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 受付嬢は私の右眼を指さした。その指す先には黒い眼帯。

 現世の常識の一つとして、異人は自身の異常をできる限り隠さなければならないというのがある。例えば腕に蛇の痣がある場合はそこを包帯を巻いて隠すマナーがあり、希色認定を受けた髪の色をしている場合は被り物で人目に触れないようにしなければならない。

 そういう理由から、私は右眼を眼帯で覆っている。

別に異常があるのが右眼だけという訳ではないのだけれど、両目を隠して世界が見えなくなるのが怖かったから左目はそのまま晒している。

 そしてそのマナーから派生して、普通の人間と異人を見分けるために白い包帯は普通の人、黒い包帯は異人が付ける、というルールが追加されたのは私が生まれる十年も前の話だ。

 受付嬢は、私の黒い眼帯を指して受付を拒否すると言った。つまり、お関わり合いになりたくないタイプの差別主義者だということが分かる。今すぐに回れ右してしまいたい。

 かと言って、旅を続ける過程で何の身分証明書も持たないというのは問題で、ここで何がなんでも冒険者登録せねば王都に向けた旅路の途中途中にある関所を通過できない。なので羞恥心も緊張も我慢してゴネにゴネなければならない。

「でも、」
「これ以上騒ぐようなら衛兵を呼びますよ」

 衛兵と聞いて、私は一気に身を引く。

 もう駄目だ。衛兵は恐ろしい。衛兵を呼ばれて連行されれば、放り込まれるのは詰所ではなくて地下牢になるだろう。そんなのは真っ平御免だ。

 相手と交わす視線を外さず、ゆっくりとカウンターから身を引いて、くるりと踵を返して走り出す。こうなったら逃げる他ない。私は全力で扉にアタックして外に出ると、箒を掴んで跨りもせずに魔力を込めた。上昇する。

 日も遂に沈み果て、空は勝色に染まっていた。静かな空を見ていると心が落ち着いてくる。戸惑い慌てふためいていた脳内が鎮静され、少し考えがまとまり始める。
 
 登録出来なかったものは仕方がないと割り切った気持ちを作り、今晩をどう過ごすかだけ考える。

 今日は一旦森で寝て、また次の町で交渉しよう。一日でとんでもなく疲れてしまった気がした。
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