春雷の銀狼と華やぐ青鹿

彩田和花

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15歳の強行突破

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春雷の銀狼が15歳の誕生日を控えた雲雀月(5月)中旬の頃──。

春雷の銀狼ことハイド・ハント・スイズリーハントは、フォレストサイド村唯一のカフェである”森の青鹿亭”によく昼食を食べに来る常連だった。
目当ては前々から想いを寄せているこの店の看板娘のヒルデ。
「じゃねーと大して美味くもないカフェに頻繁に顔を出したりしねーよ!」
と、弟や親友に冗談交じりに良く話していた。
15歳の誕生日を数日後に控えたハイドは、まだ若干あどけなさを残すものの、ぐんと背も伸びて大人っぽくなっており、父譲りの美しい銀髪と引き締まった体格、星を散りばめたかのような紺の瞳、母譲りの穏やかな美貌に更に磨きがかかっており、すれ違えば誰もが振り向くほどの美男へと成長していた。
この年にして既に村1番の美男と村のマダム達からも評判だった。
彼を鑑賞する目的で森の青鹿亭へランチに通う女性客もいるくらいだ。
その森の青鹿亭では、この前の冬で生まれつき患っている病がついに末期症状まで進行してしまったヒルデが、化粧室でゴホゴホと咳をして、発作が通り過ぎるまでやり過ごしていた。
口を塞ぐその手は血で汚れていた。
(父さんは何も言わないでいてくれるけど、もう流石に発作に気がついているよね・・・。
元々冬は酷かったけど、春が来てもまだ咳が続いてるし・・・。
マールばあちゃんの一番強い薬でもなかなか発作が収まらなくなってきた・・・。
あたし、いつまで生きられるんだろう・・・?
・・・誰かとつがいになれば、女神フェリシア様のご加護で病から開放されるかもしれないけれど・・・。
この病のことを知って尚、受け入れてくれる父さんみたいな男に生きてるうちに出会えるの・・・?)
その時、ふと彼女の脳裏にハイドの笑顔、今まで交わしたキス・・・。
そして、卒業式の日の特別な出来事が過る。
だがすぐにそれを打ち消すように首を振るヒルデ。
(あたし、何であいつのことなんか・・・!
あいつはただあたしが一番身近で手頃な女だから言い寄ってくるだけよ・・・。
勘違いしちゃ駄目・・・!
それにあいつは綺麗だから、いくらでも女の子を選べる・・・。
何もあたしみたいな病気の女じゃなくても・・・。
・・・そのほうが、あいつは幸せになれる・・・。)
ヒルデは顔を覆い嗚咽を溢し、涙を零した。
(もう、何も考えたくない・・・。
迎えに来るなら早く迎えに来てよ・・・死神。)
彼女の心は、迫りくる死への恐怖からかなり擦り切れており、毎日昼食を食べに来ては自分に変わらないちょっかいを出してくるハイドに対して以前のようなはにかんだ反応を返す余裕がなく、冷たい態度を取ってしまうようになっていた。

「小鹿ちゃん♪
もうすぐ俺の誕生日だぜ?
なんかプレゼントちょーだい!」
その日もハイドは注文を取りに来た彼女にちょっかいを出していた。
「・・・常連客のバースディにあげてるのと同じ粗品をあげるって言ってるでしょ?」
「はあぁぁ!?
他の客と同じ粗品なんかいらねー!
小鹿ちゃんの特別な気持ちをくれよ!
13の誕生日には辛い煎餅焼いてくれて、センター通りを手を繋いでデートして、ラストにキスだってしたじゃん?
あれ、すげー幸せだった!
去年はしつこく言ったら煎餅は焼いてくれたけど、キスはいくらせがんでもさせてくれなくて、俺、ショックだったけどな・・・。
今度は俺も15になるんだからさ・・・」
彼はヒルデの耳元に唇を寄せると、その先をそっと小声で囁いた。
『俺のオトコの顔、もっと引き出すような特別なコトをシてよ。』
ヒルデはその誘い文句に対して今までのように頬を染めることもなく、冷たい表情のまま眉を吊り上げるとキツイ口調で彼に言い放った。
「しつこいわね。
客はあんた一人じゃないんだから、いい加減にしてよ!
・・・注文が無いのなら帰ってくれる?
仕事の邪魔なのよ・・・。」
「・・・チッ。」
彼女の冷たい態度に対してハイドは舌打ちをし、苛立たし気に髪をかきあげると、ぶっきらぼうに注文した。
「・・・じゃあブッタネスカ。
それとジンジャーエール。」 
「・・・かしこまりました・・・。」
ふんっ!と怒ったように踵を返して厨房に注文を通しに行くヒルデ。
ハイドはしかめっ面のままそれを見送ると、テーブルに拳を軽く叩きつけた。
(クソッ・・・!
からかっても前みたいな手応えのある反応を返してくれなくなった・・・。
今年のバレンタインデーは、しつこく要求しても、辛い煎餅ですら焼いてくれなかった・・・。
そんなんじゃ、俺の誕生日を祝う気持ちの余裕なんて、とても無いだろう・・・。
だが、このままじゃどんどんヒルデの気持ちが遠ざかっていく一方だ・・・。
畜生・・・!
どうすりゃ良いんだよ!?)
