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第一章 外界編
二話 波動の女
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「人間の波動使いに会ってみたい」
俺は桜並木の中で唐突にそういう。
『……日本に数百人しか居ないのよ?諦めなさいよ』
「ま、せやな」
ホルスの呆れた声が聞こえる。
仕方ないだろう。唐突に思ったんだから。…もとから望んでたのかも知れないが。
ただホルスの言うとおり、波動使いは本来日本に数十人しか居ない。100万分の1以下の確率だ。地和より低いな。
なのに同じ学校に同じ波動使いを求めてるんだよ、俺は。
いやあなんというか。
好敵手と親友がほしい。それだけなのだ。
俺は中学校の時一人親友が居た。そのような存在がほしい。
あと麻雀を打つ相手がほしい。
ん?その中学の時の親友は今どうしてるんだって?
死んだぞ。中2のときに。
いやあ。あいつも無能力者でな。いじめられてそれで死んだよ。
ちなみに他殺である。
桜並木を通り抜け下駄箱に到着する。靴を仕舞い、上履きを取り出して履く。
ホルスと戦った翌日である。今日は通常授業である。
ちなみにホルスは今姿を隠している。何も話していないし。
ふと顔をあげると、視界に二人の女が写る。
左側が身長170cm程度の女。髪は腰のちょっと上くらい。
右側にそれよりも5cm程度身長が低い女。髪はポニーテール。
二人は仲よさげに話しながら教室の方向へ向かっていく。ふたりとも俺と同じ高1だろうか。
俺はポニーテールの女をじーっと見つめる。
ポニーテールの女がこちらに気づいて振り返る。そして俺を一瞥してすぐ視線を戻した。
なんか突っかかりを感じた。
『……あの女の子…』
「…かもしれんな」
ホルスの声が聞こえる。
「…でもまあ、気のせいか」
俺は自らの教室に向かう。
……地和以下の確率、そうそう起きるわけ無いしな。ましてや俺と同じ学年らしき女が。
女二人の後をつけるように歩く。
髪がロングの女が急に振り向いてこちらを見つめる。てか睨んでくる。とても鋭い目でギロっと睨みつけてくる。
「…こええな。顔はいいのにな」
俺は頭の後ろで手を組む。
……右の女。本当に気になる。この女から俺と同じ感じを感じる。
言い表せないが。自分と同じ能力を持つ相手がわかるって感じだ。
……本当に言葉に言い表せない。
ただ、一つ言えるのはなにか引っかかるということだけだ。
まあ、ただの憶測でしかないが
まあでも、ヤツも波動使いだと良いのだがな…
「ま、それは後にして。教室へ行くか」
とりあえず俺は教室に向かうことにした
「……ねえ」
私は隣の女の子にそういった。
今日は入学式の2日後だ。昨日、とある男からすごい視線を感じていた。
自分で言うのもなんだが、私は中学校時代からよく男子からモテていた。
…でも。
「…まさか入学式直後にラブレター、なんてな」
隣の髪がロングの背の高い女の子―――私の親友がそう言った。
「私もびっくりよ」
朝来てみて自分の下駄箱を開けると、一通の手紙。
手紙には『今日授業と終礼が終わったら屋上に来い』と書いてあった。
どっからどう見てもラブレターである
私ははあ、とため息をつく。
手紙を折ってズボンのポケットに入れる
「行く?」
私の親友がそう聞いてくる。私は深く息をついて答えた
「…行くわよ。仕方ないからね。さっさとフッて帰るわ。桜並木で待っててくれない?」
「うん」
私の頼みを素直に受け入れてくれる親友。やっぱ優しいな、と心中でつぶやく。
この子、冷静沈着であまり話さない子で、男子を嫌ってるけど、優しいのよね……
「じゃ、教室行こ」
「うん」
私達は横に並んで歩き出した。
ちなみに私達は同じ教室である。
教室にたどり着き、ドアを開ける。
入学式の2日後にもかかわらず、少々の騒がしさを感じた。みんなともだち作るの早いなあ
私は自分の席に座る。親友との席は離れているため、私より奥の自分の席へ向かった。
肩掛け斜めがけバックを机の横のフックにかける。
「……」
遠くから視線を感じる。多分ラブレターの送り主だろう。どうでもいい。
バックから教材を出し、机の中に入れる。キンコンカンコン、と始業のチャイムがなり、HRのために担任の先生が入ってくる。
「おはようございまーす」
担任の先生は美人だった。顔は30歳前半程度と思える。が、歳を感じられない美貌を持つ。
「はーい、HR始めるわよ~。」
そう言って先生は点呼をし始める。
先生の名前は葉月雛。能力は知らない。英語の先生らしい。身長は170はあるだろうか。
おっぱいは……Fくらいあるんじゃないか?ってくらい大きい。とってもBIGである。
あたりを見渡すと、男子の大半はその胸に釘付けだった。……思春期ね~。私はぼけーっとそう思う
「水谷(みずたに)さん」
「はい」
自分の名前が呼ばれたため返事する。
返事した後私は欠伸した。
……ちょっと眠いわね。休憩時間にでも寝ようかしら。
「はーい。全員居ますね~」
点呼を取り終わった先生が話を始める。
「今日は入学式が終わって通常授業二日目です!皆さん、授業をしっかり聞いて、友達も一人は作りましょうね。ではHRを終わります。起立!」
先生の号令でみんなが起立する。…やけに話が短いな。まあ二日目だからか。
「礼!」
「ありがとうございました」
一斉に教卓に向かって礼をした後着席する。先生は教室から出ていった。
私は急に睡魔に襲われ、机に顔を預けた。
私が次に目を覚ましたのは、一時限目が始まったあとだった。
「おっせえなあおい」
俺、京極疾雷は屋上に居た。
現在放課後である。すべての授業を終え、やけに若い女の教師の終礼も終わった。
そして俺は今、人を待っている。
腕時計に目をやる。午後4時半。
終礼が終わったの、4時15分だぞ?俺今15分も待ってんの?
