涙袋 ~現代居酒屋千夜一夜物語~

与四季団地

文字の大きさ
132 / 299
第2章・この世界の片隅で

   第133夜・『社員昇格試験 ④』

しおりを挟む
   (前回からの続き)

 さて、A君だ・・・。

 この人は、3人で受けた<社員昇格試験>で、唯一、落選している。

 第一の問題として、絶対条件として完全暗記を義務付けられていた<リーダー十一ヶ条>がしどろもどろの出来だったということがある。

 けして勉強を出来ないだろう人物ではなかった。

 会社を舐めていたのと、研修時代の仕事振りと同じく、「この程度の暗記でよいだろう」と、自分勝手な境界線を設けていたのだ。

 そして、驚くべきことに、作文レベルでしかない小論文でも不可の結果が出されていた。

 それは前代未聞のことだった。

 そもそも、この<社員昇格試験>は、けして落ちるような内容ではなかった。

 どのような人物かは、研修期間で会社は理解出来ていて、要は、形式的とも言えるものでしかなく、その中で、<リーダー十一ヶ条>の丸暗記こそだけが、この<社員昇格試験>の肝だった。

 他の会社では、長い社訓の暗記がそれであったり、般若心経の諳んじであったりもしよう。

 そこでは、会社内でどのような力を発揮できるかの「努力」が試される。

 基礎知識のペーパーテストも、面接も、そして、小論文も、バカでなければ容易にクリアーできるレベルのものだ。

 数行しか書いてない内容ならば、不可にもなろうが、ある一定の字数を、テーマに沿って、非常識な文法間違いがなく、まじめな気持ちを記せば、けして落ちようはずはなかった。

 だが、A君は、その小論文を、「抽象的で意味が分からない」と面接した役員に言われ、不可となった。

 私は、とても、その内容が気になった。

 上司に、「A君はどんな文章を書いたのか知ってますか?」と問うた。

 すると、上司は、「何やら、プロとアマの違いとか、うーん、具体性のないことをツラツラと記していたらしい」と困り顔。

 おっと、言い忘れていたが、小論文のテーマは、「仕事について」であった。

 このテーマはあらかじめ、私たちに知らされていた。

 私は、テーマを聞いたあと、すぐに、「この二ヶ月間の、私の仕事への取り組み方について記します・・・」と、書き出しの文を考え始めていたものだった。

 そんな折、A君自身から、彼自身が書いた文章の内容を聞く機会があった・・・。

                ・・・(2009/02/28)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

処理中です...