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第四章 南大陸
拾われ子と惨禍 七 ―鬼―
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「来るよ! 一匹も先に通すな!」
「「「おぉっ!」」」
今日何度目かの乱戦が始まった。眼の前のモンスターと戦いながら、スイは視線をあちこちに動かす。そして、先程至った考えへの確信を深めた。
アレックスが戦っているモンスターはグーロ。北大陸と東大陸にしか生息していない筈のモンスターが南大陸の中央部にいる理由は、もはやそれしか考えられなかった。
『やっぱり、ダンジョンの魔法陣が複製されたんだ……!』
「スイ、詳しく! あぁもう、邪魔!」
グーロを斬り捨ててスイの側まで来たアレックスは、次は大型の虫モンスターであるキングスカラベと戦い始める。
『ダンジョンってモンスターを召喚する魔法陣がありますよね』
「ある。あれが使われてるって事?」
『多分そうです。じゃないと、グーロやキングスカラベが此処にいる説明がつきません』
キングスカラベは西大陸にしか生息していないモンスターだ。非常に珍しく、その素材で作られる防具は高性能なので発見されるとハンターも防具屋も眼の色を変える。
「でも、ダンジョンの魔法陣って写して外には持ち出せない筈だよ。結界が張ってあるから外に出られなくなる」
『結界を壊せば、出られますよね』
「そうかもしれないけど、ダンジョンの結界石が何処にあるかは知られていない。ダンジョンそのものが結界石とか、諸説はあるけど」
『精霊が張っているんだと思います。リロの洞窟で会った精霊は、そんな言い方をしていました』
「……そういや、精霊と会った事があるって言ってたね」
中央大陸のリロの洞窟や、北大陸でも真龍と会っていた話を思い出して、アレックスは納得と呆れが混ざった顔をしながらキングスカラベの脚を一本斬り落とした。
「精霊が結界を張っているとして、それを壊さないと出られないのは変わらないよ」
『はい。だから、きっと壊したんです。結界石を壊す様に』
結界を作り出している元を壊す。つまり。
「…………精霊を、殺したって言うの?」
『……私には、そうとしか思えません』
驚愕と怒りと、僅かな恐れを宿した蜂蜜色の眼。仮説を立てたスイですら恐れを覚える。
精霊は五属性のいずれかを司り、自然の中に存在する。言わば自然そのものだ。そんな存在を殺せるとなれば、天災と同等の力の持ち主と言わざるを得ない。
「ハンターの中にも、堕ちた存在とは言え元は精霊である龍を倒せる者がおりますからな」
「リュウってドラゴンの事だっけ? そっか、それなら出来ない事もないのか……それでもそんな奴、危険過ぎる」
「仰る通り――!!」
『「っ!?」』
《何だ!?》
「おい、やべーのが奥から来てんぞ……!」
ぞわりと背中を走った悪寒。気を抜けば潰されそうな、重く叩きつけてくるような殺気。
人とモンスターが乱れ戦うその向こうから、圧倒的な存在感を放ちながら、何かが近付いてくる。
ただならぬ気配に、アレックスが他のハンター達に退却するよう叫んだ。
「ヤバいのが来る! 一旦逃げて!」
「ぐげっ」
「え」
『え?』
人が、拉げた。
手を振り払っただけだ。それが、飛んでいる虫を払う様にしただけで、人が一人拉げて飛んで行った。
『…………!』
それは、額に二本の角を生やし、体毛は無く、赤黒い肌をしていた。
人間で言う所の白目は黒く、紅い眼を持ち、鋭い爪と牙が目立つ。二本足で歩き、腕も二本。大柄の身体は今まで見てきたどのモンスターよりも人型に近い。
『デーモン……!?』
デーモンは高い魔力を持ち、主に闇魔法を使う。強さは種類によって違い、一言でデーモンと言ってもランクはA~Dまでと幅広い。下位のミミックなど例外もいるが、概ね人型をしている。
