音からしてくれただろ?
あれ、すげー幸せだったから・・・・・』
そして自分の唇にそっと人差し指を当てがい、璃音に向かっていたずらっぽく微笑んだ。
璃音は頼輝のその仕草と妖艶さを漂わせた笑顔を見てドキン!と激しく胸を高鳴らせながらもその意味を素早く理解し、口元を波打たせると、熱を持った顔をぽすっと膝に埋めた。
頼輝はそんな璃音を見てクツクツと笑うと、膝に手を当てて立ち上がり、璃音に手を差し出した。
「すっかり日も落ちて暗くなったし、そろそろ帰ろうか。」
「う、うん!」
璃音はその手を取り立ち上がった。
そしてまた川沿いの小道へと戻ると、手を繋いで歩き出す。
「そういえばおばさん、何のおかずを持ってきてくれたのかな?
ご飯は家を出る前に炊飯器を予約してあるから大丈夫だけど、スープが無いよね?
だからササッと作ろうかと思うんだけど、何が合うかなって。」
「あぁ、昨日俺が狩ってきた光魚のフライのタルタルソースがけだって言ってたよ。」
「へぇ~!
光魚って太刀魚に似た味だから、うちはいつもおばあちゃんの好きな煮付けにしてたんだけど、フライにしてタルタルソースをかけるのもとっても美味しそうだね♪
それならあっさりしたコンソメスープが合うかなぁ?
冷蔵庫に玉ねぎとウインナー、キャベツといんげん豆、それにパプリカもあったから、全部入れちゃお!
あとはフライの付け合わせに千切りキャベツも欲しいなぁ!」
と楽しそうに語る璃音を見て頼輝はふふっと微笑むとこう言った。
「俺の料理スキルは小学校の時の林間学校で披露したから璃音も知ってると思うけど・・・それでも良ければ手伝うよ?」
「えっ!?
あぁ~・・・小学生の林間学校の時はまだ巴くんが居なくて、男子がカレー担当、女子はご飯とポテトサラダとスープ担当だったけど、男子は頼輝以外お料理をしたことがないからって頼輝が一人でカレーを作ってたら、いつの間にか真っ黒で凄い匂いのするヤバそうなのが出来上がってて、代表で試食した体育の先生が泡を噴いて倒れちゃって、その先生は私がおばあちゃんに持たされてた解毒剤で回復したから良かったけど、その日の夕食は担任の先生が予備で持って来ていたレトルトカレーをみんなで食べることになったんだよね!
でも私、頼輝がお料理するところを時々見てたけど、お野菜を切るのはとても上手だったよ?
だからお手伝い、お願いしちゃおっかな!」
と言って璃音はえへへっと微笑んだ。
頼輝は十中八九自分の手伝いを璃音に遠慮されると思っていたので、その予想外の返答に驚いた。
「えっ、手伝ってもいいの!?
嬉しいな・・・。
俺、料理下手を克服したいのに、兄貴と母さんから”料理センスが皆無だから、食器洗い以外では台所に立つな”とか言われててさ。
酷くね?
それじゃ克服しようが無いじゃないか・・・。」
「あははっ!そうなんだ!
じゃあこれからは頼輝の都合が良い時に一緒に台所に立ってみる?
私で良ければお料理を教えるよ?」
「マジで!
すげー嬉しい!!」
手を繋いでそんなことを楽しそうに語らいながら、土手の階段を下りて目の前に見えてきた灯りのついた”碧鶫の薬屋”へと向かって歩いて行く銀色狼と空駒鳥のつがいなのだった。


─追記〈狼谷春輝の飛ばし気味恋愛指南②〉─

璃音の家で璃音と法璃と楽しく歓談しながら夕食を終えた頼輝は、食器洗いを手伝ってからお暇し、歩いてすぐの自宅へと帰宅した。
玄関を入ってすぐ、
「デートは上手く行ったの!?」
と鼻息を荒くした母に食い気味で訊かれたので、
「うん・・・」
とちょっと母のテンションに引きながらも幸せそうに答えたら、
「やるじゃないの!
この!この!」
と肘鉄を沢山食らわされた。
母に夕食の礼を伝え、入浴を済ませて濡れ髪をタオルで拭きながら自室へと戻る。
部屋に戻ってスマホを見ると璃音から、
「水着見たよ!
すっごくすっごく可愛くて嬉しい!!
夏休みが楽しみ!」
とライムが来ていたので、ニヤニヤしながらそれに、
「うん、俺も!」
と返信した後アニパーことアニマルパークにログインし、璃音との約束通り招待メールを送った。
すると、少ししてから運営より、
「銀色狼さんが招待された空駒鳥さんが招待に応じ、隣の家に越してきました!」
との通知があり、それに璃音の選んだらしい空色の鳥の女の子のアバター画像が添付されていた。
頼輝は、
(璃音らしくて可愛いな、このアバター・・・。
いつか璃音とアニパーが出来たら楽しいのにと思ってたけど、早速それが叶うとは思わなかった・・・!
現実ではまだ先の話だけど、ゲーム内では年齢問わず結婚が許されてるし、そのうち璃音と結婚して同じ家に住みたいな・・・♥)
とニヤニヤ頬を緩めると、早速ゲーム上の璃音の家を訪ねた。
「あっ!
頼輝、いらっしゃい!」
頼輝は簡単にゲームの操作を教えると、まだ始めてばかりで璃音の部屋には何もなかったので、ゲーム中のアイテムボックスを漁り、偶然手に入れたはいいが、いつか璃音とこのゲームをプレイするかもしれないと思って何となく売らずに取っておいた璃音が好きそうな可愛い壁紙や家具を取り出しプレゼントした。
そして村の案内を兼ねた草むしりを璃音と一緒に行った。
村が一通り綺麗になって自宅前の広場に戻って来た頃、兄春輝が帰宅して階段を上がってくる音がしたので、
「悪い璃音!
兄貴に話あるから少し抜けるな!
話が済んだらすぐ戻るから!
操作とか大丈夫そう?」
と璃音に言った。
すると璃音は、
「うん!
草むしりしてるうちに色々慣れたから平気だよ!
私は頼輝が戻って来るまでの間、さっき頼輝がくれたアイテムで自分のお部屋をいじってみるね!
いってらっしゃーい!」
と空色の羽根を振って送り出してくれた。

