拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第三章 北大陸

番外編 西大陸のギルド職員達

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 ハンターズギルド・オアシス支部の事務所で、支部長秘書のカテリナは本部から送られてきた情報に目を通していた。

 本部からの通達事項だけでなく、各支部からの報告も全てのハンターズギルドに共有される。そこには昇格試験合格者の情報も含まれる。毎月、各支部から本部へ合格者の情報が送られ、本部が纏めた後、各支部へ合格者一覧として通達されるのだ。
 カテリナは本部から送られてきたばかりの先月の昇格試験合格者の中に、ある人物の名前を見つけて珍しく目を見開いた。
 そして、その大陸の合格者一覧だけを抜粋して魔道具で紙に転写した。町ごとの合格者の名前が並ぶ。

 時間を確認して、水の入ったコップとその紙を持って事務所を出て二階に上がる。
 多目的室マルチルーム の前まで来ると、中から声が聞こえてきた。

「――と、もう良い時間だな。今日の講習はここまでとする」

「「「ありがとうございました!!」」」

 扉が開き、多目的室からギルド職員が数名出てくる。共通点を上げるとすれば、全員歳若い事だろう。

「あ、お疲れ様です! カテリナさん!」

「お疲れ様です。皆さん、この後の業務もしっかりお願いしますね」

「はい!」

 彼らは今年ハンターズギルドに就職した新人職員だ。業務を行う傍ら、時々こうやってギルドに関する講習を受ける。ハンターや昇格試験についてだけでなく、モンスターの事を知るのもその一環だ。
 新人職員が出ていき、最後に多目的室から出てきた人物にカテリナは声を掛けた。

「ふー……」

「お疲れ様です、支部長」

「あぁ、すまねぇな。ありがとう」

 カテリナから渡された水と労いの言葉を、ハンターズギルド・オアシス支部長のセオドアは礼を言って受け取った。

「皆わけーよなぁ……。自分が歳取ったのを実感させられるわ……」

「去年も同じ事を仰ってましたよ」

「毎年新人職員の講習やる度に思ってるからな」

 セオドアは水を飲み干すと、手を出したカテリナに空のコップを渡した。空いた手に、今度はカテリナが一枚の紙を渡す。

「? 何だ、これ」

「先月のCランク昇格試験合格者一覧です。北大陸の分だけ抜粋しました」

「あー……支部長やってる俺が言うのもなんだが、Cへの昇格試験を篩として見る考え方嫌いなんだよなぁ……。本部のお偉方に多いんだが……つーか何で北大陸だけなんだよ」

 Cランクは未来の上級ハイランクハンター候補なので、ギルド上層部はCランク昇格試験から合格者を気にし始める。
 ギルド側からすれば、言い方は悪いが上級ハンターの卵を見つける為の選定とも言える試験だ。

「私も同意致します。特定のランク以上しか見ていないような考え……命懸けで戦うハンターに失礼極まりないとしか思えません」

 常時冷静なカテリナにしては珍しく強くなった物言いに、本人も気付いたのか咳払いをして話題を変えた。

「失礼致しました。それをお渡ししたのは、是非支部長には目を通していただくべきだと判断したからです」

「俺に?」

「北大陸の政令指定都市、シーバシュタットでの合格者をご覧いただけますか?」

「シーバ、シーバ……ここか…………っ!?」

 片手に持っていた紙を両手で握りしめたセオドアに、カテリナはほんの僅かに口角を上げた。
 シーバシュタットでのCランク昇格試験合格者。その中のとある名前に、オアシスのハンターズギルド職員が、支部長セオドアが何も思わない訳が無い。

