涙袋 ~現代居酒屋千夜一夜物語~

与四季団地

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第2章・この世界の片隅で

   第132夜・『社員昇格試験 ③』

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   (前回からの続き)

 ・・・私の大学受験期の話だ。

 私は、現国の教師の間では「文章のうまい奴」として名を馳せていた。

 とある女教師には、森鴎外の『舞姫』や、夏目漱石の『こころ』の感想文を、「これ、先生が貰っておくわね」などと言われ、とても嬉しかった。

 何度も語っている自慢だが、その後、大学に入ったとき、私は、とある大学教授に「君には、(文章の)天与の才がある」と言われ、有頂天だった時期もある。

 ・・・だが、今は、レンタル店で中古エロビデオを買い漁るオナニストである^^;

 まあ、それはさておき。

 大学受験期、高校から推薦の資格をもらえた私は、推薦入試で行われる小論文の模擬試験を、現国の教師に添削してもらっていた。

 先に語ったとおり、私は、文章がうまいとされて有名だったので調子にのっていた。

 だから、模擬小論文でどんな問題が出ようと、ちょちょいのちょいで出来る自信があった。

 「大学では、どのような4年間を生きようと考えているか」というお題が出たとする。

 調子に乗っていた私は、このような文章を書き始めた記憶がある。

 《大学とは「大きな学」と書く、つまり、この世を包括するような大きなもののために学んでいくシステムを意味しよう。その大学での4年間は、故に、何らかの「大きなもの」を成すための準備期間とも言える、が、ここでは「生きようと考えているか」と大きく問われている。大学でどのように「生きる」かを考えると、「生きる」ということの本義を考えなくちゃならない。真に「生きる」とは、私が考えるに、他の者・・・、つまり社会に、自分の正しいと思うことを訴え、働きかけていくことだと思う。そのためには・・・、・・・、・・・》

 このような文章を、私は、大体1000字ほど書き連ねたと思う。

 そしたら、添削してくれた現国の先生に一言書かれた。

     「これは、文学部を受験する者の文章ではない」

 ・・・私は、大きなショックを受けた。

 ショックを受けて、何が悪かったかを考えた。

 簡単なことだった。

 こんな、何ら、経験の裏打ちをする努力のない、短い設題の一文を解析するかのような、具体性のない、お気楽な言葉のこねくり回しは「文学」とは言えないのだった。

 私は、「文章がうまい」と褒められて、なにが「うまい」とされたのかを考えず、私が書けばなんでもうまいのだと考え、熟慮することなく小手先の文章で誤魔化せると思ってしまっていたのだ。

 その後も、そして今も、私は、かような失敗を繰り返すことになるが、上記の教師の指摘は、時折、私の心によみがえり、私を戒め、私の文筆活動の方向修正をしてくれる。

   ◇

 さて、A君だ・・・。

 この人は、3人で受けた<社員昇格試験>で、唯一、落選している。

              ・・・(2009/02/28)
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