拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第五章 再会

拾われ子に伝わるメッセージ

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「本当に大丈夫ですか? まだ休んだ方が良いと思うのですが……」

 シンシアの家に二泊した後、三日目の朝、スイ達は旅支度を整えて玄関に立っていた。
 王都に着いた時は旅疲れの様子が見えたエトマも、すっかり疲労が消えたようで今はコハクと戯れている。

『大丈夫です。お気持ちは有難いですが、オアシスでエトマを待っている人達もいますから』

「……そうでしたね。スイは護送依頼中でした。まだ心配ですが……旅の無事と、貴女の心の安寧を祈って見送りましょう」

『……ありがとうございます』

「またいつでも来てください。歓迎します。ね、クロエ?」

「はい。今度はぜひ、私が作った料理やお菓子を心ゆくまで召し上がっていただきたく……」

 悔しさと落胆が滲んでいるクロエに、スイは苦笑いを浮かべる。
 スイの味覚は未だに戻っていない。クロエの願いに『はい』と言いきれない事に申し訳無さを感じていると、そのクロエから包みを渡された。受け取った両手ががくりと下がり、スイは慌てて腕に力を入れる。

『重っ……!? これは……?』

 布を解くと、大きな水筒と更に布に包まれた長方形の固形物が入っていた。携帯栄養食はほんのり色付いている。

「携帯の栄養水と栄養食です。私が作りましたが、発案者はシンシア様です」

《焼き菓子みたいな匂いだな》

「……今のスイは、年齢を考えると少し痩せすぎに見えます。固形物を食べるのがつらい時があったら、その水を飲んでください。それだけでも一先ずの栄養は摂れますから」

 元々無味と解っている携帯栄養食なら、味が解らない固形物を食べる苦痛も幾らか軽減されるが、それでも辛くなる時がある。だからと言って水やお茶、牛乳だけを飲んでいては身体がもたない。
 言葉にせずとも精神に掛かっている負荷を感じ取ってくれたシンシアとクロエに、スイは大きな感謝の念を抱いた。

『……お二人とも、ありがとうございます』

「シンシアさま、クロエお姉さん、ばいばい」

「えぇ。パパとママに会ったら、思いっきり甘えていっぱいお話してくださいね」

「いっぱいご飯も食べるんですよ」

「はーい!」

 手を振る二人に振り返して、笑顔でエトマは背中を向ける。スイも会釈をしてドアを閉めようとしたが、シンシアに呼び止められた。

「スイもですよ」

『え?』

「貴女も、その痛みを話せる人に会えたら思いっきり甘えてください」

『…………』

「貴女は大人びていますから年齢や体裁を気にするのかもしれませんが、その必要はありません。未成年だからこそ、甘えるのは特権です。使える内に使っておくものですよ」

『……は、い』

 出来るかは解らないが、シンシアの言葉にスイは少しだけ胸が軽くなった気がした。

「スイ? 行かないの?」

『今行くよ。……じゃあ、また来ます』

 スイは会釈をして、シンシアの家を出た。早朝の王都は、小鳥の囀りが聞こえるだけでとても静かだ。

「ねぇ、スイ。オアシスまであとどれくらいで着く?」

『歩いて二ヶ月半くらいだと思う。王都から西の関門まで二ヶ月ちょっと。関門からは、馬車があれば一週間で着くよ』

「そっかぁ……」

『でもオアシスまでの旅の半分は過ぎたから、あともう半分だよ』

「じゃあ、すぐだね。今日まであっという間だったもん」

 笑顔のエトマに、スイも微笑って頷く。
 慣れない事だらけだっただろうが、旅を楽しんでくれている事をスイは嬉しく思う。

『(体力が付いて、一日に歩ける距離も伸びたから予定より少し早く着けるかもしれない)』

 スイは空を見上げると、雨の気配が無いのを確認して門へと向かい、王都を後にした。
 そうして大きな足止めも無く歩く事、二ヶ月と数日。スイ達は西大陸最西端の町、エステリアへ到着した。
 季節は秋の終わり頃。今年も、あと二ヶ月で終わる。

