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第一章 西大陸
拾われ子が通らなければならない道 中編
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「何だ!?」
「ハンター共だ!!」
「数はこっちのが多い! 殺るぞ!」
怒号と金属音の応酬の中、スイとコハクもそれぞれ一人ずつ対峙していた。
『(……エルム君……! 生きてる!)』
遺跡の奥に両手両足を縛られ、猿轡を嵌められているエルムが見えた。涙を流しながら震えている。
「オイ、ガキなんざ早く仕留めろよ!」
「うるせぇ! てめぇこそ、その犬みてぇなのに手間取ってんじゃねぇ!」
『ふっ!』
「ぐぁっ! く、クソガキがぁ……!」
男の胸が斜めに裂け、血が舞う。しかし傷は浅く、致命傷には至らない。
「はっ、てめぇ、人殺した事ねぇな? そりゃそうか、まだガキだもんなぁ」
『…………!』
躊躇った。踏み込めなかった。大丈夫と言っておきながら。
やらなければと頭では思っているのに、前に出ようとすると身体はそれを拒み、スイが置こうとした位置より手前で足は止まってしまった。
「言葉をひとつ教えてやるよ。殺られる前に殺れって言葉をなぁ!」
『――氷結!』
「な……にぃ!? テメッ……」
両手剣を握る手と両足を凍らせて動きを止め、スイは渾身の力で、相手のこめかみをショートソードのポンメルで殴りつける。呼吸法で強化された力での一撃に、相手の意識は飛んだ。
「ぐるるるぁっ!」
「この犬、魔法を……!?」
コハクも岩礫を発動させて相手を追い詰める。
「クソッ、痛ぇ! 石礫じゃねえぞコレ……!?」
岩礫も石礫も地魔法だが、岩礫の方が大きさと威力が一段階上だ。スピードと当たり所によっては、これだけで相手を死に至らしめる。
「え」
飛んでくる拳大の岩から顔を庇う為、両腕で覆った一瞬を狙ってコハクは相手の背後に跳ぶ。そのまま、首筋に牙を立てた。
「………………」
どさりと音を立てて倒れた男は、もう二度と起きる事はなかった。
『……コハクは、強い、ね……』
「ぐるぅ?」
『何でもない、ハンターシュウ達を手伝おう……エルム君は?』
先程までいた場所には誰も居ない。遺跡内部を見回しても、誰かが保護している様子もない。考えられるのは。
『……あの奥か!』
隠し扉の向こう、地下空洞へ至る通路。
ハンターの中で手が空いているのは、まだスイだけだ。
『行かなきゃ!』
「! スイ!」
シュウの声には振り向かず、スイは隠し扉に向かって走り、コハクも後に続く。扉に魔力を流すと、大きな音と共に勢い良く開いた。一人の時は大きく聞こえたこの音も、今は戦闘の音や声に掻き消されかけている。
『(だから気付けなかったのか……!)』
アイテムポーチから松明と火の魔石を取り出して火をつけると、下層に感じるふたつの気配に向けて道を走り抜けた。
気配を追って辿り着いたのは、砂漠の真下の地下空洞。
スイが適性試験の日に落下してきた場所だ。光魔法と思しき光があちこちにふよふよと浮いている。
スイは松明を遠くに放り投げると、エルムと一緒にいた人物に目を向けた。
『……あなたも盗賊団の一人だったんですね。もしかして奴等が言っていたボスもあなたですか?』
「……驚かないんだな? 」
『そんな気がしていましたから』
適性試験の日、スイを最初に見つけたハンター。
地上での乱戦の最中、エルムと共に姿が見えなくなっていた男だ。
『ルオツィネさん、ですよね』
「名前まで覚えていてくれたとは光栄だよ。英雄のお孫さん」
「エルム君を離してください」
「嫌だと言ったら?」
いい加減、覚悟を決めろ。
スイは自分自身に強く言い聞かせて、ショートソードを強く握る。
『……ボクはハンター。あなたは盗賊団のボス。やるべき事を、やるだけです』
「解りやすくて結構」
ショートソードを構えたスイに、ルオツィネがにんまりと嗤った。
剣と剣がぶつかり、金属音が広い地下空洞に反響した。
ルオツィネの剣をスイが防ぎ、コハクが急所を狙うもルオツィネは巧みに躱す。
