拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

文字の大きさ
66 / 292
第二章 中央大陸

拾われ子の覚悟

しおりを挟む
 すっかり日の落ちた森の中を、松明の明かりを頼りにスイはダニエルと歩いていた。隣にコハクはいない。

「……本当に引き受けて良かったのか?」

 小声で訊ねてきたダニエルに、スイも小声で返した。

『はい。早く解決してくれないと、ボクも安心して旅が出来ませんし。どうせ襲われるなら、道中じゃなく頼れる人が何人か側にいる時の方が良いです』

「それはそうだが……」

 ダニエルの表情は曇っている。エンブルクの町周辺で起きている惨殺事件の解決の為、スイが作戦に参加する事に反対したのだが、スイ自身が参加を表明した事により渋々受け入れた。
 惨殺事件の被害者でもっとも遺体の状態が酷いのが子どもだ。ゲレオールはスイを囮にして犯人達を誘き寄せる作戦を立てた。
 相手がアサシンレオウルフを知っていた場合、警戒されるのでコハクはスイとは別行動を取っている。
 子どもが一人で森の中を歩くのも不自然なので、ダニエルとスイは親子を装う事になった。
 やや拓けた場所に出て、スイはダニエルを見上げる。

『お父さん、お腹空いた』

「……あ、あぁ、それじゃあそろそろご飯にしようか」

『うん。ボク、薪を拾ってくるね』

「気をつけてな。何かあったら大きな声を出せよ」

『はーい』

 木々の向こうに消えるスイの背中を、ダニエルが心配そうな顔で見送った。

「………………」

 その様子を離れた所から見ていた影が、音も無くスイを追う。
 左手に松明を持ち、拾った薪を右手でアイテムポーチに入れながら歩いていたスイが、足を止めた。ぐるりと辺りを見回して、暗闇に向かって話しかける。

『……誰?』

 返事は無い。

『……ねぇ、誰?』

 もう一度訊ねると、暗闇から人間が次々と出てきた。六人の男がスイを囲む様に立つ。

「勘の鋭いガキだ」

「結構整った顔だな。殺さずに売った方がいいんじゃないか?」

「いつも全員殺しちまうアイツもいねぇし、そうしようぜ。リーダーも賛成するだろ」

「でもこいつ、男と女どっちだ?」

 六対の下卑た眼がスイを見る。

「……剥けばわかるだろ。どっちにしろ売れそうな見た目だし、なんなら仕込んでしまうか」

「そりゃあいい。溜まってたからな」

 じりじりと近付いて来る六人の内、スイは前方にいる二人目掛けて氷魔法を放った。

氷槍アイスランス!』

「がぁぁあっ!?」

「ぐあぁぁっ!」

 肩を貫かれた二人が絶叫する横を、スイが走って通り抜けた。アイテムポーチから取り出したショートソードを構えて、左手に魔力を集める。

「こいつ、魔法を使いやがる!」

「クソガキが……! サイレント!」

『!!』

 相手の魔法を封印する無属性魔法が半透明の鎖と化す。襲いかかってきた魔力の鎖に、スイは反射的に左腕で顔を庇った。
 瞬間、鎖が音を立てて壊れていくさまに、全員が目を見開く。

『え? あっ……!』

 スイは光を放っている自分の左手首を見て、驚愕と納得の声をあげた。
 左手首に着けているのは、シュウから貰った防封印アンチシールの腕輪だ。アメジストが紫色の光を発し、持ち主を護っている。
 全員が戸惑って動きを止めた今が好機だと判断したスイは、大声で相棒を呼んだ。

