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 それを聞いて、一瞬のうちにギルド内では歓喜の声が上がる。

「支店長はいつ頃!?」
「……『明日、昼までには到着するだろう』と」

 希望に溢れた問いかけに返された残酷な宣告に、周囲は叫喚地獄と化す。

 そうだ、その通り。絶望的だ。このギルドにも強い冒険者は沢山居るだろうけれど、それだけでは戦力が不足していることは明らかだった。

 スタンピードは、規模によって多少の変動はあれど少なくとも相手しなければならないモンスターの数は数千体。とてもじゃないが、酒の入った冒険者百人ちょっとが玉になってかかったとてどうこうできるものじゃないだろう。兎にも角にも、どうやったって歯が立たない。それこそ、強力な能力を持つ異世界人がいたりすれば話は違うだろうけれど。

 私は再び通りに飛び出して箒を掴む。ギルド内でてんやわんやしている間にも人々の混乱は悪化していて、街道は阿鼻叫喚。道を譲れ馬車を寄越せと罵声に怒声に罵詈雑言が溢れかえっている。皆、逃げるのに必死で私には気づかない。

 私は箒に跨って街全体を見下ろせる高さまで一気に飛翔した。もうスタンピードは間近だ。本来ならどんな魔法も構築する時間はない。

「"障壁"」◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎

 高い空の上から、街に手をかざして小さく呟いた。丁度、一番槍のワーベアが突進の構えに入ったところだった。

 薄赤の光が、街の中央から瞬時に広がってヴェールを被せたように見える。光は湧き出る水が流れるように、僅かな揺らぎと共に地面へ落ちていく。

 対物理結界魔法は私の一番得意な魔法だった。そこら辺の魔法使いなんかよりもずっと速く、硬いものを作り上げる自信がある。

 小さな頃から、村では虐げられてばかりだったから自衛の魔法は最も得意な部類だけれど、これだけ綺麗な結界を展開できるようになるには苦労した。結界は魔力で作る壁のようなものだから、カラーリングは大抵の場合、術者の魔力を表す色になる。

 赤と黒の斑色、音もなく蠢く斑模様の結界内は薄暗く、私はそこで本を読むのが一番好きだった。一度妹に『結界の様相がクソ怖い』と言われてから、ノスタルジック且つ流麗、神秘性と近未来感、頼もしさと儚さを併せ持った、正に聖教会のステンドグラス越しに差し込む陽光のような結界制作に熱中し、遂にこのレベルに達することが出来たわけだ。

 先程突進を繰り出したワーベアは、結界に阻まれて惨めに転がった。何とか結界を破ろうと、どの魔獣も攻撃を繰り出すが何の意味も無い。十年以上も村人の投石に耐えるべく鍛錬されてきた私の結界が、有象無象のスタンピード如きに突破できるわけが無いのだから。
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