スイの氷魔法には地魔法をぶつけて相殺した。
金属音と破裂音が空間に響き渡る中、スイとコハクはルオツィネと一進一退の戦いを繰り広げる。
「やるなぁ……。これでもCランクにまで上がった身なんだけ、どっ!」
『くっ……! 最初から、盗賊団だったんですか?』
「いいや? 最初は、真面目にハンターをやってたよ」
『なら、何で盗賊なんかに……!』
「最初は、ただの興味だったんだよ」
『……興味?』
「そう。ちょうどいい。話がてら、休憩にしようか」
ルオツィネはエルムに近寄ると、首筋に剣身を当てる。
「…………!!」
ガタガタと震えるエルムに、スイが怒りを顕にした。
『やめてください!』
「何もしないよ。君とコハクがそこから動かない限りは」
『…………!』
「……ハンターに憧れる子どもって、いつの時代もある程度いるんだよな。そういう俺も、昔はその一人だったけど」
そう言って、ルオツィネは昔話を語り始めた。
俺が若い時、凄く懐いてくれた子がいた。ちょうど君やこの子位の歳の子だったよ。
ハンターさん、ハンターさんって。町で会う度に声をかけてきて、俺の話を聞きたがった。
可愛いもんだったよ。慕ってくれて、こっちも悪い気はしない。時間がある時は旅や仕事の話を聞かせた。
ある時ね、ふと……そう、本当にふと、思ったんだ。こんなに慕ってくれるなら、簡単に騙せるんじゃないかって。
それで、試して見た。特別にモンスターと戦う所を見せてあげるよって。
そしたら、大喜びでね。簡単についてきてくれた。幸いな事に……あ、俺にとっての幸いだけど。あの子は色は珍しくなかったけど、見目がとても整っていてね。人身売買をやっている奴等の所に売りに行ったら高値で売れたんだよ。
ハンターやってるのが、馬鹿らしく思えるくらいに。
「……それからだね、ちょくちょく攫うようになったのは。そしたら当時、この盗賊団のボスだった人に俺がやってる事がバレてさ。殺されるかと思ったけど逆に勧誘されたから、この盗賊団に入ったって訳。今じゃボスの座まで登りつめた」
『………………この』
「ん?」
『人でなし…………!』
「褒め言葉だ」
『コハク!』
「ぐるぅっ!」
「あーあ、動いちゃうんだね」
エルムの首筋に当てられた剣身が滑る――その前に。
『させない!』
「ぐあぁぁあっ!?」
ルオツィネの手首を、突如現れた氷柱が貫いた。
コハクはエルムの腕と足を纏めるロープに爪と牙を立てて解いていく。
スイは更に大型の氷柱を複数出して、ルオツィネに向かって撃ち出しながらエルムに走り寄った。ルオツィネはエルムから離れ、氷柱を地魔法と剣で迎撃する。
その隙にスイはエルムの猿轡を外して、手を取った。
『エルム君、立てる?』
「う……うわぁぁぁ……! スイぐん………!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔でスイの手を取ったエルムの手は震えている。
『ごめんね、来るのが遅くなって。上にもハンターが沢山来てるから、もう大丈夫だよ』
「ありら……あり、ありがと……!」
ガチガチと歯を鳴らしながら、それでも礼を述べたエルムに、スイは出来るだけ笑って見せた。
『一緒に町に戻ろう』
「そうはさせるか……!」
『!!』
魔力の気配にスイは大きな氷の壁を創った。氷柱状の岩が当たり、両方とも割れて崩れていく。
「さっきも……そして今も。無詠唱の魔法……もしくは、精霊術か?」
『……さぁ、どちらでしょうね』
「……部下に時々言われた言葉がある。今、それが身に染みるよ……。ボスは慎重過ぎるとは、その通りだ」
右手首から夥しい量の血を流しながら、ルオツィネは狂った様に笑う。
「あの時、君を保護せずにそのまま攫ってしまえば良かった。淡く緑がかった白髪とオッドアイ、それに精霊術の使い手なんて、売れば一生遊んで暮らしても釣りが来る位の額になったのに」
『……やっぱり、バレていたんですね』
「俺は眼が良いからね」
『……じゃあ、もうエルム君じゃなくてボクを狙えばいいじゃないですか』
スイは変装を解く。後ろから小さく「えっ」と声が聞こえた。