『コハク!!』

《やっとか!!》

 木の上から飛び降りてきたコハクが一人を踏み潰しながら仕留めた。
 突然のアサシンレオウルフの出現に、生きている五人は恐慌状態に陥る。

『コハク、リーダーは他にいるみたい。多分ダニエルさんの方に行っているから、この人達は全員……』

 一度言葉を止めたスイは、自分に言い聞かせる様に続けた。

『全員、殺しても構わない。生かせるなら生かした方がいいけど』

《……解った》

 コハクはちらりとスイを見て頷くと、地魔法の大地の手錠アースマナクルズで肩に穴を空けた二人を拘束する。

「う、動けねぇ……!」

「痛ぇぇぇえ……!」

 一人は既にコハクが仕留めており、二人は戦線離脱。残る三人に、スイは左手に雷の魔力を集めた。雷が爆ぜる音に、三人の顔が強ばる。

『このまま大人しく捕まってくれるならそちらの二人の様にはしません。でも抵抗するなら』

 三人の間を、雷がはしり抜ける。

『威力を上げた雷魔法を、あなた達に当てる事になります』

「……な、舐めんなクソガキがぁぁああ!!」

 ククリナイフを振りかざしながら襲いかかってきた一人をスイが迎え撃つ。
 コハクは残りの二人がスイに向かわない様に、唸りながら道を塞いだ。

「ア、アサシンレオウルフとは言え二対一なら倒せる筈だ……!」

「ぶっ殺す!」

《舐めるな!》

 大地の棘アースニードルを放ち、コハクは二人の足を縫い止める。絶叫が再び森の中に響き渡る中、一人の喉元に食らいついた。

「がっ…………」

 どさりと地面に倒れ、血溜まりに顔を沈めていく男にもう一人の男の顔が蒼白になっていく。
 逃げようと身体を捻るが、足が動かせずに痛みに呻くだけの男に近付くと、コハクは血に濡れる牙を見せびらかす様に口を開けた。

「ひっ……た、頼む……、い、命だけは……」

 がたがたと震える男は完全に戦意を喪失している。

《(生かした方が良いなら、こいつは残しとくか)》

 コハクは大地の手錠アースマナクルズで男の四肢を拘束すると、スイの方に顔を向けた。

《スイ、こっちは終わったぞ!》

『流石……!』

「くそっ、情けねぇ奴等だ!!」

 激昂した男からスイは離れた。
 ククリナイフの間合いの外から氷礫アイスバレットを撃ち込む。ナイフで若干弾かれたが、多くは男に命中した。それでも男は倒れない。

『(しつこすぎる! だいぶ血を流してる筈なのに……!)』

 追ってくる男から距離を取ろうと走り出そうとしたスイが、足に違和感を覚えたのと同時に前のめりに倒れかけた。

『!?』

 せり上がって固まった地面に片足が呑まれている。
 大地の手錠アースマナクルズだが、放ったのは当然コハクではない。
 スイは眼の前に立つ男を見上げた。
 血走った眼で嗤う男は、獲物がかかった事に心底悦んでいる。

「漸く捕まえたぜ。ちょこまかしやがって……ぶっ殺す……!」

 首を掴まれ、スイの息が詰まる。細い首にククリナイフが当たった。

《スイ!》

「獣如きが邪魔すんじゃねぇ!!」

 焦ったコハクは岩槍ロックランスが男に放つ。
 それを同じ魔法で撃ち落とした男がコハクに向けていた顔をスイへ戻すと、首を押さえて咳き込みながら自分を睨むスイと眼があった。

「…………あ?」

 スイの首を掴んでいた筈の男の手が無い。
 肘から下が綺麗に無くなっていた。
 風が周囲の草木を揺らす。

『…………いい加減、覚悟を決めるよ』

 それは誰に向けて言ったのか。
 宛先の判らない言葉を呟いて、男の腹に突き刺したショートソードが背中の皮膚を貫通した。

「て……テメェ……!!」

 ククリナイフがスイの首目掛けて迫る中、スイは静かに唱える。

爆雷スパーク

 雷が爆ぜる大きな音が森の中に響いた。
 全身から煙を上げた男は静かになり、ぐらりと傾く。身体からスイがショートソードを抜くと、そのまま地面へと倒れた。

『………………』

 スイは静かに長く息を吐く。近付いてきたコハクに顔を向けた。

《……大丈夫か?》

『……うん』

《……ごめん、オレが一緒に戦っていれば……》

 迷ったが、スイ自身が踏ん切りをつける為にと敢えてギリギリまで手を貸さなかった事をコハクは後悔する。
 謝るコハクに、スイは首を左右に振った。

『いつまでも躊躇ってたら駄目だから。これで良かったよ。…………後悔は、無い』

 スイは眉を下げて、泣きそうな顔で微笑った。

『……この人達は私とコハクだけでは運べないし、ダニエルさんとヴァレンスさんに手伝ってもらおう』

《うん。向こうも終わってるみたいだ。こっちに走ってくる》

『良かった。無事みたいで――』

「凄いなぁ、アサシンレオウルフを従えてるとは言え、こいつらを倒しちゃうなんて」

『!?』

《誰だ!?》

 弾かれたように、スイとコハクは同時に振り向く。
 まったく気配を感じさせない男が一人、拍手をしながらスイを見て楽しそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

処理中です...