そんな時ふと、ジュニアスクールの時にヒルデがオンナになったお祝いに、頼まれてもいないケーキを押し付けた時のことを思い出した。
(あの時は”人からしてもらったことを返さないなんてことはないよな・・・?”って半ば脅しもしたけれど、それでも小鹿ちゃんは俺の要求するキスを・・・頬にだったけど・・・小鹿ちゃんなりに一生懸命返してくれた。
気持ちが欲しけりゃ、あん時みたいにこっちから先にあげればいいのか・・・。)
ハイドはそう思いつくと頬杖をつき、どんなプレゼントを贈るかを店内を接客して回るヒルデを見ながら考え始めたのだった。
(小鹿ちゃん、そいや最近マカロンの雑誌ばかり見てるよな・・・。)
彼は彼女がレジカウンターに置いたままにしたマカロンが特集されている雑誌を思い出していた。

そして、彼が15歳になった誕生日──。
ハイドは狩りの途中で一旦家に寄り、昨日の晩に遅くまでかけて仕上げたマカロンの入った”青の小鹿柄の包装紙の可愛い箱”を手に取ると、それを大事そうに抱えて森の青鹿亭へと向かった。
(色とりどりのマカロン、それにこの包装紙の鹿も全て俺の手描きだし、すげー手間暇かかったけど、いい感じに出来た。
自分で言うのもなんだが、この質と量なら500ゴールド(※日本円で5万円)くらいの価値はあるんじゃね?
何で自分の誕生日にそんな手間のかかる菓子を作ってるのかとサアラに聞かれたけど、この際誕生日の順序なんかどうだっていい。
こいつをどうにかしてヒルデに押し付けて、2週間後のあいつの誕生日には相当なお返しを要求してやるからな・・・。
覚悟してやがれ・・・。)
ハイドは彼女と過ごすとびきり甘い時間とスケベな妄想で頭を一杯にして唇の端を吊り上げながら森の青鹿亭の扉を開け放った。
すると、いつもならまだ少し混み始めたくらいの時間帯で比較的穏やかな筈の店内が何故か騒然としており、客はざわめいてカウンター辺りに集まり、彼のお目当てである”小鹿ちゃん”の姿もホールに見当たらなかった。
彼は何事かと彼女の姿を探して厨房を覗き込んだ。
すると彼女はホールをほったらかして厨房で倒れている父ルルドを介抱し、「父さん!父さん!!」と何度も父を呼んでいた。
ルルドの方は苦痛に顔を歪めてはいたが意識はあり、
「いてててててっ・・・!!
またきやがった・・・!
ぎっくり腰めが・・・!!」
と苦しそうに声をあげていた。
ハイドはカウンターにマカロンの入った箱を置くと、躊躇なく厨房に入り、「どけ。」と言ってヒルデをどけさせると、親父の肩を持ち抱え上げた。
「が、害獣・・・!?」
ルルドが驚きハイドを見やる。
「クソ親父、休憩室に連れていけばいいか?
それとも診療所まで連れて行ってやろーか?」
「きゅ、休憩室で、いい・・・。
マールさんとこの湿布を貼って・・・様子見してみるからよ・・・。」 
「りょーかい。」
ハイドはそのままルルドを休憩室まで連れていく。
ハイドは親父を心配して後を付いてきたヒルデに湿布を貼るように言うと、素早く武器防具を外して狩り装束のマントとジャケットを脱ぐと、クローゼットから予備のエプロンを取り出して身につけた。
「取り敢えず店は俺が何とか回してやるから。
ヒルデは客放ったらかしにしてきただろ?
今すぐに事情説明と、待たせている件の詫びに行け。」 
「わ、わかった・・・!」
ヒルデはそう言うと急いでホールへと戻って行った。
ハイドもすぐ厨房へ行こうとすると親父が言った。
「害じ・・・春雷の銀狼・・・すまねぇ。」
ハイドは驚いて目を見開いた後、顔を崩してこう返した。
「気色悪りぃな。
クソ親父はいつもみたいに悪態ついてりゃいーんだよ。
それに今日の報酬はヒルデからたっぷり貰うつもりだし?」
そう言って扉に手をかけた。
「・・・待ちやがれ。
報酬のことも含めてお前に話がある。
店を閉めたらここに顔を出せ。」
ルルドが険しい顔で言った。
「・・・わかった。」
ハイドは怪訝そうに眉を寄せながらそう答えると、休憩室を後にした。

「さて、厨房やってやるか・・・」
ハイドが腕まくりをして厨房に入ろうとすると、ヒルデが説明した為か大体の客は元の席に戻っていたが、常連のマダム達がカウンターに置いたままになっていたハイドの自己評価500ゴールドのマカロンの箱を勝手に開けて、歓喜の声を上げながらそれを食べていた。
「えっ!?
ちょ、ちょい待て!
おばちゃんたち、そのマカロン・・・!」
ハイドはおばちゃんたちを制するように声をかけた。
「キャ~、ハイドくぅん♡
今日もいい男ねぇ♥
あらぁそのエプロン!
今日は青鹿亭さんのお手伝いぃ?」
「あぁ・・・クソ親父がぎっくり腰だから俺が代わりに厨房入るから・・・って、それよりそのマカロンだよ!
それ、俺がヒルデにやろうと思って作ってきた奴なんだけど!?」
「えぇ~~~っ!?
これって青鹿亭さんのサービスじゃないのぉ?
青に鹿模様の包み紙だったし、私達てっきりそうだと思っちゃってぇ~。
ゴメンナサイねぇー!
こんな綺麗で美味しいお菓子なんて初めてだったからぁ、ついついパクパクと進んでしまってぇ・・・。
私達殆ど食べちゃったんだけど、大丈夫かしらぁ?」
(・・・・・全然大丈夫じゃねーよ・・・!
