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第一章 外界編

三話 リミットブレイク act.1

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「……………」
視界が完全に明るくなる。俺はいつの間にか立ち上がっていた。目の前には少し血が付着した鉄柵。
疲労感も、目の激痛も、背中の痛みも消えていた。
そして―――力がみなぎる。
徹夜してるときにエナジードリンクを飲んだときの感覚と似ている
「……水谷ィ…」
俺は後ろを振り返った。水谷は唖然としていた。
「……どう、して―――」
震える唇を小さく動かす水谷。俺は冷静に言い放った
「神から力をもらったんでな。」
正確に言えば世界の創造神からだがな。
いつもの10倍近くの波動を使える気がする。気分は絶好調だ。
左手の近くで高圧の雷を発生させる。その熱でカチコチに凍っていた左手が溶けて自由になる。
左手をグッパーと握る、開くを繰り返す。
「…目…」
水谷が俺の目を指差す。
「目?目がどうしたんだ」
俺が問い返すと水谷は先程よりさらに唖然とした様子で、ぶるぶる震える唇を、少し開く。
「……目に、数字が……」
「数字だァ?」
俺は聞き返す。
目に数字?どういうことだ?
その答えは次の瞬間発せられる。
「目に、数字の『1』が―――刻まれている…」
…刻まれている?
今は確認のしようがないため、どうなってるのかがさっぱりわからん。
『……確かに刻まれてるわね。ローマ数字で、1の文字が。』
前方からホルスの声。ホルスが言うなら本当なんだろう。
1、か。これが力か?新しい力か。
……なるほどな。新たな力を手に入れると目に刻印のようなものが刻まれるのか。体の変化はその程度か
もし他に変化があるならホルスに指摘されてるだろう。
「……」
体に紫電をまとう。今までこれをやるとだいぶやるだけでだいぶ波動を持ってかれて、大技を撃てなかったが、今ならできる。パワーが格段に上がっている。
「……力とは素晴らしいものだ。自分をどこまでも導いてくれる。」
一歩水谷に近づく。水谷は後ろに跳躍する。まだその程度の力は残っているか。
俺は両腕を広げる。
「そしてあるものは使わないと損だ。そうだろう?」
そして次の瞬間右手に波動の剣を生成する。刃を生成する雷は先程より濃くなっている
水谷もナイフを生成する。まだ戦えそうだなこいつ。ただだいぶダメージを負っている。俺にかなうはずあるまい
「だからこそ俺は今お前にこの力を行使するのだ―――!」
そう叫んで俺は特攻した。水谷は逃げようとするもそれは叶わなかった。俺は今生命の波動で身体能力を二倍近く跳ね上げているのだ。
波動は生命エネルギーを筋肉などのパワーに変えて身体能力を上げることもできる。
そんな俺にかなうはずなく、射程距離に入った。冷気を発してくるが、体に纏っている紫電によって体が冷えるのを防ぐ。剣を振り上げ、水谷に向かって振り下ろそうとした。
しかし次の瞬間。
ガキン、と言う音が響く。
驚いて剣を見ると、剣はなにかに衝突していた。それは刃だった。
その刃は光り輝いていた。鋭く、そして―――とても眩しい。
「…光の刃?」
俺は疑問に思った。だってその刃は、氷で作られたものでも水で作られたものでもないからだ。
…光そのもので作られている。…そういや、あいつの氷のナイフは
「…誰が、波動を一種類しか使えないと言ったの?」
瞬間。俺の視界が真っ白になった。いや、
「…波動か!」
これは波動だ。間違いない。なぜ今まで隠してたのか知らんが。もしかしたら奥の手なのかもしれんな。
この波動だけ射程距離が違う。範囲が広すぎる。氷の波動はここまで広くなかった。
…波動は性質と使い手によって範囲と威力が変わるのだろうか…?