スイはちらりと、上層に続く階段を見てすぐにルオツィネに視線を向ける。そのまま、後ろのエルムに話しかけた。
『エルム君、歩けるならひとつだけお願いがあるんだけど、良いかな?』
「ぐずっ……ひっく……う、うん、大丈夫……」
『コハクと一緒に上に戻って、ハンターの皆を連れてきて欲しい』
「えっ……ス、スイ君は……?」
『ボクはこの人を止める。だから、頼めるかな?』
振り向かない後ろ姿に、エルムは涙を拭うと頷いた。
「わ、解った……! すぐに連れてくるから、ちょっとだけ、待ってて……!」
『ありがとう。コハク、エルム君を頼んだよ』
「ぐるっ!」
「……そう簡単に行かせると――」
『行かせます』
「!?」
派手な音を鳴らして、ルオツィネの前を雷が横切った。
『行って!!』
「ぐるぅっ!」
コハクはスイが放った松明を咥えると、エルムを連れて上層への道を走っていった。
スイは右手のショートソードを一振し、左手に雷の魔力を集める。
「ふ……ふははは! 本気じゃないか……。そしてその姿、まるで精霊のようだ……!」
『……そうですね。多分、本気です』
「……へぇ?」
『ボク、生まれて初めてです。こんなに頭にきてるの』
静かに語るスイの眼は、酷く冷たい。
「………………!」
ルオツィネの背中に悪寒が走る。眼の前にいるのが、子どもとは到底思えなかった。
『すぐに皆が来ます。例えボクを殺しても、逃げられません』
「人質位にはなるだろうさ。特に、ハンターシュウは随分と君に執心しているようだし」
『……ならないと思いますけどね。ボクの命より、あなたを捕まえる事をきっと優先します』
「君は自分の価値を解ってないな」
『人でなしの役に立つ様な価値を持つくらいなら、自分で捨てます』
スイの左手から放たれた雷がルオツィネの脇腹を掠めた。鎧から煙が上がり、焦げた臭いが鼻をつく。
「クソッ……!」
『(維持は出来る様になったけど、狙った所に撃つのはまだ駄目か……!)』
変装を解いた事で他属性魔法の同時発動による魔力干渉は完全に消えたが、それでも制御しきれていない。
スイは雷の魔力を消し、氷の魔力に変える。
『氷礫!』
「石礫!」
石と氷がぶつかり、氷の欠片が煌めきながら落ちていく。この魔法の衝突を皮切りに、スイとルオツィネは再び命の鬩ぎ合いを始めた。
「ハンター共だ!!」
「数はこっちのが多い! 殺るぞ!」
怒号と金属音の応酬の中、スイとコハクもそれぞれ一人ずつ対峙していた。
『(……エルム君……! 生きてる!)』
遺跡の奥に両手両足を縛られ、猿轡を嵌められているエルムが見えた。涙を流しながら震えている。
「オイ、ガキなんざ早く仕留めろよ!」
「うるせぇ! てめぇこそ、その犬みてぇなのに手間取ってんじゃねぇ!」
『ふっ!』
「ぐぁっ! く、クソガキがぁ……!」
男の胸が斜めに裂け、血が舞う。しかし傷は浅く、致命傷には至らない。
「はっ、てめぇ、人殺した事ねぇな? そりゃそうか、まだガキだもんなぁ」
『…………!』
躊躇った。踏み込めなかった。大丈夫と言っておきながら。
やらなければと頭では思っているのに、前に出ようとすると身体はそれを拒み、スイが置こうとした位置より手前で足は止まってしまった。
「言葉をひとつ教えてやるよ。殺られる前に殺れって言葉をなぁ!」
『――氷結!』
「な……にぃ!? テメッ……」
両手剣を握る手と両足を凍らせて動きを止め、スイは渾身の力で、相手のこめかみをショートソードのポンメルで殴りつける。呼吸法で強化された力での一撃に、相手の意識は飛んだ。
「ぐるるるぁっ!」
「この犬、魔法を……!?」
コハクも岩礫を発動させて相手を追い詰める。
「クソッ、痛ぇ! 石礫じゃねえぞコレ……!?」
岩礫も石礫も地魔法だが、岩礫の方が大きさと威力が一段階上だ。スピードと当たり所によっては、これだけで相手を死に至らしめる。
「え」
飛んでくる拳大の岩から顔を庇う為、両腕で覆った一瞬を狙ってコハクは相手の背後に跳ぶ。そのまま、首筋に牙を立てた。
「………………」
どさりと音を立てて倒れた男は、もう二度と起きる事はなかった。
『……コハクは、強い、ね……』
「ぐるぅ?」
『何でもない、ハンターシュウ達を手伝おう……エルム君は?』