『……放課後、屋上で、人を待つ、か。疾雷、君に春が来るのは早かったようだね』
「……あらぬ誤解をッ」
ホルスの茶化すような声が聞こえ、俺は拳を振った。しかし
『ふふふ、今私は姿を隠してるのよ?』
二チャリ顔で言っているのが簡単に想像できるような声でホルスがそういう。
拳は空を切るだけだった。…うぜえなこの神様。
「おい今すぐ出てこい。殴るから。」
『やだぴょーん』
俺は無言で手のひらを開いた
「……無差別に撃つぞ」
『え、何する気?』
ホルスのちょっと怯えたような声。
「大丈夫だ、ちょっとお前に雷が落ちるだけだから。」
俺は手のひらに雷の波動を集約させる。
『落ち着きたまえスネーク!』
「うるさい!喰らえホルス!半径100m!雷の波動を―――」
俺が雷を落とそうとした瞬間、ギイっと屋上のドアが開いた。
「ちっ、今来るかよ。もっと早く来いよタイミングわりいな…」
手に集まっていた雷の波動が四散する。ホルスの安堵のため息が聞こえるが、既に俺以外の人間がここに居るため無視する。
入ってきたのはポニーテールの女。身長は見る限り165cm程度。容姿端麗。そしてめんどくさそうな面。
「…貴方が、手紙の送り主?」
そう聞いてくる女。
「ああ。」
俺は真顔で答えた。俺はとりあえず聞きたいことを聞いた。
「とりあえず、名を教えろ」
「え……」
俺の発言にさっきとは裏腹にびっくりしたような顔を浮かべる女。何なんだこいつ。
「なんだ。俺の発言になんか変なところがあったか?」
俺は少し怒気をはらんだ声で言った。
「い、いや。てっきり告白のために私を呼んだのかなって……」
女は顔を引きつらせながら言う。俺ははぁ?という顔を浮かべる。
「お前自惚れすぎだろ。現実見つめろ。入学して2日で名も知らん女を好きになるか」
そう事実を吐き捨てて鉄の囲いに腰掛ける。
「そ、それもそうね…」
未だに困惑している様子の女。俺はポケットから缶ドリンクを取り出す。プルタブを開け、それを煽る。
ちなみに飲んでいるのは某ZONEだ。
ふぅ、と息をつく。
「俺はお前に聞きたいことがあってここに呼んだんだ」
「…聞きたいこと?」
怪訝そうに聞き返してくる女。
「とりあえず名乗れ。」
ZONEを再度飲みながら言う。
「…水谷氷華。」
「…水谷ぃ?」
俺は眉をひそめる。水谷家。それは名門の家柄である。
神無月ほどではないが、代々強い能力を生まれながらに持っている家系だ。
能力は、水と氷の系統の能力が多いと聞く。無論高ランクの。
「ええ。水谷氷華。」
「二度も名乗らんでいい。俺は京極疾雷だ。」
「…京極…」
ZONEを飲み干す。それを握力で握りつぶす。ベコっとアルミが潰れる気持ちのいい音が響く。
飲み口と底以外ペラペラのアルミをポケットに仕舞った。
「じゃあ本題だ」
俺は立ち上がる。
そして、女―――水谷氷華を指さしながらこう聞いた。
「…お前、波動持ってるか?」
「ッ―――」
明らかに動揺する水谷氷華。なぜわかった、という表情をしている。
「図星か」
水谷は震えている唇を開き
「…なぜ、わかったの?」
と聞いてきた。
「いや。勘だ。勘。」
俺は嘘をついた。いや、それは別の側面から見れば真実かもしれないけどな。まあしかし、俺も波動使いだから勘でわかった、なんて言っても意味ない。
ましてやこれから戦う相手に
まあ強いて言えば、こいつから波動を感じたからである。
なんか体から出てるんだよ。波動のオーラが。
それは微々たるもので、普通の人は波動を感知できないが俺はできる
先程も言ったが、波動使いは本来日本に数十人しか居ない。
それなのに同じ学校、同じ学年、しかも同じクラス。偶然というより運命では?と感じてしまう
「そう」
一転して落ち着いた様子で話す水谷。いや、俺には感情を抑えているようにも見えた。
まあそんなことはどうでもいい、か。
「…話はそれだけ?」
「ああ。話はな。」
「そう。」
水谷が踵を返す。
「じゃあ、私帰るわね。友人を待たせているの。」
「そうか」
そうして歩き出す水谷。そして俺はその背中を見つめて。
手のひらを開き、
「……まあ、帰す気はサラサラ無いがな」
空気の波動を発射した。
そしてその一直線が向かう先は―――
「?!」
屋上のドアだった。ドアにぶつかった波動が小規模の爆発を起こす。驚いた様子の水谷がこちらに背中を向けながら跳躍する
「さすが名家の娘だ」
俺は素直に感心した。
今の攻撃は完全に不意打ちだった。なのに、水谷はそれを避けてみせた。
水谷が俺に体を向ける。傷もない。……どうやって傷一つつけずにこんな綺麗に避けられるのだろう。
「……何よ貴方。私と戦いたいわけ?」
水谷から殺意を感じる。流石にやられたらやり返すってことか。
俺は真顔で煽った。