このマカロンにどれだけの手間暇がかかってると思ってんだよ!?
小鹿ちゃんのためじゃなかったらとてもここまで出来なかったんだぜ!?
・・・どーしてくれんだよ・・・。)
ハイドはそう怒鳴りたいところだったが、自分は臨時とはいえ今は青鹿亭のコックで、相手は悪意なく食べてしまっただけの客のため、その言葉をぐっと飲み込んだ。
ハイドに注文を通しに来たヒルデがそのやり取りに気がついて、殆ど食べられてしまったマカロンの箱とそれを睨むように見ているハイドの表情から、それは彼が作ったものであると気がついた。
ヒルデはオロオロとするおばちゃんたちに穏やかに微笑んで言った。
「・・・いいんです。
どうせあたしは受け取るつもりはなかったから。
だからって返されてもこいつ、甘い物嫌いだから困るだろうし。
捨てられるよりは誰かに美味しく食べてもらったほうがいいから・・・。
だから、どうぞ召し上がって下さい。」
ハイドは愛しの彼女のその言葉を聞いて、目頭が熱くなり、涙が滲んで視界がぼやけた。
おばちゃんたちは安心して残ったマカロンを手に取るとを席に戻って行った。
「・・・ハイド、ケーキ1とオム1お願い。」
淡々と事務的に彼女が言った。
ハイドの頬を涙が伝う。
ヒルデはそれを見て、はっと息を飲んだ。
「・・・ハイド・・・。」
「・・・・・。」
ハイドは無言で涙を拭うと、言われた注文通りにテキパキと料理をこなすのだった。

ハイドの心境は最悪だったが、それでも彼の料理の腕は素晴らしく、親父が厨房に立ったときには貰うことのなかった「すげー美味かった!また来るわ!」との感想を何度も貰った。
ヒルデはそれらの賛辞に対して複雑な気持ちで頭を下げた。

森の青鹿亭は本日の営業を無事に終え、気まずいまま互いの片付けを終えた二人は、閉店後の照明を落としたカウンターの前で向かい合わせで立っていた。
「ハイド・・・今日は、ありがとう。
・・・お陰で助かった。」
ヒルデが沈黙を破ってお礼を述べた。
「あの、今日の報酬のことだけど・・・」
ヒルデが言いかけるが、それを遮るようにハイドは言った。
「クソ親父から貰うからいい。
そのことで店閉めたら休憩室に来いって言われてるから俺行くわ。
お疲れさん。」
無表情でそう言う彼の袖を彼女がそっと掴んだ。
「・・・あの・・・マカロンのこと・・・まさかあんたが泣くとは思わなくて・・・。
傷つけてごめん・・・。
今日はあんたの誕生日なのに、あたしが食べたいなって思って雑誌で見てたマカロンを、あたしのためにわざわざ作って持ってきたのって・・・あたしがオンナになった時のケーキと同じような駆け引きなんでしょ?
・・・だから、あたしはそれを受け取れない・・・。
あたしはあんたの望むものをもう返せないから。
だから、あたしのことはもう・・・放っておいて・・・。」
か細い声でそれだけ言うと、彼女は手を離して自室のある2階へ駆け上がって行った。
「小鹿ちゃん・・・。」
ハイドは彼女の後ろ姿を見上げながら呟いた。

コンコン──。
休憩室の扉をノックしたハイドは中から「害獣か?入れ。」というルルドの声を聞いて扉を開けた。
ルルドは幾分かぎっくり腰が回復したようで、封筒を持ってソファーに座っていた。
「お陰様で助かった。
こいつは今日のぶんだ。
少ないとは言わせねーぜ?」
ルルドは報酬の入った封筒を差し出した。
ハイドは封筒を受け取ると、その中身を確認した。
すると、彼が想像していたより遥かに多い金額が包まれており、ハイドは目を見開いた。
「・・・おい、ケチ親父のくせに今日はどうしたんだよ?」
「・・・ここいらでケジメをつけておく必要があると思ったからな。
これからの質問に対するお前の答え次第でこいつは手切れ金となる。」
「・・・手切れ金だと・・・?」
ハイドは訝しげに眉をひそめた。
ルルドはそんな彼を厳しく睨み、少しの沈黙の後に再び口を開いた。
「あの子はイルマ・・・母親に似て美人だ。
だが、あの子は見てくれだけで口説いていい気軽な女じゃねぇ。
あの子が抱えてる問題に、一生をかけて向き合っていけるだけの覚悟がねーのなら、もううちに来るのはよしてくれねーか。」
ハイドはルルドの言葉に対し、口元を更に引き締めるとこう返した。
「・・・ヒルデが抱えてる問題って、病のことを言っているのか?」
「お前、それを知ってて・・・!
っ・・・!」
ルルドは驚いて声を荒らげ、席を立ちかけるが、まだ腰が痛むのか再びソファーに腰を下ろした。
「・・・病のことは・・・俺が一方的に知ってるだけだ。
ヒルデは未だに俺に知られたくないみてーだから、知らないフリしてやってる・・・。
だがこの国じゃ、女神フェリシア様のつがいになることで大病から開放されるだろ?
だから俺はヒルデをつがいにするため毎日ここに通ってる。
でもまぁ・・・今日も惨敗して、今は正直参ってるけどな・・・。
・・・あんたは?
ヒルデの母親と出会った時、もうつがいにはなれなかったんだろ?」
「・・・あぁ。
俺が28でイルマがハタチの時だからな。」
「病だって知ってたのに抱いたんだよな?
