龍と墜ちた拾われ子

蒼居 夜燈

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第五章 再会

拾われ子とクローディア

 鍵が開いた音が鳴り、スイとエトマがドアへ眼を向けるとクローディアが入ってきた。ザーズリーに呼び止められて何事かと思ったが、様子を見るに怒られてはいないようでスイは一先ず安堵する。
 ちょうど時間だったらしく、夕食も一緒に運ばれて来たので三人で部屋の真ん中で食べ始めた。

「ねぇ。スイレンの事、聞いてもいい? 此処に来た理由とか……」

『……私は、伯父さんに売られた』

「伯父さんに!? どうして?」

 それは自分も知りたいと思いながら、スイは首を左右に振る。

『わからない。凄く私の事が嫌いみたいだけど』

「パ、パパとママは? 伯父さんを止めてくれなかったの?」

『……両親とは一緒に暮らしていないから』

「あ……ご、ごめんなさい! あたしったら……ホントに、ごめん……」

 言ってしまってから、失敗したとスイは反省した。受け取り方によっては、生きているとも取れるが死んでいるとも取れる物言いだ。

『(もっと別の答え方あった筈なのに)』

 身内伯父に憎まれ、不幸を願いながら売られた。
 その事実を、自覚しているよりもずっと自分は気にしていたのかもしれない。
 自分もクローディアも、気持ちを切り替えなければとスイは話題を変える。

『それより、ディアはさっきまでどんな話をしてきたのか聞いても良いかな?』

「あ、うん。あたしはお客様とのお話だったの」

『お客様?』

「凄く綺麗な女の人で、ザーズリー様の知り合いなんだって。その人がね、ウチで働かないかって。パパ達の借金の額が凄く大きいらしくて、このままじゃ何年経っても返せそうにないの。でも、私がその女の人の所で働けばずっと早く返せるって教えてくれた」

『……未成年なのに働いて良いの?』

「今すぐじゃなくて、十五歳になる来年から。それまでは此処で勉強して教養を身に付けたら良いって、女の人もザーズリー様も言ってくれて……」

 不安と興奮が混じり、呼吸が少し速いクローディアは力強い眼で奴隷着の裾を握る。

「だから私、勉強を頑張る事にしたの。私が働く事でパパ達が助かるならそうしたいし、全部返した後も私が望むなら続けて雇っても良いって言ってくれたし。大金をすぐに返せる位お給料が貰える仕事って、夢みたいな話だもの」

 庶民からすれば、子どもの時から文字や計算を教われる環境というのはとても有難いものだ。商いをしている家系なら早い時分に親から教えてもらえるが、そうでなければ十五歳で成人して就職してから学ぶ者も少なくない。
 それに、職種や雇用主によってはまともに学べない環境もある。奴隷の身分で勉強出来るなど、またとないチャンスだ。
 それが解っているクローディアは意気揚々としているし、エトマも「凄い」「いーなぁ」など羨望の言葉を掛けている。だが、スイは奇妙な違和感を覚えた。

『(……庶民が普通に働いたら何年掛かっても返せない金額を、すぐに返せるお給料の仕事って何だろう……? 勉強までさせてくれるって事は凄く大きい商会……?)』

 商人であるザーズリーの知り合いだと言うなら、その女性も商人の可能性はある。商会長仲間だろうか。

『(それでも何か気になるな……)』

「……! ごめんね、スイレン……。あたし、さっきから自分の事しか考えてないわ……」

『え?』

 違和感の原因を探ろうと黙って考え込んでいたスイだが、クローディアはそれを、自分が今よりも良い環境に行ける事を自慢した様な言い方をしたせいだと解釈したらしい。
 不快にさせたと眉を下げて謝るクローディアに、スイも慌てて謝った。

『ごめん、そう言う事じゃないよ。ちょっと考え事してて……』

「考え事? どんな事? あたしで良ければ相談に乗るわ」

『えーっと……』

 非常に困ったとスイは考えを巡らせる。本当にクローディアに嫉妬したのでは無いのだが、下手に返すと深読みして傷付けかねない。

「あ、もしかしてスイレンも勉強したいって事かしら? それなら、あたしが教わった事を二人に教える為に、時々こっちの部屋に来させてもらえないかをお願いしてみる」

『(……凄く優しくて強い人だなぁ)』

 借金のカタで連れてこられて、親やザーズリーに対して本人が居ない所でも殆ど悪口を言わず、スイとエトマ歳下の子達を気に掛けてくれる。
 そして、今その時に出来る事をする事で自分が置かれた現状を打破しようとしている。
 そんなクローディアの未来がどうか明るいものであってほしいと願いながら、スイは遅れてクローディアの言葉に疑問を抱いた。

『……あれ? ディア、部屋変わるの?』

「うん、三日後に。昼も夜も勉強する事になるから、一人部屋になるって言われたわ」

『そっか……寂しいね』

 無理しないでねとも、身体を壊さないようにねともスイは言えなかった。そのふたつを強いられるのが当たり前の身分に、そんな言葉は掛けられない。
  一緒に過ごした時間は短過ぎるけれど、本心から思っている事を伝えるとクローディアは照れた様に笑った。

「ホント? そう言ってくれるなら嬉しいわ。あたし頑張ってみせるから」

『うん』

「あ。ベッド、あたしが別の部屋に行ったらスイレンが使って。今日からでも良いけど」

『ありがとう。三日後から使わせてもらうね』

「スイレン、見た目に寄らず頑固よね」

『……たまに言われる』

 笑ったクローディアとエトマにつられてスイも笑顔を浮かべた。
 売られて奴隷として買われたのは本当だが、隠している事の方が多い。色々気に掛けてくれるクローディアに、スイの中で罪悪感が生まれる。

『(……ザーズリーへの借金のカタに連れて来られたなら、ザーズリーと商会の悪行が証明出来れば借金自体が無くなる筈)』

 元々指名された依頼だ。完遂するつもりではいたが、エトマとクローディアの解放と言う、絶対に依頼を成功させたい理由がふたつ出来た。
 首輪のせいで魔力を巡らせられない身体に、スイは不思議と力が漲ってくるのを感じながら夜は更けていった。
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