拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子と新たな仲間

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《ふああ……スイ? どうした……?》

 大きな欠伸をしたコハクが、かぷっと音を当てて口を閉じた。まだ眠たそうに目をしょぼしょぼさせながら、ベッドの端に座り剣を持つスイを見る。

『……んーん、って良かったなって。職人さん達が本気を出して打った武具や装飾品はどれも凄かったけど、私にとってはこの剣が一番だから』

《ずっとその剣で戦ってきたもんな。それを持ち始めた時のスイはまだ小さかったけど、剣に見合う大きさになってきた》

『本当に? 身長伸びてる?』

《うん》

『やった!』

《オレの方がデカイけど》

 二足で立ち上がったコハクに見下ろされて、スイは不満気な眼をコハクに向けた。

『それはそうだよ。コハク、立ったら大人の男の人より大きいもん。それで私にのしかかるのやめてね』

 コハクにじゃれられて押し潰された事は一度や二度ではない。

《……グルゥ》

 しょんぼりとして床に伏せてしまったコハクに笑いながら、スイは剣を置いて立ち上がる。

『そろそろ準備しようかな』

《今回は結構長く居たな》

 約三週間滞在したボルカウィッチを、スイ達は今日出立する。
 身支度を整えて食堂に行くと、アレックスが気付いて手を振った。スイはアレックスと同じテーブルに着き、朝食を頼む。

「おはよう」

『おはようございます』

「だいぶスッキリしたね。それなら戦闘の邪魔にならなそうだ」

 スイの左手には二本の腕輪が着けられている。ひとつはシュウから貰った物、もうひとつはそれ以外の防止アンチ耐性レジ装備を纏めた物だ。
 防封印アンチシールの腕輪からアメジストを外して他の三種類の石と一緒にし、一本の腕輪にする事も可能だと言われたが、スイは人から戴いた物だからと断った。
 コハクも一本のネックレスに纏めてもらい、バンダナの下に着けている。

「鍛冶大会は楽しめた?」

『はい、凄く』

「武器屋や工房兼販売所にも力作が並んだけど、良さそうな剣はあった?」

『……全部、職人さん達の魂が込められてて良い物だとは思ったんです。でも、ピンと来なくて買いませんでした』

「そっか、そう言う直感は大事だよ。生命を預ける物だからね。でも早めにもう一本見繕っておきなよ?」

『はい』

 朝食を食べ終えると、スイとアレックスは世話になった宿屋のオーナーに挨拶をして出る。ラシャンやハンター達にも挨拶をするべくギルドに寄ると、そこにはエルサともう一人女性がいた。

「おはよう、スイ、アレックス」

「おはよう。オフィーリアさんがハンターズギルドにいるって事は、何かあったの?」

 医療ギルド、ボルカウィッチ支部長のオフィーリア。現役治癒士であり、最上級治癒魔法の数少ない使い手でもある。
 真剣な表情に変わったアレックスに、オフィーリアは眉を下げて微笑った。

「支部長だからと言って、有事の時にしか別のギルドに来ない訳じゃないのよ?」

「オフィーリアはお前達を見送りに来たんだ」

「町を救ってくれた事もだけど、エルサの事もね。本当にありがとう」

「ありがとうございました」

 オフィーリアに続き、エルサも礼を述べる。気弱で自信が無く、いつも視線が下がっていたエルサだが、討伐戦後は顔つきが少し変わった。
 顔を上げ、仲間やオフィーリアと以前より積極的に関わり、まだ遠慮気味ではあるが自分の意見も話すようになったのだ。

