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しおりを挟むそうしてこちらへまた一歩、近づく。
来ないでと、言ったのに。
些細な願いさえ、きいてくれない。
「…あなたも同じ、」
「ーー」
「……わたしの望みなんてきいてくれない」
ーーいつだってそうだ。
赤と黒に明滅する。
足もとからぐにゃりと世界が崩れてゆくよう。
「また朝が来たと知った絶望がわかる?
やっと終わったと思ったらまた始まったと気づいたときの絶望が。
希望が見出せない絶望があなたにわかる?」
見上げるほど近くにいるのに表情がわからない。
忌々しいほど澄んでみえる瞳の色だけが、濁った眼に焼きつく。
「……どうかしていると、思うのでしょうね。
"諦めるな"
"生きてさえいれば何とかなる"
"何度だって、やり直せる"
ーーたしかに、そうなんでしょう。
でもそうできない人間だっているのよ。……そうしたくてもどうしても、できなかった人間だっているのよ。……なぜ責めるの……?」
焦点が合わないなかで、視界の隅にそれを映す。
「…っ責めてなんか、「そうかしら。」
倒してしまったカップを戻しながらわたしは微笑む。
「間違ってると思うからこんな仕打ちをするのでしょう?そうでなければ否定したりしないはずだわ。なのに責めるじゃない。
なぜ話さなかった、助けを求めなかったと。
ーー考えて考えて考えて悩んで、決めたことを。
思い至りもしないで正しくないと、嘆いて。
思い通りにならなかったからと、責める。」
水槽に閉じ込められている魚は海があると知っているのか。
そこしか知らないというのに。
それがすべてだというのに。
世界は広いんだと、気づけるのか。
泳ぎ疲れてーー
疲れたと泳ぐのを止めることの、何が悪いというのか。
与奪され、操られるだけの人生はもう、ーー
物悲しそうに振る舞っていた新緑の瞳が伏せられたのを朧げに捉えた瞬間、
ティーナイフを手に取り喉に突き立てた。
「……っ……まっぴら、ごめん、よ、」
ゴボゴボと溺れているような自分の声を聞きながら痛みに心は安らぐ。
自分を誰より蔑ろにしていたのはわたしだったのかもしれないと思いながら心は凪いでいる。
わたしはとうの昔に正気じゃなくなっていたのかもしれないと思いながら、
それが救いだったんだと、心は叫んでいた。
噴き出る赤に塗れ傾いた世界が閉じてゆくのを感じながら、
心残りなどただのひとつも無いことに。
わたしは笑っていた。
慟哭が響き、支えられた腕のあたたかさを知ることもなく、
離すまいと両手を固く、握りしめて。
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