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白百合の髪飾りを君に
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自分の15歳の誕生日にヒルデにつがいを申し込んだハイドは、それ以降空き時間にコツコツと髪飾りを作っていた。
今夜も自分の部屋で、木片を丁寧にナイフで削り、形を作っていく。
その様子を12歳になったライキが傍らで興味深そうに眺めていた。
「・・・兄貴が最近作ってるそれ・・・大分形になってきたな。
百合の花?」
「あぁ・・・あいつに似合いそうだから。
髪が青だから、花の色は目立つように白がいいな。」
「青い髪ってやっぱりそうか!
兄貴が前々から通ってる”森の青鹿亭”の”華やぐ青鹿”のお姉さんにあげるんだな!!」
ライキはへぇ!と身を乗り出した。
「そう。
ヒルデっつーの。
こないだの俺の誕生日にヒルデに告白して、つがいを申し込んだんだ。
もうすぐ来るあいつの誕生日にその返事を貰う約束をした。
そんときに、これを渡す。」
「そっか・・・。
ハント家の習わしの髪飾りか・・・。」
「あぁ。
親父もじーちゃんも曾じーちゃんも、その先祖代々俺らの遠い先祖ヘイズ・ハントに遡るまでずっと行われてきたっていう、意中の女につがいを申し込むときに髪飾りを贈るってやつな。
俺の場合成り行きで先につがいを申し込んじまったから、後から渡すことになったけどな。
迷信めいてはいるが、過去のつがい成就率は100%らしいし、その恩恵にあやかりたいじゃん?」
「そっか・・・。
上手くいくようフェリシア様に祈っとく。」
「ははっ、何だかお前の祈りはマジで効き目ありそうだから頼むよ(笑)」
ハイドはそう言いながらケホッケホッと咳をした。
「兄貴・・・咳、大丈夫か?
ハント家の男が珍しいな・・・。
風邪?」
「ん・・・?
そんなところかな?
フフッ・・・フフフッ」
ハイドはそう意味深に答えると、ニヤニヤと頬を緩めた。
「何で風邪引いといて嬉しそうなんだよ(笑)」
「んー?
お前シャイボーイだからなぁ。
その理由を教えたら顔から火が出そーだからやめとく(笑)」
「???」
彼の弟はキョトンとして首を傾げた。
「・・・そんなお前も今の俺みてーに、空駒鳥ちゃんに髪飾りを作る日がそのうち来るんだろーな。」
「えっ!?
な、何でそこでリーネが出てくるんだよ!」
「いや、お前超判りやすいしバレバレだっつーの!」
「~~~~~!」
兄弟の笑い声が響く夜のハント家だった。
そして、鳩月(6月)3日 ヒルデの15歳の誕生日──。
その日の狩りをいつもより早く終えたハイドは、自宅で獲物の解体を終えてから森の青鹿亭を訪れた。
その時間の森の青鹿亭は夕方からの営業に備えての仕込みの時間で、いつものウエイトレス姿のヒルデが彼を出迎えた。
「よぉ、久しぶり。」
「うん・・・久しぶり。」
「・・・身体の方はどうだ?」
「うん。
マールばあちゃんの薬飲んでるから平気!」
ヒルデは白い歯を見せてアハハ!と笑ってみせる。
(強がりやがって・・・。
末期ならばーちゃんの薬で抑えてても相当きついはずだ・・・。)
ハイドはそう思うもヒルデの気持ちを汲み取り言葉を飲み込んだ。
彼はポーチから出来上がった髪飾りを取り出すと、彼女にそっと手渡した。
「・・・これ、返事を待っている間にお前に作った髪飾り。」
彼女は目をパチクリさせて驚いた後、それをそっと手に取り、目を細めて愛おしげに眺めた。
「・・・これ・・・白百合の花・・・?」
「あぁ。
この間お前の部屋に生けてあったろ?
なんか、お前にピッタリだなと思ったから白百合の髪飾りにした。」
「・・・嬉しい・・。
あたしが一番好きな花なの・・・。
・・・これ、よく見たらレースみたいに繊細な彫り込みなのね・・・。
キラキラした石もついてて・・・凄く綺麗・・・!
・・・ありがとう・・・!」
彼女は頬を染めて胸に髪飾りを当て、花が咲くように微笑んだ。
彼は彼女のその綺麗な微笑みに心を奪われた後、照れくさそうに頭を掻くと歯を見せて笑った。
「これ、あたしへの誕生日プレゼントで作ったの?」
彼女は小首をかしげて彼を見た。
「・・・いや、これは・・・。
ハント家の男が作る髪飾りには特別な意味があって、好きな女につがいを申し込む際贈るものなんだ。
俺の場合成り行き上先につがいを申し込んだから後から渡すことになったけどな。
・・・俺とつがいになってくれるならそれをつけて。
ダメなら捨てていい。」
「・・・・・。」
ヒルデはもう一度それを黙って見つめた後、長い睫毛を伏せるとそっと髪に付けたのだった。
「・・・・・似合う・・・?」
そしてエヘヘと少し照れくさそうに笑った。
「あぁ、スゲー綺麗だ・・・!
・・・ヒルデ!!」
ハイドは堪らなくなって思い切り彼女を抱きしめた!
「ハイド・・・・・。
あたし、この2週間一人でよく考えてみてわかったの・・・あんたへの気持ち・・・。
長くなっちゃうけど、聞いてくれる?」
「あぁ。
全部、聞かせてくれ。」
彼は彼女を抱きしめた腕を少し緩めた。
彼女は少しはにかんで、彼の胸元に頬をつけたままゆっくりと語り始めた。
「・・・あたし、初めてあんたに会った日、”移民だとか関係なく仲良くなりたい”って言われた時から、きっとあんたに惹かれてた・・・。
だけど、あんたに”オトコになったらキスして”って言われたとき、自分が病だってことを無視できなくなった・・・。
これ以上あんたを好きになる前に、距離を置かなくちゃって思った・・・。
だけどあんたはそんなことお構い無しでどんどん好意を伝えてくるから、あたし・・・困ったけど・・・やっぱりすごく嬉しかった・・・。
咳が酷い冬、ヤケになって教室で病のことを言っちゃったあたしにみんなの前でキスしたのも・・・あたしを助けるためだったんだよね・・・?
あの後、マールばあちゃんにあんたとつがいになることを考えてみるように言われて・・・いつかあんたに全てを打ち明けて、つがいになれたら・・・なんて夢見たわ・・・。
だけどそんなときにネオラに現実を突きつけられて、一気に夢から醒めてしまった・・・。
それでもあんたが好きで、あんたの気持ちを繋ぎ止めておきたかったから、卒業式の日に胸を見せたり、スパでも覗き穴の前に座ったりした・・・。
あんたのことを好きな子は沢山いたのに、誰にもあんたを渡したくなかった・・・。
でも病が進行するにつれ、後ろ向きな考えばかりするようになって・・・。
そんなときも、あんたはあたしの唯一の光だった・・・。
あんたが呑気に店に来ては口説いてくれることで、どんなに救われたかしれないわ。
だけど、病のことはやっぱりあんたに言えなかった・・・。
知られてもし拒絶されたら・・・?
そう思うと怖くて、動けなかった・・・・・。
それでずっとあんたから逃げて・・・あんたのことをたくさん傷つけてしまったのに、あんたはずっとずっと真っ直ぐに気持ちをぶつけ続けてくれた・・・。
そして、病のことを知ってて尚、あたしを求めてくれた・・・。
だから、これからのあたしはあんたの手を取って、一緒に明るい未来を歩いていこうと決めたの・・・!」
ヒルデはそう言うと、輝かんばかりの笑顔で笑うのだった。
「あぁ・・・。
その方がお前らしいよ!」
ハイドも優しく笑うと、ヒルデの髪をそっと撫でた。
「これからよろしくね!」
「あぁ、俺を選んだこと、後悔させねーから!」
二人は抱き合ったままキスをして、手と手を絡めた。
そして、その一刻後──。
夕焼けで赤く染まる街道を手を繋いで歩く二人の左手の薬指には、銀色のつがいの指輪がはめられていた。
「女神フェリシア様のご加護って本当なんだね!
嘘みたいに体が軽い!
