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第四章 南大陸
拾われ子と惨禍 六 ―不可解な気配―
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町の防衛拠点となった闘技場内部では、治癒士と各ギルドに所属する職員達が慌ただしく動き回っていた。
「すぐ治しますね!」
「助かる。これでまだ戦える」
椅子に座り、若い治癒士に傷を治してもらっているハンターの男に頭上から声が掛かる。
「まだ戦意は失っていないか。やるな」
「あ、フリーデ支部長!」
「支部長。当たり前だ、俺より若い奴等だって戦っているんだからな」
男の返事に、フリーデはアレックスとスイを思い浮かべる。召集以降は顔を見ておらず、怪我で拠点に戻ってきたとの報告も無い。
「二人とも、まだ生きてるんだよな?」
「戦死したとの報告は入ってきていない」
「じゃあ生きてるな」
「信じているんだな」
「あそこに並べられるのを見るまでは生きてるって信じてる。支部長もそうだろ」
男とフリーデは、試合前の控え室として使われていた場所へと眼を向けた。扉を隔てた向こう、時間停止の結界石が置かれた其処には、もう戦えない者達が寝かせられている。
「(……すぐに弔えなくて、すまない……)」
二日目にして、ハンター達戦っている者だけで死亡者数は百を超えた。一般人を含めれば詳細な数は不明となる。
「(大襲撃の勢いは収まってきた様だが、誘魔アイテムはまだ残っているだろうし、犯人達はまだ誰一人として捕まえられていない。まだ予断を許さない状況だ)」
「フ、フリーデ支部長!!」
「どうした?」
顔を青くしたハンターズギルド職員に、また誰かが世界に還ったのかとフリーデは覚悟する。しかし、職員から聞かされた内容はフリーデの想像を超える悪夢だった。
その知らせがフリーデの元に届く前、スイ達は元従魔だったモンスター達と乱戦の最中にいた。駆けつけた頃には殆どのテイマーが息絶え、モンスター達が解放されたと言わんばかりに暴れ回っている。
「スイ、気付いてる?」
『はい。判りにくいですけど、野生のモンスターも混じっています。倒しても倒してもあまり減っていない様に感じてましたが……!』
「……まただ」
此方に向かってくるモンスターの気配を感じて、スイは其方を向き、アレックスは眉を顰めた。
「おかしいですな。まるで、何も無い所から急に湧いた様に感じます」
ソウジロウも二人と同意見の様で、厳しい眼で不可解な気配の発生源を睨む。
『……この感じ、何処かであったような……』
《ダンジョンじゃないか?》
『! そうだ……ダンジョンの魔法陣……わっ!?』
思わず足を止めたスイの頭上すれすれを鋭い爪が通り過ぎた。空振って隙が出来た鳥型モンスターに地魔法が命中すると、コハクは落下した鳥型モンスターにトドメを刺す。
『ありがとう、コハク』
《戦闘中に足を止めるな。危ないぞ》
『ごめん』
諌められたばかりのスイだが、すぐにまたモンスターに狙われた。今度は空振りとならず、擦り傷を負う。
『(……リロの洞窟でルースは、魔法陣がある階層には結界が張ってあると言ってた……)』
《言ったばかりだぞスイ! ……スイ?》
ギリギリで避け、反撃もする。最低限の迎撃はしているが、思考に没頭してしまったスイにコハクの声は聞こえていない。
「何やら考え事の様子。従魔よ、暫しの間儂と共に役目を果たせ」
《暫しも何も、その役目ならいつもやってる! 普段何もしてないみたいに言うな!》
不満気に鳴くと、コハクはスイの前に立ってモンスターを倒していく。ソウジロウも、スイの髪の毛にすら触れさせぬようにとスイの背後から襲ってくるモンスターを容赦無く斬り捨てる。
『(ダンジョンの結界は精霊が張っている様な言い方だった)』
アレックスが慌てた声でスイを呼ぶが、やはり今のスイには届かない。
『(町の結界は、結界石を使って張られる……なら)』
意識を自分の中から外へと向けたスイは、後ろを振り向いた。それに気付いたソウジロウも振り向いて眼を合わせる。
「何かございましたか、スイ様」
『……精霊を殺す事は、出来るんでしょうか』
「スイ!?」
《スイ、どうした!?》
黙り込んだと思ったら突拍子も無い事を言い放ったスイだが、ソウジロウだけは取り乱さずに従者としてスイの望みに応える。
「……可能です。無論、誰でも出来る事ではございませんが」
『……じゃあ、多分――』
「グォオォォォオオッ!!」
『「「!?」」』
突然響いた咆哮。同時に湧き出た多くの強い気配が、自分達がいる方に向かってくるのを全員が感じ取った。
アレックスは周りを見回す。大半が血を流し、軽傷とは言い難い傷を負っている。アイテムポーチから回復薬を取り出したアレックスは声を張り上げた。
「手強い奴等が来るよ! 回復薬があるなら早く使って! 無いなら来い、アタシのをやる!」
アレックスの言葉に全員が体勢を立て直す。スイも自分の回復薬を分け与え、火属性持ちでは無い者は治癒魔法で傷を癒した。
「スイ様、そこまでにしましょう。魔力を使い過ぎて、ご自身が必要な時に使えなくなる様な事があってはなりませぬ」
「そうだな。スイは戦力として上の方だ。アレックスやイザベラみてぇに町を守る要のひとつだから無理はしねぇ方が良い。それに、お前に何かあるとコハクも引っ張られるんだろ」
『……解りました』
ソウジロウだけでなく、ニコラスにも諭されてスイは素直に頷く。
『(……そうだ、私が死んだらコハクも死ぬ。絶対に死ねない)』
