拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

文字の大きさ
117 / 292
第三章 北大陸

拾われ子と氷晶花

しおりを挟む
 フローレス家の屋敷から帰る直前にくらった爆発魔法エクスプロージョン、元い、テオバルドの提案。
 それは、またもやテオバルドの護衛だった。雪山の一際気温の低い所にあると言われる珍しい花を、花好きなのに外に出られないアリアの為に採りに行きたいらしい。
 ウィンフレッドが真っ先に反対したので場所を訊いてみると、シーバシュタットの町がある山よりも高い山で、町の北にあると言う。危険地域に含まれると聞いて、スイもテオバルドの説得に回った。

「いけません、テオバルド様! あの場所は危険過ぎます!」

『テオバルド様、もしBランク以上のモンスターが出て来たらボクらだけでは倒せない可能性があります。どうしても行きたいのであれば、せめてもっと経験豊富でランクが上のハンターに依頼してください』

「スイは一人でB-のグーロを倒したと言っていたじゃないか。それに今、山は静まり返っていてモンスターが殆ど出てこないんだろう? きっと大丈夫だ」

『「だからこそ危険なんです……!」』

 意図せず重なった声に、二人の切実さが窺える。
 しかしテオバルドは、スイの能力を買っているのか、自制心が欠けているのか、「今ならきっと行ける」の一点張り。
 今此処で止めようとしても埒が明かないと判断したスイは、とりあえず目的の花について訊く事にした。

『……そこまで採取に行きたい珍しい花とは、どんなものなんですか?』

「氷晶花と言う花だ。滅多に見られないって聞いた」

『氷晶花? あれ……?』

 スイはその名前の花に覚えがあった。レイラから貰った図鑑、その中に描かれていた同名の花の絵と、その採取方法について思い出す。

『……テオバルド様』

「何だ?」

『氷晶花はどうやって採取するか、ご存知ですか?』

「知らないけど、根ごと掘り返すか、ハサミで切れば良いんじゃないのか?」

『……氷晶花は植物ではなく、雪の結晶が重なり合い、花の形を成した物です。手袋越しでも体温が伝わるとすぐに溶けてしまうので、採取難度がかなり高いんです』

「え」

『溶かさずに採取し、更にそれを保管するには専用の魔道具が必要ですが……それをお持ちですか?』

 テオバルドは側にいる執事長を見上げた。ウィンフレッドが首を横に振ると、唖然とする。
 これで危険地域への護衛依頼は回避出来たかと思ったのも束の間、ショックから立ち直ったテオバルドは新たな案を示した。

「さ、採取出来ないなら描けばいい……!」

『描く?』

「僕は絵を描くのが得意なんだ。氷晶花その物をアリアに見せてあげられないのは残念だけど、絵を描いてあげればきっと喜んでくれる。この町の風景も、描いたら喜んでいた」

 スイは先程までいたアリアの部屋を思い出す。壁に、シーバシュタットの町並みが描かれた絵が幾つか飾ってあったが、それは全部テオバルドが描いた物らしい。

「スイ。君には僕が氷晶花の下書きを終えて屋敷に戻るまで、護衛をしてもらいたい」

『……先程も申し上げた通り、ボクらでは対処しきれない可能性があります。他のハンターに――』

「他の奴等は信じられないから嫌だ!」

『!!』

「あ……ご、ごめん。でも、他のハンターは、その……」

 テオバルドの強い拒絶に、スイはフローレス家の者が持つ傷を思い出す。配慮に欠けた発言だと、己を叱責して深く頭を下げた。

『……申し訳ございません。失言でした』

「……え」

「テオバルド様、スイ様はティアリス様の事を既に知っております。旅の途中で聞かれたそうです」

「……そっか。……知っていたのか……」

 騒がしかったエントランスがしぃんと静まる。先程までとは打って変わった小さな声で、テオバルドは話し始めた。

「……お母様や使用人達を殺したハンターなんて、信じられないし、嫌いだ。でも、お父様や他の使用人を一人でボロボロになるまで戦って守り抜いたのも、ハンターだった。ハンター皆が悪い奴じゃないって、頭では解ってる」

 震える程拳を握ったテオバルドは泣きそうな顔で言葉を続ける。

「だけど、他のハンターに頼むのは怖いし、嫌なんだ。でもスイなら信じられる。話してみて、そう思った。スイはきっと本物のハンターだ。あいつみたいに逃げたりしない。逃げる為に、モンスターを依頼人にけしかけたりしない……!」

『…………』

「お願いだ、スイ。僕の依頼を請けてくれ」

『……ウィンフレッド様は、どうお考えですか?』

 そう訊ねれば、ウィンフレッドは重々しく口を開いた。

「……私は、賛成出来ません。あまりにも危険過ぎます」

「ウィンフレッド!」

 テオバルドは声を荒げたが、スイも同じ考えだった。一点、妥協してくれるならば請けても良いと考えているが、今のテオバルドはその案を受け入れないだろう。

「……ですが、アリア様を思う気持ちは私も理解出来ます。スイ様、氷晶花があると思われる場所に行く為に、どれ程の戦力があれば充分だと考えていらっしゃいますか?」

『……せめて、もう一人か二人……雪山の戦いに慣れているCランク、出来ればBランクハンターがいれば……』

 それこそ、スイがテオバルドに妥協してほしい点だった。
 アサシンレオウルフの危険度ランクはB+だが、今のコハクがその域なのかは解らない。スイはB-のグーロに辛勝したばかりであり、ザクロはせいぜいCまでのモンスターしか倒せない。
 危険地域へ行くには、戦力の不安が拭えないのだ。

「ならば、当家の腕が立つ護衛騎士を同行させるのはいかがでしょうか? テオバルド様、スイ様」

『!?』

「い、いいのか……?」

「駄目だと言っても、きっと今のテオバルド様は氷晶花を描くまで止まらないでしょう。お一人で暴走されるより、充分に準備をしてから行っていただく方が幾分かは安心出来ます」

『……その方について教えていただけますか?』

「歳は三十五。当家への忠誠心に厚く、体力があり、Bランクのアイスリザードを単独討伐した実績もあります。Cランクハンター以上の実力はあるかと。本当は一番腕が立つ者がいれば良かったのですが、その者は今旦那様に同行しておりますので」

「スイ、駄目か……?」

『…………』

 出来れば請けたくないと言うのがスイの本音だ。だが、妹の為と言うテオバルドの気持ちを無下にするのも憚られる。
 スイは自身がハンターになった理由を思い浮かべる。

『(……人を助けながら世界を見て回る……)』

 助けられるのが、自分しかいないのであれば。
 覚悟と申し訳無さを胸に、スイは仲間であり友達でもある二匹に問い掛ける。

『……コハク、ザクロ。もしもの時は一緒に無茶してくれる?』

《……そう訊くのは狡いぞ》

「ゴ主人ノ為ナラ、ザクロ頑張ル」

『……ハンターシュウに知られたら、怒られるかもしれないね』

《多分な。いいよ、一緒にオレも怒られる》

『ごめん、ありがとう』

 眉を下げて笑うと、コハクとザクロはスイに頭を擦り付ける。その頭を撫でて、スイはテオバルドとウィンフレッドに了承の意を告げた。
 後日、スイは初めてギルドで正式な指名依頼を請負い、北大陸の危険地域へ赴く事になる。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

処理中です...