病が移るかもしれねーって、怖くはなかったのかよ?」
「・・・そうだな。
あん時の俺は冒険者なんかやってて、いつ死ぬかもわからねーような生活をしてたし、今程生に執着が無かった。
そんな時にイルマに恋をして、とにかくあいつが欲しかったから、病のことを聞かされても、後先構わず押し切って抱いちまった・・・。
だが、後悔は無かったな。
一緒の病に苦しんで、共にあの世へ逝けたらって思うくらい、イルマに参っちまってたからな。
なのに運が良かったのか悪かったのか・・・俺に病は移らなかった。
ちょっとフェリシア様を恨んだぜ?
イルマもそれ以降抱かせてくれなくなっちまったしよ・・・。
けどよ・・・たった一度の交わりで、奇跡的にもヒルデを授かって・・・ヒルデが無事に産まれて・・・イルマはそれと引き換えに死んじまったけどよ・・・。
俺はヒルデと生きていく為に冒険者をやめて、実家に戻り頭を下げてコックをやらせてもらって今に至るわけだが。
イルマのぶんまでヒルデと一緒にいてやれる今を、とても感謝している・・・。
あの子は俺にとってイルマの忘れ形見であり、俺のかけがえのない宝物なんだよ・・・。
だからお前が生半可な気持ちで言い寄ってるだけのヤローなら、決して渡すわけにはいかなかった。
春雷の銀狼、お前にはそれだけの覚悟があるんだな?」
「・・・あるよ。
これからだってずっとそのつもりだ・・・。」
ハイドは俯いて表情を落とし、拳を握りしめると続けた。
「だが・・・ヒルデはもう俺を望んでいないのかもしれない・・・。
俺が気持ちをぶつけても、あいつは返してくれなくなった・・・。
さっきも、もう放っておいてなんて言われちまった・・・・・。
・・・・・・・かといって・・・やっぱ・・・諦めるつもりは、毛頭ねーけど・・・・・!!」
ハイドはキッと顔を上げて、もう一度目に光を取り戻した。
それを見て、ルルドが表情を緩めた。
「ハハッ!
害獣はやっぱそれくらい生意気じゃねーと。
あんまりしおらしくされると気色悪るくて適わねぇからな!」
ルルドは再び険しい顔に戻り、続けた。
「・・・心配しなくても、ヒルデは心の底ではお前が好きだろうよ。
ただ、お前に好意を返す余裕がないところまで病が進行してきてるってことだ。
あの子は必死に隠してるようだが・・・おそらくもう末期に入ってる。
マールさんのところで強い薬を貰って表に出る症状を抑えてはいるようだが、それもそろそろ限界だろう。
あの子に残された時間はもう少ない。
こうして立って店に出ていられるのも・・・あと数ヶ月で終わりだろうな・・・。」
「・・・・・!!!」
ハイドは彼女に残された時間の少なさに衝撃を受け、言葉を失った。
「・・・わかったか?
もう、あの子に拒絶されて凹んでる場合じゃねーぞ?
・・・お前が本気なら、全力で奪いにいけよ。
わずかに残ったあの子の生きる希望を心の奥から手繰り寄せられるのは・・・悔しいが、お前だけなんだよ・・・。」
ハイドはそれを聞き、静かに何かを決意し、拳を握りしめた。
「・・・・・もう強行手段に出るしかないってことか・・・。
・・・わかった。
だがあんたはそれでいいのか?
俺のことが嫌いだろ?
俺がヒルデのつがいになったなら、将来は婿になるんだぜ?」
「・・・確かに俺はお前を気に入らねーよ。
生意気だし何でも器用にこなしやがるし。
何よりもその見た目が気に入らねー・・・。
他の女がほっとかねーようなヤローには誘惑も多いから、いつヒルデを泣かせるかわかんねーからな。
だが・・・お前があの子の病のことを知った上で、ガキの頃からずっとあの子に歩み寄ろうとしてきた一途なヤローだということは・・・今の話で充分理解できた・・・。
だから・・・悔しいが、お前にヒルデを任せることにする。
しっかり頼むぜ?
春雷の銀狼さんよ。」
ルルドは泣き出しそうに声を震わせながら言った。
「・・・クソ親父・・・。」
「行けよ・・・。
ヒルデの部屋は2階の右側だ。
・・・だがいいか?
ヒルデの生きる希望を心の奥から手繰り寄せるために必要な行為なら容認してやるが、決して最後まではするんじゃねーぞ?
まだ未成年でそこまでしちまうよーならとてもつがいなんてやっていけねーからな?
それにな・・・俺はヒルデが成人するまで処女は大事にして欲しいんだよ・・・。」
「・・・りょーかい。
・・・それならこいつは返す。
もう手切れ金じゃなくなったからな?」
ハイドは報酬の入った封筒をルルドに返す。
「おい、こいつにはお前の今日の働き分も入っているんだぜ?」
ルルドはそう言って中身から手切れ金としての余分な紙幣を抜き取ると、またハイドに渡そうとした。
「いーよ。
全部返す。
今日の報酬はこの後たっぷりヒルデから貰うからよ。
そのほうがヒルデと交渉しやすいしな?」
と、ハイドは笑って頭を振り封筒を拒んだ。
「ちっ・・・クソ生意気が。」
ルルドは悪態をつきつつ封筒を懐に仕舞った。
「・・・正直ヒルデのあの様子だと、今日つがいになるところまではいけねーと思う。
だが、ヒルデに残された時間のことは承知した。
今からある程度あいつの気持ちを引き出してみて、近いうちにつがいを申し込む。」
ハイドはそう言うと、右腕をルルドに向けた。
「・・・わかった。
うまくやれよ?
