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第一章 孤児院編
諸行無常
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熊を魅惑のボイスで堕とした日の夕食の後、私とウィルはクルルお兄ちゃんを助けたことをほめられたのと同時に、危険なことはしないようにと圧のある笑顔で怒られてしまった。私たちは素直に謝って、事なきを得た。
そしてその後、私はウィルに話があると言われて屋上にやってきた。
「ウィル、今日は助けに来てくれてありがとう。すごい運動神経だったね!」
「……俺も、自分があんなに動けることに驚いた。今までは受けるだけだったからな……って、俺のことを置いておいていいんだ。問題は、パイルの方だ。どうして熊が、あんな事になったのか心当たりはあるのか?」
「うーん……。」
あると言えばあるし、無いと言えばないというのが正直なところだ。私の歌が原因であることはウィルにもわかっていると思うが、なぜあんなことになったのか私にもわからない。
「ごめん、わからないというのが正直なところだよ。……ただ、気になることはあるかな。」
「なんだ?」
私は、ネックレスのことと歌のこと、院長先生のことをウィルに話した。ウィルは私の話に口をはさむことなく、最後まで聞いてくれた。実際、院長先生に話せば原因がわかるかもしれない。だけど、前にイールの件が会った時に見せた顔は、焦り・恐怖ともとれる顔だった。これ以上、心労はかけたくないな。
「……そうか。とりあえず、パイルの考えはわかった。今日のことについては、俺も忘れることにする。だけど、次にその石に異常が現れたときは俺に言えよ。」
「うふふふふふ。」
「……なんだよ。」
「私が思ったとおり、ウィルは優しいなと思ってさ。……そうだ、私の今日の歌はどうだった? 疾走感があって、戦うときにはぴったりかなと思ったんだよね。」
「き、今日のことは忘れるって言っただろ! 寒いから中に入るぞ!」
ウィルはそういうと、逃げるように中へと戻っていった。あらあら、今日の歌はよほどよかったようね。今まではバラード系の歌だったけど、今日の歌はアニソンにも採用できそうな疾走感のあるものだったから、誰でも口ずさみたくなるものだ。いずれ、私の歌をみんなが口ずさんでくれれば嬉しいな。
ーー
熊事件はあったものの、それ以降は特に何もなく穏やかな日々が過ぎていった。ウィルの教養や礼儀作法も順調で、院長先生も教えがいがありそうにしている。ウィル自身も呑み込みが早く、教えたことをスポンジのように吸収していく。熊事件の時に見せた運動神経・反射神経も併せて、元々のスペックが高いのかもしれない。
しかし、穏やかな日々が流れたということは、別れの時が来てしまうということだ。今日はいよいよ、ミーアお姉ちゃんの選別の時だ。選別の時を午後に控えた、朝。私たちは、昼休みにお別れ会を開いていた。
「ミーアお姉ちゃん……。」
イールはそういうと、涙を流しながらミーアお姉ちゃんに抱き着いた。コニーは恥ずかしそうにしながらも、目じりに涙を浮かべていた。
「あらあら、イール。そんなに泣かれては、心配で選別に行けなくなってしまうわ。イールは健康になったし、たくさん本を読んでいるわ。そのまま1年間過ごせば、りっぱな側仕えになれるわ。決して、手を抜いてはダメよ。」
「うん……。」
「コニーもよ。あなたはすぐに調子に乗るんだから、気を付けるのよ。ちゃんとやれば、優秀な側仕えになれる素養を持っているのだから、残り1年しっかりと頑張るのよ!」
「おう。」
「それから、ウィルもこちらにいらっしゃい。」
