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第二章 中央大陸
拾われ子と新年祭 後編
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新年祭最終日。王都の北側にある城のバルコニーから、国王を筆頭にその一族が人々に笑顔で手を振っている。
王族が庶民の前に姿を見せる事は、基本的に新年祭を除いては他に無い。一年に一度しか無い機会に、王都内外の人々が城の前に集まり、歓声をあげる。
スイとコハクも、歓声こそあげていないがその群衆の一部となっていた。聴覚の鋭いコハクは辛いのだろう。耳を倒して眉間に皺を寄せている。
『(……まさかなぁ……)』
スイはコハクの頭を撫でながら、昨日の事を思い出していた。
新年祭二日目夕方頃。スイは評判になっていた記念パンや肉など幾つかの食料を土産兼詫びとして買ってシンシアの家に戻り、その日起きた事をシンシアとクロエに話した。
「先触れが来て何事かと思っていましたが、そんな事が……スイやコハクは、怪我をしていませんか?」
『私達は無傷です。何かされる前に仕掛けたので』
「流石はマリク様とレイラ様のお孫様です。ですが、シンシア様……」
「えぇ……まったく、城の者も城の者ですが、あの方は何をしているのでしょう。スイとコハクがいたから良かったものの、一歩間違えれば大事になってました」
シンシアは眉を下げて珍しく溜息を吐いた。
「近衛兵も従者達も本人も、叱責されて然るべきです。好奇心旺盛な年頃なのは解りますが――」
『近衛兵……?』
実績と信頼がなければ抜擢されない近衛兵は、仕える君主が世界で最も高貴な人物と言う事もあり、兵士の誉れだ。
募る嫌な予感に、恐る恐るシンシアを見れば頬に手を当てていた。
「関わってしまった以上、説明しておくべきですね。……ちょうど良いのか、ちょっと遅かったと言うべきか、判断に悩みますが」
シンシアが言い終わると同時に、ドアノッカーが鳴らされた。クロエが対応に向かう。
「スイ、今日会ったその少年の家名は、ウォーヴェライトと言います。この意味が解りますね?」
『ウォーヴェライトって、この街の……!』
聞き覚えのある名に、スイの眼が大きく開かれた。
一般的に王都と呼ばれる事が多いこの街の正式名称は、王都ウォーヴェライト。王族が住む街と同じ名を持つのは、とある一族のみだ。
クロエが客人達を中へと招き入れると、一人の少年が前に出てシンシアに挨拶をした。
「シンシア殿、お久しぶりです」
「クリス殿下、お久しぶりでございます」
「本日、そちらの方に危ない所を助けていただきました。その御礼をしたく、参った次第です」
スイに顔を向けた少年は胸に手を当て、自らの名を告げる。
「先程は名乗りもせずに失礼しました。私の名は、クリストファー・ウォーヴェライト。この国の第三王子です」
『……スイと、申します。王子殿下とは知らず、御前で無礼な振舞いをした事をお詫び申し上げます』
世界を治めている王族の一人に、スイは硬い笑顔を浮かべて名乗った。
五大陸に住む人類の尊厳と社会秩序は、王族によって護られている。とは言え、王族が中央以外の四大陸に常駐している訳ではなく、正確には四大陸には代理人を選定して統治しているのだが、彼等からの報告を基に国王は五大陸を総べているのだ。
公爵を予想しておけば覚悟としては充分だろうと思っていたが、王族は流石に想定外である。
スイの詫びに、クリストファーは首をゆるく左右に振った。
「有事でしたから何も問題はありません。約束通り御礼をしたいのですが、スイは旅人ですよね?」
『はい』
「生まれ持った属性を伺っても?」
『風と水と無属性です』
「では、風と水、後は光か闇ですね」
何の話かと思っていると、クリストファーが後ろを振り返った。一人の魔導師らしき姿の男性がクリストファーの斜め後方に立つ。
「彼は王家直属の魔導部隊所属で、王家御用達の職人によって作られた防具に属性付与をする役目も持っています」
『それは……名誉あるお仕事ですね』
そんな魔導師を連れて来た真意を測りかねて無難な言葉を述べたスイに、男性は僅かに頷き、クリストファーがにっこりと笑った。
「彼に属性付与をしてもらい、その防具をスイに贈りたいと思っています」
『え?』
さらりと言われたが、それは高価な人工魔具を贈るという事だ。
王族相手に無礼な聞き返しをしたが、クリストファーは気に留める事無く従者を呼ぶ。