春雷の銀狼。」
ルルドはそう答え、右腕を手前に出してハイドのクロス当てに応じるのだった。

休憩室を出たハイドは2階へ続く階段を駆け上がり、右側の扉をノックした。
コンコン──。
「・・・父さん?
階段を駆け上がってくる音がしたけど、腰は大丈夫なの?」
ヒルデがそう言いながら扉を開けた。
「・・・よぉ。」
ハイドはニッと愛しの彼女に向けて笑ってみせた。
「ハ、ハイド!
あんたどうしてあたしの部屋に・・・!?」
驚いたヒルデが慌てて部屋の扉を閉めようとするが、ハイドは素早くドアの隙間に足を挟みそれを阻止し、彼の行動に怯んだ彼女の隙をついて部屋の中にスッと入り込んだ。
「ちょっ、ちょっと・・・!
何勝手に入ってるの・・・!」
ハイドは抗議の声をあげるシンプルな部屋着姿のヒルデを目に焼き付けた後、初めて入る彼女の部屋を見渡した。
白地に青の花柄で統一された清楚なファブリック。 
白のペンキで塗られたナチュラルな家具。
本棚には彼女がよく読んでいる小説や雑誌が並べられており、出窓には白百合が生けられていた。
「へぇ・・・小鹿ちゃんらしくていい部屋だな・・・。
小鹿ちゃんと同じ匂いがするし・・・なんかすげー落ち着く・・・。」
「・・・出て行って・・・。」
ヒルデが望まぬ客を睨みながら低い声で言った。
「嫌だね。
クソ親父に許しを貰って、小鹿ちゃんを落としに来たんだから。」
「えっ・・・父さんが・・・!?
そんなの嘘・・・!!」
「嘘じゃねーよ。
さっき話をしてきた。
俺のことを認めて、お前のことを託すってよ。
そんで、今日のぶんの報酬、小鹿ちゃんから貰っていいってさ。
更にはここ数ヶ月の俺に対しての冷たい態度への詫びと、マカロンを受け取らないと言って俺を傷つけた詫びと、俺の15の誕生日祝いも・・・全部そこに含めて一括で貰おうか?」
ハイドは一つ一つ指を折り報酬に追加するものを数えると、不敵な笑みを浮かべて一歩ヒルデに歩み寄った。
ヒルデは青ざめ、怯えて引き下がった。
ハイドはヒルデの腕に手を伸ばして捕まえ引き寄せると、ギュッと力強く抱きしめた。
「ヒルデ・・・。」
「はっ・・・離してっ・・・!」
「やだね。」
ヒルデはハイドを拒んでその胸を押し返そうと力を込めるが、彼に強く抱きしめられていてそれは敵わなかった。
ハイドはそのままヒルデの首筋に顔を埋めると、スンスンと匂いを嗅いだ。
「この匂い・・・久しぶりだ・・・。
小鹿ちゃん・・・。」
彼は彼女の匂いに興奮してその首筋に舌を這わせた。
「やぁっ・・・♡
やっ・・・やめて・・・」
ピクんっ・・・と、身を震わせるヒルデ。
ハイドはそんな彼女に低い声で言った。
「やめねーよ。
小鹿ちゃんからさっきのを全部貰うまではな・・・。」
ハイドはそう言うとヒルデの頬を撫でてから顎を引き寄せた。
そして、約一年ぶりに唇が触れ合う。
「んっ・・・っ・・・うっ・・・!」
ヒルデの唇は相変わらず柔らかくて甘く、ハイドは角度を変えては何度も唇を擦り合わせた。
ヒルデは涙目になりながらも頬を染め、そのキスを拒むことなく受け入れた。
(小鹿ちゃん・・・小鹿ちゃん・・・)
ハイドは彼女がキスに応じてくれることをとても愛おしく感じ、彼女ともっと深く繋がりたくてたまらなくなり、その柔らかな唇を割って強引に自分の舌を差し込もうとした。
その瞬間、彼女に力いっぱい突き飛ばされた!
「やめて!!
舌を入れるならキスはもうしない!!」
「・・・何故?
その理由を言ってみろよ・・・。」
ハイドはヒルデを睨みながら低い声で尋ねた。
「・・・・・・・・。」
ヒルデは何も言えず、涙を溜めたまま俯き、唇を噛み締めた。
「だんまりかよ・・・。
何とか言えよ!!」
そう怒鳴ると今度はもっと強引に彼女の唇を奪った。
「ふっ・・・!んっ・・・・・・っ!」
苦しくて逃れようとするヒルデに追い縋りすぐに塞ぐ。
「んっ・・・んっ・・・!んっ・・・・・!!」
「俺の事嫌いなフリして本当は好きな癖に!」
唇を離してまくし立てる。
「ち、違う!」
それ以上否定の言葉を言わせないとばかりに再びキスで塞ぐ。
「んっ・・・ふっ・・・んっ・・・」
「・・・じゃあなんでキスを受け入れる!?
俺が嫌ならさっきみたいに張り飛ばせよ!」
「それは・・・舌を入れるのはダメだけど・・・そうじゃないキスなら、今日のあんたへの報酬として応じようと思っただけよ!」
「嘘つけ!素直になれよヒルデ!!
俺の事好きって言えよ!!」
「あたしは、あんたなんか・・・好きじゃない!!」
「じゃあ俺の何が気に入らない!?