抱える生命の重さはひとつではない。それを自分に言い聞かせて、スイはショートソードを強く握る。そして、間近に迫った数々の気配を見据えた。
「すぐ治しますね!」
「助かる。これでまだ戦える」
椅子に座り、若い治癒士に傷を治してもらっているハンターの男に頭上から声が掛かる。
「まだ戦意は失っていないか。やるな」
「あ、フリーデ支部長!」
「支部長。当たり前だ、俺より若い奴等だって戦っているんだからな」
男の返事に、フリーデはアレックスとスイを思い浮かべる。召集以降は顔を見ておらず、怪我で拠点に戻ってきたとの報告も無い。
「二人とも、まだ生きてるんだよな?」
「戦死したとの報告は入ってきていない」
「じゃあ生きてるな」
「信じているんだな」
「あそこに並べられるのを見るまでは生きてるって信じてる。支部長もそうだろ」
男とフリーデは、試合前の控え室として使われていた場所へと眼を向けた。扉を隔てた向こう、時間停止の結界石が置かれた其処には、もう戦えない者達が寝かせられている。
「(……すぐに弔えなくて、すまない……)」
二日目にして、ハンター達戦っている者だけで死亡者数は百を超えた。一般人を含めれば詳細な数は不明となる。
「(大襲撃の勢いは収まってきた様だが、誘魔アイテムはまだ残っているだろうし、犯人達はまだ誰一人として捕まえられていない。まだ予断を許さない状況だ)」
「フ、フリーデ支部長!!」
「どうした?」
顔を青くしたハンターズギルド職員に、また誰かが世界に還ったのかとフリーデは覚悟する。しかし、職員から聞かされた内容はフリーデの想像を超える悪夢だった。
その知らせがフリーデの元に届く前、スイ達は元従魔だったモンスター達と乱戦の最中にいた。駆けつけた頃には殆どのテイマーが息絶え、モンスター達が解放されたと言わんばかりに暴れ回っている。
「スイ、気付いてる?」
『はい。判りにくいですけど、野生のモンスターも混じっています。倒しても倒してもあまり減っていない様に感じてましたが……!』
「……まただ」
此方に向かってくるモンスターの気配を感じて、スイは其方を向き、アレックスは眉を顰めた。
「おかしいですな。まるで、何も無い所から急に湧いた様に感じます」
ソウジロウも二人と同意見の様で、厳しい眼で不可解な気配の発生源を睨む。
『……この感じ、何処かであったような……』
《ダンジョンじゃないか?》
『! そうだ……ダンジョンの魔法陣……わっ!?』
思わず足を止めたスイの頭上すれすれを鋭い爪が通り過ぎた。空振って隙が出来た鳥型モンスターに地魔法が命中すると、コハクは落下した鳥型モンスターにトドメを刺す。
『ありがとう、コハク』
《戦闘中に足を止めるな。危ないぞ》
『ごめん』
諌められたばかりのスイだが、すぐにまたモンスターに狙われた。今度は空振りとならず、擦り傷を負う。
『(……リロの洞窟でルースは、魔法陣がある階層には結界が張ってあると言ってた……)』
《言ったばかりだぞスイ! ……スイ?》
ギリギリで避け、反撃もする。最低限の迎撃はしているが、思考に没頭してしまったスイにコハクの声は聞こえていない。
「何やら考え事の様子。従魔よ、暫しの間儂と共に役目を果たせ」
《暫しも何も、その役目ならいつもやってる! 普段何もしてないみたいに言うな!》
不満気に鳴くと、コハクはスイの前に立ってモンスターを倒していく。ソウジロウも、スイの髪の毛にすら触れさせぬようにとスイの背後から襲ってくるモンスターを容赦無く斬り捨てる。
『(ダンジョンの結界は精霊が張っている様な言い方だった)』
アレックスが慌てた声でスイを呼ぶが、やはり今のスイには届かない。
『(町の結界は、結界石を使って張られる……なら)』
意識を自分の中から外へと向けたスイは、後ろを振り向いた。それに気付いたソウジロウも振り向いて眼を合わせる。
「何かございましたか、スイ様」
『……精霊を殺す事は、出来るんでしょうか』
「スイ!?」
《スイ、どうした!?》
黙り込んだと思ったら突拍子も無い事を言い放ったスイだが、ソウジロウだけは取り乱さずに従者としてスイの望みに応える。
「……可能です。無論、誰でも出来る事ではございませんが」
『……じゃあ、多分――』
「グォオォォォオオッ!!」
『「「!?」」』
突然響いた咆哮。同時に湧き出た多くの強い気配が、自分達がいる方に向かってくるのを全員が感じ取った。
アレックスは周りを見回す。大半が血を流し、軽傷とは言い難い傷を負っている。アイテムポーチから回復薬を取り出したアレックスは声を張り上げた。
「手強い奴等が来るよ! 回復薬があるなら早く使って! 無いなら来い、アタシのをやる!」
アレックスの言葉に全員が体勢を立て直す。スイも自分の回復薬を分け与え、火属性持ちでは無い者は治癒魔法で傷を癒した。
「スイ様、そこまでにしましょう。魔力を使い過ぎて、ご自身が必要な時に使えなくなる様な事があってはなりませぬ」
「そうだな。スイは戦力として上の方だ。アレックスやイザベラみてぇに町を守る要のひとつだから無理はしねぇ方が良い。それに、お前に何かあるとコハクも引っ張られるんだろ」
『……解りました』
ソウジロウだけでなく、ニコラスにも諭されてスイは素直に頷く。
『(……そうだ、私が死んだらコハクも死ぬ。絶対に死ねない)』
抱える生命の重さはひとつではない。それを自分に言い聞かせて、スイはショートソードを強く握る。そして、間近に迫った数々の気配を見据えた。
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