「いーや。同じ波動使いなら、俺といい戦いできるんじゃないかなと。まあ、俺が負けるわけないが。」
俺はもともと、水谷が波動使いだったら戦うつもりだった。なぜか。
やっぱ、好敵手がほしいのだ。学園生活にスパイスがほしい。だからこうやって好敵手になれそうな波動使いを探していた。そして見つかった。
これは運命なのかも知れない。同じ世界樹の力をもらった者同士の運命―――
そんな事を考えていると、周りが急に寒くなった。水谷を見ると、体から冷気を発していた。
「…売られた喧嘩は買ってやろう。特別に」
なるほど、こいつも水谷家か。
こりゃ、戦いが長引くと俺が不利か。
ロシア人は、冬の戦争に強いと言われている。それは常に寒いところで暮らしているからだ。
そして他の国は寒さに弱い国が多い。暖かい国の方が多い。
今の状態だと―――ロシア人が水谷で、温かい国の兵が俺だ。
寒さにやられる前に決着をつけよう。俺は地を蹴ろうとした。その時、
「どわ?!」
足が滑ってしまった。地面が凍っていたのだ。…氷を操る能力か。体から出る冷気は―――
「……気化熱か」
しりもちをつく瞬間、空気の波動を下に発射して宙に浮いた。
正確に言うと冷気じゃないかも知れない。
あれは水蒸気だ。周りの水分を水蒸気化させ、その時の気化熱で周りの温度を下げているのだ。水と氷を操るスキルか。
これは波動ではない。多分。まあ勘だ、勘。
てかこれが波動なら、こんなことしないで直接俺を凍らせれば楽な話なのである。波動ならそれは簡単だ。
だからこれはスキルだ。
そして、スキルでも俺自身を凍らすことはできていない。
つまり、こいつ、スキル自体はあまり強いランクではない。
「……わかったからどうなのよ。」
水谷の勝ちを確信したような声。
俺は今、跳躍している。つまり無防備。水谷は右腕を広げる。そして―――
手のひらに、ナイフが握られていた。
……そのナイフは鉄で作られたものじゃない。多分、これを波動で作ったのだろう。刃が氷で作られている。
そしてそのナイフは光沢があった。いや、少し光を発している
氷の波動は使えるようだが―――射程距離があるのだろうか。もしそうなら。
「…」
俺は空気の波動を前に出して後退する。
氷のナイフは空を切るだけだった
「…射程距離がバレてるの?」
先程より余裕がなくなった様子の水谷。
氷の波動の射程は1M程度と言ったところか。
もしそれ以上長いならこちらにナイフを投げるか、直接凍らせればなんとでもなるのだ。それをしなかったということはそういうことなんだろう。
1Mの距離を保ちながら速攻を仕掛けるのはだいぶきつい戦いだが、仕方ない。
こちらも対抗しよう。
両手を向かい合わせて開く。
そこに雷の波動を発生させる。バチバチという音が響く。
雷とは、電気のことだ。電気を手と手の間に発生させることで、その電気は熱を放出する。
これで多少は寒さをしのげるだろう。
体感温度がさっきより少し上がった気がした。
辺りに熱が十分に満たされたので、俺は手のひらから雷の波動を消す。
少しジャンプする。うん。いい感じに体が温まっている。
俺は右腕を横に伸ばす。そして手のひらに
「ッ―――」
剣を生成する。その剣の柄を握る。
しかしその剣は鉄ではない。水谷のナイフのように。
そして、その剣は紫電をまとっている。いや。その剣の刃自体が電気のようだ。
「そうさ水谷。この剣はお前と同じように波動で作ったものだ。雷の波動だ。」
剣を体の前に持ってくる。左手はフリーにさせている。なぜか、それは水谷が何をするかわからないからだ。
ひゅ~、と息をつく。
そして、地を蹴った。
水谷はナイフを持っていない左手を開く。そして、その左手に近づくと―――
「ッ―――」
俺はとっさに空気の波動を前方に出して後ろに吹っ飛ぶ。柵の近くで静止する。―――嫌な予感がする。
左手に視線を向ける。左手を動かそうとするも、殆ど動かない。
……あいつ。左手から相当強い冷気を出したな。左手が氷のように詰めたく、全く動かない。
水谷に再び目を向けると、水のようなものが空中でうねりながらこちらに向かってくる。
ギリギリまで引き付け、剣でたたっ斬る。水は二手に別れ空中に消えた。
体温が下がってきた。まずい。こんな短時間で、こんなに体温を削られたのか。急がなければ
…仕方ない。あれをやろう。最終手段だ。
剣を床に突き刺す。
「…唱え」
次の瞬間。ぐら、と屋上の床が揺れる。
俺―――というより剣に雷のエネルギーが集まってゆく。
「や、やば…」
水谷は揺れる床の上で必死に立っている。そして動けない状態なので、あいつの火力と射程距離じゃあ俺に攻撃できまい。
逃げはしないのか。
十分な雷のエネルギーが集まる。俺は右手で剣を引っこ抜く。とても重い。これが雷のエネルギーの重さ―――ッ!