さっきから咳が全然出ないの!」
ヒルデは嬉しそうにはしゃいでくるくると回る。
「そいつは良かった!
俺もお前の元気な姿が見れて嬉しい。」
穏やかに目を細めて笑うハイド。
「うん・・・ハイドのお陰・・・。」
二人はそのまま見つめ合うと道端で唇を重ねる。
その姿は逆光になり黒く消える。
そっと唇が離れ、二人は照れくさそうにはにかんで、また手を繋いで歩き始めた。
「しかし小鹿ちゃんが髪飾りをつけてくれてマジでホッとした。
もしそこで拒まれてたら、”俺に病を移した責任を取れ”とかせこいこと言って迫ってたところだったからな(笑)」
「えっ・・・それじゃああんた・・・。」
「あぁ・・・ハント家の男って頑丈で風邪とかまず引かねーんだけど、先週くらいからケホケホ咳が出て来てよー。
これが咳か!ってびっくりしたと同時に、小鹿ちゃんと繋がった証みてーで、なんか嬉しかった。」
「う、嬉しいって・・・あんたってホントに馬鹿ね・・・。
洒落にならないじゃない、それ・・・。」
「結果的につがいになって二人揃って病から解放されたんだし、問題ねぇだろ?
それに、運命共同体なら”他の相手に目移りしてつがいを解消される!”なんて余計な心配もいらねーし?」
「あんたってとことん前向きだね・・・。」
「おう。
俺のポジティブシンキングを舐めんなよ?」
二人はアハハハッ!と笑いあった。
「・・・あんたのお父さんとお母さんも、あたしがあんたのつがいになること、快く許してくれて本当に良かった・・・。」
先刻つがいになることを報告しにハント家に立ち寄った時のことを思い出しながら、ヒルデが口を開いた。
「うちは何も問題ねーだろ。
サアラは特にお前と俺が上手くいくようにずっと心配してたくらいだし?
最大の難関はお前の親父の方だろ・・・。
あんだけ娘を溺愛してんだぜ?
お前が病で死期が迫ってなけりゃ、つがいなんて許して貰えなかっただろーしな。」
「そうかな?
なんだかんだであんたのこと好きなんだよ?
あの人。」
「えぇーっ、マジか!?
好きって態度かよあれ・・・。」
「ふふふっ、娘のあたしが言うんだから間違いないって!
ホントに嫌いならあんたを厨房に入れたりしないし、あたしが死にかけててもつがいなんて了承しなかったでしょ?」
「・・・それもそーだな。
あーあ、あの親父とはこれからもバトルしなきゃなんねーだろーな(笑)」
「あんたは昔から手が早かったし、つがいになったりして挿入せずに我慢できんのか!?とか、自分より料理上手で生意気だ!とか、これから色々と言われそうだもんね(笑)
ハイドは絡まれて大変かもしれないど、あたしの一部としてつきあってあげて?」
「・・・しゃーねー。
あの親父ともとことん向き合ってやるよ!
まぁ喧嘩売られても負ける気はねーけど!」
「アハハハ!」
ヒルデはハイドに肩を寄せて見上げながら訊ねた。
「・・・ね、あたしのどこがそんなに気に入ったの?」
ん・・・?とヒルデに頬を寄せつつハイドは答えた。
「まず見た目がストライクだった。
初めてジュニアスクールで見た時すげー美人になるって確信した。
あとは直感?
傍に寄ると好きな匂いがした。」
「は?そんな理由?」
「見た目と直感で何が悪い。
あとはあれが決め手たな。
スカートめくったときの回し蹴り!
この女おもしれー、こいつしかいねーって思った!」
ニシシ!といたずらっぽくハイドは笑った。
それに対してヒルデは軽く引き攣って苦笑いした。
「あー・・・あの時はまだ症状出てなくて元気だったからね・・・。
っていうか、それが決め手ってあんたMなの?
ドSかと思ってたけど。」
「ご明察通りのドSだろーな。
女に暴力ふるわれて喜ぶからMって単純な話じゃねーと思うぜ?
俺は気の強いお前をとことん翻弄して泣かせて征服してーの。
これから覚悟しとけよ?
小鹿ちゃん♪」
「えっ・・・あ、あんたって結構アブノーマルなんじゃ・・・(汗)
・・・つがいになっちゃってよかったのかなって早速後悔してるんだけど・・・。」
ちょっと引き気味に固まるヒルデなのだった。
「なんだと?
そんなこと言うなら今ここでアブノーマルプレイを仕掛けるぞ?」
ハイドはそう言うと耳元の羽根のピアスでヒルデをくすぐり始めた。
「ちょっ、馬鹿っ!や、やめっ・・・」
そんなやり取りをしながら森の青鹿亭に帰り着く二人なのだった。
─追記その1〈翌日、森の青鹿亭にて〉─
春雷の銀狼と華やぐ青鹿がつがいになった日の翌日のランチタイムのことである。
青の鹿模様の小さな箱を持ったハイドが意気揚々と現れ、森の青鹿亭のドアを開けた。
─カランカラン♪─
「あっ、ハイド!いらっしゃい!」
少し混み始めた店内で、両手に料理を持ったヒルデが華やかに笑って声をかけてきた。
「よぉ。小鹿ちゃん。
昼飯食いに来たついでにこれやる。
一日遅れだけど、バースディプレゼントな!」
「えっ、なになに!?
っ・・・と、お料理、お客さんに出してこなくちゃ!
後で行くから、ちょっと待ってて!」
ヒルデはそう言うと別のテーブルに料理を持って行った。
ハイドは空いていたカウンター席に腰掛けると、親父が忙しそうにフライパンをかき回しているのを見て声をかけた。
「クソ親父忙しそーだな。
手伝ってやろーか?」
「何だと害獣!
今日の俺の腰は絶好調!
お前の手伝いなどノーサンキューだ!!」
「ほいほい。
あんま無茶して腰痛めんなよ~。」
ハイドはわざと間の抜けた口調でルルドにエールを送った。
「ハイド!お待たせ!」
接客を終えたヒルデが息を切らして駆け寄ってきた。
「小鹿ちゃん、そんな走んなくてもいーぜ?
プレゼントの中身、今度こそおばちゃんらに食べられないよう俺が守っとくから。」
ハイドはニッと笑ってそう言った。
そのセリフを聞いたヒルデの顔がパアァッ!と明るく華やいだ。
「それじゃ、その箱の中身ってもしかして、マカロン!?」
「正解♪
小鹿ちゃん、俺の誕生日の時、ホントは食べたかったのに我慢したんだろ?
昨日は髪飾りの仕上げがあったから流石にマカロン仕込んでる余裕は無かったし、今日になっちまったけど。
15歳の誕生日おめでと♡
俺のつがいの小鹿ちゃん!」
「ありがとう!
あたしのつがいのハイド・・・♡
でもあたし、あんたの誕生日に何もあげてない・・・。
後で辛い煎餅焼いたげるけど、それだけじゃマカロンと釣り合いが取れないよね・・・。」
と、彼女は悩ましげに眉を寄せた。
そんな彼女の腕を引き、彼は小声で囁いた。
『俺の誕生日なら小鹿ちゃんの部屋で特別なコトしてくれたじゃん?』
『あれはあんたがあたしの手を使ってシただけで、あたしは何もしてないし・・・。』
彼女は申し訳無さそうにまつ毛を伏せた。
「ふーん・・・?」
彼はニヤニヤと悪戯な顔で彼女を眺めると、また耳打ちした。
『・・・じゃ、夜窓の鍵を開けといて。
夜這いに行くから♥』
彼女の顔が真っ赤に染まり頭から蒸気が吹き出した。
そんな二人のやり取りを目にしたマカロンを食べてしまった例の常連客のマダムたちが、二人のつがいの指輪に気がついて「まぁ♡」と声を上げた。
「あらあらまぁまぁ!!
ハイドくんとヒルデちゃん、つがいになったのぉ!?
やぁだぁ~!いつの間にぃ!?
おめでとぉ~~♥」
「おばちゃんたち、どーもサンキュー!」
「ありがとうございます!」
二人は笑って別々の言葉で返事をした。
「ハイドくぅん!
こないだ私達が食べちゃったお菓子なんだけどぉ、フランの町に出稼ぎに行ってる息子と通話器で話してる時ぃ、気になってフランでのお値段を聞いたのね?