全部言ってみろよ!!」
「軽々しく好意を口にするくせに、女の子に人気があっていつ浮気するかもわからない・・・女泣かせだからよ!!」
ハイドは感情を吐き出してはぁはぁと息をつくヒルデの肩にそっと手を置くと、真っ直ぐに正面を見つめて言った。
「軽々しく口説いたことなんて一度もねぇよ・・・。
ただお前を手に入れたくて必死なだけだ・・・!
それに、俺は昔からお前しか見てねーよ!
ずっとずっとずっと!
ヒルデだけが好きなんだ!!!
これからだって俺はっ!!!」
「やめて!
聞きたくない!!
そんな言葉をあたしに突きつけて、ありもしない幻想を抱かせて、残酷に振り回そうとしないでよ!!」
「ありもしない幻想だと何故決めつける!?
残酷なのはヒルデのほうだろう!?
俺はいつだってお前との未来を見ているのに、お前は俺のほうを見ようともしないで、暗闇の淵ばかりを見てる!!
俺から目を背けるなよ!!」
ハイドは上半身を覆っていた帷子を脱ぎ捨てると、力任せにヒルデをベッドへと押し倒した。
そしてボトムスのベルトを勢い良く外し、熱を帯びて硬くなり、熱り立った彼の”オトコの象徴”を取り出して、彼女の目前に突きつけた。
「・・・見ろよ。」
ヒルデは耳まで赤く染めてそれから目を逸らした。
「目を背けるな・・・見ろ!!」
ハイドはヒルデの頬に手を当て強引に自分の方を向けさせた。
「俺の顔も」
と言って彼女の手を取り自分の頬に当てた。
「胸も」
今度は胸に手を運び、鼓動の音を伝えた。
「オトコの象徴も」
次は性器を握らせる。
彼女の顔が更に熱を帯び、瞳が潤んで泳いだ。
「頭の先から足の先・・・髪の毛一本一本・・・
そして、この頭の中も・・・!」
と自分の頭を指差す。
「今日で15になった俺を全部見ろよ!!
俺という男が、お前という女を欲しがって、本気でお前との未来を望んでる!!
その未来を含めて俺を見ろ!!!」
ヒルデは涙で潤んだ瞳のまま震える唇で紡いだ。
「・・・・あたしにあんたは眩しすぎるよ・・・。
・・・・・未来・・・なんて怖いもの・・・あたしは見たくない・・・・・。」
ヒルデは俯きまつげを震わせると、そっとワンピースのボタンを外して、ブラの前紐を解いた。
プルンプルン!と揺れながら、以前より大きくなった釣り鐘型の豊かな双丘が露わになった。
ハイドは目の前に晒された透き通るように美しい乳房に目が釘付けになり、息を飲んだ。
ヒルデは恥ずかしいのかそれを腕で隠しながら、震える声で言った。
「・・・今日の報酬と、あんたがあたしに詫びさせたいぶんだけ胸を好きにしてよ・・・。
もう昔ほど子供じゃないし、あんたのオトコを使ってサレたくらいじゃビビらないから、気が済むまで胸を使うといいわ・・・。
その代わり、それが終わったならあたしとあんたの関わりはおしまいよ・・・。
もう二度と店に来ないで・・・!」
ハイドはヒルデのその言葉を聞いて、彼の穏やかな美しさからは想像が出来ない程に鋭い眼光を彼女に向けた。
「あっそ。
なら胸はいーわ。」
彼は冷たくそう言い放つと、己の下半身を乗り出して、彼女の剥き出しの柔らかい乳房の上に乗っかった。
そしてヒルデの白く滑らかな頬に、自身のオトコの象徴を当てた。
「・・・・・フェラしてみせろよ。」
ハイドは限界まで滾ったペニスで彼女の頬をペチペチと叩いた。
ヒルデは顔色を変え、首を左右に振った。
「これくらいじゃもうビビらないんじゃなかったのか?
口でシてみせろ・・・。」
鋭い視線を向けたまま迫るハイド。
ヒルデはその気迫迫る顔を涙目で暫く見上げた後、恐る恐るペニスに触れ、そっと先端にキスをした。
伏せた瞳から涙が零れ落ちて頬を伝う。
「うっ・・・はっ・・・ヒルデ・・・。」
ハイドは息を乱しながらヒルデの髪を指に絡ませ、目を細めると次を促した。
「・・・たったそんだけ?
・・・舌で舐めて咥えろよ。
出来ねーの?」
「・・・・・・・。」
ヒルデは涙をポロポロと零しながら唇を噛んだ。
「できねー理由をちゃんと言ってみろよ!」
容赦なく問い詰めるハイド。
「・・・・・・・。」
「・・・まだ、言わないつもりかよ・・・。」
ハイドはチッ!と舌打ちをして髪をかきあげた。
「わかった。
なら俺の好きにやらせてもらう。」
ハイドはヒルデの胸の上から降りて上に覆いかぶさると、彼女の脚の間に自分の膝を割り入れ、下肢に手を伸ばした。
そして、青いスカートを指先を掠めながらまくりあげると、無遠慮にショーツの中に手を滑り込ませた。 
「・・・やあっ!!!」
ヒルデは驚き抵抗しようとするが、ハイドは左手で彼女の両手首を捕まえそれを阻止した。
「・・・っ・・・やらしーな・・・。
上の口ではあんなひでぇ事を言っておきながら、下の口は濡れまくってるじゃねーかよ・・・。」
ハイドはわざとピチャピチャと水音をたてながら、そのぬるぬるの花びらを弄る。
「いやぁぁ・・・♡っあっ・・・んっ・・・ああっ・・・♥」
「こんだけ濡れてるなら充分だな・・・」
彼はそう言うとショーツから濡れた指を抜き取って、今度は親指を引っ掛けると一気に下へと引き下げた。
「やっ、やめっ・・・!!」
彼女は割って入られている彼の膝により足蹴りで抵抗することも許されない。
そして、彼は遂に彼女の白くなめらかな美しい脚から、白いレースのショーツを抜き取った。
─そして、無防備になった彼女の花弁に、自身の竿を充てがったのだ・・・!