その為、角を生やした人型のモンスターと言えば多くの人間、とりわけ西側の人間はデーモンを思い浮かべる。
しかし、ソウジロウが珍しく緊迫した声でそれを否定した。
「スイ様、あれは鬼です! まさかこの地で鬼を見る事になるとは……!」
『オニ!?』
「オニって東大陸固有のAランクモンスターだよ!? じゃあ、スイの言う通りダンジョンの魔法陣が使われてるって事……!?」
東大陸と、その周辺の離島にのみ生息が確認されている上位モンスター、鬼。
東大陸以外に生息しているB+ランクのオーガと混同する者もいるが、別種である。
個体によって数は異なるが、細くてしなやかな反りのある角を持ち、オーガよりもやや細身で筋肉質な身体を持つ。知能が高く、力や敏捷性もある為に脅威とされており、群れる事は殆ど無いが単体で村や町を滅ぼせる。その危険度はAランク。
龍には劣るが、天災に近い存在。それが鬼だ。
『……?』
ふと、左側から覚えのある視線のようなものを感じて、スイは其方を向いた。小さなトカゲが、じっとスイを見ている。
『(……この視線、闘技場の……)』
レイラから貰ったモンスター図鑑で見た事がある、小型のモンスターだ。従魔として一部のテイマーに人気があり、偵察に向いている。
『(誰かの従魔……?)』
《スイ! 余所見をするな!》
『!?』
「ゴァァァッ!!」
「行かせるか!」
コハクの声に、逸らされていた意識が鬼に向く。走ってきた鬼にソウジロウが刀を振るったが、腕の半分を斬られながらも鬼は尚走り、スイに突撃した。
「何っ!?」
『ぐっ!?』
ぶつかった瞬間に両腕で拘束され、そのまま身体が浮いた。骨が軋む音が聞こえ、抗おうとするが身動きが出来ない。
スイを拘束したまま、鬼は走り去っていく。
「スイ様!?」
「スイ!」
《スイ! スイを離せ!》
コハクが地魔法を放ったが、皮膚が硬い為に貫通せず、足止めも適わなかった。
「ゴォォオオアッ!!」
鬼が吼えると、モンスター達がぞろぞろとコハク達の前に立ちはだかる。
走って追いかけようとしたコハクは、逆にその脚を止められてしまった。
《くそっ、通れない! スイ!》
『けふっ……コハ、ク……!』
《スイッ!!》
聞こえた小さな声、遠ざかる気配。コハクの怒りが頂点に達する。
《邪魔するな!! 道をあけろ!!》
毛を逆立て、咆哮したコハクはモンスターの群れに飛び込んだ。アレックスとソウジロウ、ニコラスもコハクに続く。
『……この、離、せ……! 離せっ!』
仲間達から引き離されたスイは、至近距離で風の精霊術を発動した。
地魔法では傷すらつかなかった硬い皮膚は、風の刃で斬り裂かれる。痛みに激昂した鬼は、スイを掴んで倒壊した建物へと投げつける。
『いっ……!!』
激突してずり落ちたスイは、鬼が迫ってくる事に気付くとすぐに走り出した。一瞬前までスイがいた所に拳が打ち込まれ、建物が更に細かく崩れていく。
治癒魔法で怪我を治したスイは鬼と対峙する。こめかみを汗が流れた。
『(まずい……!)』
拘束された弾みで、スイはショートソードを手放してしまっていた。魔法耐性が高いデーモンよりはマシだが、中級魔法だけで倒せるほどAランクモンスターは甘くない。
「ゴァァァ!!」
『くっ!』
「待て」
『!?』
鬼以外には誰もいないと思っていた所に聞こえた男の声は、鬼は動きを止める。
『…………!!』
纏わりつく様な、ねっとりとしたその声はすぐにスイの記憶を引き出した。
中央大陸で男が犯した罪と、戦場と化したこの町に現れた男。大襲撃を起こしたのが誰なのか。
スイの中で怒りが燃え始める。
「久しぶりだねぇ、スイ。俺の事覚えてるかなぁ?」
気配を全く感じさせずに姿を見せた男は、喜悦の声でスイの名を呼ぶ。黒い髪に、縦長の瞳孔を持つ紫の眼。
『ノズチ……!!』