「エルサが変わったのは討伐隊のお陰よ。まだ覚えていない治癒魔法の修得にも努力してるし、この子は間違いなく優秀な治癒士になるわ」

「何でも、何人でも、すぐに治せる治癒士になりたいですから」

「頼もしいね」

『私達ハンターは、何の心配も無く戦えますね』

「皆さんにそう言っていただけるように、治癒士の腕を上げるつもりです」

 しっかりと二人と眼を合わせてそう言ったエルサの横顔を、オフィーリアは嬉しそうに見つめた。

「お前達、次は何処に行くか決めているのか?」

「……ちょこちょこ寄り道はするかもしんないけど、最終的にはリーディンシャウフに行こうと思ってる」

「アレックス、態度に出るようじゃまだまだだぞ」

「……解ってる」

 ムスッとして唇を尖らせたアレックスに苦笑すると、ラシャンはスイに顔を向けた。

「すまんな、スイ。リーディンシャウフの町に近付くに連れて、アレックスが多少面倒臭い奴になると思うが、上手くあしらってくれ」

「アタシの扱い! どうなってんの!? スイだってそんな事言われても困るに決ま――」

『解りました』

「スイ? 解らなくて良いんだよ? 物分かり良すぎだよ?」

「スイがしっかりしているから心配はいらないな。道中気を付けろよ」

『はい。お世話になりました』

「あれー……まぁいいや。ありがとね、ラシャンさん。オフィーリアさんとエルサも元気で。皆もね」

「えぇ、あなた達も身体に気を付けて」

「またボルカウィッチにも来てくださいね」

 頷くと、スイ達は背を向けてハンターズギルドを出て行く。最後尾にいたコハクの姿が完全に見えなくなると、ラシャンが小さく溜息を吐いた。

「どうしたの、ラシャン」

「……いや、優秀なハンターが三人・・も去ってしまったからな。これからまた町の平和維持に苦労する」

「どのギルドも人手不足ね。ハンターズギルドは特に」

「……十年くらい前から、通常種以外のモンスターによる死亡や引退が徐々に増えてきているからな」

「……特殊個体の数が増えたものね。それに異常個体アノマリーの出現頻度が上がってきているのも気になるわ」

「あぁ。上位ハイランクと思われる個体が増えた。また医療ギルドに協力を要請する事があるだろう」

「勿論協力するわ。ハンター達は町の防衛の要。そのハンター達の傷を癒すのが医療ギルドの役目のひとつだもの。私も、一人でも多くの治癒士を育てなければ。そろそろ医療ギルドに戻りましょう、エルサ」

「はい」

 自分達が去った後、そんな会話が広げられていた事を知らないスイ達は門で出立の手続きをしていた。

「……二人とも問題無し。では、開門」

「異常個体の討伐、助かったよ。お前達の旅路に火龍の加護があらんことを」

『「火龍の加護があらんことを」』

 町の外に出て、山道を歩き始めてすぐにスイ達は人影を見つけた。振り向いた顔にコハクが唸り声を漏らす。

『ニコラスさん』

「よー、スイ。と、アレックス」

 片手を上げて応えたニコラスに顔を向けられ、アレックスも片手を上げる。

「何してんの? アタシとスイに何か用? アンタ、ゆっくり歩きながらアタシらを待ってたよね」

 門にいる時から、町の外にある一人の気配にアレックスもスイも気付いていた。

「いや、お前等が今日町を出るって聞いてたからさ。俺も仲間に入れてもらおうかなと思って」

「…………」

「人を犯罪者見るみてーな眼で見ないでくれる? 絶対ぜってーお前が思ってるような理由じゃないから」

 スイを両腕でがっちりと抱き締め、じっとりとした眼で八重歯を剥き出しにして警戒するアレックスにニコラスは呆れる。ぺちぺちとアレックスの腕を叩くスイは少し苦しそうだ。

「じゃあどういう理由よ」

「お前がそれ訊くの? 多分、アレックスとそんな変わんないぜ?」

「…………」

俺等ハンターは基本一人行動だし一人が好きだけど、たまには誰かと動くのも良いなって思う時がある。俺は今がそうなんだよ。って事で」

『?』

「よろしくな、スイ」

『あ、はい。よろしくお願いします』

 差し出された手を、アレックスに拘束されながらスイが握り返す。

「……スイ、ちょっとは警戒しないと」

『ニコラスさんは大丈夫だと思います。もしもの時は四対一で押さえ込めば良いですし。なんなら、コハクが真っ先に動くと思います』

「それもそうだね」

「可愛らしい顔して物騒な事言うのな。ビビったわ」

《グルルルルルル……》

「何もしてねーのに生命の危機!」

 ニコラスを睨み付けるコハクを、スイが宥める。
 アレックスが未だ警戒の眼を向けながらも手を差し出すと、ニコラスは怯えた表情から一転、笑顔でその手を握った。

「よろしく、アレックス。俺の事はニコと呼んでくれ。スイもな」

「解ったよ。よろしく、ニコ」

『はい、ニコさん』

 旅の仲間に新たにニコラスが加わり、スイを真ん中に置いて三人が並んで歩く。その後ろから、ザクロを乗せたコハクが続いた。殺気を一人だけに向けながら。

《ウゥーーー……》

「待って、後ろ凄ぇこえーんだけど」

「コハク、メッ!」

 珍しくザクロに叱られたがコハクが改める事は無く、ニコラスの冷や汗が止まったのはコハクがスイに叱られてからの事だった。
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