「スイは好きな色はありますか? この中にあれば良いのですが」
テーブルの上にずらりと置かれたのは色とりどりのマントだ。その内の一枚を広げると、クリストファーはスイに合わせてみた。
「マントの方が少し大きいかな?」
『あの、クリストファー殿下……』
「あ、私は今年十一歳になりますが、スイは幾つですか?」
『……ボクも年が明けたので十一歳になりました』
「では、同い年という事で是非クリスと呼んでください。クリストファーは呼びにくいでしょう?」
『……ですが……』
「スイ」
愛称呼びも、ついでに人工魔具の贈呈も断れないかと苦し紛れに声を出したが、シンシアに呼び止められた。
「殿下のお気持ちを無下にしてはなりません。有難く受け取りましょう」
『……解りました。クリス殿下、ありがとうございます』
「えぇ。それでは遠慮なく好きな色の物を選んでください」
「クリス殿下。今日お連れの方々は、信用できますか?」
「えぇ、口は堅い者達ですが……何か?」
「スイ、変装を解いてください」
驚いてシンシアを見れば、微笑みながら頷いた。意図は理解出来ないが、スイは変装を解く。翡翠色の右眼と燐灰石色の左眼に、クリスと従者達が息を呑んだ。
「殿下。ご覧の通り、スイは非常に珍しい色の眼を持っています。自衛の為とは言え、魔法で隠していた事をお許しください」
シンシアの言葉を聞いてスイはハッとした。確かに、王族相手に虚偽の姿を見せる事は不敬だろう。
『申し訳ございません、殿下』
「いえ、珍しい容姿を持つ者を狙う人攫いがいると聞きますから自衛は当然の事です。気にしないでください」
『……ありがとうございます』
寛大な心の持ち主で助かったと安堵する。これが下手な貴族だったらどうなっていた事かと、スイは背中を冷や汗が流れていくのを感じた。
自分一人が咎められるならまだ良いが、それがコハクやシンシア達にまで及ぶなんて事はあってはならない。
『(……でも、王族相手の礼儀作法は教わってなかったなぁ……)』
普通に生きていれば王族と話す事は無い。レイラが教えなかったのも解るが、教えて欲しかったと心から思いながら、スイはクリスに色々勧められてマントを選んだ。
「やはり、眼の色に合わせて正解ですね。緑も青も似合います」
クリスの厚意で、スイは春夏用と秋冬用にと二枚のマントを受け取った。
属性はスイの持つ風と水に加え、闇を付与してもらった。闇属性を持つノズチとまた戦う可能性がある事を考えた故の選択だ。
今は眼の色を群青に変えて青のマントを着用している。丈が少し長く、引き摺ってしまうのを気にしているとクロエがいつの間にか裁縫箱を持っていた。
「スイ様、後程私が裾を直します。多少身長が伸びても使える形にしますので、ご心配には及びません」
人工魔具等、上級者ならまだしも中級者がそうほいほいと買い換えられる物では無い。クロエの厚意に、スイは素直に甘える事にした。
『凄く助かります。ありがとうございます、クロエさん』
「恐れ入ります」
相変わらず無表情だが、眼の輝きがいつもよりも増しており、気の所為か薄ら尻尾の幻覚が見えた。
コハクのようにぶんぶんと振られる尻尾は、常日頃冷静なクロエとのギャップが感じられてスイは笑いそうになるのを堪える。
『(疲れてるのかな。今日は早めに寝よう)』
眼を擦ったスイは、クリストファーに向き直る。
『二枚も……本当にありがとうございます』
ローマンから貰ったマントはここまでの旅でボロボロになっていた。三属性付与と言う、Dランクハンターには過剰な装備だが有難いと言うのが本音だ。
「これだけでは足りませんので、こちらもどうか受け取ってください。父上からです」
渡されたのは、ずっしりと重い革袋。既視感のある光景と重さに、ぴしりとスイの動きが止まった。
『(……父上って事は国王からの……断れない……!)』
非公式とは言え、国王からの礼を断るのは不敬だ。
ちらりとシンシアを見れば、苦笑いを浮かべて頷いたので、やはり受け取るしかないと悟る。
『……大変ありがたく存じます』
深く頭を下げて受け取った。革袋の重さがそのまま気分を重くさせた。王族も金銭感覚がとんでもない。
マントと裁縫道具を従者達が片付け終えると、クリスは玄関前に立った。
「本当はスイの旅の話を聞きたかったのですが、そろそろ城に戻らなければなりません。スイ、今度話を聞かせてください」
社交辞令なのか、本気なのか、行動力溢れるクリスが言うとどちらなのか判別出来ない。