視界がだんだんともとに戻っていく。
完全に視界を取り戻すと水谷は屋上から姿を消していた。
「…水谷ちゃん、ね。あの子、帰ったわよ」
ホルス姿を表す。
…この光はあくまで攻撃のためでも、防御のためでもなく、逃げるためか。
「三十六計逃げるにしかず、か。」
首の後ろをさする。
…こりゃ一本取られたな。上手い、と言わざるを得ない。さすがは名門水谷家の女。
「ホルス。アイツがどこに居るかわかるか?」
「多分まだ屋内よ。」
「そうか」
屋内か……ってことは待たせている友人のところへ行ったのだろう。
「じゃ俺も帰るか」
勝負がつかず、名残惜しいが、帰ることにする。まあ楽しかったからいいか
まあ俺ら同じクラスだったし。明日また話しかけようじゃあないか。別に焦る必要はない。せっかく友人と好敵手が一緒に成り立ちそうなやつを見つけたんだ。
「楽しみだな。これから」
どうやら高校生活は楽しくなるかも知れないようだ。
…中学生の悲劇はもう二度と起きてほしくないな。
俺は鉄柵を乗り越えて飛び降りようとする。しかし
「…いや。やめておこう。」
俺はふと水谷のことが気になった。あいつは相当負傷したはずだ。歩いて帰るのは辛いだろう。
やったのは俺だし?ここは一つ男気を見せてやろう。
…あいつは俺から逃げたんだ。それに相当なダメージも負わされた。まあ何故か回復したが
アイツへの尊敬の念として、あいつを手助けしてやろう



「はぁ、はぁ……」
水谷は壁に右手を付きながら歩いていた。辛そうに。あー可愛そう可愛そうなんてボケーッと思う
水谷にこっそり忍び寄り、だいたい30cm近くまで距離を縮めた。
「…うっ」
水谷は俺が近づいていることに気づかず、限界だったのか崩れ落ちかける。
俺は冷静に水谷を後ろから抱き上げた。
「お、危ね」
「…へ?」
水谷が変な声を出す
『…あらま、大胆ねぇ』
気色わりい声を出すホルスを無視して水谷に話しかける
「すまないな。さっきは急に攻撃して。」
「え、え……」
驚きすぎて言葉が出ない様子である。
まあ急に攻撃して負傷させたやつが急に崩れ落ちかける自分を抱き上げたのだから驚いて当然か
「俺はお前を敵視してるわけじゃねえからな。ちょいとやりすぎたからせめてお前をその友達のとこまで連れて行こうとな。その友達はどこに居る?」
「…」
水谷は俺を振り返って数秒見つめ、すぐ視線を戻し
「……昇降、口」
と突っぱねるように言った
「OK。持ち上げ続けるのめんどいから肩を組んでくれ」
俺が要求すると、水谷は俺から一度離れ、俺と肩を組む。俺はゆっくり歩いていく。けが人に無理をさせてはいかんからな。
「……ねえ、京極―――」
「疾雷だ」
「……疾雷。なんで私に戦いを仕掛けたの?」
まあ当然だが、水谷がそう聞いてくる。
敵視してないのになんで戦うのかということだ。
俺は本心と自分の望みを語った
「俺はな。親友と好敵手、ライバルが同時に欲しかった。」
「親友?ライバル?」
水谷がそう聞いてくる。
「そうだよ。俺はその2つを同時に満たせるのは、使と考えた」
俺のその発言に水谷は納得するように言葉を発した
「俺はお前を本気で尊敬するよ。俺は初めてあそこまで追い詰められたよ」
これは本心だ。中学の時、スキルのランクが6~7の人間と割と戦ってきた。しかし俺は全てに余裕を残しつつ勝利していた。
俺は水谷によって水の波動によってあそこまで追い詰められたのだ。
本当に尊敬する。大したやつだ。
「……そう。貴方、強いのね」
階段を降りながらそう言われる。俺は苦笑する。
「ぶっちゃけ俺は自分を相当強いやつだと確信している。だからこそ、お前みたいに強いライバルが欲しかった。スパイスがな。お前は俺と十分張り合えていたし、しっかり追い詰めた。俺は最後新しい力を手に入れただけだ。運が良かったのだよ」
「……それってさ」
水谷は苦笑しながら言う。
「…ライバルと親友になってくださいっていうプロポーズ?」
俺も苦笑いをする。
「……ストレートに言うな。まあつまりそういうこった。…俺と友だちになってくれないか?水谷」
少々照れくさくなりながらも俺は水谷にそういった。水谷は笑顔を浮かべ
「別にいいわよ。私も貴方と戦ってて楽しかったわ。…最後は追い詰められたから逃げちゃったけど」
と返してくれた
「そうか。」
俺は冷静そうに見せるためそう言った。しかし心のなかではガッツポーズをしていた。
やった。これで「人生二人目の友達だ……」
「最後本音漏れてるわよ」
「気にすんな」
心の声が漏れるほど嬉しかった。泣くほど嬉しい。
人生二人目の友達だぞ。嬉しくないわけ無いだろ
「あ、でも……」
水谷は困ったような声を出す。
「ん?」
「私、この学校に親友が居るんだけど、その親友が大の男嫌いでね…」
「へえ」
俺はその言葉を適当に流す。
「へえ、って……」
「いや興味ないからな」
俺は本心を告げた。興味ねえよんなの
こいつの親友と仲良くやってくことも大事なんだろうが、そこに男嫌いとか云々は関係ない。
「…え、みんなそういうのは気にしないの?」
「それは常識とやらだろ?常識が世間に通用すると思うなよ」
「世間に通用するから常識なのよ?」
呆れながらツッコむ水谷。
まあそうとも言うな。