そしたらぁ、あれってぇ、す~っごく高価なものだったのねぇ!?
そうとも知らず、ごめんなさいねぇ!
そのお詫びとぉ、二人がつがいになったお祝いにぃ、わたしたちからお店にいる全ての人たちにドリンクを奢るからぁ、みんなで乾杯しないぃ??」
マダムの提案にハイドが乗った!
「おっ!いいね!!」
「わぁ!マダムいいんですか!?
ありがとうございます!」
ヒルデも喜び、笑った。
という訳で、その日の森の青鹿亭のランチタイムは、二人のつがい成就を祝ってハイドとヒルデを囲い、常連客も、たまたま店に来ただけの客も、厨房にいる亭主ルルドも仕事の手を止めて、皆で乾杯してちょっとしたパーティーとなり楽しいひと時を過ごす春雷の銀狼と華やぐ青鹿なのだった♪
─追記その2〈男3人祝賀会〉─
ハイドはヒルデとつがいになった日の帰宅してすぐ、ガロとの通信に使っている鳩を呼ぶと足元の筒に文を入れて飛ばした。
文には、
─今日ヒルデとつがいになったぜ!
ガロには色々心配かけたな!
約束の一つはこれで果たせたな。
今度久々に飲まねー?─
と書いてあった。
それを読んだ親友は、
「おっ!ついにやったか!!」
と喜ぶと、
─やりやがったなコノヤロー!
今度の休みに親父の酒適当に拝借して祝杯に行くわ!
んじゃまたな─
と返事を書いて鳩を飛ばすのだった。
そして、数日後の晩。
ハイドの部屋に久しぶりにガロが来ていた。
「ライキも来いよ!」
ハイドとガロが誘ったので、ライキも加わった3人でハイドの部屋で飲むことになった。
フェリシア神国において未成年の飲酒は禁止されているが、ワイン造りに力を入れているフォレストサイド村の認識においては未成年の飲酒に関しては比較的寛容で、食事と共に軽めのワインを子供に飲ませる家庭もあるほどだ。
それに加え、ハイドとガロは不良に該当する青年なのもあり、こうしてたまに会ってはこっそりと飲酒しており、親もたまになら良いだろと黙認していた。
ハイドの部屋のローテーブルにはガロが持ってきた酒とジュース、グラスと魔石で作った氷、更にハイドが用意したおつまみ(フライドポテトやチーズ、チョリソーソーセージ)が置かれており、ガロが最初にシャンパンのボトルをあけて3つのグラスにそれを注いだ。
「「「乾杯!!!」」」
3人でグラスを合わせる。
「いやーマジでホッとしたわ!
つがい成就おめでと!」
ガロが歯を見せて笑って親友の背中をバシッ!と叩いた。
「サンキュー!
つがいにするまで結構手間取っちまったし、お前にはマジで心配かけたよな。」
「これでオレも16になったら心置きなくスベイルに旅立てるわ。
ま、オレの誕生日鶫月(2月)だし、春になるのを待ってから旅立つからよ。
1年弱はお前らの幸せなとこ見れそーだわ。
マジで良かった!」
と言いながらグラスを呷るガロ。
ライキは二人がそんな話をしているのをニコニコ聞きながら、グラスに注がれたシュワシュワした飲み物を飲んでいいのかな・・・とじーっと眺めていた。
「あぁー、シャンパンはアルコール度数高めだからお前はやめといたほーがいいぜ?」
とハイドが弟に言った。
「あれ、ライキアルコール駄目なの?」
ガロが尋ねた。
「こいつすげー弱ぇーの。
シャンパンなら2~3口飲んだらおねんねするんじゃね?(笑)」
「マジで?
なら一応コーラも持ってきたからこっちにしとくか?
折角の祝杯なのに即潰れたら勿体ねーし。」
ガロはコーラの栓を開けるとグラスに注いでライキに渡した。
「ありがとう!ガロさん!」
ライキは嬉しそうに笑うとコーラに口をつけた。
「んで、今日はヒルデほったらかしてオレらと飲んでて良かったのか?」
とガロ。
「いーの。
青鹿亭の営業日は小鹿ちゃんのあがりも遅いし、うちには連れ込めねーから小鹿ちゃんの部屋に直接夜這いに行ってるんだけどさぁ。
今日はお前が来るから早めにイチャついてきた♥
終わったあと「小鹿ちゃんも来る?」って誘ったんだけどよ、あっちの親父が”夜中に男の部屋になんか行ったら絶対駄目だ”って言うから連れ出せなかったわ。
まぁヤローだけで飲むのも、遠慮なくあけすけな話が出来ていいじゃん?」
「そーだな。
んで、そのヒルデとは??
どこまで進んでんの??」
ガロがニヤニヤと身を乗り出して訊いてきた。
「あ~・・・小鹿ちゃんあぁ見えて初心だからなぁ・・・。
生々しいコトとか全然知らねーから、まだたどたどしい手コキ止まりだわ。
ま、それも可愛いけどな!」
まだ12歳のライキには兄の言うことが刺激的だったようで、真っ赤になって口元を波打たせ、俯いた。
「俺は小鹿ちゃんに色々エロいことして泣かせたいんだけどよ、刺激が強すぎるとすぐグーパンとか足蹴りとか頭突きとか金的とかかましてくるんだよ(汗)
小鹿ちゃん元冒険者やってた親父譲りなのか、力もあるし技のキレが異様に良くて俺でも避けられねーの・・・。
ありゃ格闘における天性の才があるぜ?」
「マジかよ!
そいつは大変だな(笑)
でもヒルデってそんな初心なんだ?
良く本読んでるのに、エロいの読まねぇのか?」
とガロ。
「いや、俺もそう思って小鹿ちゃんが用足しに行ってる間にこっそり家探ししたんだよ。
そしたらエロい小説をベットの下に隠してあるのを発見して、おっ?どんなの読んでんのかな?ってワクワクしながら読んでみたらさ。
ひたすらロマンチック、つーの?
なんかチンコが痒くなりそーなラブポエム満載のやつだったわ。
あれが多分小鹿ちゃんの持ってるエロ知識の源。
これから先が思いやられるわ・・・。」
「アハハ!
そいつは同情する(笑)」
と苦笑いするガロ。
ライキもこれは大丈夫だったのか「アハハ!」と笑った。
「まぁ、これから2年もつがいやってくんだし、いきなり進みすぎても先が辛いじゃん?
ある意味開発し甲斐があるっつーか。
ゆっくり小鹿ちゃんに合わせて進めていくわ。」
「おう、そーしろそーしろ!
・・・所でライキは好きな子とかいんの?」
ガロが隣に座るライキに話題を振った。
「えっ!?俺っ!?
・・・えっ、えぇーっと・・・。」
ライキが真っ赤になって目を泳がせソワソワしたので、ハイドがニヤリとほくそ笑んでシャンパンをグラスに注ぎながら言った。
「・・・こいつ、薬屋の空駒鳥ちゃんが好きなんだぜ?」
「わぁーーー兄貴!!
何で言うんだよ!?」
「なんでって、ちゃんと言って牽制しとかないと、ガロが恋のライバルになったら厄介だぜ?
ガロは女ウケいいしモテっからな!」
兄の言葉にピクッと反応したライキは警戒して眉をひそめながらそっとガロを見た。
ハイドは弟のその様子を楽しそうに見てクククッと笑いながらシャンパンを呷った。
当のガロは”空駒鳥ちゃん”の姿を頭の中から探し、ようやく思い当たったのか左手の上に握った右手をぽんっ!と乗せた。
「あぁ!
あの淡金の髪の色白で華奢な可愛い子か!
でもまだライキと同じ12だろ?
ないない。
あと2~3年すりゃ射程に入るから口説いたかもしれねーが、ライキの好きな子ならちょっかい出さないから安心しな?」
ライキはホッとして表情を緩めた。
ガロは空になったグラスにシャンパンを注ぎながら言った。
「あの子ならたまにばーちゃんと一緒にうちに来るぜ?
何なら覗き穴を教えてやろーか?」
ガロはニヤリと笑ってシャンパンを呷った。
「覗き穴??」
ライキは目をパチクリとさせた。
「いやいや、ライキはまだオトコになってねーし、俺らと違ってシャイボーイだからそんなん見せたら卒倒するって!」
「えっ、まだ精通ねーの?