『……殿下の御期待に添えられるかはわかりませんが、機会がありましたらぜひ』
スイがそう返すと、クリスは嬉しそうに微笑った。そんなクリスにシンシアが歩み寄る。
「クリス殿下、御気分を害する事になり申し訳ございませんが、私から幾つか申し上げたく存じます」
「……はい」
クリスは笑顔を下げてシンシアを見上げた。
「好奇心旺盛な貴方様の事です。新年祭で賑やかになる街を見て回りたかったのだと思いますが、世界中から人が集まる王都を護衛も連れずに一人歩くのは非常に危険な行為です」
「はい」
「スイやコハクがいたから御身に傷一つつかずに済み、大事に至りませんでしたが、殿下も、殿下の周囲の人間も叱責されたのではありませんか?」
「……仰る通りです」
「もし殿下が怪我や攫われる様な事になっていたら、彼等は叱責程度では済まなかった筈です。王位継承権は第三位であり、あなた様もやんごとなき身分のお方。ご自身が動かれた結果どうなるか、周囲に与える影響を充分に考えた上で行動なさいますよう、ご留意ください」
「……忠言、痛み入ります」
クリスは神妙な顔で頷き、従者達に謝罪した後、スイにも改めて礼を述べてから城に帰って行ったのだった。
そして夜が明けた今、スイの視線の先では同年代の金髪金眼の美少年が微笑んで手を振っている。
『(まさか王族だったとは……)』
クリスは群衆の中にスイを見つけると一瞬驚いた顔をしたが、すぐに天使の様な笑みを見せた。スイの周りから黄色い歓声があがる。
笑顔で人々の歓声に応えるクリスは、子どもながら立派に王族の義務を果たしているように見える。
『(……自分が動いた結果、周囲に与える影響か……)』
シンシアの言葉はスイにも突き刺さっていた。
スイと魂繋契約を結んでいるコハクは、スイが死ぬとそれに引っ張られて死ぬ事になる。
『(主は従魔の命を背負う。私の命は、私だけの命じゃない)』
既に二度放りだそうとした自身を今一度戒める。
『……耳痛いし、市街地の方に行こうか』
《……うん、早く此処から離れたい……》
呼吸法で強化されている為、コハク程ではないにしろスイの耳にも辛いものがある。
スイはもう一度クリスに視線を合わせて会釈すると、丈を直してもらった青いマントを翻して店が並ぶ市街地の方へコハクと共に歩いて行った。
王族が庶民の前に姿を見せる事は、基本的に新年祭を除いては他に無い。一年に一度しか無い機会に、王都内外の人々が城の前に集まり、歓声をあげる。
スイとコハクも、歓声こそあげていないがその群衆の一部となっていた。聴覚の鋭いコハクは辛いのだろう。耳を倒して眉間に皺を寄せている。
『(……まさかなぁ……)』
スイはコハクの頭を撫でながら、昨日の事を思い出していた。
新年祭二日目夕方頃。スイは評判になっていた記念パンや肉など幾つかの食料を土産兼詫びとして買ってシンシアの家に戻り、その日起きた事をシンシアとクロエに話した。
「先触れが来て何事かと思っていましたが、そんな事が……スイやコハクは、怪我をしていませんか?」
『私達は無傷です。何かされる前に仕掛けたので』
「流石はマリク様とレイラ様のお孫様です。ですが、シンシア様……」
「えぇ……まったく、城の者も城の者ですが、あの方は何をしているのでしょう。スイとコハクがいたから良かったものの、一歩間違えれば大事になってました」
シンシアは眉を下げて珍しく溜息を吐いた。
「近衛兵も従者達も本人も、叱責されて然るべきです。好奇心旺盛な年頃なのは解りますが――」
『近衛兵……?』
実績と信頼がなければ抜擢されない近衛兵は、仕える君主が世界で最も高貴な人物と言う事もあり、兵士の誉れだ。
募る嫌な予感に、恐る恐るシンシアを見れば頬に手を当てていた。
「関わってしまった以上、説明しておくべきですね。……ちょうど良いのか、ちょっと遅かったと言うべきか、判断に悩みますが」
シンシアが言い終わると同時に、ドアノッカーが鳴らされた。クロエが対応に向かう。
「スイ、今日会ったその少年の家名は、ウォーヴェライトと言います。この意味が解りますね?」
『ウォーヴェライトって、この街の……!』
聞き覚えのある名に、スイの眼が大きく開かれた。
一般的に王都と呼ばれる事が多いこの街の正式名称は、王都ウォーヴェライト。王族が住む街と同じ名を持つのは、とある一族のみだ。
クロエが客人達を中へと招き入れると、一人の少年が前に出てシンシアに挨拶をした。
「シンシア殿、お久しぶりです」
「クリス殿下、お久しぶりでございます」