どうしたらいいのかわからないと言わんばかりに、壁に寄りかかっていいたウィルをミーアお姉ちゃんは笑顔でよんだ。
期間は短かったが、私の副担当として、ウィルのお世話の手伝いをしてくれた。優しく包容力のあるミーアお姉ちゃんに、ウィルも少しずつ心を開きかけていたように思える。そんなタイミングでの別れだ。私も2人の様子を注意深く見つめた。
「……なんだよ。」
「まあ、相変わらず素直じゃないわね。うふふふふふ。だけど、この短期間でもあなたの成長は凄まじいものがあったわ。自信をもって、これからも勉強に礼儀作法に、孤児院の生活に励んでね。ただもう少し、笑顔をつくった方が良いわね」
「……余計なお世話だ。」
思ったことをうまく言えないとばかりに顔をしかめているウィルを、ミーアお姉ちゃんはほほえましそうに見つめていた。うふふふふふ。ここは、ウィルのお世話係の私の出番の様ね。
私より少しだけ低い位置のあるウィルの頭に手を伸ばして、そっと撫でながら、私はウィルに語り掛けた。
「余計なお世話を焼いてくれる人がいつまでもいるとは限らないよ。感謝しているならそれを言葉に出さないと、後で後悔するかもよ。」
私がそういうと、ウィルは「チッ……」と短く舌打ちをした後に、小さな声で「……ありがとう」と言った。そんなウィルにコニーは肩に腕を回しながら、ウィルの髪をかき混ぜていた。コニーったら、すっかりウィルのお兄さんになっているみたいだね。
「最後に、パイル。」
「うん、ミーアお姉ちゃん。」
「あなたと過ごす日々は本当に楽しかったわ。今になっても笑えるような、はたまたひやひやするような、そんな思い出にあふれているわ。」
「私もよ、ミーアお姉ちゃん。ミーアお姉ちゃんには数えきれないほどの感謝をしているよ。たくさん助けてもらったし、庇ってもらったし、私が楽しく過ごすことができたのはミーアお姉ちゃんのおかげだよ。……それに、私の歌を最初に褒めてくれたのはミーアお姉ちゃんだった。本当にありがとう。」
「うふふふ。改めて言われると、照れてしまうわね。……ねえ、パイル。私は、あなたの歌が本当に好きよ。歌もそうだけど、何にも縛られず自由に歌っているあなたの姿がとても好きなの。だからね、パイル。あなたはあなたらしく、思いっきり歌っていてほしいの。勉強や礼儀作法、その他についても心配はないから、私の願いはそれだけよ。」
「うん。私は私の歌を、孤児院のみんなに届け続けるよ。神殿にいるミーアお姉ちゃんにも聞こえるくらいにね。」
「まあ! それは楽しみね。」
「うん! 楽しみにしていて!」
ミーアお姉ちゃんを含めた、1個上の世代がいなくなるのは本当に悲しい。気軽に相談できる人たちがいなくなるし、心のよりどころが減ってしまうみたいだ。だけど、だからといって泣いて送り出してはミーアお姉ちゃんたちを不安にさせてしまう。私は最後まで、笑顔で見送るんだ。
そうして、ミーアお姉ちゃん以外のみんなともお別れの挨拶を済ませて、いよいよ最後の時が訪れた。
「みんなはわたくしの自慢の子どもたちです。ここで学んだことを生かして、自分のできることを精一杯頑張るのよ。……では最後に、パイル。選別へ向かうみんなへ、送る歌をお願いできるかしら?」
「ええ、もちろんです。では、私からみんなへ曲を送ります。聞いてください『一歩』」
『行く当てもなく 身を隠す場所もない 誰かに見つけてもらえる、そんなことは決してないと思っていた 明日を信じて立ち上がろうとした 何から始めればいい、何が正解かもわからない そんな時に一つまた一つとみえない道たちが僕を呼ぶ声が聞こえたよ 最高の足と根拠のない勇気で自分だけの道をつくっていこう ゼロからの一歩は全然怖くない 僕が望む世界は僕自身の足で作って見せるから 恐れずに一歩を踏み出すから あなたのヒーローになって見せるから だからあなたの幸せを願わせてほしい 確かな一歩にかけて』