その年にしちゃ背があんのにな?」
「まぁそーいうのは見た目に関係なく個人差があるんじゃね?
俺とお前は11のときで、クラスでも早い方だったじゃん?」
「ちょっと兄貴、なんでまだ俺がオトコじゃないとか知ってんだよ!」
ライキが顔を赤く染めて眉を吊り上げて抗議した。
「んー?
部屋に入ったときの匂いとか寝起きの股間とか見りゃ一目瞭然だぜ?
だが勃起はまだでも空駒鳥ちゃんネタに多少チンコ弄ったりはシてるよな?」
酔いが回っていつもより意地悪さが増したハイドがニヤニヤしながら暴露した。
「なっ、なっ、なっ・・・何でそんなこと知ってんだよ!?」
「んん~?
ここの壁薄いからたま~に聞こえてくるんだよなぁ。
リーネ、リーネって熱に浮かされた切なげな声がさぁ(笑)」
「~~~~~!
兄貴だって聞こえてんだよ!
小鹿ちゃん小鹿ちゃんって毎日のように熱に浮かされてんのが!
このエロバカ兄貴!!」
ライキは真っ赤になって兄に向かって乱暴にクッションを投げつけた。
「へへへっ!
それはつがいになる前の話だろ?
俺はもう自分で抜かなくても・・・ぶっ!」
ハイドは酔っているせいか反応が遅れてVサインを出したままそれを思いきり顔面に食らった。
「ガ、ガロさんはどうなんだよ?
誰かつがいにしたい人とかいないのか!?」
ライキはハイドにこれ以上からかわれるネタを与えたくなくてガロに話題を振った。
「あー、つがい?
ねぇよねぇ!ひっく・・・
いい女はみんな好きだけど、特定の女に縛られんのは嫌なのオレ・・・ぐすっ。」
「す、すげーガロさん・・・。
なんか遊びに・・・あ、えーと、余裕のあるオトナの発言・・・?」
ライキは引きつって笑い、そう呟いた。
「ガロは7歳の時からそんなこと言ってっからなぁ・・・。
だがそんなんで驚くのは早いぜ?
ガロはなんと非童貞だから!
後学のためにもガロが旅に出ちまう前にいろいろ聞いとくといいぜ?
ムッツリスケベのライキくん♡」
意地悪がグレードアップ中のハイドがニシシ!と笑ってシャンパンをまたグラスに注ごうとするが、もうボトルの中身が空だったため、ガロの持ってきた酒の中からダークラムのボトルを見つけて「おっ、いいのあるじゃん♪」と言って鼻歌交じりにグラスに注いだ。
「えっ、ええっ!?
ど、どういうこと!!?
相手の人は!?」
一方ライキは席を立って身を乗り出しガロに詳しく訊いていた。
「ってもオレが経験したのってたった一人だけだぜ?
相手は一個上の幼馴染みの女だよ・・・。
あいつんち弟妹が沢山いて、生活が厳しいからよぉ・・・。
家のために16になったらスベイルに働きに行くっつーて・・・ひっく・・・健気だろ?
その健気な幼馴染みがよ、その前に経験しときたいってオレを誘うんだよ・・・ぐすっ。
普段地味で目立たねー大人しい女なんだが、何か妙に艶かしくて忘れられねーくらい良かったわ・・・ぐすっ。
そんなことでもなけりゃあいつの魅力に気がつかなかったかもな・・・ぐすっ・・・ぐすっ。
まぁ化粧映えしそーだしスタイルも抜群で根性もあるから・・・スベイルで成功して売れっ子の嬢になるんじゃねーかと思ってんだよ・・・。
しくしくしく・・・」
ガロは涙を流しながら語った。
「・・・もしかして、その人、ガロさんのことを好きだったんじゃ・・・?」
ライキがガロにつられて物悲しそうに眉をひそめて言った。
「ひっく・・・どーだろうな。
相手もオレがこういう質のヤツだとわかった上でのことだったし・・・もうスベイルに行っちまったから知る由もねー・・・ぐすっ。
でももしオレがスベイルに行ったときにあいつと会えたら・・・またエッチしよーぜ?って誘ってみっかな・・・ぐすぐすっ。
その頃にはもうオレなんかが手が出せねーくらいの売れっ子嬢になってるかもしれねーけどなぁ・・・・うわぁぁぁん・・・」
「・・・ガロさん遊び人な人だと思ったけど一途なんだな・・・。
その人とまた会えるよう俺フェリシア様に祈っとくから・・・元気だしてよ。」
ライキがガロを慰めて背中をさすった。
「ギャハハハ!
ライキ、騙されてやんの!!
ガロは酔いが回ると泣き上戸になるだけで、他の女とヤれるチャンスがありゃすぐヤる油断ならねーヤローだかんな!?
ギャハハハハ!」
腹を抱えてハイドが笑う。
「え、そーなの?」
ライキは顔をひくつかせるとガロを慰めた事を後悔して背中をさすっていた手を引っ込めた。
「確かに後腐れなさそーな女に誘われりゃあヤっちまうけどよぉ・・・しくしくしく。」
「・・・・・。」
ライキはガロに軽蔑の眼差しを向けた。
「ライキ!
お前は兄と違って優しいやつだよなぁ・・・!?
もっと慰めてくれよぉぉ・・・ぐすっ。
お前がオトコになったら、そんときはオレはもうスベイルに行っちまってていねーかもしれねーけどよぉ・・・ぐすっ・・・ぐすっ
遠慮なくオレの覗き穴を使っていいからなぁマジで・・・!
覗き穴の場所なら・・・ぐすっ・・・ハイドが知ってるからよぉ・・・
だからそんな冷たい目でオレを見ないでぇぇ・・・!
うわぁぁぁん!!」
涙をボロボロ溢しながらガロが言った。
「えっ・・・別にいい・・・。
覗いてるのがバレたらリーネに一生口利いてもらえなくなりそうだし・・・。」
「ギャハハハ!
ライキに断られてやんの!
まぁ、あの子がヒルデみてーにMじゃなけりゃーバレたらおしまいだろーし賢明な判断だぜ!?
ギャハハハ!」
究極に酔っ払って最大限に意地悪くなったハイドが大きく口を開けて笑った。
「しくしく・・・
ヒルデのこと勝手にMだと決めつけて・・・ひでぇヤローだ・・・。
しくしくしく・・・」
一方でガロも究極に酔っぱらい泣き上戸がクライマックスに差し掛かっていた。
「だってそうじゃなきゃ女湯覗いたとき、いくら俺に他の女の裸を見せたくねーからって、わざわざ覗き穴の前に自ら座って洗わねーだろ!
本人自覚ないみてーだけど、絶対そっちだって!
あぁ~、あん時の羞恥した顔思い出したら今でも漲るわ!
いつか手足を拘束して俺の与える快楽を逃すことなく受け入れるしかなくって泣きじゃくる小鹿ちゃんをガンガンに犯してぇなぁ・・・!」
「かわいそーに、ヒルデ・・・。
こんな歪んだ性癖の変態ドSヤローに捕まっちまって・・・しくしくしく・・・」
ガロはそう言って泣き崩れながら横になり、そのまま涙を拭く姿勢で動かなくなり、やがてすー、すー、と寝息を立て始めた。
「クックックッ!
ガロ先に潰れたな!?
あぁ~でも小鹿ちゃんマジで最高♥
つがいになれて良かったわホント・・・。
小鹿ちゃんアイシテル♥」
ハイドは横になってさっきライキが投げたクッションをヒルデに見立てて抱きしめてキスしたまま動かなくなり、くかー、くかー・・・と寝息を立て始めた。
急に静かになった兄の部屋で、酔い潰れて寝てしまった二人を呆れながら眺めたライキはため息をついた。
「あーあ、二人共潰れちまった。
酒は飲んでも飲まれるな。
こんな駄目な不良にならないよう俺は気をつけよう。
あ、コーラが残ってら。
勿体ないから全部飲んでしまおう。」
と、ライキは近くにあった茶色い液体の入ったグラスを一気に呷った。
その直後、クルクルと目を回してバタン!と机に突っ伏した。
ライキの飲んだそれはハイドが飲みかけていたダークラムだった!
