18 / 22
15.
しおりを挟む「お前のぐちゃぐちゃな顔見てコーフンしてた。無理矢理犯して、痛めつけて、何もかも奪ってやったことに」
身体が重くて、支える両手が震えてくる。
立ち上がることはできそうにないからせめて向き合いたいのに、
それすらわたしはできない。
「ーー…なのにお前が逃げるから」
コツ、と響く踵が近づく。
震える手に添えられ、抱き起こされて。
「どっかに攫って、一生閉じ込めてやろうと思ってたのにな…」
腕のなかに引き寄せられる。
片腕一本の、わたしたちの距離。
「…あいつの名前呼ぶんだもんなぁ…ほんと、…ムカつく」
ため息混じりに聞こえる声はやっぱり笑っていた。
「…ま、お互い様ってコトで、ゆるしてくんない?」
ひとことも、聞き漏らしたくなかった。
彼の言葉を。気持ちを。想いを。
わたしが決めていたように。
彼が心に、決めたことを。
「…シエル、…」
「なに」
「…っ」
シエル。
「シエル…っ」
「すきだった…っ愛してた…っ、ずっと、ずっと…っ、…おねがい、」
信じて。
それだけ。
お願い。
嘘なんかじゃ、なかった。
「…………お前の泣き顔、やっぱそそる」
冷たい指に掬われて、薄く微笑む彼の瞳に漸くわたしは映ることができた。
誰よりもやさしく、和らいだまなざしを持つひとだった。
彼のすべてに惹かれていた。
決して、間違いなんかじゃ、なかった。
傷ついていたから虚勢を張って。
傷つけていたから見ないフリをしていた。
無神経なわたしを責めなかったのは、
「俺だってお前が好きだった」
もうどうしようもないと、彼だって怯えていたのではないのか。
「…今さら、優しくなんかできねぇよ…」
震える本心が、それをわたしに知らしめる。
わたしが彼を歪めてしまった。
わたしが彼を変えてしまった。
やさしいキスをしてくれていることに気づかない、そんなひとに、わたしがしてしまった。
22
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた
紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。
流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。
ザマアミロ!はあ、スッキリした。
と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?
公爵令嬢のひとりごと
鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる