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第二章 死ぬまでにしたい【3】のこと

62話 嘘をいつか、本当にするために

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 家に戻ると、随分遅い時間なのに、食事を待ってくれていた。

 シリルはまだ着座していない。

 わたくしが席につく前に、お父さまから呼ばれた。

「フェイト。シリルから聞いたぞ。魔女がおまえの命を狙っているそうだな。私兵を100人雇って、守らせよう。国王陛下はこの事はご存じなのか」
「お父さま……。大げさですよ。それに魔女に100人程度の兵では対抗できません。わたくしには秘策があるので、まかせてください。いまはまだ、少数で動きたいのです。アラン殿下が事情をご存じでしたので、把握されていると思います」

 秘策ではないが、魔女の毒。これは、ある程度死への期間を調整できるものではないかと考えている。ということは、わたくしが生かされていることには意味があるのではないか。つまり、これ以上はやく死ぬことはない、はず。



「馬鹿者が!!!!!」


 お父さまが机を強く叩いた。メイドたちが慌てているのを、メイド長のエマが落ちつかせていた。

「母さんは……そうやって準備を怠って亡くなったのだぞ。あれから6年、ずいぶんと平和ボケしてしまったようだ。……たしかに、兵100人程度では足らんな。王城にいき、フェイトに護衛をつけてもらえるように嘆願してこよう。これ以上同じ過ちを犯してしまったら、俺は死んでも死にきれない。今度こそ、守り抜いてみせる」
 髪をかきあげた額には、青筋がたっていた。


 お母さまを亡くしたお父さまの気持ちを慮った。
「実はずっと隠していたことがありまして、わたくしに魔女の魔力は効きません。魔女としての能力がないかわりに、魔法に対して耐性があります。わたくし以上に茨の魔女を探す適任はおりません」


「本当か? なぜ、いままでそのことを黙っていた? もし、嘘をついていたら、絶対に許さないぞ」
「本当です。お母さまより力を隠せと仰せでした。魔女の力を隠すことで争いを避けるようにと。ですので、護衛は不要。ジェイコブに同行していただくだけで結構です。またこの件は、一見深刻にうつりますが、難しくはありません。簡単にけりがつくでしょう。もう茨の魔女の居場所もおおよそ絞りこめております」
 笑顔を作ったまま、息を吸うように嘘をつき続けた。ひとつ嘘をつくと、その嘘をほんとうとするためにずっと嘘をつき続けないといけない。

 お父さまは髭をさわって、考え込んだ。

「……。わかった。必要なものがあればなんでもいいなさい」
「ありがとうございます。ブラッド殿下にも協力を頼みました。魔法こそ使えませんが、剣聖まで上りつめた方です。我が家にはその次に強いジェイコブもおりますし、ジョシュア殿下ももしかしたら協力いただけるかもしれません。むしろこれだけの戦力があれば、魔女を返り討ちにできるでしょう」
 

 また、嘘をつく。黒闇の魔女のロレーヌ様と対峙したときにわかった。魔女の魔法の恐ろしさを。例え、剣聖がいようが、剣の達人がいようが、剣を当てる前に殺される。だからこそ、わたくしが盾になる必要がある。この3ヶ月で死ぬ毒には意味があるはずだ。そこから推測するに、3ヶ月間、わたくしを生かすなんらかの理由があるのだ。殺せないのなら、わたくしは盾として役に立つはずだ。その隙をつければ、勝機はある。


 すべてはわたくしの推測で確証などなにもない。外れた時は死が待っている。それでも、仮説を立て、茨の魔女を出し抜かないと、すでに大きく出遅れたわたくしの生存の道はない。

「ジョシュア殿下か……また、あたまの痛い問題がでてきたな。来客室で待ってもらうようにお伝えしたが、頑なに外で待つといった。虫が寄ってくるのに、ずっと健気に待っていた。よりによってアルトメイアの第二王子か」

「そちらもお任せください。先方からお断りをしていただくように動きます。わたくしはマルクールから動くつもりはございません」

 お父さまは椅子に首を預け、ため息をついた。

「結局俺にはなにもできないことだけはわかった。わが、アシュフォード家は魔女の家系。すべての責め苦は女にいく。俺もすこしは、背負いたかったものだ」

 わたくしはお父さまに抱きついた。

「いいえ。お母さまも、わたくしも、お父さまに感謝しております。いつも力を貸してくださり、ありがとうございます」

 お父さまはわたくしの背中をさする。

「大きく、立派になった。今度こそ、間違えないようにしたい」
「大丈夫です。間違いなどありませんよ。わたくしたちは笑って、こんなこともあったなぁと、話せる日が来ます。その為にお母さまはわたくしに力を残してくれたのですから」
 お母さま、嘘に嘘を重ねて、申し訳ございません。この嘘をわずかでも本当にするために、全力を尽くしますわ。

「さあ、食事にしましょうか。待っていてくださってありがとうございます。ですが、次からは先に食べてくださって結構ですよ」

「俺が駄々をこねたのだ。メイドもシェフも大変なのに、久しぶりに帰ってくるフェイトと一緒に食べたくてな」

 顔を背け、ぼそぼそと言うお父さまはとてもかわいらしい。

「まぁ。ありがとうございます。では、シリルを呼んで参りますね」


 わたくしたちは久しぶりに暖かい食事を一緒に食べた。この幸せを胸に、ずっと覚えておこう。
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