そして、男3人の祝賀会は全員が酔い潰れたためお開きになるのだった!
今夜も自分の部屋で、木片を丁寧にナイフで削り、形を作っていく。
その様子を12歳になったライキが傍らで興味深そうに眺めていた。
「・・・兄貴が最近作ってるそれ・・・大分形になってきたな。
百合の花?」
「あぁ・・・あいつに似合いそうだから。
髪が青だから、花の色は目立つように白がいいな。」
「青い髪ってやっぱりそうか!
兄貴が前々から通ってる”森の青鹿亭”の”華やぐ青鹿”のお姉さんにあげるんだな!!」
ライキはへぇ!と身を乗り出した。
「そう。
ヒルデっつーの。
こないだの俺の誕生日にヒルデに告白して、つがいを申し込んだんだ。
もうすぐ来るあいつの誕生日にその返事を貰う約束をした。
そんときに、これを渡す。」
「そっか・・・。
ハント家の習わしの髪飾りか・・・。」
「あぁ。
親父もじーちゃんも曾じーちゃんも、その先祖代々俺らの遠い先祖ヘイズ・ハントに遡るまでずっと行われてきたっていう、意中の女につがいを申し込むときに髪飾りを贈るってやつな。
俺の場合成り行きで先につがいを申し込んじまったから、後から渡すことになったけどな。
迷信めいてはいるが、過去のつがい成就率は100%らしいし、その恩恵にあやかりたいじゃん?」
「そっか・・・。
上手くいくようフェリシア様に祈っとく。」
「ははっ、何だかお前の祈りはマジで効き目ありそうだから頼むよ(笑)」
ハイドはそう言いながらケホッケホッと咳をした。
「兄貴・・・咳、大丈夫か?
ハント家の男が珍しいな・・・。
風邪?」
「ん・・・?
そんなところかな?
フフッ・・・フフフッ」
ハイドはそう意味深に答えると、ニヤニヤと頬を緩めた。
「何で風邪引いといて嬉しそうなんだよ(笑)」
「んー?
お前シャイボーイだからなぁ。
その理由を教えたら顔から火が出そーだからやめとく(笑)」
「???」
彼の弟はキョトンとして首を傾げた。
「・・・そんなお前も今の俺みてーに、空駒鳥ちゃんに髪飾りを作る日がそのうち来るんだろーな。」
「えっ!?
な、何でそこでリーネが出てくるんだよ!」
「いや、お前超判りやすいしバレバレだっつーの!」
「~~~~~!」
兄弟の笑い声が響く夜のハント家だった。
そして、鳩月(6月)3日 ヒルデの15歳の誕生日──。
その日の狩りをいつもより早く終えたハイドは、自宅で獲物の解体を終えてから森の青鹿亭を訪れた。
その時間の森の青鹿亭は夕方からの営業に備えての仕込みの時間で、いつものウエイトレス姿のヒルデが彼を出迎えた。
「よぉ、久しぶり。」
「うん・・・久しぶり。」
「・・・身体の方はどうだ?」
「うん。
マールばあちゃんの薬飲んでるから平気!」
ヒルデは白い歯を見せてアハハ!と笑ってみせる。
(強がりやがって・・・。
末期ならばーちゃんの薬で抑えてても相当きついはずだ・・・。)
ハイドはそう思うもヒルデの気持ちを汲み取り言葉を飲み込んだ。
彼はポーチから出来上がった髪飾りを取り出すと、彼女にそっと手渡した。
「・・・これ、返事を待っている間にお前に作った髪飾り。」
彼女は目をパチクリさせて驚いた後、それをそっと手に取り、目を細めて愛おしげに眺めた。
「・・・これ・・・白百合の花・・・?」
「あぁ。
この間お前の部屋に生けてあったろ?
なんか、お前にピッタリだなと思ったから白百合の髪飾りにした。」
「・・・嬉しい・・。
あたしが一番好きな花なの・・・。
・・・これ、よく見たらレースみたいに繊細な彫り込みなのね・・・。
キラキラした石もついてて・・・凄く綺麗・・・!
・・・ありがとう・・・!」
彼女は頬を染めて胸に髪飾りを当て、花が咲くように微笑んだ。
彼は彼女のその綺麗な微笑みに心を奪われた後、照れくさそうに頭を掻くと歯を見せて笑った。
「これ、あたしへの誕生日プレゼントで作ったの?」
彼女は小首をかしげて彼を見た。
「・・・いや、これは・・・。
ハント家の男が作る髪飾りには特別な意味があって、好きな女につがいを申し込む際贈るものなんだ。
俺の場合成り行き上先につがいを申し込んだから後から渡すことになったけどな。
・・・俺とつがいになってくれるならそれをつけて。
ダメなら捨てていい。」
「・・・・・。」
ヒルデはもう一度それを黙って見つめた後、長い睫毛を伏せるとそっと髪に付けたのだった。
「・・・・・似合う・・・?」
そしてエヘヘと少し照れくさそうに笑った。
「あぁ、スゲー綺麗だ・・・!
・・・ヒルデ!!」
ハイドは堪らなくなって思い切り彼女を抱きしめた!
「ハイド・・・・・。
あたし、この2週間一人でよく考えてみてわかったの・・・あんたへの気持ち・・・。
長くなっちゃうけど、聞いてくれる?」
「あぁ。
全部、聞かせてくれ。」
彼は彼女を抱きしめた腕を少し緩めた。
彼女は少しはにかんで、彼の胸元に頬をつけたままゆっくりと語り始めた。
「・・・あたし、初めてあんたに会った日、”移民だとか関係なく仲良くなりたい”って言われた時から、きっとあんたに惹かれてた・・・。
だけど、あんたに”オトコになったらキスして”って言われたとき、自分が病だってことを無視できなくなった・・・。
これ以上あんたを好きになる前に、距離を置かなくちゃって思った・・・。
だけどあんたはそんなことお構い無しでどんどん好意を伝えてくるから、あたし・・・困ったけど・・・やっぱりすごく嬉しかった・・・。
咳が酷い冬、ヤケになって教室で病のことを言っちゃったあたしにみんなの前でキスしたのも・・・あたしを助けるためだったんだよね・・・?
あの後、マールばあちゃんにあんたとつがいになることを考えてみるように言われて・・・いつかあんたに全てを打ち明けて、つがいになれたら・・・なんて夢見たわ・・・。
だけどそんなときにネオラに現実を突きつけられて、一気に夢から醒めてしまった・・・。
それでもあんたが好きで、あんたの気持ちを繋ぎ止めておきたかったから、卒業式の日に胸を見せたり、スパでも覗き穴の前に座ったりした・・・。
あんたのことを好きな子は沢山いたのに、誰にもあんたを渡したくなかった・・・。
でも病が進行するにつれ、後ろ向きな考えばかりするようになって・・・。
そんなときも、あんたはあたしの唯一の光だった・・・。
あんたが呑気に店に来ては口説いてくれることで、どんなに救われたかしれないわ。
だけど、病のことはやっぱりあんたに言えなかった・・・。
知られてもし拒絶されたら・・・?
そう思うと怖くて、動けなかった・・・・・。
それでずっとあんたから逃げて・・・あんたのことをたくさん傷つけてしまったのに、あんたはずっとずっと真っ直ぐに気持ちをぶつけ続けてくれた・・・。
そして、病のことを知ってて尚、あたしを求めてくれた・・・。
だから、これからのあたしはあんたの手を取って、一緒に明るい未来を歩いていこうと決めたの・・・!」
ヒルデはそう言うと、輝かんばかりの笑顔で笑うのだった。
「あぁ・・・。
その方がお前らしいよ!」
ハイドも優しく笑うと、ヒルデの髪をそっと撫でた。
「これからよろしくね!」
「あぁ、俺を選んだこと、後悔させねーから!」
二人は抱き合ったままキスをして、手と手を絡めた。
そして、その一刻後──。
夕焼けで赤く染まる街道を手を繋いで歩く二人の左手の薬指には、銀色のつがいの指輪がはめられていた。
「女神フェリシア様のご加護って本当なんだね!
嘘みたいに体が軽い!
さっきから咳が全然出ないの!」
ヒルデは嬉しそうにはしゃいでくるくると回る。
「そいつは良かった!