そうして、ミーアお姉ちゃんたちは選別に向かった。
選別の結果、誰一人として孤児院に戻ってくることはなかった。みんな、まとまなひとたちの側仕えになれたかな……。その結果は、孤児院にいる私たちに知らされることはない。
そしてその後、私はウィルに話があると言われて屋上にやってきた。
「ウィル、今日は助けに来てくれてありがとう。すごい運動神経だったね!」
「……俺も、自分があんなに動けることに驚いた。今までは受けるだけだったからな……って、俺のことを置いておいていいんだ。問題は、パイルの方だ。どうして熊が、あんな事になったのか心当たりはあるのか?」
「うーん……。」
あると言えばあるし、無いと言えばないというのが正直なところだ。私の歌が原因であることはウィルにもわかっていると思うが、なぜあんなことになったのか私にもわからない。
「ごめん、わからないというのが正直なところだよ。……ただ、気になることはあるかな。」
「なんだ?」
私は、ネックレスのことと歌のこと、院長先生のことをウィルに話した。ウィルは私の話に口をはさむことなく、最後まで聞いてくれた。実際、院長先生に話せば原因がわかるかもしれない。だけど、前にイールの件が会った時に見せた顔は、焦り・恐怖ともとれる顔だった。これ以上、心労はかけたくないな。
「……そうか。とりあえず、パイルの考えはわかった。今日のことについては、俺も忘れることにする。だけど、次にその石に異常が現れたときは俺に言えよ。」
「うふふふふふ。」
「……なんだよ。」
「私が思ったとおり、ウィルは優しいなと思ってさ。……そうだ、私の今日の歌はどうだった? 疾走感があって、戦うときにはぴったりかなと思ったんだよね。」
「き、今日のことは忘れるって言っただろ! 寒いから中に入るぞ!」
ウィルはそういうと、逃げるように中へと戻っていった。あらあら、今日の歌はよほどよかったようね。今まではバラード系の歌だったけど、今日の歌はアニソンにも採用できそうな疾走感のあるものだったから、誰でも口ずさみたくなるものだ。いずれ、私の歌をみんなが口ずさんでくれれば嬉しいな。
ーー
熊事件はあったものの、それ以降は特に何もなく穏やかな日々が過ぎていった。ウィルの教養や礼儀作法も順調で、院長先生も教えがいがありそうにしている。ウィル自身も呑み込みが早く、教えたことをスポンジのように吸収していく。熊事件の時に見せた運動神経・反射神経も併せて、元々のスペックが高いのかもしれない。
しかし、穏やかな日々が流れたということは、別れの時が来てしまうということだ。今日はいよいよ、ミーアお姉ちゃんの選別の時だ。選別の時を午後に控えた、朝。私たちは、昼休みにお別れ会を開いていた。
「ミーアお姉ちゃん……。」
イールはそういうと、涙を流しながらミーアお姉ちゃんに抱き着いた。コニーは恥ずかしそうにしながらも、目じりに涙を浮かべていた。
「あらあら、イール。そんなに泣かれては、心配で選別に行けなくなってしまうわ。イールは健康になったし、たくさん本を読んでいるわ。そのまま1年間過ごせば、りっぱな側仕えになれるわ。決して、手を抜いてはダメよ。」
「うん……。」
「コニーもよ。あなたはすぐに調子に乗るんだから、気を付けるのよ。ちゃんとやれば、優秀な側仕えになれる素養を持っているのだから、残り1年しっかりと頑張るのよ!」
「おう。」
「それから、ウィルもこちらにいらっしゃい。」
どうしたらいいのかわからないと言わんばかりに、壁に寄りかかっていいたウィルをミーアお姉ちゃんは笑顔でよんだ。