ヒルデは大きく目を見開くと、涙を散らしながら叫んだ!
「やっ、やあっ!
そこはっ・・・ダメェーーーッ!!!
あっ・・・あたしのそこはっ・・・
うっ・・・ひぐっ・・・あっ・・・あんたの未来を・・・・・うっ・・・奪っちゃう・・・毒が、あるから!!
あたしは、あんたに・・・病を移したくないの・・・!!
大好きなあんたには・・・誰よりも、幸せに・・・長く生きて欲しいから・・・・・!!!」
はぁはぁと涙を次々に溢れさせながら肩で息をつく彼女に、ニッと口の端をあげて彼は言った。
「・・・・・やっと本音が出たな?」
彼は彼女の大切なところに触れていたペニスを離すと、彼女の抵抗を奪うために押さえつけていた手首を解放した。
そして、右手で涙に濡れた彼女の頬をそっと撫でた。
「・・・知ってるよ。全部。
粘膜で感染する不治の病なんだろ?」
その時ヒルデはハイドの顔を今日初めて自分の意志からまともに見て、涙で滲む目を見開いた。
「な・・・何で・・・!?
いつから知ってたの・・・!!?」
「ジュニアスクールのとき・・・俺がオトコになったらキスしてって言ったとき、お前が影を落としたから・・・その時から変だと思って引っかかってた。
その後、給食当番のお前がみんなの前でヤケっぱちになって病のことを打ち明けたことがあっただろ?
あの時お前が言ったことがキスを嫌がる理由と繋がって、あれはホントの事だって確信した・・・。
でもお前は俺に病のことを知られたくないようだったから、ずっと気づいてないフリをしてた・・・。
そんで、いつかお前から俺に病のことを打ち明けてくれるのを、待とうと思ってた・・・。
だが、病が進行していくにつれお前はどんどん心に壁を作っていき、俺と距離を置こうとした。
焦った俺がその壁を壊そうとどんなに愛を口にしても、お前には届かなかった・・・。
その状態で病のことを知っていることを打ち明けたとしても、お前は俺を拒絶したろ?
お前に自分から本音を言わせて壁を内側から壊すには、こんな方法で強行突破するしか思いつかなかった・・・。
・・・怖い思いをさせて悪かった・・・。」
「・・・ううん・・・。
あたしの方こそ、あんたを沢山傷つけてごめん・・・。
あんたはあたしの病のこと知ってて・・・それでも、ずっと、ずっと・・・本気で口説いてくれてたんだね・・・。」
「そんなのお前のこと好きなんだから当たり前だろ?」
ヒルデはふるふると横に首を振る。
「そんなことないよ・・・・・。
そんな命知らず、あんたと父さんしか、あたし・・・知らない・・・・・。」
「じゃあそんな命知らずの俺に、もっとその毒を分けてよ・・・小鹿ちゃん・・・。」
彼は頬に当てた親指を滑らせて唇を撫でると、もう一度彼女に口付けし、優しく唇を割り、舌を滑り込ませた。
ヒルデは頬を染めて瞳を閉じると、今度は彼の舌を受け入れた。
「・・・んっ・・・ふっ・・・ふうっ・・・んっ・・・♥」
彼女の甘く漏れる声を聴きながら、その柔らかい舌を夢中で絡め取る。
彼は彼女と繋がって一つになっているかのような感覚に酔い痴れ、彼のオトコの象徴に更に血が集まった。
それはこれ以上ないくらいに張り詰め、ピクピクと脈打ち、先走った。
彼はその熱く滾る熱を彼女の腹に押し付けた。
彼女は瞬時に耳まで赤く染め、逃れるように腰を引こうとするが、グッ!と彼の手により腰を引き寄せられていまい、硬くて熱くて大きい彼のオトコの象徴をそのまま腹に感じ続けるしかなく、「んふぅ・・♥」と声を漏らして行き場のない羞恥心から彼女の大切なところを更に濡らした。
彼は唇を離し、眉を寄せて切羽詰まった表情で言った。
「はあっ・・・小鹿ちゃんが可愛すぎて・・・もう・・・たまんねぇ・・・
今日の報酬と・・・今までのいろいろと・・・俺の誕生日プレゼントとして・・・
俺をイかせてくれる・・・?」
「・・・・・うん・・・・・。
で、でも・・・どうすればいいの・・・?」
ハイドは戸惑うヒルデを抱きしめもう一度短くキスをすると、彼女の耳元で囁いた。
「手・・・貸して・・・。」
彼は戸惑う彼女の左手を取ると、限界まで張り詰めた自身のオトコの象徴を握らせて、その手を上から自分の手で包み込むと、ゆっくりと上下に扱き始めた。
「ハ、ハイド・・・
手で・・・いいの?」
「・・・んっ・・・今日はっ・・・これで・・・いい・・・。
つ、か・・・小鹿ちゃんの手で扱くの・・・たまんなくて・・・すぐイキそう・・・。」
「ハイド・・・」
ヒルデは彼の切なそうに息を乱す顔を真っ赤に染めた顔で見つめ、時折彼の手により操作されている自分の手元に視線を落とし、刺激的な光景に恥ずかしくなってまた彼の顔に視線を戻した。
「小鹿ちゃん・・・んっ・・・んっ・・・」
彼は愛しの彼女の唇を時々奪いながら空いた左手で彼女の胸や尻の感触を味わい、段々と右手の動きを早めていった。
先走りが絡んだ二人の手からヌチャヌチャと嫌らしい音が早まったリズムで響く。
「くっ・・・うっ・・・はっ・・・っく・・・はあっ・・・
はっ、はっ、はっ、はっ・・・ヒ・・・ヒルデ・・・ヒルデ・・・!