俺もお前の元気な姿が見れて嬉しい。」
穏やかに目を細めて笑うハイド。
「うん・・・ハイドのお陰・・・。」
二人はそのまま見つめ合うと道端で唇を重ねる。
その姿は逆光になり黒く消える。
そっと唇が離れ、二人は照れくさそうにはにかんで、また手を繋いで歩き始めた。
「しかし小鹿ちゃんが髪飾りをつけてくれてマジでホッとした。
もしそこで拒まれてたら、”俺に病を移した責任を取れ”とかせこいこと言って迫ってたところだったからな(笑)」
「えっ・・・それじゃああんた・・・。」
「あぁ・・・ハント家の男って頑丈で風邪とかまず引かねーんだけど、先週くらいからケホケホ咳が出て来てよー。
これが咳か!ってびっくりしたと同時に、小鹿ちゃんと繋がった証みてーで、なんか嬉しかった。」
「う、嬉しいって・・・あんたってホントに馬鹿ね・・・。
洒落にならないじゃない、それ・・・。」
「結果的につがいになって二人揃って病から解放されたんだし、問題ねぇだろ?
それに、運命共同体なら”他の相手に目移りしてつがいを解消される!”なんて余計な心配もいらねーし?」
「あんたってとことん前向きだね・・・。」
「おう。
俺のポジティブシンキングを舐めんなよ?」
二人はアハハハッ!と笑いあった。
「・・・あんたのお父さんとお母さんも、あたしがあんたのつがいになること、快く許してくれて本当に良かった・・・。」
先刻つがいになることを報告しにハント家に立ち寄った時のことを思い出しながら、ヒルデが口を開いた。
「うちは何も問題ねーだろ。
サアラは特にお前と俺が上手くいくようにずっと心配してたくらいだし?
最大の難関はお前の親父の方だろ・・・。
あんだけ娘を溺愛してんだぜ?
お前が病で死期が迫ってなけりゃ、つがいなんて許して貰えなかっただろーしな。」
「そうかな?
なんだかんだであんたのこと好きなんだよ?
あの人。」
「えぇーっ、マジか!?
好きって態度かよあれ・・・。」
「ふふふっ、娘のあたしが言うんだから間違いないって!
ホントに嫌いならあんたを厨房に入れたりしないし、あたしが死にかけててもつがいなんて了承しなかったでしょ?」
「・・・それもそーだな。
あーあ、あの親父とはこれからもバトルしなきゃなんねーだろーな(笑)」
「あんたは昔から手が早かったし、つがいになったりして挿入せずに我慢できんのか!?とか、自分より料理上手で生意気だ!とか、これから色々と言われそうだもんね(笑)
ハイドは絡まれて大変かもしれないど、あたしの一部としてつきあってあげて?」
「・・・しゃーねー。
あの親父ともとことん向き合ってやるよ!
まぁ喧嘩売られても負ける気はねーけど!」
「アハハハ!」
ヒルデはハイドに肩を寄せて見上げながら訊ねた。
「・・・ね、あたしのどこがそんなに気に入ったの?」
ん・・・?とヒルデに頬を寄せつつハイドは答えた。
「まず見た目がストライクだった。
初めてジュニアスクールで見た時すげー美人になるって確信した。
あとは直感?
傍に寄ると好きな匂いがした。」
「は?そんな理由?」
「見た目と直感で何が悪い。
あとはあれが決め手たな。
スカートめくったときの回し蹴り!
この女おもしれー、こいつしかいねーって思った!」
ニシシ!といたずらっぽくハイドは笑った。
それに対してヒルデは軽く引き攣って苦笑いした。
「あー・・・あの時はまだ症状出てなくて元気だったからね・・・。
っていうか、それが決め手ってあんたMなの?
ドSかと思ってたけど。」
「ご明察通りのドSだろーな。
女に暴力ふるわれて喜ぶからMって単純な話じゃねーと思うぜ?
俺は気の強いお前をとことん翻弄して泣かせて征服してーの。
これから覚悟しとけよ?
小鹿ちゃん♪」
「えっ・・・あ、あんたって結構アブノーマルなんじゃ・・・(汗)
・・・つがいになっちゃってよかったのかなって早速後悔してるんだけど・・・。」
ちょっと引き気味に固まるヒルデなのだった。
「なんだと?
そんなこと言うなら今ここでアブノーマルプレイを仕掛けるぞ?」
ハイドはそう言うと耳元の羽根のピアスでヒルデをくすぐり始めた。
「ちょっ、馬鹿っ!や、やめっ・・・」
そんなやり取りをしながら森の青鹿亭に帰り着く二人なのだった。
─追記その1〈翌日、森の青鹿亭にて〉─
春雷の銀狼と華やぐ青鹿がつがいになった日の翌日のランチタイムのことである。
青の鹿模様の小さな箱を持ったハイドが意気揚々と現れ、森の青鹿亭のドアを開けた。
─カランカラン♪─
「あっ、ハイド!いらっしゃい!」
少し混み始めた店内で、両手に料理を持ったヒルデが華やかに笑って声をかけてきた。
「よぉ。小鹿ちゃん。
昼飯食いに来たついでにこれやる。
一日遅れだけど、バースディプレゼントな!」
「えっ、なになに!?
っ・・・と、お料理、お客さんに出してこなくちゃ!
後で行くから、ちょっと待ってて!」
ヒルデはそう言うと別のテーブルに料理を持って行った。
ハイドは空いていたカウンター席に腰掛けると、親父が忙しそうにフライパンをかき回しているのを見て声をかけた。
「クソ親父忙しそーだな。
手伝ってやろーか?」
「何だと害獣!
今日の俺の腰は絶好調!
お前の手伝いなどノーサンキューだ!!」
「ほいほい。
あんま無茶して腰痛めんなよ~。」
ハイドはわざと間の抜けた口調でルルドにエールを送った。
「ハイド!お待たせ!」
接客を終えたヒルデが息を切らして駆け寄ってきた。
「小鹿ちゃん、そんな走んなくてもいーぜ?
プレゼントの中身、今度こそおばちゃんらに食べられないよう俺が守っとくから。」
ハイドはニッと笑ってそう言った。
そのセリフを聞いたヒルデの顔がパアァッ!と明るく華やいだ。
「それじゃ、その箱の中身ってもしかして、マカロン!?」
「正解♪
小鹿ちゃん、俺の誕生日の時、ホントは食べたかったのに我慢したんだろ?
昨日は髪飾りの仕上げがあったから流石にマカロン仕込んでる余裕は無かったし、今日になっちまったけど。
15歳の誕生日おめでと♡
俺のつがいの小鹿ちゃん!」
「ありがとう!
あたしのつがいのハイド・・・♡
でもあたし、あんたの誕生日に何もあげてない・・・。
後で辛い煎餅焼いたげるけど、それだけじゃマカロンと釣り合いが取れないよね・・・。」
と、彼女は悩ましげに眉を寄せた。
そんな彼女の腕を引き、彼は小声で囁いた。
『俺の誕生日なら小鹿ちゃんの部屋で特別なコトしてくれたじゃん?』
『あれはあんたがあたしの手を使ってシただけで、あたしは何もしてないし・・・。』
彼女は申し訳無さそうにまつ毛を伏せた。
「ふーん・・・?」
彼はニヤニヤと悪戯な顔で彼女を眺めると、また耳打ちした。
『・・・じゃ、夜窓の鍵を開けといて。
夜這いに行くから♥』
彼女の顔が真っ赤に染まり頭から蒸気が吹き出した。
そんな二人のやり取りを目にしたマカロンを食べてしまった例の常連客のマダムたちが、二人のつがいの指輪に気がついて「まぁ♡」と声を上げた。
「あらあらまぁまぁ!!
ハイドくんとヒルデちゃん、つがいになったのぉ!?
やぁだぁ~!いつの間にぃ!?
おめでとぉ~~♥」
「おばちゃんたち、どーもサンキュー!」
「ありがとうございます!」
二人は笑って別々の言葉で返事をした。
「ハイドくぅん!
こないだ私達が食べちゃったお菓子なんだけどぉ、フランの町に出稼ぎに行ってる息子と通話器で話してる時ぃ、気になってフランでのお値段を聞いたのね?
そしたらぁ、あれってぇ、す~っごく高価なものだったのねぇ!?