期間は短かったが、私の副担当として、ウィルのお世話の手伝いをしてくれた。優しく包容力のあるミーアお姉ちゃんに、ウィルも少しずつ心を開きかけていたように思える。そんなタイミングでの別れだ。私も2人の様子を注意深く見つめた。
「……なんだよ。」
「まあ、相変わらず素直じゃないわね。うふふふふふ。だけど、この短期間でもあなたの成長は凄まじいものがあったわ。自信をもって、これからも勉強に礼儀作法に、孤児院の生活に励んでね。ただもう少し、笑顔をつくった方が良いわね」
「……余計なお世話だ。」
思ったことをうまく言えないとばかりに顔をしかめているウィルを、ミーアお姉ちゃんはほほえましそうに見つめていた。うふふふふふ。ここは、ウィルのお世話係の私の出番の様ね。
私より少しだけ低い位置のあるウィルの頭に手を伸ばして、そっと撫でながら、私はウィルに語り掛けた。
「余計なお世話を焼いてくれる人がいつまでもいるとは限らないよ。感謝しているならそれを言葉に出さないと、後で後悔するかもよ。」
私がそういうと、ウィルは「チッ……」と短く舌打ちをした後に、小さな声で「……ありがとう」と言った。そんなウィルにコニーは肩に腕を回しながら、ウィルの髪をかき混ぜていた。コニーったら、すっかりウィルのお兄さんになっているみたいだね。
「最後に、パイル。」
「うん、ミーアお姉ちゃん。」
「あなたと過ごす日々は本当に楽しかったわ。今になっても笑えるような、はたまたひやひやするような、そんな思い出にあふれているわ。」
「私もよ、ミーアお姉ちゃん。ミーアお姉ちゃんには数えきれないほどの感謝をしているよ。たくさん助けてもらったし、庇ってもらったし、私が楽しく過ごすことができたのはミーアお姉ちゃんのおかげだよ。……それに、私の歌を最初に褒めてくれたのはミーアお姉ちゃんだった。本当にありがとう。」
「うふふふ。改めて言われると、照れてしまうわね。……ねえ、パイル。私は、あなたの歌が本当に好きよ。歌もそうだけど、何にも縛られず自由に歌っているあなたの姿がとても好きなの。だからね、パイル。あなたはあなたらしく、思いっきり歌っていてほしいの。勉強や礼儀作法、その他についても心配はないから、私の願いはそれだけよ。」
「うん。私は私の歌を、孤児院のみんなに届け続けるよ。神殿にいるミーアお姉ちゃんにも聞こえるくらいにね。」
「まあ! それは楽しみね。」
「うん! 楽しみにしていて!」
ミーアお姉ちゃんを含めた、1個上の世代がいなくなるのは本当に悲しい。気軽に相談できる人たちがいなくなるし、心のよりどころが減ってしまうみたいだ。だけど、だからといって泣いて送り出してはミーアお姉ちゃんたちを不安にさせてしまう。私は最後まで、笑顔で見送るんだ。
そうして、ミーアお姉ちゃん以外のみんなともお別れの挨拶を済ませて、いよいよ最後の時が訪れた。
「みんなはわたくしの自慢の子どもたちです。ここで学んだことを生かして、自分のできることを精一杯頑張るのよ。……では最後に、パイル。選別へ向かうみんなへ、送る歌をお願いできるかしら?」
「ええ、もちろんです。では、私からみんなへ曲を送ります。聞いてください『一歩』」
『行く当てもなく 身を隠す場所もない 誰かに見つけてもらえる、そんなことは決してないと思っていた 明日を信じて立ち上がろうとした 何から始めればいい、何が正解かもわからない そんな時に一つまた一つとみえない道たちが僕を呼ぶ声が聞こえたよ 最高の足と根拠のない勇気で自分だけの道をつくっていこう ゼロからの一歩は全然怖くない 僕が望む世界は僕自身の足で作って見せるから 恐れずに一歩を踏み出すから あなたのヒーローになって見せるから だからあなたの幸せを願わせてほしい 確かな一歩にかけて』
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