俺はその重さに耐える。そして回転斬りをするための姿勢を取る。
腰を低くし、剣を前にピーンと伸ばす。
俺は後ろに一歩足を引く。そして思いっきり足を回転させ―――
「一種雷順―――!!!」
回転斬りを放った。そして、その剣先の描いた弧から大量の雷のエネルギーが放出される。
「うわあああああ!!!」
水谷の絶叫が聞こえる。とともに、ブチブチ、と言う音とバキバキと言う音が聞こえる。その次の瞬間、雷が何かを貫いた音がした。
……やったか。いやー疲れた疲れた。
しかしここで俺は油断しきっていた。いや、考えても見ろ。必殺技が綺麗に相手に打ち込まれたんだ。もう勝ったと思っても仕方ないだろう。そしてそれが俺の大きなミスだった。
そして俺は荒い息をついていた。そのため、攻撃の気配を感じる余力はなかった。
そのため―――
唐突に背中に激痛が走る。
「カハッ……」
俺は鉄の柵までふっ飛ばされる。ろくな受け身も取れずに腹から激突する。
「……あの程度、で。私――水谷氷華が負けるとでも、思ったのかし、ら……?」
背中側から声が聞こえる。……水谷氷華。なぜだ、倒しきれなかったのか……?
「私、は…あんたの攻撃の隙をついて……壁を作ったのよ。氷の、壁を…」
荒く息をしながら誇らしげに言う水谷。ポタ、ポタとなにかが落ちる音が聞こえる。それが水か、血か。考えるまでもなかった。
……おいおい。まじかよ。氷の壁で、俺の必殺技を完全に受け止めたのか?
いや違うな。こいつ、だいぶダメージを食らっている。直に食らってはいなくとも。だいぶでかいダメージを負ったはずだ。
……この俺を吹き飛ばし、激痛を与えた上で抑え込むこの水を制御するために力を割いたため。
こいつ。さっきたたっ斬った水を制御しやがってたな。……上手い。敵ながらあっぱれだ。
「……まだ私は、戦えるわ。ぶっちゃけ、言って。体が痛い程度なのよ。でも、貴方はさっさと倒したほうがいいわ。」
息が整ったであろう水谷から殺気を感じる。後ろから風を感じた。多分、腕を振り上げたのだろう。その手から波動の気配は消えていた。ナイフはもう消したのだろう。
「クソッ」
俺はどうにか動こうとしたが、金縛りにあったように体が動かん。
「がああああああああ!!!!!!!!」
次の瞬間、左目に激痛が走った。
「ああああああああっ、ぐああああああああ!!!!!!!!!」
俺は絶叫する。そして―――
「な?!」
次の瞬間、俺の体が光った。
『京極 疾雷よ
そなたは―――力を。力を欲するか』
声が聞こえる。次の瞬間、浮遊感を感じ、視界が暗くなる。……ここはどこだ。そしてこの声は誰だ。
しかし背中に激痛は無いし、目の前に鉄柵もない。
なるほど。ここは夢のような場所か。それなら安心できる。冷静に質問に答えよう
「……力、か。」
俺は顎を擦る。そしてフンッと鼻を鳴らす
「くだらん」
『………』
声が聞こえなくなる。
本音を言わせてもらおう。
力が欲しくないわけない。
俺は非力なため、妹と母親から嫌われているのだ。
母親はどうでもいいが、妹に嫌われる、というのはなかなかにキツイ。
そして、力がなきゃ、自分にアイデンティティが無い。………
『……ふふ。ははははは。はははははははは!!!』
先程の声が聞こえる。笑い声が。それは嘲笑にも聞こえたし、純粋な笑いとも思えた。
「…何がおかしい」
その質問には答えず、『それ』は話し始める。
『…私は世界樹だ』
「?!」
俺は周りを見渡す。……おいおい。世界樹かよ。力ってそういうことか……俺は納得した。
「で。その世界樹様がなんで笑ってんだ?」
『……私は世界樹だ。お前の心を読むなんて簡単なことなのだよ。だからこそ……私は。お前が力を欲しているのがわかる。健気な奴め』
「……なんで最初にあんな質問したんだよ……」
俺は呆れる。まったく。狡猾なやつだ。こいつは。
『さあ。なんでだろうな』
世界樹がそういう。俺はそれを無視して要求する。
「わかってんならよぉ。さっさと力をよこせ。その『力』を」
『……ふふふ。もちろん、お望み通りに。』
世界樹の言葉を皮切りに少しづつ視界が明るくなっていく。
『それじゃあな、少年。……お前の望む通り、最強というアイデンティティを作れ。…貴殿に幸あれ。』
それだけ言って世界樹の声は消え
視界は、光で満たされた―――
俺は桜並木の中で唐突にそういう。
『……日本に数百人しか居ないのよ?諦めなさいよ』
「ま、せやな」
ホルスの呆れた声が聞こえる。
仕方ないだろう。唐突に思ったんだから。…もとから望んでたのかも知れないが。
ただホルスの言うとおり、波動使いは本来日本に数十人しか居ない。100万分の1以下の確率だ。地和より低いな。
なのに同じ学校に同じ波動使いを求めてるんだよ、俺は。
いやあなんというか。
好敵手と親友がほしい。それだけなのだ。
俺は中学校の時一人親友が居た。そのような存在がほしい。
あと麻雀を打つ相手がほしい。
ん?その中学の時の親友は今どうしてるんだって?