そうとも知らず、ごめんなさいねぇ!
そのお詫びとぉ、二人がつがいになったお祝いにぃ、わたしたちからお店にいる全ての人たちにドリンクを奢るからぁ、みんなで乾杯しないぃ??」
マダムの提案にハイドが乗った!
「おっ!いいね!!」
「わぁ!マダムいいんですか!?
ありがとうございます!」
ヒルデも喜び、笑った。
という訳で、その日の森の青鹿亭のランチタイムは、二人のつがい成就を祝ってハイドとヒルデを囲い、常連客も、たまたま店に来ただけの客も、厨房にいる亭主ルルドも仕事の手を止めて、皆で乾杯してちょっとしたパーティーとなり楽しいひと時を過ごす春雷の銀狼と華やぐ青鹿なのだった♪
─追記その2〈男3人祝賀会〉─
ハイドはヒルデとつがいになった日の帰宅してすぐ、ガロとの通信に使っている鳩を呼ぶと足元の筒に文を入れて飛ばした。
文には、
─今日ヒルデとつがいになったぜ!
ガロには色々心配かけたな!
約束の一つはこれで果たせたな。
今度久々に飲まねー?─
と書いてあった。
それを読んだ親友は、
「おっ!ついにやったか!!」
と喜ぶと、
─やりやがったなコノヤロー!
今度の休みに親父の酒適当に拝借して祝杯に行くわ!
んじゃまたな─
と返事を書いて鳩を飛ばすのだった。
そして、数日後の晩。
ハイドの部屋に久しぶりにガロが来ていた。
「ライキも来いよ!」
ハイドとガロが誘ったので、ライキも加わった3人でハイドの部屋で飲むことになった。
フェリシア神国において未成年の飲酒は禁止されているが、ワイン造りに力を入れているフォレストサイド村の認識においては未成年の飲酒に関しては比較的寛容で、食事と共に軽めのワインを子供に飲ませる家庭もあるほどだ。
それに加え、ハイドとガロは不良に該当する青年なのもあり、こうしてたまに会ってはこっそりと飲酒しており、親もたまになら良いだろと黙認していた。
ハイドの部屋のローテーブルにはガロが持ってきた酒とジュース、グラスと魔石で作った氷、更にハイドが用意したおつまみ(フライドポテトやチーズ、チョリソーソーセージ)が置かれており、ガロが最初にシャンパンのボトルをあけて3つのグラスにそれを注いだ。
「「「乾杯!!!」」」
3人でグラスを合わせる。
「いやーマジでホッとしたわ!
つがい成就おめでと!」
ガロが歯を見せて笑って親友の背中をバシッ!と叩いた。
「サンキュー!
つがいにするまで結構手間取っちまったし、お前にはマジで心配かけたよな。」
「これでオレも16になったら心置きなくスベイルに旅立てるわ。
ま、オレの誕生日鶫月(2月)だし、春になるのを待ってから旅立つからよ。
1年弱はお前らの幸せなとこ見れそーだわ。
マジで良かった!」
と言いながらグラスを呷るガロ。
ライキは二人がそんな話をしているのをニコニコ聞きながら、グラスに注がれたシュワシュワした飲み物を飲んでいいのかな・・・とじーっと眺めていた。
「あぁー、シャンパンはアルコール度数高めだからお前はやめといたほーがいいぜ?」
とハイドが弟に言った。
「あれ、ライキアルコール駄目なの?」
ガロが尋ねた。
「こいつすげー弱ぇーの。
シャンパンなら2~3口飲んだらおねんねするんじゃね?(笑)」
「マジで?
なら一応コーラも持ってきたからこっちにしとくか?
折角の祝杯なのに即潰れたら勿体ねーし。」
ガロはコーラの栓を開けるとグラスに注いでライキに渡した。
「ありがとう!ガロさん!」
ライキは嬉しそうに笑うとコーラに口をつけた。
「んで、今日はヒルデほったらかしてオレらと飲んでて良かったのか?」
とガロ。
「いーの。
青鹿亭の営業日は小鹿ちゃんのあがりも遅いし、うちには連れ込めねーから小鹿ちゃんの部屋に直接夜這いに行ってるんだけどさぁ。
今日はお前が来るから早めにイチャついてきた♥
終わったあと「小鹿ちゃんも来る?」って誘ったんだけどよ、あっちの親父が”夜中に男の部屋になんか行ったら絶対駄目だ”って言うから連れ出せなかったわ。
まぁヤローだけで飲むのも、遠慮なくあけすけな話が出来ていいじゃん?」
「そーだな。
んで、そのヒルデとは??
どこまで進んでんの??」
ガロがニヤニヤと身を乗り出して訊いてきた。
「あ~・・・小鹿ちゃんあぁ見えて初心だからなぁ・・・。
生々しいコトとか全然知らねーから、まだたどたどしい手コキ止まりだわ。
ま、それも可愛いけどな!」
まだ12歳のライキには兄の言うことが刺激的だったようで、真っ赤になって口元を波打たせ、俯いた。
「俺は小鹿ちゃんに色々エロいことして泣かせたいんだけどよ、刺激が強すぎるとすぐグーパンとか足蹴りとか頭突きとか金的とかかましてくるんだよ(汗)
小鹿ちゃん元冒険者やってた親父譲りなのか、力もあるし技のキレが異様に良くて俺でも避けられねーの・・・。
ありゃ格闘における天性の才があるぜ?」
「マジかよ!
そいつは大変だな(笑)
でもヒルデってそんな初心なんだ?
良く本読んでるのに、エロいの読まねぇのか?」
とガロ。
「いや、俺もそう思って小鹿ちゃんが用足しに行ってる間にこっそり家探ししたんだよ。
そしたらエロい小説をベットの下に隠してあるのを発見して、おっ?どんなの読んでんのかな?ってワクワクしながら読んでみたらさ。
ひたすらロマンチック、つーの?
なんかチンコが痒くなりそーなラブポエム満載のやつだったわ。
あれが多分小鹿ちゃんの持ってるエロ知識の源。
これから先が思いやられるわ・・・。」
「アハハ!
そいつは同情する(笑)」
と苦笑いするガロ。
ライキもこれは大丈夫だったのか「アハハ!」と笑った。
「まぁ、これから2年もつがいやってくんだし、いきなり進みすぎても先が辛いじゃん?
ある意味開発し甲斐があるっつーか。
ゆっくり小鹿ちゃんに合わせて進めていくわ。」
「おう、そーしろそーしろ!
・・・所でライキは好きな子とかいんの?」
ガロが隣に座るライキに話題を振った。
「えっ!?俺っ!?
・・・えっ、えぇーっと・・・。」
ライキが真っ赤になって目を泳がせソワソワしたので、ハイドがニヤリとほくそ笑んでシャンパンをグラスに注ぎながら言った。
「・・・こいつ、薬屋の空駒鳥ちゃんが好きなんだぜ?」
「わぁーーー兄貴!!
何で言うんだよ!?」
「なんでって、ちゃんと言って牽制しとかないと、ガロが恋のライバルになったら厄介だぜ?
ガロは女ウケいいしモテっからな!」
兄の言葉にピクッと反応したライキは警戒して眉をひそめながらそっとガロを見た。
ハイドは弟のその様子を楽しそうに見てクククッと笑いながらシャンパンを呷った。
当のガロは”空駒鳥ちゃん”の姿を頭の中から探し、ようやく思い当たったのか左手の上に握った右手をぽんっ!と乗せた。
「あぁ!
あの淡金の髪の色白で華奢な可愛い子か!
でもまだライキと同じ12だろ?
ないない。
あと2~3年すりゃ射程に入るから口説いたかもしれねーが、ライキの好きな子ならちょっかい出さないから安心しな?」
ライキはホッとして表情を緩めた。
ガロは空になったグラスにシャンパンを注ぎながら言った。
「あの子ならたまにばーちゃんと一緒にうちに来るぜ?
何なら覗き穴を教えてやろーか?」
ガロはニヤリと笑ってシャンパンを呷った。
「覗き穴??」
ライキは目をパチクリとさせた。
「いやいや、ライキはまだオトコになってねーし、俺らと違ってシャイボーイだからそんなん見せたら卒倒するって!」
「えっ、まだ精通ねーの?
