巻き戻し?そんなの頼んでません。【完】

雪乃

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10.

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「バーンズグール侯爵閣下ヴェスター様、並びに夫人シャーリーン様、ご無沙汰しておりました。
この度はお招きいただきありがとうございます。滞在中お世話になります」

「久しぶりだね、ルコラ嬢。よく来てくれた。
急な予定変更にもなってしまうけど楽しんで過ごしてほしい」


海に面した領地を抱え、年三分の一は他国へ赴いているヴェスター様は日に焼け健康的な外面とは裏腹に穏やかな物腰で、微笑むやわらかな目もとはセナと瓜二つ。


「はい。お役に立てるかはわかりませんが精一杯務めさせていただきます」

「もうダメダメ、難しい話はあとよ。
疲れたでしょう?少し休んだらお茶にしましょう。それから出かけても遅くないもの。ね、セナ」

「もう…すぐ行きたいのよ、わたしは。」

「あなたはせっかちなところを直さなければダメね。ほら、さっさと着替えていらっしゃい。
ルコラ嬢もね、異国のすごく美味しい菓子があるのよ。用意もできてるの、だから、ね?」

「せっかちなのはお母様だわ、もう!」


その他国で知り合い嫁いでいらした伯爵家出身のシャーリーン様は、少女のような愛らしい見た目におっとりとした雰囲気だが、
やはりこちらもよく似ていると思わず苦笑しそうになる。少しむすっとしたセナとふたり、笑顔の夫人に言い含められさっそく部屋へと案内される。


ヴェスター様はディナーまでには戻ると仕事に向かわれ、「あとでね」セナの自室とは階のちがう客間で楽なデイドレスへの着替えを侯爵家の見知った侍女たちに手伝ってもらいながら。


あの日の帰り際、セナとの会話を思い出していた。








『ーー…じゃあまた学園で、……ねえ、ルコラ……久々にお邪魔したけれど、やっぱりお邸の雰囲気おかしいんじゃない?……どうして誰も近くにいないの?侍女はどうしたのよ』



ーー何度か招いて、その度に聞かれるから邸に招くことをしなくなった。
そうすると聞かれなくなり、わたしも話すことをしなくて済んだことにほっとして。

それでもつき合いを続けてくれた友人。



立派な馬車の装飾を映しながら逡巡はしてしまう。



『……わたしが下がらせてるのよ。……義妹があの態度でしょう?それにかかりっきりなの。
入学するまえにどうにかしないと困るしね』



でもやはり話そうという気にはならない。


ーーいずれこの関係は終わるのを知っているし、



浅い眠りに、微睡んでいるようなもので。


起きなきゃと思うのに、そうできない。
このままこうしていたい。
目覚めたくない。

 
今のままでいいのだ。
今だけで。


微睡のなかで、過ごせれば。




『……話してくれないのね。』



気にしてくれていたことはわかってた。
心配してくれていたことも。

不審を飲み込んで、一緒に過ごしてくれていた。

言いたいことを我慢させて、わたしも何一つ伝えなかったから。
どこか距離ができていて、義妹が学園に来てからそれが顕著になっただけ。


遠ざけたのはわたしからだ。
それに安心しながらもさみしいと思ったのも事実。



それなのに曖昧に笑うだけなのは

動かされる心がわたしには、見つけられないからだ。










シャーリーン様が用意してくださっていたのは記憶に馴染みのある最中のようなお菓子だった。
パイ生地の中身はまさしく餡子。
お気に入りなの、と勧められるままいくつも平らげてしまった。
今は他国へ行っているセナのお兄様であるヨナ様の話や、他意のない他愛のないお喋りは気が軽くなる。


いよいよ痺れを切らしたセナに連れられて向かったのは、港近くの露店街だ。
広場をぐるりと囲むように大小様々な店が並び、店舗一体型の店も多い。
視察でも来る予定の場所だけれどそこでは通り過ぎてしまうような雑貨や宝飾店を見てまわる。
貝殻のままの真珠を初めて見た。


最後にはカフェに寄り、邸に戻る。


前回は、こんな風に出かけられなかった。
なんせ義妹は大声で話すし、好き勝手に行動し侯爵夫妻やセナにまで物を強請っていた。
わたしは謝罪行脚に巡っていただけだ。



新鮮な魚介類に彩られた侯爵家のディナーも量は食べれなかったけどとても美味しく、デザートにはまた最中が出てきたのがおかしくてセナと笑い合った。
アレンジされて冷えたそれはとても甘かった。


ただ楽しく、一日は終わった。







「ーー…殿下方は明日昼過ぎに到着予定だ。
出迎えと視察の同行、迎賓の館にお泊まりいただくんだが晩餐があるからね、それにも出席してもらう。
堅苦しいものではないから安心していいよ。
滞在は一週間ほどだ。そのあいだ毎回ではないと思うが、出番は少なくないと考えていてくれたら助かるよ」

「かしこまりました」

「不安そうだね」

「、」

「そりゃあ緊張もするわよお父様…いい加減どちらの国の方か教えてくださらない?お名前は?」

「はは、そうか。…そうだね、もう王宮には着いているころだろうし話して構わないだろう。
ーーーー…」





















「ーーーーエターナリア王国から参りました、ブライス・リルムンドと申します。

…………、お会いできてうれしいです、……ルコラ嬢……」






それはわたしが予想していた国ではなく、想像もしていなかった。


大国だ。

魔法大国。

何百年も前の悍ましい戦争を終結させた魔法使いの生まれた国。



ーーそして何年か前には、その忌まわしい戦争を引き起こした罪人である"災厄の魔女"に、
当時婚約者だった現王太子妃殿下を含め多数が被害に遭った国。


恐ろしいと薄らぼんやりと、思ったけど対岸で起きていることで。
わたしには巨悪より目の前の悪意のほうが、こわかった。








「ーー、」



想像も、していなかった。


白のローブを羽織り、白銀に紫色が混じる変わった髪色をした目の前の方とは、断言するまでもなく初対面だ。

なのにわたしのことを名前で呼んだ。


呼び慣れているみたいに。


おかしな話だけどなぜかそう感じた。



わたしはまだ名乗ってもいない。
指名されたのだから名前くらいは知っていて当然なのかもしれない。



おかしな反応だと思った。

声はわずかに震えて、感情がこもったような視線。




「……あなたに会いたくて、やって来ました・・・・・・・




付き纏う違和感に咄嗟の言葉が出ず、わたしは立ち尽くした。
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