もっ・・・出る・・・!
はっ、はっ、はっ、はっ・・・」
彼は勢い良く彼女の唇に自分のそれをぶつけて舌を絡め取りながら右手を追い込んだ。
「んっ・・・んっ♥・・・んっ・・・♥」
彼女も堪らず甘い息を漏らす。
「んっ、んっ、うっ・・・ふっ・・・っ・・・んんっ・・・・・ーーーー!!!」
ドクン、ドクン、ドクン──。
彼はオトコの象徴を脈打たせながら白く熱い精を次々と放ち、彼女の胸から腹にかけて穢した。
彼は唇を離し、まだ荒い息をつきながら汗ばむ額を彼女にそっとぶつけた。
そして無言でただ愛おしそうに彼女を見つめた・・・。
彼女は頬を赤く染め、少し唇を尖らせて彼を見つめ返し言った。
「・・・ハイドの馬鹿・・・命知らず・・・エッチ・・・スケベ・・・馬鹿・・・・・。」
「ひでぇ、馬鹿って2回も言いやがった。」
「だって、馬鹿だもの・・・。
・・・あたしはもう・・・長くは・・・ないんだよ・・・?
どうせなら、最後まですれば良かったのに・・・。」
「・・・お前の親父と約束したからな。
最後まではしねーって・・・。
それに・・・楽しみは後に取っておかないとな?」
そう言って悪戯に笑うハイド。
「・・・えっ・・・。
それってどういう・・・。」
ヒルデは不思議そうに尋ねた。
ハイドは触れ合っていた額をそっと離すと、唇を引き締め、真っ直ぐに彼女を見つめながら言った。
「・・・ヒルデ、俺とつがいになれよ。
つがいになれば、女神様の加護で病から開放され、小鹿ちゃんに未来が生まれる。」
「・・・・・ハイド・・・・・。」
彼女は彼の真剣な言葉に息を飲むと、ゆっくりと俯き、口を開いた。
「・・・確かに、つがいの加護を得たなら・・・病は消えて、普通の人と同じだけ生きられるかもしれない・・・・・。
でもさっき、キスで舌を入れちゃったり、あたしのあそこにあんたのが触れちゃったりしたけど・・・それでも運良くあたしの病があんたに移ってなかったとしたら・・・。
つがいの指輪はあんたにとって足枷にしかならないよ・・・?
あたしの病気が再発することを考えたら、あんたに他に好きな娘が出来てもつがいの解消をしづらいでしょ?
そんな重荷をあんたに背負わせたくないの・・・。」
「つがいの指輪が足枷?
他に好きな女が出来る?
小鹿ちゃんが重荷?
そんなの考えたこともねーわ。
それより、つがいを経て祝福を得れば、小鹿ちゃんと未来永劫末永く、共に死するときまで幸せに暮らしていけるんだぜ?
とびきり最高の未来じゃねーか!」
「・・・・・!!!
・・・・・ハ・・・ハイド・・・・・。」
二人ははにかんで見つめあい、両手を繋いだ。
「・・・・・ヒルデ。
つがいのことは、一生が関わってくる問題だ。
今すぐに返事はしなくていい。
病のことを抜きにして、お前の俺に対する気持ちもちゃんと知りたいから、そこんとこ、よく考えて答えを出して欲しい。
2週間後のお前の誕生日・・・。
それまではお前の邪魔をしないよう店には来ないから、その時に返事を聞かせてくれ。」
「・・・うん、わかった・・・。
今まで目を背けてたあんたへの気持ち・・・一人でよく考えてみる・・・。」
「あぁ、頼むよ。
だが、15歳を迎える前に死ぬなよ?」
「そんなにすぐには死なないってば!」
彼女は口元に手を当ててクスクスと笑った。
「そうそう。
そうやってお前は笑ってるほうがいーよ。
お前の笑顔、すげー可愛いんだから。」
ハイドは彼女の頭を撫でながらそう微笑み、それに対してヒルデは頬を染めてはにかんだ。
「・・・最後にもう一押しな。
元気になったお前と俺とで一緒に生きていくの、たまに喧嘩もするだろーけど、きっとすげー楽しいぜ?」
「・・・ふふっ、そうかもね・・・!」
「だろ?」
そして、二人はそっと触れるだけのキスを交わした。
「・・・それじゃ、誕生日に。」
「うん・・・またね。」
互いに手を振ると、春雷の銀狼は2階の華やぐ青鹿の部屋の出窓からストン、外へと降り立って、もう一度手を振りながら自分の家の方へと去って行った。
華やぐ青鹿はそんな彼の姿が見えなくなるまで見送った後、顔を上げて星の瞬く夜空を見て呟いた。
「あいつの瞳みたいに綺麗・・・。
ああ、夜空を見上げたのなんていつぶりだろう・・・。」
そのまま出窓に頬杖をついて、暫く星を見上げながら、彼と出会った頃から今までのことを、ひとつひとつ思い浮かべるのだった。
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