その年にしちゃ背があんのにな?」
「まぁそーいうのは見た目に関係なく個人差があるんじゃね?
俺とお前は11のときで、クラスでも早い方だったじゃん?」
「ちょっと兄貴、なんでまだ俺がオトコじゃないとか知ってんだよ!」
ライキが顔を赤く染めて眉を吊り上げて抗議した。
「んー?
部屋に入ったときの匂いとか寝起きの股間とか見りゃ一目瞭然だぜ?
だが勃起はまだでも空駒鳥ちゃんネタに多少チンコ弄ったりはシてるよな?」
酔いが回っていつもより意地悪さが増したハイドがニヤニヤしながら暴露した。
「なっ、なっ、なっ・・・何でそんなこと知ってんだよ!?」
「んん~?
ここの壁薄いからたま~に聞こえてくるんだよなぁ。
リーネ、リーネって熱に浮かされた切なげな声がさぁ(笑)」
「~~~~~!
兄貴だって聞こえてんだよ!
小鹿ちゃん小鹿ちゃんって毎日のように熱に浮かされてんのが!
このエロバカ兄貴!!」
ライキは真っ赤になって兄に向かって乱暴にクッションを投げつけた。
「へへへっ!
それはつがいになる前の話だろ?
俺はもう自分で抜かなくても・・・ぶっ!」
ハイドは酔っているせいか反応が遅れてVサインを出したままそれを思いきり顔面に食らった。
「ガ、ガロさんはどうなんだよ?
誰かつがいにしたい人とかいないのか!?」
ライキはハイドにこれ以上からかわれるネタを与えたくなくてガロに話題を振った。
「あー、つがい?
ねぇよねぇ!ひっく・・・
いい女はみんな好きだけど、特定の女に縛られんのは嫌なのオレ・・・ぐすっ。」
「す、すげーガロさん・・・。
なんか遊びに・・・あ、えーと、余裕のあるオトナの発言・・・?」
ライキは引きつって笑い、そう呟いた。
「ガロは7歳の時からそんなこと言ってっからなぁ・・・。
だがそんなんで驚くのは早いぜ?
ガロはなんと非童貞だから!
後学のためにもガロが旅に出ちまう前にいろいろ聞いとくといいぜ?
ムッツリスケベのライキくん♡」
意地悪がグレードアップ中のハイドがニシシ!と笑ってシャンパンをまたグラスに注ごうとするが、もうボトルの中身が空だったため、ガロの持ってきた酒の中からダークラムのボトルを見つけて「おっ、いいのあるじゃん♪」と言って鼻歌交じりにグラスに注いだ。
「えっ、ええっ!?
ど、どういうこと!!?
相手の人は!?」
一方ライキは席を立って身を乗り出しガロに詳しく訊いていた。
「ってもオレが経験したのってたった一人だけだぜ?
相手は一個上の幼馴染みの女だよ・・・。
あいつんち弟妹が沢山いて、生活が厳しいからよぉ・・・。
家のために16になったらスベイルに働きに行くっつーて・・・ひっく・・・健気だろ?
その健気な幼馴染みがよ、その前に経験しときたいってオレを誘うんだよ・・・ぐすっ。
普段地味で目立たねー大人しい女なんだが、何か妙に艶かしくて忘れられねーくらい良かったわ・・・ぐすっ。
そんなことでもなけりゃあいつの魅力に気がつかなかったかもな・・・ぐすっ・・・ぐすっ。
まぁ化粧映えしそーだしスタイルも抜群で根性もあるから・・・スベイルで成功して売れっ子の嬢になるんじゃねーかと思ってんだよ・・・。
しくしくしく・・・」
ガロは涙を流しながら語った。
「・・・もしかして、その人、ガロさんのことを好きだったんじゃ・・・?」
ライキがガロにつられて物悲しそうに眉をひそめて言った。
「ひっく・・・どーだろうな。
相手もオレがこういう質のヤツだとわかった上でのことだったし・・・もうスベイルに行っちまったから知る由もねー・・・ぐすっ。
でももしオレがスベイルに行ったときにあいつと会えたら・・・またエッチしよーぜ?って誘ってみっかな・・・ぐすぐすっ。
その頃にはもうオレなんかが手が出せねーくらいの売れっ子嬢になってるかもしれねーけどなぁ・・・・うわぁぁぁん・・・」
「・・・ガロさん遊び人な人だと思ったけど一途なんだな・・・。
その人とまた会えるよう俺フェリシア様に祈っとくから・・・元気だしてよ。」
ライキがガロを慰めて背中をさすった。
「ギャハハハ!
ライキ、騙されてやんの!!
ガロは酔いが回ると泣き上戸になるだけで、他の女とヤれるチャンスがありゃすぐヤる油断ならねーヤローだかんな!?
ギャハハハハ!」
腹を抱えてハイドが笑う。
「え、そーなの?」
ライキは顔をひくつかせるとガロを慰めた事を後悔して背中をさすっていた手を引っ込めた。
「確かに後腐れなさそーな女に誘われりゃあヤっちまうけどよぉ・・・しくしくしく。」
「・・・・・。」
ライキはガロに軽蔑の眼差しを向けた。
「ライキ!
お前は兄と違って優しいやつだよなぁ・・・!?
もっと慰めてくれよぉぉ・・・ぐすっ。
お前がオトコになったら、そんときはオレはもうスベイルに行っちまってていねーかもしれねーけどよぉ・・・ぐすっ・・・ぐすっ
遠慮なくオレの覗き穴を使っていいからなぁマジで・・・!
覗き穴の場所なら・・・ぐすっ・・・ハイドが知ってるからよぉ・・・
だからそんな冷たい目でオレを見ないでぇぇ・・・!
うわぁぁぁん!!」
涙をボロボロ溢しながらガロが言った。
「えっ・・・別にいい・・・。
覗いてるのがバレたらリーネに一生口利いてもらえなくなりそうだし・・・。」
「ギャハハハ!
ライキに断られてやんの!
まぁ、あの子がヒルデみてーにMじゃなけりゃーバレたらおしまいだろーし賢明な判断だぜ!?
ギャハハハ!」
究極に酔っ払って最大限に意地悪くなったハイドが大きく口を開けて笑った。
「しくしく・・・
ヒルデのこと勝手にMだと決めつけて・・・ひでぇヤローだ・・・。
しくしくしく・・・」
一方でガロも究極に酔っぱらい泣き上戸がクライマックスに差し掛かっていた。
「だってそうじゃなきゃ女湯覗いたとき、いくら俺に他の女の裸を見せたくねーからって、わざわざ覗き穴の前に自ら座って洗わねーだろ!
本人自覚ないみてーだけど、絶対そっちだって!
あぁ~、あん時の羞恥した顔思い出したら今でも漲るわ!
いつか手足を拘束して俺の与える快楽を逃すことなく受け入れるしかなくって泣きじゃくる小鹿ちゃんをガンガンに犯してぇなぁ・・・!」
「かわいそーに、ヒルデ・・・。
こんな歪んだ性癖の変態ドSヤローに捕まっちまって・・・しくしくしく・・・」
ガロはそう言って泣き崩れながら横になり、そのまま涙を拭く姿勢で動かなくなり、やがてすー、すー、と寝息を立て始めた。
「クックックッ!
ガロ先に潰れたな!?
あぁ~でも小鹿ちゃんマジで最高♥
つがいになれて良かったわホント・・・。
小鹿ちゃんアイシテル♥」
ハイドは横になってさっきライキが投げたクッションをヒルデに見立てて抱きしめてキスしたまま動かなくなり、くかー、くかー・・・と寝息を立て始めた。
急に静かになった兄の部屋で、酔い潰れて寝てしまった二人を呆れながら眺めたライキはため息をついた。
「あーあ、二人共潰れちまった。
酒は飲んでも飲まれるな。
こんな駄目な不良にならないよう俺は気をつけよう。
あ、コーラが残ってら。
勿体ないから全部飲んでしまおう。」
と、ライキは近くにあった茶色い液体の入ったグラスを一気に呷った。
その直後、クルクルと目を回してバタン!と机に突っ伏した。
ライキの飲んだそれはハイドが飲みかけていたダークラムだった!
そして、男3人の祝賀会は全員が酔い潰れたためお開きになるのだった!
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