死んだぞ。中2のときに。
いやあ。あいつも無能力者でな。いじめられてそれで死んだよ。
ちなみに他殺である。
桜並木を通り抜け下駄箱に到着する。靴を仕舞い、上履きを取り出して履く。
ホルスと戦った翌日である。今日は通常授業である。
ちなみにホルスは今姿を隠している。何も話していないし。
ふと顔をあげると、視界に二人の女が写る。
左側が身長170cm程度の女。髪は腰のちょっと上くらい。
右側にそれよりも5cm程度身長が低い女。髪はポニーテール。
二人は仲よさげに話しながら教室の方向へ向かっていく。ふたりとも俺と同じ高1だろうか。
俺はポニーテールの女をじーっと見つめる。
ポニーテールの女がこちらに気づいて振り返る。そして俺を一瞥してすぐ視線を戻した。
なんか突っかかりを感じた。
『……あの女の子…』
「…かもしれんな」
ホルスの声が聞こえる。
「…でもまあ、気のせいか」
俺は自らの教室に向かう。
……地和以下の確率、そうそう起きるわけ無いしな。ましてや俺と同じ学年らしき女が。
女二人の後をつけるように歩く。
髪がロングの女が急に振り向いてこちらを見つめる。てか睨んでくる。とても鋭い目でギロっと睨みつけてくる。
「…こええな。顔はいいのにな」
俺は頭の後ろで手を組む。
……右の女。本当に気になる。この女から俺と同じ感じを感じる。
言い表せないが。自分と同じ能力を持つ相手がわかるって感じだ。
……本当に言葉に言い表せない。
ただ、一つ言えるのはなにか引っかかるということだけだ。
まあ、ただの憶測でしかないが
まあでも、ヤツも波動使いだと良いのだがな…
「ま、それは後にして。教室へ行くか」
とりあえず俺は教室に向かうことにした
「……ねえ」
私は隣の女の子にそういった。
今日は入学式の2日後だ。昨日、とある男からすごい視線を感じていた。
自分で言うのもなんだが、私は中学校時代からよく男子からモテていた。
…でも。
「…まさか入学式直後にラブレター、なんてな」
隣の髪がロングの背の高い女の子―――私の親友がそう言った。
「私もびっくりよ」
朝来てみて自分の下駄箱を開けると、一通の手紙。
手紙には『今日授業と終礼が終わったら屋上に来い』と書いてあった。
どっからどう見てもラブレターである
私ははあ、とため息をつく。
手紙を折ってズボンのポケットに入れる
「行く?」
私の親友がそう聞いてくる。私は深く息をついて答えた
「…行くわよ。仕方ないからね。さっさとフッて帰るわ。桜並木で待っててくれない?」
「うん」
私の頼みを素直に受け入れてくれる親友。やっぱ優しいな、と心中でつぶやく。
この子、冷静沈着であまり話さない子で、男子を嫌ってるけど、優しいのよね……
「じゃ、教室行こ」
「うん」
私達は横に並んで歩き出した。
ちなみに私達は同じ教室である。
教室にたどり着き、ドアを開ける。
入学式の2日後にもかかわらず、少々の騒がしさを感じた。みんなともだち作るの早いなあ
私は自分の席に座る。親友との席は離れているため、私より奥の自分の席へ向かった。
肩掛け斜めがけバックを机の横のフックにかける。
「……」
遠くから視線を感じる。多分ラブレターの送り主だろう。どうでもいい。
バックから教材を出し、机の中に入れる。キンコンカンコン、と始業のチャイムがなり、HRのために担任の先生が入ってくる。
「おはようございまーす」
担任の先生は美人だった。顔は30歳前半程度と思える。が、歳を感じられない美貌を持つ。
「はーい、HR始めるわよ~。」
そう言って先生は点呼をし始める。
先生の名前は葉月雛。能力は知らない。英語の先生らしい。身長は170はあるだろうか。
おっぱいは……Fくらいあるんじゃないか?ってくらい大きい。とってもBIGである。
あたりを見渡すと、男子の大半はその胸に釘付けだった。……思春期ね~。私はぼけーっとそう思う
「水谷(みずたに)さん」
「はい」
自分の名前が呼ばれたため返事する。
返事した後私は欠伸した。
……ちょっと眠いわね。休憩時間にでも寝ようかしら。
「はーい。全員居ますね~」
点呼を取り終わった先生が話を始める。
「今日は入学式が終わって通常授業二日目です!皆さん、授業をしっかり聞いて、友達も一人は作りましょうね。ではHRを終わります。起立!」
先生の号令でみんなが起立する。…やけに話が短いな。まあ二日目だからか。
「礼!」
「ありがとうございました」
一斉に教卓に向かって礼をした後着席する。先生は教室から出ていった。
私は急に睡魔に襲われ、机に顔を預けた。
私が次に目を覚ましたのは、一時限目が始まったあとだった。
「おっせえなあおい」
俺、京極疾雷は屋上に居た。
現在放課後である。すべての授業を終え、やけに若い女の教師の終礼も終わった。
そして俺は今、人を待っている。
腕時計に目をやる。午後4時半。
終礼が終わったの、4時15分だぞ?俺今15分も待ってんの?
