【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

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第一章 死ぬまでにしたい10のこと

25話 切り札

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 家に帰り、早速お父さまの部屋をノックをして、入った。


「お父さま、投資話を持ってきました」
 単刀直入に言った。


 お父さまは葉巻の煙をはいて、肩をゆすって笑った。
「ほんとうにおまえは女にしておくのはもったいないな。話してみろ」


 事情をはなした。
 モーガン家の後見にアシュフォード家が入り、ワインの状態で輸送し、バルクシュタイン商会と組む。その為にお金が必要なこと。


 葉巻をくわえたまま、目線をそらし、お父さまは考えていた。

「いい話だ。乗ろう! いくら出せば良い?」

 わたくしは人差し指を立てた。
「金貨1万枚、お願いできますか」

 金貨1枚で三ヶ月は遊んで暮らせる。
 もちろんすべて実行するにはもっと多くのお金が必要だ。しかしいま必要なのは、ミラー家に借りた1万枚をなんとかすることだ。
 

 お父さまからうなり声が出る。わたくしがすでにアシュフォード家の財産の半分をもらう手筈になっているから、タイミングが悪い。しかし、ゾーイの為にやらなくてはならない。


「いまは5千枚までだ。あとは、自分で調達してみろ」

「ご理解いただき、ありがとうございます。わたくしの方で当たってみます」


 お父さまの部屋を出る。
 これで、アシュフォードの後ろ盾は問題ない。
 
 ――次は。


 馬車でゾーイの屋敷に到着した。
 
 ゾーイを呼び出し、馬車のなかで話した。家族に聞かれるとまずいかと思っての配慮だ。

「すごいです。フェイトさん。この短時間で、バルクシュタインさんにまで、話をつけてくれて。お話するのは嫌ではありませんでしたか?」
「彼女には個人的にダンスを教えているからいいのです。それで、大丈夫かどうか、ゾーイさんのお父さまにもご確認いただけない?」

 ゾーイの瞳が、不安に揺れる。

「お金の件は、なんて説明しましょう」
 
 そうだった。そもそも1万枚のお金の件は、勝手にミラーが約束を破り、返済できないならわたくしに意地悪をするようにゾーイに言ってきたことからはじまった。1万枚はバルクシュタインとの商談では関係ないのだ。

 商談するなら、バルクシュタイン商会に手付金を払うことになるだろう。そのお金は、バルクシュタインに頼んで待ってもらえるようにできれば。わたくしの金貨5千枚と、ゾーイが5千枚用意できれば、ミラー家に完済できる。


 おそらく、借金の即日返済はグレタ・ミラー令嬢の独断だろう。しかし、そんなあくどいことをする令嬢がいるミラー家からの借金はないほうがいいに決まっている。


「お金の件はバルクシュタインに交渉しますので、いまはバルクシュタイン商会がワインの
噂を聞きつけて、独占契約を結びたがっているということにしましょう。まったくお金が必要ないと言うと怪しまれるので……。そうですね。金貨1千枚をひとまず手付金としておきましょう。すぐに用意していただかなくて大丈夫です。そこまで話を詰めて無くてすみません」

 ゾーイは不安を隠しきれていない。金額が大きいですものね。

「わたくしの方で金貨5千枚は用意できました。残り……5千枚をかき集めないと。ゾーイさんの家で借りることはできるでしょうか?」


 ゾーイは馬車を降り、直接お父さまにワインの件も含め尋ねてくるとのこと。



 15分ぐらいして、浮かない顔でゾーイは戻ってきた。上手くはいかなかったようですね。

「ワインや、バルクシュタイン商会の件は問題なくお受けできそうです、が金貨5千枚は難しいそうです。申し訳ありま、せん」
「……そうですよね。多額のお金が必要だから、借りたのでしょうし。もしすこしでも借りられる当てがあるなら教えてください。わたくしがなんとかします」

「フェイトさん。いつも頼ってばかりですみません。でも、フェイトさんも、私に頼ってくださいね。いつもひとりで、なんとかしてしまうけど、私だって役に立ちたい、です」

 ゾーイはわたくしの手をにぎってくる。すべすべして、温かい手だ。彼女の勇気にわたくしは励まされてきた。今度だって、絶対になんとかしてみせる。

「心配いりません。必ずわたくしがなんとかしますから」





 そんな決意を持った、2日目。学校以外のスケジュールはキャンセルし、心当たりはすべて当たったが、お金を借りることができなかった。

 アシュフォード家の小娘が投資したいから金を貸せって、それは貸せませんわよね。


 放課後。今日も金策に走る為にバルクシュタインへダンスのキャンセルを伝えに行く。昨日もキャンセルしてしまって申し訳ないが。



 教室の前に立ち、ノックし、「たのみますわ」と小声で言って、入る。



 バルクシュタインはもうチュールスカートに着替えてアップしていた。

「ごきげんよう。アシュフォード様。昨日はお休みで大変残念でした。お金の工面はできましたか」


 わたくしはくちびるを噛んだ。ほんとうは簡単に用意できたと言いたかった。
 わたくしは扇子を広げ、口元を隠した。

「まったくっっっっっ、問題ないです。今日中は必ず用意しますわ。だから大変申し訳ありませんが、今日もお休みにさせてください」

 言葉に熱がこもるよう、節をつけた。弱気は見せられない。
 お辞儀をして、立ち去る。


「もしかして、お金に困っているのではないですか」
 バルクシュタインはわたくしを呼び止めた。

「いえいえ。当てはあります。時間がないので失礼しますね」
 そそくさと教室を出ようとするが、バルクシュタインに腕をつかまれる。

「あたしのことが嫌いなのはもちろん知っています。正直に答えて。お金のあてがないのでしょう」

 バルクシュタインがなぜこんなにもくらいついてくるのか、理解ができない。彼女はお金が用意できなかったとバカにするような人ではないのは、わたくしにだって、もうわかっている。

 バルクシュタインは透きとおる、ブルーサファイアの瞳でわたくしを見つめる。そこには、純粋にわたくしを心配する思いやりのようなものを感じ取ることができた。


 
 わたくしは扇子を閉じた。
「ええ。恥ずかしい話ですが、金貨五千枚が用意できないのです。バルクシュタイン商会への手付金も用意できておりません」

「わたくしが二日前、最後になんと言ったか覚えておいでですか?」
 バルクシュタインは一転し、天使のようにはにかんだ。

 
 
「たしか、わたくしなら、必ず成功する、とかなんとか、だったかと」
 

「そうです。アシュフォード様にはまだ行使していない切り札があります! ふふふふ」
 そう言って、バルクシュタインは整った顔をくしゃくしゃにして笑う。なぜそんなに、わたくしのことなのに嬉しそうなのでしょう。


 わたくしまで、元気をもらってしまいますわ。
 まったく。調子を狂わされてばかりですわね。
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