先程までいた場所には誰も居ない。遺跡内部を見回しても、誰かが保護している様子もない。考えられるのは。
『……あの奥か!』
隠し扉の向こう、地下空洞へ至る通路。
ハンターの中で手が空いているのは、まだスイだけだ。
『行かなきゃ!』
「! スイ!」
シュウの声には振り向かず、スイは隠し扉に向かって走り、コハクも後に続く。扉に魔力を流すと、大きな音と共に勢い良く開いた。一人の時は大きく聞こえたこの音も、今は戦闘の音や声に掻き消されかけている。
『(だから気付けなかったのか……!)』
アイテムポーチから松明と火の魔石を取り出して火をつけると、下層に感じるふたつの気配に向けて道を走り抜けた。
気配を追って辿り着いたのは、砂漠の真下の地下空洞。
スイが適性試験の日に落下してきた場所だ。光魔法と思しき光があちこちにふよふよと浮いている。
スイは松明を遠くに放り投げると、エルムと一緒にいた人物に目を向けた。
『……あなたも盗賊団の一人だったんですね。もしかして奴等が言っていたボスもあなたですか?』
「……驚かないんだな? 」
『そんな気がしていましたから』
適性試験の日、スイを最初に見つけたハンター。
地上での乱戦の最中、エルムと共に姿が見えなくなっていた男だ。
『ルオツィネさん、ですよね』
「名前まで覚えていてくれたとは光栄だよ。英雄のお孫さん」
「エルム君を離してください」
「嫌だと言ったら?」
いい加減、覚悟を決めろ。
スイは自分自身に強く言い聞かせて、ショートソードを強く握る。
『……ボクはハンター。あなたは盗賊団のボス。やるべき事を、やるだけです』
「解りやすくて結構」
ショートソードを構えたスイに、ルオツィネがにんまりと嗤った。
剣と剣がぶつかり、金属音が広い地下空洞に反響した。
ルオツィネの剣をスイが防ぎ、コハクが急所を狙うもルオツィネは巧みに躱す。
スイの氷魔法には地魔法をぶつけて相殺した。
金属音と破裂音が空間に響き渡る中、スイとコハクはルオツィネと一進一退の戦いを繰り広げる。
「やるなぁ……。これでもCランクにまで上がった身なんだけ、どっ!」
『くっ……! 最初から、盗賊団だったんですか?』
「いいや? 最初は、真面目にハンターをやってたよ」
『なら、何で盗賊なんかに……!』
「最初は、ただの興味だったんだよ」
『……興味?』
「そう。ちょうどいい。話がてら、休憩にしようか」
ルオツィネはエルムに近寄ると、首筋に剣身を当てる。
「…………!!」
ガタガタと震えるエルムに、スイが怒りを顕にした。
『やめてください!』
「何もしないよ。君とコハクがそこから動かない限りは」
『…………!』
「……ハンターに憧れる子どもって、いつの時代もある程度いるんだよな。そういう俺も、昔はその一人だったけど」
そう言って、ルオツィネは昔話を語り始めた。
俺が若い時、凄く懐いてくれた子がいた。ちょうど君やこの子位の歳の子だったよ。
ハンターさん、ハンターさんって。町で会う度に声をかけてきて、俺の話を聞きたがった。
可愛いもんだったよ。慕ってくれて、こっちも悪い気はしない。時間がある時は旅や仕事の話を聞かせた。
ある時ね、ふと……そう、本当にふと、思ったんだ。こんなに慕ってくれるなら、簡単に騙せるんじゃないかって。
それで、試して見た。特別にモンスターと戦う所を見せてあげるよって。
そしたら、大喜びでね。簡単についてきてくれた。幸いな事に……あ、俺にとっての幸いだけど。あの子は色は珍しくなかったけど、見目がとても整っていてね。人身売買をやっている奴等の所に売りに行ったら高値で売れたんだよ。
ハンターやってるのが、馬鹿らしく思えるくらいに。
「……それからだね、ちょくちょく攫うようになったのは。そしたら当時、この盗賊団のボスだった人に俺がやってる事がバレてさ。殺されるかと思ったけど逆に勧誘されたから、この盗賊団に入ったって訳。今じゃボスの座まで登りつめた」
『………………この』
「ん?」
『人でなし…………!』
「褒め言葉だ」
『コハク!』
「ぐるぅっ!」
「あーあ、動いちゃうんだね」
エルムの首筋に当てられた剣身が滑る――その前に。
