上 下
26 / 33

おわりのはじまり④

しおりを挟む



……エルファリ様はいったい何に大金を使っているのだろう。


ギタラベル商会といえば扱う商品は多岐に渡り、人材の技術レベルもスキルもトップクラス。王宮からの注文も多いことで有名で、評判は国外へも届いている。


そんな商会に、なにを。


気の遠くなりそうなわたしをよそに、アンナ様は語る。
わたしのことはエルファリ様にきいていたらしく、知っていたのだそう。
さっきは何をしていたのか聞くと、
今開発途中の傷薬を、平民用に安価に提供できないか似た効用の薬草を探し、集めているのだそうだ。
茂み巡りが最近のルーティンだと笑う。

"…一回だけ、じっさいの効果を試してみませんか?私が破落戸役をするので!"
前のめりの懇願は必死で断った。


ちょっと奇特な、アンナ様。




それから何度か中庭で会うようになり、そうして気づけば"友だち"になっていた。

わたしには初めての友だち。
お互い名前で呼び合う、友だち。

アンナ様は興味のあるものとないものの差が激しいけれど、知識には貪欲だ。


『ーー…学園には通うつもりなかったんです。兄妹もいるし、商会の仕事ができればよかったし。でも両親や家族に説得されて。今は通ってよかったなと思ってます。やっぱり学べることも多いし、……侯爵令嬢様と、友だちになれたので』

『、…クリスタと、呼んでください…』

『……"アンナ"』


照れたように自分を指差し、微笑んだ。
なんだかぐっとして、胸がくるしい。


口調もだんだんほどけて、どんどん仲よくなった。放課後にお誘いを受けるほどに。








恋の相談も、できるほどに。


「ーーでもさ、あの方がよく許可くれたね?」

「お義母様が社交だ、って、…命令…?」

「ふふっ。それは従うしかないね!」

「ふふ、うん。」

「……好きになりそう?」

「、…わかんない…きらいじゃない、けど」

「私も婚約者のこと嫌いじゃないよ。だから結婚する」

「…」

「考えてみたら?…しあわせになれるかなって」

「しあわせ、」

「うん。私は今でもじゅうぶんそうなんだけど、彼とならこの先もっとしあわせになれるだろうなぁって思ったの」

「そうなんだ…」

「心があるじゃない?貴族の仮面つけていてもその下には心がある。彼なら、その心を守ってくれると思って」


……守る。そういった意味では、


「エルファリ様は鉄壁かも…」


つぶやくとアンナ様は笑いながらうんうんと頷く。


「恋は落ちるものだけど、愛は初めからあるもの、でしょ?」

「……ルイ王子、」

「ふふっ…クリスタは恋をしたいってずっと言ってるけど、…もうはじまってるのかもしれないよ?」



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:7,193

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:13,292pt お気に入り:1,051

王様のいいなり!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:315

致死量の愛と泡沫に

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:3,267pt お気に入り:67

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:44,106pt お気に入り:2,779

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,800pt お気に入り:9,142

異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:27,094pt お気に入り:915

処理中です...