《シュウに伝えてた時期よりは遅れてるけど、王都で立てた予定よりはちょっとだけ早いって所か?》

『そうだね。王都でメッセージを送っておいて良かった』

 エトマの護送依頼は一応極秘扱いだ。メッセージでも触れられないので、諸事情で遅れるとシュウに伝えてある。
 一度目も二度目もシュウから返事が来ており、二回とも、旅の無事を願いながら会える時を楽しみにしていると言った内容だった。

『(……強行はしないで、この町に泊まる事にしよう)』

 時間を確認すると、一泊せずにそのまま西の関門まで行けそうな時間帯だったが、通行許可待ちの列次第では日没後に砂漠に出る事になる。
 西の関門は東西南北の中で最も人が少ないが、希望的観測で向かった時に限って通るのに時間が掛かったりする。
 気温が低く、暗い夜の砂漠をエトマに歩かせるのは危険なので、安全策を取る事にした。

 スイは宿屋に向かい、宿泊手続きを済ませると部屋にコハクとエトマを残して一人でハンターズギルドへ向かう。
 セイナン出立直後よりも明るくなったエトマだが、男性への恐怖心は未だ根強い。
 ギルドに連れていくとトラウマが悪化しかねないので、用がある時はいつもスイだけで行くようにしている。

「こんにちは。ハンターズギルド、エステリア支部です」

『セイナン支部に伝言をお願いします』

 護送指名依頼書と、アイテムポーチから取り出したハンターの証を見せる。
 受付嬢は内容を把握すると了承の返事をし、その場でセイナン支部へメッセージを送った。

「……はい、セイナン支部へ通達しました。引き続き、よろしくお願い致します。それと、ハンタースイ宛にメッセージを預かっております」

『? セイナン支部からですか? それとも……ハンターシュウ、からですか?』

「いえ、ハンターアレックスからです」

『!!』

「ご確認いただけますか?」

『はい!』

 魔道具に文字が浮かび上がった。少し癖のある筆跡は、アレックス本人が書いた事を表している。
 ――スイ、元気かい? アタシは元気にやってるよ。町はまだ復興途中だけど、スイ達が出ていった時よりも活気を取り戻してきてる。結界のお陰もあって、町は安定しているよ――

『(……良かった)』

 リーディンシャウフが町としての形を取り戻し、其処に住む人々の心が少しずつでも癒えてきている事に、スイは安堵の息を吐いていた。
 きっとも報われる。
 共に四日間を戦った者達の事を思いながら、まだ続いている文章を眼で追い掛ける。
 ――だから、アタシも動く事にしたんだ。次会う時は、アタシのハンターの証にはルビーがある筈だから楽しみにしてて。じゃあ、コハクとソウジロウさんにもよろしくね――

『(アレックスさん、Aランクへの昇格試験受けるんだ……。いや、もう受け終わったのかな?)』

 昇格試験前から自身の合格を疑わない辺り、アレックスらしさが窺える。スイは微笑うとその場で返事をしたため、ギルドを後にした。

『(……そう言えば、ぎりぎり一年じゃなかったな)』

 別れの日に冗談めいて言ったら否定したアレックスだったが、本当に一年経つ前にメッセージをくれた事にスイは感心する。それと同時に、連絡するのに一年程期間が空く理由が解った気がした。
 それこそが、今日までスイもアレックスにメッセージを送らなかった理由だからだ。

『(……これくらいならメッセージ送るまでも無いかなって思ってる内に、結構時間って経っちゃってるもんだなぁ……)』

 一年間音信不通にして、心配したエルミーユに怒られたアレックスだが、そうなった事情が今のスイには理解出来る。
 いつかまたエルミーユに会う事があったら、それとなくアレックスのフォローをしようとスイは決めた。

 しかし数年後に実行した際、「内容が濃いか薄いかは二の次なの! 生きてる事がわかるって事が一番大事なの!!」とアレックス共々エルミーユに叱られる事になるのだが、この時のスイはまだ何も知らない。
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