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五章 本当の問題

第80話(その出会いは運命的だった)

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 これは私が鈴の兄さんに初めて出会った時の出来事だ。
私は兄さんを追いかけていた。
今より幼い姿のまだ子供の兄さんの背中を同じく幼い姿の私は離れない様に追いかけていた。
兄さんは時折こちらを振り向いて手を繋ごうとしたけど、兄さんの両手は両親に頼まれたおつかいの荷物で塞がっているので私と手を繋ぐ事が出来ず少し苛立った様な顔をした後、私の顔を見て心配そうな顔になった。

『葵、ちゃんと着いて来いよ?俺の服どこでも掴んで良いからな?』

兄さんは何回もそう言ってくれたけど、重そうな荷物を両手に持っている兄さんに幼いなりに面倒をかけたくないと思った私は兄さんの服を掴む事なく兄さんの背中を追いかけていた。
そうして少しして兄さんが曲がり角を曲がって兄さんの姿が見えなくなったので私もすぐに兄さんを追いかけて曲がり角を曲がったのだが、、、。

「紅兄さん?、、、紅兄さん?、、、どこ?」

すぐ前に居たはずの兄さんの姿が何処にも無かった。
ちなみに、この頃の私(葵)は兄さんの事を紅兄さん又は兄さんと呼んでいた。

「なんで?、、、ない兄さん?、、、くれな、兄さん?、、紅兄さん?、、、さっきまですぐ側に居たのに、、、っ、、」

私は泣きそうになるのを我慢して兄さんを探した。
今思えば変な事だった。
手を伸ばせば届くほど近くに居た兄さんが曲がり角を曲がったら姿が無かったなんて普通ではない。
だが、この時の私(葵)はまだ四歳の小さな幼子で一番大好きな兄さんの姿が突然消えてしまったのだからパニック状態だったのだ。
そんな幼子に違和感を持てとは言えない。

「兄さん!紅兄さん!どこ?ぼくはここだよ?紅兄さん!、、、っ、、紅、、兄さん?」

泣きそうに成りながら兄さんを探しているといつの間にか私の近くに小さなけれど私より大きな子供が居た。
最初は兄さんかと思ったが顔を見て違うとすぐに分かった。

「、、、だれ?」
「、、、見つけた」
「え?」

その子供が男の子だったのは覚えているんだけどどんな顔をしていたかは思い出せなかった。
ただ、兄さんと同じくらいに綺麗な顔をしていた様な気がするのと柘榴(ザクロ)の香りがしたのは覚えていた。

「、、、の、、運命、、やっと会えた。君を探してた」
「、、、?」
「さぁ、行こ、」
“リィ~、、、”
「、、、ちっ、何故ここに」

その男の子は私を探して居たみたいだけど何を言っているのか聞き取れなかった。
だけど私を何処かに連れて行こうと誘おうとした時にだんだんこっちに近づいてくる鈴の音に気分を害したかの様に顔を険しくした。
そうして次に私に顔を向けた時は優しそうな顔をして笑って言った。

「いつか必ず君を迎えに行くから待っててね?運命なのだから」
「、、、運命?」
“リィ~ン”
「愛しい愛しい、、、、。必ず君を奪うから」
「っ!」

そう言うと男の子は私の額にキスを落として去っていった。
私は何故か男の子の最後の言葉が怖くて恐くて仕方なくて泣いていつも絶対に私を助けてくれる兄さんに助けを求めたいた。

「く、ない兄さん、く、、、兄さん、っ、、ひっ、、く、うっ、、」
“リィン”

その時私のすぐ側で鈴の音が聞こえた。

「どうかした?怪我でもしたの?」

優しい声を聞いて涙を流しながら顔を上げて声のした方を見た。
声の主の顔を見た瞬間に私は時が止まった感覚を覚えた。
(あ、、、?心臓が痛い?、、、)

「、、、、。あっ、、、その、だ、大丈夫?」
「、、、うん」
「もしかして迷子?」
「、、、。」
“リィン、リィ~ン”
「あ、その、音」
「え?あ、これ?これはオレが持ってる鈴の音だよ」
「リィンリィンって綺麗な音、、、」
「えーと、、、オレは鈴矢って言うんだけど」
「、、リィンの音のお兄さんは鈴矢お兄さん?ぼくは葵」
 「葵ちゃんって言うんだ?オレの事は鈴(りん)でも鈴矢でも良いよ」
「なら、リィンの鈴の兄さん?」
「ん、それで良いよ。それで葵ちゃんは迷子?」
「あ、ぼ、ぼく、、うぅ~」

その言葉に私は兄さんと逸れてしまった事とさっきまでの恐ろしい気持ちを思い出してしまってまた泣いてしまった。

「あ~!ごめん、泣かないで?オレが余計な事言ったよ」
「ううん、鈴の兄さんは悪くない。ぼく兄さんと逸れて」
「なら一緒に探そう?な?」
「一緒に探してくれるの?」
「ああ、もちろん!葵ちゃんみたいに可愛い子が一人で居ると危ないからな。で、お兄さんの名前は?」
「紅兄さん。今日は手を繋いで無かったから離れた」
「紅って言うんだ?なら、、、、、あ~、、ほら、オレと手、繋ごう?」
「良いの?」
「おう、手を繋いどけば今度は逸れてないだろ?それに、、、(オレも可愛い女の子、、葵ちゃんと手を繋ぎたいし)」
「それに?」
「ああ、何でもないよ。それより、お兄さん探しに行こう?」
「うん」

私はドキドキしながら鈴の兄さんの手を繋いだ。
(ドキドキする。紅兄さんの時は嬉しくて安心するのに鈴の兄さんはドキドキして心臓が痛いけどすごく嬉しくて顔が熱くなる)

「よし、じゃあ行こうか?葵ちゃん」
「うん、鈴の兄さん」

私と鈴の兄さんは手を繋いで兄さんを探しに向かおうとしたその時、、、私は真っ暗な空間の中一人でいた。
手を繋いでいたはずの鈴の兄さんの温もりは側に無くあるのは冷たくて何も見えない暗闇だけだった。

「え?、、、り、鈴の、兄、さん?、、、っ!」

背後に突然誰かの気配がして咄嗟に振り向くと顔を覚えていないあの男の子が側に居た。

「絶対に君を迎えに行くよ。あいつらから君を奪うから待っててね?、、、葵」

そう言うと男の子は私の顔に触れて私の唇に自分のそれを近づけてくる。
(あ、あ、なんで?、、何で、、、私の名前を、、知って、、)

「愛してるよ、葵」

その男の子の唇が私の唇に触れそうになった瞬間、目の前が朧気になり私の体が何処かに引っ張られる様な感じがした。

「残念、時間切れか。今度は現実で会おうね?葵」

男の子は最後に確かにそう言った。




目を覚ました私は寝起きなのとお酒の酔いとさっきの夢のトリプルコンボで混乱してズキズキする手足をがむしゃらに振って何かを倒した。

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