「本日、そちらの方に危ない所を助けていただきました。その御礼をしたく、参った次第です」
スイに顔を向けた少年は胸に手を当て、自らの名を告げる。
「先程は名乗りもせずに失礼しました。私の名は、クリストファー・ウォーヴェライト。この国の第三王子です」
『……スイと、申します。王子殿下とは知らず、御前で無礼な振舞いをした事をお詫び申し上げます』
世界を治めている王族の一人に、スイは硬い笑顔を浮かべて名乗った。
五大陸に住む人類の尊厳と社会秩序は、王族によって護られている。とは言え、王族が中央以外の四大陸に常駐している訳ではなく、正確には四大陸には代理人を選定して統治しているのだが、彼等からの報告を基に国王は五大陸を総べているのだ。
公爵を予想しておけば覚悟としては充分だろうと思っていたが、王族は流石に想定外である。
スイの詫びに、クリストファーは首をゆるく左右に振った。
「有事でしたから何も問題はありません。約束通り御礼をしたいのですが、スイは旅人ですよね?」
『はい』
「生まれ持った属性を伺っても?」
『風と水と無属性です』
「では、風と水、後は光か闇ですね」
何の話かと思っていると、クリストファーが後ろを振り返った。一人の魔導師らしき姿の男性がクリストファーの斜め後方に立つ。
「彼は王家直属の魔導部隊所属で、王家御用達の職人によって作られた防具に属性付与をする役目も持っています」
『それは……名誉あるお仕事ですね』
そんな魔導師を連れて来た真意を測りかねて無難な言葉を述べたスイに、男性は僅かに頷き、クリストファーがにっこりと笑った。
「彼に属性付与をしてもらい、その防具をスイに贈りたいと思っています」
『え?』
さらりと言われたが、それは高価な人工魔具を贈るという事だ。
王族相手に無礼な聞き返しをしたが、クリストファーは気に留める事無く従者を呼ぶ。
「スイは好きな色はありますか? この中にあれば良いのですが」
テーブルの上にずらりと置かれたのは色とりどりのマントだ。その内の一枚を広げると、クリストファーはスイに合わせてみた。
「マントの方が少し大きいかな?」
『あの、クリストファー殿下……』
「あ、私は今年十一歳になりますが、スイは幾つですか?」
『……ボクも年が明けたので十一歳になりました』
「では、同い年という事で是非クリスと呼んでください。クリストファーは呼びにくいでしょう?」
『……ですが……』
「スイ」
愛称呼びも、ついでに人工魔具の贈呈も断れないかと苦し紛れに声を出したが、シンシアに呼び止められた。
「殿下のお気持ちを無下にしてはなりません。有難く受け取りましょう」
『……解りました。クリス殿下、ありがとうございます』
「えぇ。それでは遠慮なく好きな色の物を選んでください」
「クリス殿下。今日お連れの方々は、信用できますか?」
「えぇ、口は堅い者達ですが……何か?」
「スイ、変装を解いてください」
驚いてシンシアを見れば、微笑みながら頷いた。意図は理解出来ないが、スイは変装を解く。翡翠色の右眼と燐灰石色の左眼に、クリスと従者達が息を呑んだ。
「殿下。ご覧の通り、スイは非常に珍しい色の眼を持っています。自衛の為とは言え、魔法で隠していた事をお許しください」
シンシアの言葉を聞いてスイはハッとした。確かに、王族相手に虚偽の姿を見せる事は不敬だろう。
『申し訳ございません、殿下』
「いえ、珍しい容姿を持つ者を狙う人攫いがいると聞きますから自衛は当然の事です。気にしないでください」
『……ありがとうございます』
寛大な心の持ち主で助かったと安堵する。これが下手な貴族だったらどうなっていた事かと、スイは背中を冷や汗が流れていくのを感じた。
自分一人が咎められるならまだ良いが、それがコハクやシンシア達にまで及ぶなんて事はあってはならない。
『(……でも、王族相手の礼儀作法は教わってなかったなぁ……)』
普通に生きていれば王族と話す事は無い。レイラが教えなかったのも解るが、教えて欲しかったと心から思いながら、スイはクリスに色々勧められてマントを選んだ。
「やはり、眼の色に合わせて正解ですね。緑も青も似合います」
クリスの厚意で、スイは春夏用と秋冬用にと二枚のマントを受け取った。
属性はスイの持つ風と水に加え、闇を付与してもらった。闇属性を持つノズチとまた戦う可能性がある事を考えた故の選択だ。
今は眼の色を群青に変えて青のマントを着用している。丈が少し長く、引き摺ってしまうのを気にしているとクロエがいつの間にか裁縫箱を持っていた。
