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13.
しおりを挟むきみを巻き戻した。
今、たしかにそう言った。
たしかに聞こえた。
"巻き戻した"
その言葉に意味を持つのはわたしだけのはずだ。
このひとには何の意味もない言葉なはずだ。
なのになぜそんな言葉が出てくるのか。
ーーきみを、まきもどしたーー
そんなおかしな発言が、なぜ。
なぜ。
なぜ。
ほんとうに?
なぜ、このひとが。
魔法、
異国、魔法大国の、魔術師、
なぜーー
このひとはわたしを知っている。
知っていた。
ーーどこまで。
「……話を、聞いてほしい……どうか、」
目の前で奇妙な表情を浮かべる男に、凶暴な気持ちが沸き起こる。
ーー初めて、
生まれて初めて、怒りで全身が、震える。
「ーー神、なんて…ほんとは存在しませんよね…。だってもしいたら慈悲を与えてくれるでしょう。
……間違ってもやり直しなんて残酷な仕打ちはしないでしょう。
…………そんなことをするのは悪魔か何かだけ、」
目の前で、訳のわからない、悲痛な表情を浮かべる男にーー
「わたしはあなたに何かしましたか。
そこまで恨まれることを何か、したのですか」
初対面の人間にすら、そんな仕打ちを受けるとは思わなかった。
自分はそこまで業の深い人生を送ってきたのか。
前回で、前世で、それよりまえに。
「ーーありがとうと、礼を言われるとでもお思いでしたか」
飲まされた毒の痛みが、よみがえってくるようだった。
「、ルコラ嬢、俺は、「ーー申し訳ありませんが。」
茶器がガチャリと音を鳴らし倒れた。
話を遮るなど不敬。
急に立ち上がりテーブルを汚すなど最低の振る舞いだと片隅で理解しているけれど
もうすでに気持ちを抑えるのも難しく、周りが見えない。
「お役目は辞退させていただきます。……わたくしを指名された意図は判明しましたし、畏れ多くも王太子殿下を始めどのように言い含めたかは存じませんが、事は済んだと一言仰っていただきご挨拶申し上げたのち、王都へ戻りたいと思います」
「…っ、待って少しだけでいいんだ、時間をーー」
「わたくしは動いております。」
くちびるが、歪なかたちに弧を描く。
…殿方なのに、誘う表情が上手だこと、
「五体満足ですわ。……ご希望に添えましたか?」
こんな言葉しか浮かばない。
傷ついたように双眸を揺らめかせ俯く姿も視界を通り過ぎるだけ。
話など。
果てしない言い訳など、
聞くつもりはない。
「ーー記憶は、失くせなかった…」
そう思ってもいつだって大抵無遠慮に切りつけられる。
背中に刺さる言葉に、笑うしかなかった。
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