『させない!』
「ぐあぁぁあっ!?」
ルオツィネの手首を、突如現れた氷柱が貫いた。
コハクはエルムの腕と足を纏めるロープに爪と牙を立てて解いていく。
スイは更に大型の氷柱を複数出して、ルオツィネに向かって撃ち出しながらエルムに走り寄った。ルオツィネはエルムから離れ、氷柱を地魔法と剣で迎撃する。
その隙にスイはエルムの猿轡を外して、手を取った。
『エルム君、立てる?』
「う……うわぁぁぁ……! スイぐん………!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔でスイの手を取ったエルムの手は震えている。
『ごめんね、来るのが遅くなって。上にもハンターが沢山来てるから、もう大丈夫だよ』
「ありら……あり、ありがと……!」
ガチガチと歯を鳴らしながら、それでも礼を述べたエルムに、スイは出来るだけ笑って見せた。
『一緒に町に戻ろう』
「そうはさせるか……!」
『!!』
魔力の気配にスイは大きな氷の壁を創った。氷柱状の岩が当たり、両方とも割れて崩れていく。
「さっきも……そして今も。無詠唱の魔法……もしくは、精霊術か?」
『……さぁ、どちらでしょうね』
「……部下に時々言われた言葉がある。今、それが身に染みるよ……。ボスは慎重過ぎるとは、その通りだ」
右手首から夥しい量の血を流しながら、ルオツィネは狂った様に笑う。
「あの時、君を保護せずにそのまま攫ってしまえば良かった。淡く緑がかった白髪とオッドアイ、それに精霊術の使い手なんて、売れば一生遊んで暮らしても釣りが来る位の額になったのに」
『……やっぱり、バレていたんですね』
「俺は眼が良いからね」
『……じゃあ、もうエルム君じゃなくてボクを狙えばいいじゃないですか』
スイは変装を解く。後ろから小さく「えっ」と声が聞こえた。
スイはちらりと、上層に続く階段を見てすぐにルオツィネに視線を向ける。そのまま、後ろのエルムに話しかけた。
『エルム君、歩けるならひとつだけお願いがあるんだけど、良いかな?』
「ぐずっ……ひっく……う、うん、大丈夫……」
『コハクと一緒に上に戻って、ハンターの皆を連れてきて欲しい』
「えっ……ス、スイ君は……?」
『ボクはこの人を止める。だから、頼めるかな?』
振り向かない後ろ姿に、エルムは涙を拭うと頷いた。
「わ、解った……! すぐに連れてくるから、ちょっとだけ、待ってて……!」
『ありがとう。コハク、エルム君を頼んだよ』
「ぐるっ!」
「……そう簡単に行かせると――」
『行かせます』
「!?」
派手な音を鳴らして、ルオツィネの前を雷が横切った。
『行って!!』
「ぐるぅっ!」
コハクはスイが放った松明を咥えると、エルムを連れて上層への道を走っていった。
スイは右手のショートソードを一振し、左手に雷の魔力を集める。
「ふ……ふははは! 本気じゃないか……。そしてその姿、まるで精霊のようだ……!」
『……そうですね。多分、本気です』
「……へぇ?」
『ボク、生まれて初めてです。こんなに頭にきてるの』
静かに語るスイの眼は、酷く冷たい。
「………………!」
ルオツィネの背中に悪寒が走る。眼の前にいるのが、子どもとは到底思えなかった。
『すぐに皆が来ます。例えボクを殺しても、逃げられません』
「人質位にはなるだろうさ。特に、ハンターシュウは随分と君に執心しているようだし」
『……ならないと思いますけどね。ボクの命より、あなたを捕まえる事をきっと優先します』
「君は自分の価値を解ってないな」
『人でなしの役に立つ様な価値を持つくらいなら、自分で捨てます』
スイの左手から放たれた雷がルオツィネの脇腹を掠めた。鎧から煙が上がり、焦げた臭いが鼻をつく。
「クソッ……!」
『(維持は出来る様になったけど、狙った所に撃つのはまだ駄目か……!)』
変装を解いた事で他属性魔法の同時発動による魔力干渉は完全に消えたが、それでも制御しきれていない。
スイは雷の魔力を消し、氷の魔力に変える。
『氷礫!』
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