【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ

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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

54話 そうだ、魔女に会いに行こう!② イザベラファミリー

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 アルトメイアの兵士は途端に挙動不審になった。

 わたくしが微笑むと、顔をそらした。

「ブリジット・バーナードと申します。以前お会いしましたかしら」
「い、いえ。バーナード伯爵令嬢でいらっしゃいましたか。とんだ失礼をお許しくださいませ。どうぞ、中へお入りください」
 
 イザベラに追いつくと、それはそれは、巨大な扉がゆっくりと開く。


「お化け屋敷のホラー顔の逆バージョン魔法だ。あれを家でも使うと、兵にばれると思って、逆にめちゃくちゃ美人に見える魔法を試したけど、成功したみたいだな。どうだ、自分がキラキラ美人のご令嬢になった気分はよ」

「なんだか。落ちつきませんわ。とにかく突破できてよかったです」
 
 門の中からローブを被ったちいさな女の子が出てくる。

「お姉ちゃん、おかえり」
 イザベラに抱きつく女の子。

「元気だったか、ベアトリーチェ! 紹介するよ。私の妹だ」

 顔をみたが、紫の髪、紫色で切れ長の目だが、イザベラほどするどくはない。イザベラを小さく、かわいくした姿だ。

「この人たちは奴隷? それとも、生け贄?」
 ベアトリーチェがイザベラの背中に隠れ、聞いた。

「と……ととと、友達だ」
 イザベラは目が泳ぎまくり、汗をダラダラと出ていた。

「お姉ちゃん……。とうとう、お金で友達を買ったんだね……お金で買ったものは友達じゃなくて、使用人っていうんだよ」
 ベアトリーチェは目元をぬぐったあと、哀れな姉を見つめた。

「昔はなー。アルトメイアを横断できるほどの数の友達がいたんだぞ」
「家に友達つれてきたこと、ないよ」
「いや、この家、普通に怖いだろ! みんな怖がっちゃってな! だから、友達の家に遊びに行っていたんだよ! ベアトリーチェも友達きたら気を遣うだろ」
「お姉ちゃん。一度も友達の家に行ったことない。毎日家で魔法の勉強してた。えらい」
 イザベラの白い肌がさらに白くなった。

「ウィンストン学園の長期休みに帰ってきた時、フェイト様をずっとライバルだと言っていた。1回も勝てなかったって、地団駄踏んでいた。ずっと無視されているって悲しがっていた。いまも無視してる? お姉ちゃん、フェイト様のこと好きだけど、素直になれなくて、嫌がらせして、ちょっかい出すしか人との付き合い方がわからないの。友達もいないから、仲良くしてあげて? お願いします」
 わたくしは目尻をぬぐって、ベアトリーチェを抱きしめた。

「大丈夫よ。イザベラとは和解しましたから。心配いらないわ」

 イザベラは白目になって、ガタガタと震えていた。見ていられなくて、わたくしたち三人は、そっと彼女の肩を叩いていった。
「同情すんな! 私だって色々あったんだ!」
 肩を落とすイザベラにわたくしは言った。

「今日だってわざわざ連れてきてくれたではないですか。 わたくしたちはもう立派な友達ですよ。イザベラ」
「フェイト……おまえ……」
 イザベラが涙目で抱きしめてくるのをひらり、とかわした。
「そこは抱きつかせろよ!」
「すみません。条件反射で、ついっ」



 
 城内は暗く、階段の足下にのみランプが設置してあった。いったいどれだけの高さの天井なのか暗い内側からは計りかねた。


「ようこそ。照覧の魔女。久しいな。歓迎致しますよ」
 地を這うような低い声。遠くから聞こえたようにも、すぐ耳元で聞こえたようにも思える。

 中央の二階へと通じる大きな階段の踊り場に黒い人影が見える。

 その影はふっと、消えた!


 真横に巨大な影が突如あらわれた。
「っっっっっっっっっっ」
 口を手で押さえた。

 背が高い……ローブを着ていて正確なところはわからないが、2メートル以上あるのではないか。騎士のジェイコブにも負けない長身だ。


「驚かせて、ごめんなさいね。どうも。【黒闇の魔女】です。長旅、疲れたでしょう。食事の用意をしてあります……あら、2名ほど、多い。イザベラ、話が違うわ。イザベラとフェイトちゃんだけのはずよね。お呼びする人数が違うと、食事の準備がちゃんとできない。恥をかく。私が恥をかく。あああああ! 私が恥をかくの!!! 恥ずかしいいいいいい。 ねぇ、イザベラ。どういうことなの!」
「す、すみません。母さん。彼女たちが急に一緒にくるって」
「言い訳? ねえ。イザベラ。私に、いま、言い訳をしているの?」
 イザベラがわたくしの背中に隠れ、震えている。


 黒闇の魔女はじぃーと、巨大車椅子を見て、首をかしげた。
「ねえねえ。ねえねえねえ。どうしてどうしてどうして。貴方がいるの? なんのつもり?  答えて答えて?」


 うわぁ! 急にマデリンが黒闇の魔女に絡まれています。





「……」




「マデリン、黙っていないで、なにかお話しください! 黒闇の魔女がお怒りですよ」





 さすがのマデリンも恐怖で縮こまっているのでは?




 みんなで、そぉーっと、車椅子の中をのぞき込む。





 ――寝てましたー! ぶれないお方ー! 暗いし、静かだし、まあ、寝ますよねー。貴方様なら。


「……。おお! 黒闇の魔女、久しいの! マデリン・シャルロワじゃ。以前妾が魔女研究でこの城を訪れて以来じゃの」

 マデリンは相手がだれであろうが、まったく対応を変えず、清々しいほどの自分流を貫き通した。

「なにしにきた。私はもう、あんたの顔も見たくないし、話したくないし、面倒もごめん」

 マデリンは楽しそうに寝転がって、あくびをする。
「よいよい。黒闇が妾を嫌っても、妾は黒闇を愛しておる。今日はフェイトの付き添いできた」

「おまえ。いまがどんな状態かわかっているのか? へらへらと車椅子でふんぞりかえって。癪に、癪に癪に癪に、さわる」
 黒闇の魔女は巨大な手をわきわきさせて、怒りに打ち震えていた。

「だからこそ、妾は来た。妾はフェイトにずっと世話になっておる。もし、すこしでも出来ることがあるのなら、見届けたいと思ってな」
 マデリンはわたくしの方に顔を向けて、うなずいた。
 いつものゆるゆるの表情ではない。強い決意を秘めた、引き締まった表情だ。


 マデリン、こんなにも頼もしい方だったのですね。


 その凜々しい表情のまま、鼻提灯を出した。よだれもセットだ。気持ちよさそうな寝息さえ、添え物として追加された次第。


「いい。もういい。相手するだけ疲れる。食事にしましょう。こんなこともあろうかと多めに用意しておいてよかった。さすが私」
 黒闇の魔女はぶつぶつと言いながら、ゆっくりと巨体を動かし、道案内してくれた。
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