「スイ様、後程私が裾を直します。多少身長が伸びても使える形にしますので、ご心配には及びません」
人工魔具等、上級者ならまだしも中級者がそうほいほいと買い換えられる物では無い。クロエの厚意に、スイは素直に甘える事にした。
『凄く助かります。ありがとうございます、クロエさん』
「恐れ入ります」
相変わらず無表情だが、眼の輝きがいつもよりも増しており、気の所為か薄ら尻尾の幻覚が見えた。
コハクのようにぶんぶんと振られる尻尾は、常日頃冷静なクロエとのギャップが感じられてスイは笑いそうになるのを堪える。
『(疲れてるのかな。今日は早めに寝よう)』
眼を擦ったスイは、クリストファーに向き直る。
『二枚も……本当にありがとうございます』
ローマンから貰ったマントはここまでの旅でボロボロになっていた。三属性付与と言う、Dランクハンターには過剰な装備だが有難いと言うのが本音だ。
「これだけでは足りませんので、こちらもどうか受け取ってください。父上からです」
渡されたのは、ずっしりと重い革袋。既視感のある光景と重さに、ぴしりとスイの動きが止まった。
『(……父上って事は国王からの……断れない……!)』
非公式とは言え、国王からの礼を断るのは不敬だ。
ちらりとシンシアを見れば、苦笑いを浮かべて頷いたので、やはり受け取るしかないと悟る。
『……大変ありがたく存じます』
深く頭を下げて受け取った。革袋の重さがそのまま気分を重くさせた。王族も金銭感覚がとんでもない。
マントと裁縫道具を従者達が片付け終えると、クリスは玄関前に立った。
「本当はスイの旅の話を聞きたかったのですが、そろそろ城に戻らなければなりません。スイ、今度話を聞かせてください」
社交辞令なのか、本気なのか、行動力溢れるクリスが言うとどちらなのか判別出来ない。
『……殿下の御期待に添えられるかはわかりませんが、機会がありましたらぜひ』
スイがそう返すと、クリスは嬉しそうに微笑った。そんなクリスにシンシアが歩み寄る。
「クリス殿下、御気分を害する事になり申し訳ございませんが、私から幾つか申し上げたく存じます」
「……はい」
クリスは笑顔を下げてシンシアを見上げた。
「好奇心旺盛な貴方様の事です。新年祭で賑やかになる街を見て回りたかったのだと思いますが、世界中から人が集まる王都を護衛も連れずに一人歩くのは非常に危険な行為です」
「はい」
「スイやコハクがいたから御身に傷一つつかずに済み、大事に至りませんでしたが、殿下も、殿下の周囲の人間も叱責されたのではありませんか?」
「……仰る通りです」
「もし殿下が怪我や攫われる様な事になっていたら、彼等は叱責程度では済まなかった筈です。王位継承権は第三位であり、あなた様もやんごとなき身分のお方。ご自身が動かれた結果どうなるか、周囲に与える影響を充分に考えた上で行動なさいますよう、ご留意ください」
「……忠言、痛み入ります」
クリスは神妙な顔で頷き、従者達に謝罪した後、スイにも改めて礼を述べてから城に帰って行ったのだった。
そして夜が明けた今、スイの視線の先では同年代の金髪金眼の美少年が微笑んで手を振っている。
『(まさか王族だったとは……)』
クリスは群衆の中にスイを見つけると一瞬驚いた顔をしたが、すぐに天使の様な笑みを見せた。スイの周りから黄色い歓声があがる。
笑顔で人々の歓声に応えるクリスは、子どもながら立派に王族の義務を果たしているように見える。
『(……自分が動いた結果、周囲に与える影響か……)』
シンシアの言葉はスイにも突き刺さっていた。
スイと魂繋契約を結んでいるコハクは、スイが死ぬとそれに引っ張られて死ぬ事になる。
『(主は従魔の命を背負う。私の命は、私だけの命じゃない)』
既に二度放りだそうとした自身を今一度戒める。
『……耳痛いし、市街地の方に行こうか』
《……うん、早く此処から離れたい……》
呼吸法で強化されている為、コハク程ではないにしろスイの耳にも辛いものがある。
スイはもう一度クリスに視線を合わせて会釈すると、丈を直してもらった青いマントを翻して店が並ぶ市街地の方へコハクと共に歩いて行った。
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✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
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