あいするひと。【完】

雪乃

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16.

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冷たく、固い床。積まれた古い資料。
カーテン越しの夕影が、薄闇を呼び込んでくるのが怖かった。

引き裂かれるような痛み。音。匂い。


見下ろす零度の瞳。



ただの、


ただの、肉塊のような、自分。











「…っ」


よみがえる記憶に、身体が硬直する。
小刻みに震え、鼓動の重さに押し潰されそうになる。

肩に触れていた指が止まり、キツく握るわたしの手を包んだ。
シーツから離れない指に髪が触れ、くちびるが触れる。何度も。

姿勢を低くして、まるでゆるしを乞うように。


やがてそれが解かれればほどかれた一本一本の指に、やさしくふれて。

髪に、まぶたに触れる。くちびるを重ねる。

耳に、肩に。


身体じゅうに降り注ぎ、つま先まで降り積もる。


瞳はたしかな熱をひそめて、燦々と。





わたしの身体は何度も、思い出しては震え頑なに閉じてしまうのに。
彼はそのたびに動きを止め、またわたしがほどかれるまでやさしい愛撫をくり返す。





そうして時間をかけて、わたしにたどり着く。



とけてしまいそうだった。


重なる指まで隙間なく、彼にほどかれ、余白まで埋められているようで。


満たされているようで、止め処なく溢れる。




「…シエ、ル、…」






ぽたり、と。


名前を呼んだわたしの頬に落ちたのは。







やさしい手のひらに塞がれてしまったわたしには、きっと一生、わからない。




身体を繋ぐという行為は、心を繋ぐ行為だと。




わたしたちはきっと、はじめて、知った。
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