『……放課後、屋上で、人を待つ、か。疾雷、君に春が来るのは早かったようだね』
「……あらぬ誤解をッ」
ホルスの茶化すような声が聞こえ、俺は拳を振った。しかし
『ふふふ、今私は姿を隠してるのよ?』
二チャリ顔で言っているのが簡単に想像できるような声でホルスがそういう。
拳は空を切るだけだった。…うぜえなこの神様。
「おい今すぐ出てこい。殴るから。」
『やだぴょーん』
俺は無言で手のひらを開いた
「……無差別に撃つぞ」
『え、何する気?』
ホルスのちょっと怯えたような声。
「大丈夫だ、ちょっとお前に雷が落ちるだけだから。」
俺は手のひらに雷の波動を集約させる。
『落ち着きたまえスネーク!』
「うるさい!喰らえホルス!半径100m!雷の波動を―――」
俺が雷を落とそうとした瞬間、ギイっと屋上のドアが開いた。
「ちっ、今来るかよ。もっと早く来いよタイミングわりいな…」
手に集まっていた雷の波動が四散する。ホルスの安堵のため息が聞こえるが、既に俺以外の人間がここに居るため無視する。
入ってきたのはポニーテールの女。身長は見る限り165cm程度。容姿端麗。そしてめんどくさそうな面。
「…貴方が、手紙の送り主?」
そう聞いてくる女。
「ああ。」
俺は真顔で答えた。俺はとりあえず聞きたいことを聞いた。
「とりあえず、名を教えろ」
「え……」
俺の発言にさっきとは裏腹にびっくりしたような顔を浮かべる女。何なんだこいつ。
「なんだ。俺の発言になんか変なところがあったか?」
俺は少し怒気をはらんだ声で言った。
「い、いや。てっきり告白のために私を呼んだのかなって……」
女は顔を引きつらせながら言う。俺ははぁ?という顔を浮かべる。
「お前自惚れすぎだろ。現実見つめろ。入学して2日で名も知らん女を好きになるか」
そう事実を吐き捨てて鉄の囲いに腰掛ける。
「そ、それもそうね…」
未だに困惑している様子の女。俺はポケットから缶ドリンクを取り出す。プルタブを開け、それを煽る。
ちなみに飲んでいるのは某ZONEだ。
ふぅ、と息をつく。
「俺はお前に聞きたいことがあってここに呼んだんだ」
「…聞きたいこと?」
怪訝そうに聞き返してくる女。
「とりあえず名乗れ。」
ZONEを再度飲みながら言う。
「…水谷氷華。」
「…水谷ぃ?」
俺は眉をひそめる。水谷家。それは名門の家柄である。
神無月ほどではないが、代々強い能力を生まれながらに持っている家系だ。
能力は、水と氷の系統の能力が多いと聞く。無論高ランクの。
「ええ。水谷氷華。」
「二度も名乗らんでいい。俺は京極疾雷だ。」
「…京極…」
ZONEを飲み干す。それを握力で握りつぶす。ベコっとアルミが潰れる気持ちのいい音が響く。
飲み口と底以外ペラペラのアルミをポケットに仕舞った。
「じゃあ本題だ」
俺は立ち上がる。
そして、女―――水谷氷華を指さしながらこう聞いた。
「…お前、波動持ってるか?」
「ッ―――」
明らかに動揺する水谷氷華。なぜわかった、という表情をしている。
「図星か」
水谷は震えている唇を開き
「…なぜ、わかったの?」
と聞いてきた。
「いや。勘だ。勘。」
俺は嘘をついた。いや、それは別の側面から見れば真実かもしれないけどな。まあしかし、俺も波動使いだから勘でわかった、なんて言っても意味ない。
ましてやこれから戦う相手に
まあ強いて言えば、こいつから波動を感じたからである。
なんか体から出てるんだよ。波動のオーラが。
それは微々たるもので、普通の人は波動を感知できないが俺はできる
先程も言ったが、波動使いは本来日本に数十人しか居ない。
それなのに同じ学校、同じ学年、しかも同じクラス。偶然というより運命では?と感じてしまう
「そう」
一転して落ち着いた様子で話す水谷。いや、俺には感情を抑えているようにも見えた。
まあそんなことはどうでもいい、か。
「…話はそれだけ?」
「ああ。話はな。」
「そう。」
水谷が踵を返す。
「じゃあ、私帰るわね。友人を待たせているの。」
「そうか」
そうして歩き出す水谷。そして俺はその背中を見つめて。
手のひらを開き、
「……まあ、帰す気はサラサラ無いがな」
空気の波動を発射した。
そしてその一直線が向かう先は―――
「?!」
屋上のドアだった。ドアにぶつかった波動が小規模の爆発を起こす。驚いた様子の水谷がこちらに背中を向けながら跳躍する
「さすが名家の娘だ」
俺は素直に感心した。
今の攻撃は完全に不意打ちだった。なのに、水谷はそれを避けてみせた。
水谷が俺に体を向ける。傷もない。……どうやって傷一つつけずにこんな綺麗に避けられるのだろう。
「……何よ貴方。私と戦いたいわけ?」
水谷から殺意を感じる。流石にやられたらやり返すってことか。
俺は真顔で煽った。
