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14.
しおりを挟むどうしたらいい。
立っていられない。
どうにかなってしまいそうな自分が怖い。
「……出会うまえに戻すには到底足りなかった……奪われた時間を取り戻すには、とても、ーーきみが、望まないだろうってことも、きっと、どこかで分かってた…だってきみはあまりにも、」
「憐れ、ーーだったと?」
嘲笑に返ってきたのは
ちがうよ、とやわらかさを含めたようなつぶやき。
「しあわせそうな表情してた……」
振り返れば今にも泣きだしそうに、微笑んでいた。
おかしな話だけれど。
このひとの顔を今、はっきりと見ているような気がする。
春を思わせる新緑の瞳に、紫が混じる白銀の髪。
軽薄そうに思えた薄いくちびるは一転繊細そうにも、怯えているようにも見える。
わたしは、
「…」
「きっと間違ってる…分かってた…でもそれだけじゃない…死だけが、しあわせなんかじゃない……ーールコラ嬢、「近寄らないで。」
ーーわたしの心は。
「知ったように名前を呼ぶのはやめて。……虫唾が走るわ。何を見たかなんてどうでもいい。どう思おうが知ったことじゃない。そんな憐憫はどうでもいいのよ」
「…」
「わたしはあなたのせいで、二度、殺される羽目になる」
「そんなことさせない」
「…………ほんとに傲慢だわ」
「きみを助けたいんだ…」
その手を。いったい、どうすれというのか。
うずくまって泣いている幼い自分が靄がかる脳裏を掠めた。
何を、
いったい、
何を、知った気でいるのか。
「…ッだからあなたには関係ない…!頼んでないのよそんなことは…っ!
何を知ってるというのあなたに何がわかるの…!
……何も知らないくせによくもこんなひどいことを…ッ」
遠巻きで伺っていた者たちの気配が変わる。
目の前のひとが、来るなと手のひらだけを向けた。
同時に視えない幕が張られたかのように空気が揺れる。
「……きみの言う通りだ。……俺は何も知らない、でも、……きみを苦しめている魔術については知ってる。準備ももうすぐ整うんだ、その原因を取り除くことができるーーそうすれば、「やめて…ッ!そんなの知らないところで勝手にやってればいいじゃない!巻き込まないで、ほうっておいてよ…!っ、なぜこんなことをするの…なぜわたしの前に現れたのよ…っ…消えてよ…ッ!」
ほとんど悲鳴のように睨みつけても、耐えるように歪めた瞳を逸らさない。
「……まだ間に合う。これから先きっと、しあわせになれる未来がある。…………だからどうか、手遅れだなんて思わないで」
夢物語を、信じているのだ。
「…まだ間に合う…?本気で言ってるの…?」
青ざめた顔色に、わたしは今度こそ声を上げて笑った。
「ーー…なら何も無かったころに戻してよ…偉大な魔術師様のたいそう立派な魔法でわたしを戻してみせて。そうしたらしあわせな未来とやらを手に入れるために死に物狂いになるわ」
「……ごめんそんな言いかた、するべきじゃなかった」
「できもしないくせに偉そうに語らないでよ。…善行でもしたつもり?ただの自己満足の行動をこれ見よがしにわざわざ告げにくるなんて。
……止めを刺しにきたと言われたほうがよっぽどありがたかったのに」
ーーーー醜い。
「……来ないで。」
でも止められない。
「……ルコラ嬢、お願いだ」
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