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しおりを挟む複雑怪奇な大通りを人に酔われながらなんとか進んでいき、脇道へ逸れ裏道へ逸れなんとか冒険者ギルドに辿り着いた頃には、もう空は茜色に染まっていた。
やたらピカピカな金の取っ手を引っ張って、扉を開けると陽気な音楽が外に漏れ出てくる。スキンヘッドの筋骨隆々おじさんたちはジョッキを高々と掲げ、妖艶な女性らが楽しそうに笑っている。荒くれ者の集まりやすい冒険者ギルドは、夕方になると酒場に姿を変えるらしい。とてつもなく重い、羨望の感情が湧いてきた。
一歩踏み込むと床が軋む。一人がこちらを見たのを合図に視線が集中して、それぞれが侮蔑の目に変わる。
「黒い眼帯……異人か」
呟きが聞こえるなりグラスが飛んできて、それは私の左耳の近くを通って扉にぶつかり砕け散る。
妹以外の人間に会うのは久しぶりで、緊張から背中に汗が浮いてくる。ついでに厳ついお兄さんもガンを効かせてくるものだから、緊張は高まりに高まって涙が出そうだ。
「何の用でここに来た」
………………。
「あっ、のぉ…えぇと、冒険者登録ししし!したいなぁって思いまして…?」
何を言っているんだ私は!
素っ頓狂な声で大声を上げた自分に驚いたと同時に、内心頭を抱えてしまう。
十年近く、人と会話をろくにしていないのだからしょうがないような気もするが、こういった場面においてはハキハキと、しっかり相手の目を見て話すことが大切なはずだった。
比べて、今自分はどうだ。目は泳ぎ、冷汗をかき、吃りまくっている。長い間夢見た旅の構図が、冒険の物語が、壊れた積み木みたいに崩れ去っていった。
彼の有名な冒険小説の主人公は、強気な態度で悪人の意思を折った。ならば、常に悪意を向けられる側である私なんかは、旅をする以上相手に弱く見られぬよう心を強く持つべきだったのに!
「帰りな」
「か、帰れません!」
急いで登録カウンターへ走る。人が恐ろしくて仕方がなかった。
「登録お願いします!」
受付のお姉さんと、背後に居る冒険者の皆様の冷ややかな目線が突き刺さってくる。常に気を張っていないと、崩れ落ちて泣き出しそうだ。これが前門のエンゼルジャガー後門のキングウルフ?
「拒否します。お帰りください」
「ナンデェ!?」
またしても素っ頓狂な声を上げたものの、理由なんて分かりきっている。やはり、顔にそばかすを散らした愛らしい受付嬢は躊躇いもせずに言った。
「当局では、異人のギルド登録は受け付けておりません」
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