指名手配犯ノズチ。中央大陸で多くの旅人を殺した大罪人との、約二年ぶりの再会である。
名を呼ばれたノズチは、紫の眼を細め、先の割れた舌をちろりと見せて嬉しそうに嗤った。
「「「おぉっ!」」」
今日何度目かの乱戦が始まった。眼の前のモンスターと戦いながら、スイは視線をあちこちに動かす。そして、先程至った考えへの確信を深めた。
アレックスが戦っているモンスターはグーロ。北大陸と東大陸にしか生息していない筈のモンスターが南大陸の中央部にいる理由は、もはやそれしか考えられなかった。
『やっぱり、ダンジョンの魔法陣が複製されたんだ……!』
「スイ、詳しく! あぁもう、邪魔!」
グーロを斬り捨ててスイの側まで来たアレックスは、次は大型の虫モンスターであるキングスカラベと戦い始める。
『ダンジョンってモンスターを召喚する魔法陣がありますよね』
「ある。あれが使われてるって事?」
『多分そうです。じゃないと、グーロやキングスカラベが此処にいる説明がつきません』
キングスカラベは西大陸にしか生息していないモンスターだ。非常に珍しく、その素材で作られる防具は高性能なので発見されるとハンターも防具屋も眼の色を変える。
「でも、ダンジョンの魔法陣って写して外には持ち出せない筈だよ。結界が張ってあるから外に出られなくなる」
『結界を壊せば、出られますよね』
「そうかもしれないけど、ダンジョンの結界石が何処にあるかは知られていない。ダンジョンそのものが結界石とか、諸説はあるけど」
『精霊が張っているんだと思います。リロの洞窟で会った精霊は、そんな言い方をしていました』
「……そういや、精霊と会った事があるって言ってたね」
中央大陸のリロの洞窟や、北大陸でも真龍と会っていた話を思い出して、アレックスは納得と呆れが混ざった顔をしながらキングスカラベの脚を一本斬り落とした。
「精霊が結界を張っているとして、それを壊さないと出られないのは変わらないよ」
『はい。だから、きっと壊したんです。結界石を壊す様に』
結界を作り出している元を壊す。つまり。
「…………精霊を、殺したって言うの?」
『……私には、そうとしか思えません』
驚愕と怒りと、僅かな恐れを宿した蜂蜜色の眼。仮説を立てたスイですら恐れを覚える。
精霊は五属性のいずれかを司り、自然の中に存在する。言わば自然そのものだ。そんな存在を殺せるとなれば、天災と同等の力の持ち主と言わざるを得ない。
「ハンターの中にも、堕ちた存在とは言え元は精霊である龍を倒せる者がおりますからな」
「リュウってドラゴンの事だっけ? そっか、それなら出来ない事もないのか……それでもそんな奴、危険過ぎる」
「仰る通り――!!」
『「っ!?」』
《何だ!?》
「おい、やべーのが奥から来てんぞ……!」
ぞわりと背中を走った悪寒。気を抜けば潰されそうな、重く叩きつけてくるような殺気。
人とモンスターが乱れ戦うその向こうから、圧倒的な存在感を放ちながら、何かが近付いてくる。
ただならぬ気配に、アレックスが他のハンター達に退却するよう叫んだ。
「ヤバいのが来る! 一旦逃げて!」
「ぐげっ」
「え」
『え?』
人が、拉げた。
手を振り払っただけだ。それが、飛んでいる虫を払う様にしただけで、人が一人拉げて飛んで行った。
『…………!』
それは、額に二本の角を生やし、体毛は無く、赤黒い肌をしていた。
人間で言う所の白目は黒く、紅い眼を持ち、鋭い爪と牙が目立つ。二本足で歩き、腕も二本。大柄の身体は今まで見てきたどのモンスターよりも人型に近い。
『デーモン……!?』
デーモンは高い魔力を持ち、主に闇魔法を使う。強さは種類によって違い、一言でデーモンと言ってもランクはA~Dまでと幅広い。下位のミミックなど例外もいるが、概ね人型をしている。
その為、角を生やした人型のモンスターと言えば多くの人間、とりわけ西側の人間はデーモンを思い浮かべる。