常識と恥と悲しみは中学校に置いてきた。
「おい早く階段を降りろ、だいぶ遅いぞ」
「ちょ、貴方レディファーストって知ってる?」
「レディファースト?」
「…常識の一つよ」
「はい、出た~常識」
「……もういいわ。頑張るからもう少し歩く速度を落としてくれない?」
「はいよ」
要求の通りに少し歩く速度を落とす。
女に男が合わせるとか信じられないがな。俺はよォ。
昔は男尊女卑、今はレディファースト。しょーもねえな。いつもいつも性別差別。
……気持ちわりい思想だ。
俺はジェンダーレスという言葉が大好きだ。
女も男も関係ないのだ。ただの1/2なのだ。
そんなことを内心思いながら階段を降りる。
男女の友情は成立しないとか言われてるけどよォ。そんなこと無い。友情は等しく発生するんだよなあ





階段を降りきり、自分の下駄箱に向かう。
「おい水谷。お前靴を履き替える事はできるか?」
「うん」
俺らの学校は学年での名前の番号順に靴箱が並んでいる。それはいくつかの列に分かれている。俺らは「水谷」と「京極」なので列が違う。
だから俺はあいつの靴の履き替えるのを手伝うことは難しい。
自分の下駄箱で靴を履き替えて速歩きで水谷の元へ向かう。
「早いな。」
水谷の下駄箱の前には既に靴を履き替えていた水谷が居た。
「ブーメラン、よ」
笑顔で言ってくる水谷。俺はやれやれ、と息をつく。
「ほれ、さっさと肩を組め」
俺は肩を差し出す
水谷は笑顔のまま肩を組んでくる
俺は少し遅めのスピードで歩き出す。
「…少しは学んだのね」
「?」
俺に聞こえないほど小さくつぶやく水谷。俺は頭をかしげるだけでそれを無視した。
「桜、綺麗ね」
桜並木の下を歩きながら言う水谷。
「確かに桜は綺麗だが、俺はあまり好きじゃないな」
「どうして?」
「儚いからだ」
俺の肩に一枚の桜の花びらが乗っかる。
桜はとても綺麗だが、すぐ散る。満開になるとすぐ散る。だからこそあまり桜は好きでない。
きれいな景色などは大好きだが、桜は好きではない
人間の命もそうだ。すぐ消える。
まあ、一時期綺麗ならそれでいいのかもな
「…でも、それは合ってるのかもね」
水谷が温かい声でそういう。
春っつうのはなんかいい季節だな、と思う
なんか暖かいんだよな
過ごしやすい気温で、暖かい日差し。引きこもるには最高の季節だ
「おっと、校門に着いたぞ」
気づいたら校門に着いていた。校門には一人の女が立っていた。
「水谷、遅い――って」
女がこちらに振り返る
「…誰だその男」
「あ~……」
「?」
水谷を横目で見るとやっぱり、と言う感じの顔をしていた
……てかこの女、昨日俺のことを睨んできたロング髪の女だ。
今回もギロっと女が睨んでくる。
「…って、お前。水谷をずっと見てた―――」
一歩女がこちらに近づく。
「水谷に何を―――」
「……」
さてこの状況。どうやってズラかろうか。
俺は一瞬考えて―――
「ふふふ……ふははははははははは!」
大きく高笑いした。
「な、なんだお前…」
「ははは!俺は水谷の友達さ!!」
「と、友達…?」
強気な姿勢を崩さないものの困惑をあらわにする女。
「そうさ!!!ふはははは!水谷はもう俺の女よ!」
「ちょ、疾雷!?」
叫ぶ水谷。
「ふはは、ふはははははは!そういうことだ!さらばだ!」
俺は地に向かって波動を噴射して空に浮かぶ。
「ちょ、おいお前!待てコラァ!」
「また会おうぞ!水谷氷華!」
と言って飛び去った。もちろん波動を使って飛んでいる。自らの背後に噴射して飛んでいる
「…俺、今のすげえ悪役みたいだったな」
俺は小さく呟いた。
さっきのセリフは俺がロング髪に俺がヤバいやつと思い込ませて困惑させてその隙を突いてさっさとズラかるためだった。
「もはやラスボスよ、あなた」
ホルスの声が聞こえる
「…ラスボス、ね。その響きなんか好きだな」
最後に立ちふさがる最強の敵というのはかっこいいと思う
少なくとも儚くはないだろう。
最後まで主人公に爪痕を残す悪役。いやーかっこいい。
まあ個人的にはあまり主人公は好きではない
なろう系主人公とか、無自覚最強とか。
ああゆうのはあまり好きじゃあない。
やはり力があるならそれを自覚して使うべきだ
力を自覚しないのはもったいないだろう
ただなろう系主人公によくある『めんどいから』には共感できるがな
学校の最寄り駅の前に着地した。周りはほとんど人が居ない。
「…ホルス。お前、主人公がかっこいいと思うか?」
俺の唐突な問にホルスは姿を隠して
『貴方のセリフじゃあないわね』
と言った
『貴方、だれかから強い力をもらったのでしょ?』
「…げ」
俺は顔を歪める。
『貴方、もう立派な主人公よ?疲労と痛みを0にするほど強い生命の波動を無意識レベルで操れるクソ強い力をもらったのよ?貴方はなろう系主人公みたいなものよ。私は今の貴方に叶う気がしないわ。だから主人公は好きね。私は貴方が好きだから。』
「……最強っていいたいのか?この俺のことを」
俺ははぁ、と息をつき、
「……俺、自分を嫌いになりそうだ」
と呟いた
…帰りに眼帯でも買っていくか
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