頼輝が兄の部屋を訪ねると、兄は境界守りの役目を終えて来たばかりのようで、狩装束を脱いで夕食を食べるために部屋着に着替えたところだった。
「兄貴、今日は俺の担当する西の境界まで見てくれてありがとう。
お蔭で呼び出しを気にせず璃音とのデートを満喫することが出来たよ。」
頼輝がそう言うと兄はニッと歯を見せて笑い、頼輝の頭をポンポンと叩いた。
「そんなのお互い様だって!
昨日はお前が俺の担当区域まで見てくれたお蔭で森の青鹿亭のバイトに一日入って小鹿ちゃんともイチャイチャ出来た訳だしな♥
つーかさっき下で菫が話してたが、今晩のメインディッシュの光魚、昨日お前が一人で狩ったんだって?
光魚は南の境界の水域に出るBランクに該当するハイランク魔魚まぎょで、初級境界守りにはかなり危険な相手なのにすげーじゃん。
だがよ、親父はその時もっと強ぇ魔獣の退治に向かってたらしいから対応は無理だとしても、俺は境界守りの呼び出しが入れば青鹿亭のバイトを抜け出して境界に向かうことも出来るんだから、俺がオフだとか気にせず投げてくれても良かったんだぜ?
まぁお前は初級っつっても中級の実力は既にあるからBランク相手に深手を負うことはねーだろうが、万が一無茶して怪我でもしてたら今日のデートも行けなくなってたんだしよ・・・。」
と兄は心配そうに眉を寄せて言った。
「うん、心配かけてごめん・・・。
光魚は精神攻撃さえ跳ね除ければ他はCランク程度の強さだし何とかなると思ったんだ。
それに隼人さんから”疾風はやて”を譲り受けてから、強い魔獣とも楽に戦えるようになったし。」
と頼輝。
「あぁ、北海道で共闘したっつー人から譲り受けた風の刀か。
俺も会ってみてーな、その兄妹。
もう北海道をってこっちに向かってるんだろ?」
と春輝。
「うん。
スマホを手に入れたって連絡をくれてからちょくちょくメッセージでやり取りをしてるけど、旅の途中で立ち寄った岩手県早瀬村の境界の守り人のおじいさんが入院したらしくて、今はその代わりをしてくれてるんだよ。
だからこっちに向かうのはそのおじいさんが退院してからになるから、夏休み頃には森中村に来れるんじゃないかって話だったけど。」
「そうかそうか。
その兄妹が森中村に来たなら、俺のシフトが入ってる時に森の青鹿亭に連れて来な?
お前が世話になった礼に好きなもんを奢るから!
で・・・璃音とのデートはどうだったんだよ?」
とニヤニヤしながら訊いてくる春輝。
頼輝は兄に今日のデートの内容を(誂われそうなので土手でしたキスのことは内緒にして)掻い摘んで説明をした。
「へぇ~、初デートにしちゃなかなかなんじゃねーの?
サプライズプレゼントが下着じゃなくて水着になったのはちと残念だが、まぁシャイボーイのお前にしちゃよくやったと思うぜ?
それにしてもお前もあの映画館に行ったのな!
つーか璃音に釘を刺されたとはいえ、恋愛モノなんてよく最後まで見れたな(笑)
俺はどうだったかって?
ソッコーで寝て小鹿ちゃんに何度も叩き起こされたわ(笑)
しかも隣のカップルシートの奴等が際どいことしててよー。
充てられて小鹿ちゃんにエロい事しようとしたら、思いっきり玉を握りつぶされて死ぬかと思ったぜ・・・。
ま、それはともかくとして。
これで水着デートの確約が取れたわけだ。
後は何処でデートするかが肝心だよな・・・。」
と春輝は顎に手を当て首をひねった。
「海は?
電車で行ける海水浴場があったよな?」
と頼輝。
「あぁ、南濱みなみはま海水浴場な。
去年の夏小鹿ちゃんと行ったけど、あそこはナンパ野郎がうじゃうじゃいやがるし、小鹿ちゃんの水着姿をそいつらに晒したくなかったから、結局海に入らずにまっずい海の家の焼きそばを食って帰ってきたっつーしょっぱい思い出しかねーわ・・・。
富蘭にあるプールにもナンパ野郎はいるが、監視員がいるから度を越した行為はまずねーし、ウォータースライダーで遊んだり出来るから水着デートならそっちのがマシじゃね?
でも璃音の水着姿を独占したいなら、森中渓谷が超穴場でオススメだぜ!
俺らが行った時は他に誰もいなくてよー。
川で水遊びしてバーベキューをして、小鹿ちゃんと野外セックスも出来たぜ♥
車の免許の取れねー年齢の俺らはバスに乗って行くしかねーのが難点だがな。
ま、夏休みまでまだ時間もあるし、璃音と相談してゆっくり何処に行くか決めな?
夏はガッコも休みだし、お互いに露出も高くなるし、水着デートの他にも夏祭りなんかのイベントも盛沢山だから関係を一気に進めるチャンスだぜ?
頑張んな!
恋愛相談ならいつでも乗るし!」
そう言ってクロス当てを交わし合う狼谷兄弟なのだった。
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