しかし、ソウジロウが珍しく緊迫した声でそれを否定した。
「スイ様、あれは鬼です! まさかこの地で鬼を見る事になるとは……!」
『オニ!?』
「オニって東大陸固有のAランクモンスターだよ!? じゃあ、スイの言う通りダンジョンの魔法陣が使われてるって事……!?」
東大陸と、その周辺の離島にのみ生息が確認されている上位モンスター、鬼。
東大陸以外に生息しているB+ランクのオーガと混同する者もいるが、別種である。
個体によって数は異なるが、細くてしなやかな反りのある角を持ち、オーガよりもやや細身で筋肉質な身体を持つ。知能が高く、力や敏捷性もある為に脅威とされており、群れる事は殆ど無いが単体で村や町を滅ぼせる。その危険度はAランク。
龍には劣るが、天災に近い存在。それが鬼だ。
『……?』
ふと、左側から覚えのある視線のようなものを感じて、スイは其方を向いた。小さなトカゲが、じっとスイを見ている。
『(……この視線、闘技場の……)』
レイラから貰ったモンスター図鑑で見た事がある、小型のモンスターだ。従魔として一部のテイマーに人気があり、偵察に向いている。
『(誰かの従魔……?)』
《スイ! 余所見をするな!》
『!?』
「ゴァァァッ!!」
「行かせるか!」
コハクの声に、逸らされていた意識が鬼に向く。走ってきた鬼にソウジロウが刀を振るったが、腕の半分を斬られながらも鬼は尚走り、スイに突撃した。
「何っ!?」
『ぐっ!?』
ぶつかった瞬間に両腕で拘束され、そのまま身体が浮いた。骨が軋む音が聞こえ、抗おうとするが身動きが出来ない。
スイを拘束したまま、鬼は走り去っていく。
「スイ様!?」
「スイ!」
《スイ! スイを離せ!》
コハクが地魔法を放ったが、皮膚が硬い為に貫通せず、足止めも適わなかった。
「ゴォォオオアッ!!」
鬼が吼えると、モンスター達がぞろぞろとコハク達の前に立ちはだかる。
走って追いかけようとしたコハクは、逆にその脚を止められてしまった。
《くそっ、通れない! スイ!》
『けふっ……コハ、ク……!』
《スイッ!!》
聞こえた小さな声、遠ざかる気配。コハクの怒りが頂点に達する。
《邪魔するな!! 道をあけろ!!》
毛を逆立て、咆哮したコハクはモンスターの群れに飛び込んだ。アレックスとソウジロウ、ニコラスもコハクに続く。
『……この、離、せ……! 離せっ!』
仲間達から引き離されたスイは、至近距離で風の精霊術を発動した。
地魔法では傷すらつかなかった硬い皮膚は、風の刃で斬り裂かれる。痛みに激昂した鬼は、スイを掴んで倒壊した建物へと投げつける。
『いっ……!!』
激突してずり落ちたスイは、鬼が迫ってくる事に気付くとすぐに走り出した。一瞬前までスイがいた所に拳が打ち込まれ、建物が更に細かく崩れていく。
治癒魔法で怪我を治したスイは鬼と対峙する。こめかみを汗が流れた。
『(まずい……!)』
拘束された弾みで、スイはショートソードを手放してしまっていた。魔法耐性が高いデーモンよりはマシだが、中級魔法だけで倒せるほどAランクモンスターは甘くない。
「ゴァァァ!!」
『くっ!』
「待て」
『!?』
鬼以外には誰もいないと思っていた所に聞こえた男の声は、鬼は動きを止める。
『…………!!』
纏わりつく様な、ねっとりとしたその声はすぐにスイの記憶を引き出した。
中央大陸で男が犯した罪と、戦場と化したこの町に現れた男。大襲撃を起こしたのが誰なのか。
スイの中で怒りが燃え始める。
「久しぶりだねぇ、スイ。俺の事覚えてるかなぁ?」
気配を全く感じさせずに姿を見せた男は、喜悦の声でスイの名を呼ぶ。黒い髪に、縦長の瞳孔を持つ紫の眼。
『ノズチ……!!』
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