巻き戻し?そんなの頼んでません。【完】

雪乃

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16.

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「ーー…ッブライス!何があーー、っ、!」



近寄ろうと踏み込んで弾き返される。

声も届いていない。防音もかけてるのか。
俺では解けない。



「ブライス…ッッ!…くそ…ッ治癒師を連れて来い!魔力のある者全員だ!侯爵に連絡を!」 

「は…!」



かき集めても、血塗れで塊を抱きしめている男には到底敵わない。魔力も人も少なすぎる。
首から盛り上がるようなかたちで上半身を氷漬けにされているのは。

ブライスがどうしても会いたいと願った人物。



いったい、何が。






「……何が起きた。見たことを話せ」



周りにいた騎士に声をかければ、答えたのはブライスの護衛だった。



「……畏れながら王太子殿下に申し上げます。
おふたりで会話を楽しまれていたように見えましたが、急にご令嬢が立ち上がり声を荒げたため、お側に寄ろうとしたところブライス様に止められました。……そのあと、」



詰まらせる護衛に先を促せば、信じられない言葉が続いた。



「令嬢自身が…?」

「……はい、ブライス様が顔を背けた一瞬の隙であったかと。……申し訳ございませんでした」



ルコラ・クレソン侯爵令嬢。
挨拶程度にしか話したこともない。
次期当主として存在は知っていたがそれだけだった。


今回の件・・・・がなければそれはきっと変わらなかっただろう。


おなじ学園に通っていながら、何も気づかなかった。

















『蠱惑魔法……?魅了と何が違うのだ』

『差異はないのですが蠱毒の悍ましい製造方法呪術になぞり、特に悪質と思われるものをそう呼んでおります。
ロレイン・クレソンとその母アニタはーー…恐らく・・・昔から限定的にその力を使っていました。ただ自分たちが怠惰に、欲のまま生きるために。
……ですから当事者以外気づかなかったということも、おかしなことではないのです。』

『…』


最後の部分で控えめに一瞬こちらを見やり、陛下に視線を戻す。


『敢えてそうしていたのだし、そうしなければ自分たちが危なくなることも知っていた。
悪質と申し上げたのはそういったすべてを含めております』



ブライスとは昔馴染みだ。
何度か彼の国に魔法について学びに行ったことがあるし、王太子や妹である妃を含め懇意にさせてもらっているが俺はブライスといちばん気が合い、お互い砕けた口調になるのも早かった。
中々実現しなかったこちらへの誘いも今回漸く叶い、彼は初めて訪れた・・・・・・・・のだ。


ただ観光に、というわけにはいかなかったが。





話を聞いていた陛下も皆も強く顔を顰めた。
魅了など忌むべきものなのは誰もが知るところ。
ただ、ブライスだけの意見を汲むことはできるわけもなく、こちらでも監視や独自の調査をしてから、と陛下は言った。







結果、クレソン家の後妻親娘は真に悪人で、寄生虫のような人間だった。
すべて辿れたわけではないが、平民のときに生活をともにしていた人間はすべて死んでいた。

全員病死。



男ばかりではない。時には女。時には老人。


共通していたのは皆、ある程度裕福だったということ。
地に足をつけ慎ましく、暮らしていたということ。

噂になるようなことのない目立たない人間で、孤独だったということ。



そんな彼らの幽かな隙を見つけ、病魔・・を植えつけた。



健康そうに見えてその内は、喰い破られた巣窟。

宿主・・が衰弱していけば、へ。



そうしてついに、理想の寄生先を見つけたのだ。







ーー出仕した侯爵代理は、『は元気にしております』とくり返していた。


何も知らなければそうか、で済んでいただろう。
だが知ってしまったあとでは疑念と恐怖が浮かぶ。


どちら・・・を、指している。


笑顔の侯爵代理が、恐ろしかった。






クレソン侯爵令嬢には友人がいて、学園では楽しく過ごしている様子が窺えた。

邸に人間を潜り込ませるのは簡単だった。


そこでの暮らしと、異様な空気。
反応する魔道具。
一度や二度では駄目だ。
くり返してその回数が二桁を超えたのを確かめ、いよいよかというときにブライスが言ったのだ。


クレソン侯爵令嬢に会いたい。
会って事情・・を、説明したい、と。


対応には慣れているからとか何とか、場所の指定も、必死に言い募る様にも思うところはあったがーー公になれば騒がしくなることは避けられず令嬢自身への聴取など、王都を離れることも難しくなる。
そうなる前にと陛下が許可し、ちょうど視察に行くことになっていた俺の予定にバーンズグール家の領地を組み込み、


戻り次第捕えることになっていた。









ーーーーのに、なぜ、こんなことに、






駆けつけてきた者たちとどうにかしようとするもは立ち塞がったまま。
治癒が効いているのかもわからない。
令嬢の身体は徐々に氷に覆われてゆく。
護衛によれば負傷してるのは首。
出血を止めるために体温を下げようとしているのか。



……だがその量は、「ーーキュリオ。」




空間は解けないのにそれを切り裂くような重苦しい声が鼓膜に響き、それがひとつの場面を呼び起こした。










『ーー…なあ、ブライス』

『なに?』

『なんでその場所を選んだんだ?…まぁ景色も良いし、友人同士気晴らしにもなるだろうが』

『……海があるから』

『あぁ、…?クレソン侯爵令嬢は海が好きなのか?誰に聞いたんだ?』

『わからない』

『は?』

『…』

『…ブライス…?』




『……誰に聞いたんだろう、……誰かに、たしかに、……』










不可解な会話。





お前は、何をーー。







ブライスは血に染まった凄絶な姿をさらし、頼みがある、と俺を見た。
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