「いーや。同じ波動使いなら、俺といい戦いできるんじゃないかなと。まあ、俺が負けるわけないが。」
俺はもともと、水谷が波動使いだったら戦うつもりだった。なぜか。
やっぱ、好敵手がほしいのだ。学園生活にスパイスがほしい。だからこうやって好敵手になれそうな波動使いを探していた。そして見つかった。
これは運命なのかも知れない。同じ世界樹の力をもらった者同士の運命―――
そんな事を考えていると、周りが急に寒くなった。水谷を見ると、体から冷気を発していた。
「…売られた喧嘩は買ってやろう。特別に」
なるほど、こいつも水谷家か。
こりゃ、戦いが長引くと俺が不利か。
ロシア人は、冬の戦争に強いと言われている。それは常に寒いところで暮らしているからだ。
そして他の国は寒さに弱い国が多い。暖かい国の方が多い。
今の状態だと―――ロシア人が水谷で、温かい国の兵が俺だ。
寒さにやられる前に決着をつけよう。俺は地を蹴ろうとした。その時、
「どわ?!」
足が滑ってしまった。地面が凍っていたのだ。…氷を操る能力か。体から出る冷気は―――
「……気化熱か」
しりもちをつく瞬間、空気の波動を下に発射して宙に浮いた。
正確に言うと冷気じゃないかも知れない。
あれは水蒸気だ。周りの水分を水蒸気化させ、その時の気化熱で周りの温度を下げているのだ。水と氷を操るスキルか。
これは波動ではない。多分。まあ勘だ、勘。
てかこれが波動なら、こんなことしないで直接俺を凍らせれば楽な話なのである。波動ならそれは簡単だ。
だからこれはスキルだ。
そして、スキルでも俺自身を凍らすことはできていない。
つまり、こいつ、スキル自体はあまり強いランクではない。
「……わかったからどうなのよ。」
水谷の勝ちを確信したような声。
俺は今、跳躍している。つまり無防備。水谷は右腕を広げる。そして―――
手のひらに、ナイフが握られていた。
……そのナイフは鉄で作られたものじゃない。多分、これを波動で作ったのだろう。刃が氷で作られている。
そしてそのナイフは光沢があった。いや、少し光を発している
氷の波動は使えるようだが―――射程距離があるのだろうか。もしそうなら。
「…」
俺は空気の波動を前に出して後退する。
氷のナイフは空を切るだけだった
「…射程距離がバレてるの?」
先程より余裕がなくなった様子の水谷。
氷の波動の射程は1M程度と言ったところか。
もしそれ以上長いならこちらにナイフを投げるか、直接凍らせればなんとでもなるのだ。それをしなかったということはそういうことなんだろう。
1Mの距離を保ちながら速攻を仕掛けるのはだいぶきつい戦いだが、仕方ない。
こちらも対抗しよう。
両手を向かい合わせて開く。
そこに雷の波動を発生させる。バチバチという音が響く。
雷とは、電気のことだ。電気を手と手の間に発生させることで、その電気は熱を放出する。
これで多少は寒さをしのげるだろう。
体感温度がさっきより少し上がった気がした。
辺りに熱が十分に満たされたので、俺は手のひらから雷の波動を消す。
少しジャンプする。うん。いい感じに体が温まっている。
俺は右腕を横に伸ばす。そして手のひらに
「ッ―――」
剣を生成する。その剣の柄を握る。
しかしその剣は鉄ではない。水谷のナイフのように。
そして、その剣は紫電をまとっている。いや。その剣の刃自体が電気のようだ。
「そうさ水谷。この剣はお前と同じように波動で作ったものだ。雷の波動だ。」
剣を体の前に持ってくる。左手はフリーにさせている。なぜか、それは水谷が何をするかわからないからだ。
ひゅ~、と息をつく。
そして、地を蹴った。
水谷はナイフを持っていない左手を開く。そして、その左手に近づくと―――
「ッ―――」
俺はとっさに空気の波動を前方に出して後ろに吹っ飛ぶ。柵の近くで静止する。―――嫌な予感がする。
左手に視線を向ける。左手を動かそうとするも、殆ど動かない。
……あいつ。左手から相当強い冷気を出したな。左手が氷のように詰めたく、全く動かない。
水谷に再び目を向けると、水のようなものが空中でうねりながらこちらに向かってくる。
ギリギリまで引き付け、剣でたたっ斬る。水は二手に別れ空中に消えた。
体温が下がってきた。まずい。こんな短時間で、こんなに体温を削られたのか。急がなければ
…仕方ない。あれをやろう。最終手段だ。
剣を床に突き刺す。
「…唱え」
次の瞬間。ぐら、と屋上の床が揺れる。
俺―――というより剣に雷のエネルギーが集まってゆく。
「や、やば…」
水谷は揺れる床の上で必死に立っている。そして動けない状態なので、あいつの火力と射程距離じゃあ俺に攻撃できまい。
逃げはしないのか。
十分な雷のエネルギーが集まる。俺は右手で剣を引っこ抜く。とても重い。これが雷のエネルギーの重さ―――ッ!