「…………は」

「支部長?」

「はっはっはっはっ!!」

 突如廊下で笑いだしたセオドアに、ギルド内に居る職員やハンターの目が一斉に向いた。

「はははは……! いや、すまん皆。気にせずそのまま仕事してくれ」

「出来るか!! 気になるわ! おいセオドア、隠さずに話せ!」

「あんたがそんなに笑うなんて、何があったんだ?」

 出張でオアシスに来ているアードウィッチ支部長のヴァレオンと、Bランクハンターのウィルベスターが二階へと上がっていく。

「これはニーナには?」

「まだ見せておりません。支部長に最初に見せた方が良いと思いましたので」

「じゃあニーナにも見せるか。ニーナ! ちょっと二階まで来てくれ!」

「は、はい! オリアーナさん、受付業務お願い出来ますか?」

「うん。行ってらっしゃい」

 受付横の扉を開けて、砂猫の獣人である受付嬢のニーナは急いで階段を駆け上がる。
 二階にいるのはオアシス支部長、その秘書、アードウィッチ支部長、Bランクハンター。

「(この中に何で私……?)」

 戦々恐々としながら近付くと、ニーナはセオドアから一枚の紙を渡された。

「先月のCランク昇格試験合格者だ。シーバシュタットの所を見てみろ」

 カテリナと同じ事を三人に告げる。一番背の低いニーナが持ってるので、その両側に高身長で筋肉質なヴァレオンとウィルベスターが立って覗き込む。

「(……あ、圧が凄い……!)」

 両側から集中力を散らされながら、ニーナはシーバシュタットを探し、その下に書かれた名前を目で追っていく。
 アーサー、グレゴリー、ジェイコブ……順番に並んだ名前を意図が解らないまま黙読していると、決して多くはない人数の最後の方に「スイ」と言う名前を見つけた。

「え…………えっ!?」

 ニーナとほぼ同時に気付いたのか、ニーナの右手にヴァレオンの右手が、左手にはウィルベスターの左手が重なり、ニーナの両手ごと紙が強く握られた。

「痛たたたた痛いです!! 私の手潰れちゃいます、お二方ぁ!!」

 涙目で悲鳴をあげたニーナに、ヴァレオンとウィルベスターは同時に手を離した。ヴァレオンの目がセオドアに向けられる。

「マジか?」

「カテリナが抜粋したから本当だろう。な?」

「勿論です」

「スイがハンターになって……どれくらいだ?」

「一年と約三ヶ月です」

ったぁ……。い、一年三ヶ月でCランクに昇格って、異例の早さなんじゃないですか……!?」

 合格者一覧をセオドアに返し、両手を擦りながら未だ涙目のニーナだが、その表情は明るい。

「その通りだ。前例が無い訳じゃないが」

「……スイならもっと早くCに上がれたんじゃねぇか?」

「スイはレイラ殿から頼まれて王都に行ったからな。あの周辺は依頼のランクが低くて評価点が稼げん。その分遅くなったんだと俺は思ってる。いや充分早ぇんだが」

「指定モンスターは何だったんだ?」

「カテリナ、調べてあるか?」

「はい。Cランク帯のレイスと、B-のグーロだそうです」

「グーロか……。あの厄介な奴をよく倒したな」

「グーロ……? 西大陸では聞いた事ない気がします」

「そりゃそうだ。あれは北大陸と東大陸にしか生息してねぇ。特徴的にアサシンレオウルフと似てるが、腹が減ると凶暴化バーサーク状態みてぇになるヤベェ奴だ」

「アサシンレオウルフの方が危険度ランクは高いがな」

「……グーロが凄いのか、コハクが凄いのか、解りません……」

 混乱しているニーナに、カテリナは顎に手を当てて呟く。

「そんなモンスターを十一歳で倒したスイさんが一番凄いのでは?」

「「「「それは確かに」」」」

 笑い声が響く。他の職員やハンターも気になってきたらしく、階下から「俺等にも教えろ」と非難めいた声が聞こえてきた。

「さて、じゃあ俺は休憩がてらジュリアン達に教えてくるかな。ハンターと職員にはお前達から教えてやってくれ」

 了承の返事をして四人は階段を降りていく。最後に階段を降りたセオドアは、機嫌良くギルドを出ると宿屋ブレスへと歩いて行った。
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