俺はその重さに耐える。そして回転斬りをするための姿勢を取る。
腰を低くし、剣を前にピーンと伸ばす。
俺は後ろに一歩足を引く。そして思いっきり足を回転させ―――
「一種雷順―――!!!」
回転斬りを放った。そして、その剣先の描いた弧から大量の雷のエネルギーが放出される。
「うわあああああ!!!」
水谷の絶叫が聞こえる。とともに、ブチブチ、と言う音とバキバキと言う音が聞こえる。その次の瞬間、雷が何かを貫いた音がした。
……やったか。いやー疲れた疲れた。
しかしここで俺は油断しきっていた。いや、考えても見ろ。必殺技が綺麗に相手に打ち込まれたんだ。もう勝ったと思っても仕方ないだろう。そしてそれが俺の大きなミスだった。
そして俺は荒い息をついていた。そのため、攻撃の気配を感じる余力はなかった。
そのため―――
唐突に背中に激痛が走る。
「カハッ……」
俺は鉄の柵までふっ飛ばされる。ろくな受け身も取れずに腹から激突する。
「……あの程度、で。私――水谷氷華が負けるとでも、思ったのかし、ら……?」
背中側から声が聞こえる。……水谷氷華。なぜだ、倒しきれなかったのか……?
「私、は…あんたの攻撃の隙をついて……壁を作ったのよ。氷の、壁を…」
荒く息をしながら誇らしげに言う水谷。ポタ、ポタとなにかが落ちる音が聞こえる。それが水か、血か。考えるまでもなかった。
……おいおい。まじかよ。氷の壁で、俺の必殺技を完全に受け止めたのか?
いや違うな。こいつ、だいぶダメージを食らっている。直に食らってはいなくとも。だいぶでかいダメージを負ったはずだ。
……この俺を吹き飛ばし、激痛を与えた上で抑え込むこの水を制御するために力を割いたため。
こいつ。さっきたたっ斬った水を制御しやがってたな。……上手い。敵ながらあっぱれだ。
「……まだ私は、戦えるわ。ぶっちゃけ、言って。体が痛い程度なのよ。でも、貴方はさっさと倒したほうがいいわ。」
息が整ったであろう水谷から殺気を感じる。後ろから風を感じた。多分、腕を振り上げたのだろう。その手から波動の気配は消えていた。ナイフはもう消したのだろう。
「クソッ」
俺はどうにか動こうとしたが、金縛りにあったように体が動かん。
「がああああああああ!!!!!!!!」
次の瞬間、左目に激痛が走った。
「ああああああああっ、ぐああああああああ!!!!!!!!!」
俺は絶叫する。そして―――
「な?!」
次の瞬間、俺の体が光った。
『京極 疾雷よ
そなたは―――力を。力を欲するか』
声が聞こえる。次の瞬間、浮遊感を感じ、視界が暗くなる。……ここはどこだ。そしてこの声は誰だ。
しかし背中に激痛は無いし、目の前に鉄柵もない。
なるほど。ここは夢のような場所か。それなら安心できる。冷静に質問に答えよう
「……力、か。」
俺は顎を擦る。そしてフンッと鼻を鳴らす
「くだらん」
『………』
声が聞こえなくなる。
本音を言わせてもらおう。
力が欲しくないわけない。
俺は非力なため、妹と母親から嫌われているのだ。
母親はどうでもいいが、妹に嫌われる、というのはなかなかにキツイ。
そして、力がなきゃ、自分にアイデンティティが無い。………
『……ふふ。ははははは。はははははははは!!!』
先程の声が聞こえる。笑い声が。それは嘲笑にも聞こえたし、純粋な笑いとも思えた。
「…何がおかしい」
その質問には答えず、『それ』は話し始める。
『…私は世界樹だ』
「?!」
俺は周りを見渡す。……おいおい。世界樹かよ。力ってそういうことか……俺は納得した。
「で。その世界樹様がなんで笑ってんだ?」
『……私は世界樹だ。お前の心を読むなんて簡単なことなのだよ。だからこそ……私は。お前が力を欲しているのがわかる。健気な奴め』
「……なんで最初にあんな質問したんだよ……」
俺は呆れる。まったく。狡猾なやつだ。こいつは。
『さあ。なんでだろうな』
世界樹がそういう。俺はそれを無視して要求する。
「わかってんならよぉ。さっさと力をよこせ。その『力』を」
『……ふふふ。もちろん、お望み通りに。』
世界樹の言葉を皮切りに少しづつ視界が明るくなっていく。
『それじゃあな、少年。……お前の望む通り、最強というアイデンティティを作れ。…貴殿に幸あれ。』
それだけ言って世界樹の声は消え
視界は、光で満たされた―――
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