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第二章 側仕え編
悪趣味な選別(※神官長視点)
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~神官長ハルウォーガン視点~
孤児たちの選別。
これほど、悪趣味なものは他にないだろう。貴族にもなれぬ神官や巫女たちの欲望を吐き出す場だ。昔は、優秀なものを取り立てようという志の元、始まったはずだった。この様に歪んでしまったのも、あの痴れ者がこのミレッジナーベ領に嫁いできたことが原因だ。
その悪趣味な場で私は、不本意ながら立場上、進行をしなければいけない。今回の選別対象は3人と少ないゆえに、あらゆるところから不満の声が上がっているのは知っている。ただし、調書だけを見ると粒ぞろいだ。コミュニケーション能力が高く、体力のあるコニー。病弱さを克服し、知識量と器量の良さを持ち合わせるイール。そして、過去の選別対象者の追随を許さない神童、パイル。まあ、あくまで孤児院の中ではの話だ。ただ、貴族にもなれぬ者たちにとっては、孤児であっても優秀なものは欲しいところだ。かくいう私は、指導の手間を考えると追加で人材を得たいとは思っていない。現状で充分問題ないからだ。
などと思考しているうちに、選別が始まった。
例年どおりの進行となっているが、今年は幾分か平和だ。最初の2人は、割とまともなところに召し上げられたと言っていいだろう。
次は、孤児院の神童か。よほど使えそうならまあ召し上げてもいいが、何しろ女なのだ。過去、何人か召し上げたことはあるが、誰もかれも色目を使ってきて面倒なのだ。私を見て、一瞬でもその気配を見せたら早々に見切りをつけるとしよう。
扉が開き、桜色の髪に翡翠の瞳をした少女が入室してきた。
ほう、容姿はなかなかだ。それに、入室してから正面だけを見据え、我々を視界に入れていない。ぶしつけな視線は不敬に当たると、理解しているのか? 桜色の少女は部屋の中央に来ると、なめらかな動作で跪いた。
「名を名乗れ。」
「パイルと申します。」
「面を上げよ。」
定型的な名前の確認をし、私は起立の許可を出した。
合図を受けて静かに立ち上がった少女は、正面にいる我々を視界にとらえた。
……ふむ。すぐに取りつくろったが、一瞬冷めた視線になったな。この者は、ここがどういう場か理解してここにきているのだろう。そういえば、前回も1人理解していそうな孤児がいたな。あの者は確か、あやつが召し上げていたな。
「調書は配布したとおりだ。この者を側仕えに希望する者は挙手せよ。」
私がそういうと、ほぼ全員の手が上がった。さて、私はどうするか。机上の成績だけが優秀な者ならば要らぬが、一連の行動を見る限りそういうわけではなさそうだ。それに調書の特記事項欄に書かれている「歌が得意」という一文。孤児院長がわざわざ書いたのだ。彼女は嘘がつけない。孤児院長の彼女が判断するレベルで、得意なのだろう。ならば、聞いてから判断するのも一興か。
「時に、其方。歌が得意と調書に書いてあるようだが、どれくらいのものかこの場で示すことはできるか? その結果次第では、成績がいいだけの其方などいらぬからな。」
「はい。ご命令、確かに承りました。」
「ふむ。孤児院では歌に触れる機会などないと思うのだが、どういうものを歌うのだ?」
「わたくしが作ったものにございます。」
「ほう。では、なんでもいいから歌ってみよ。」
少し挑発を混ぜてやり取りしてみたが、粗相をすることなく無難に返したな。まあ、内心では頭にきていることが読み取れたがな。ただ、この場にいる多くの無能どもでは、気づかないレベルの些細なものだ。
やり取りもそうだが、歌を自分で作ったといったか? 孤児院では音楽に触れる機会などないと思うが、何がきっかけで歌をつくるという発想に思い至ったのか。孤児院長が、歌を聞かせでもしたか。
「承知いたしました。それでは、不肖の身ではございますが、歌わせていただきます。」
桜色の少女はそういうと、大きく息をすった。孤児にとっては上位者しかいないこの場で、物おじしない度胸は大したものだ。さて、どのような子守唄を歌うのか。
「~~~~~♪」
しかし、少女の歌は子守唄なんて言葉で表現していいものでは無かった。歌声に歌詞に、少女の感情が確かにこもっていた。そして、歌だけのはずなのに、まるで壮大な音楽がともに聞こえているかと思わされるほどの表現力だった。
ふっ。なるほど。この少女は、才をもって生まれた側の人間だ。途中で神殿長の横槍があったが、私はこの少女を召し上げた。
ーー
その日の午後。
私は側近の2人を連れて、いつもどおり馬車で移動していた。
「ユットゲー、其方。パイルについて、何か思うことがあったか?」
私は側近のユットゲーに、パイルの所感について尋ねた。ユットゲーは文官でもある。情報収集に精通し、人を見る目は信用できる。
「おもしろいですね。今日見た情報を総合すると、多才であると言えます。それから、彼女の頭の中をのぞいてみたいですね。とても面白そうです。」
人好きのする笑顔を浮かべて、とんでもないことをのたまう事を除けば、私も同意見だ。まあ、彼女が何を考えているのかはだいたいわかるような気もするが。
「カジケープはどうだ?」
次に同じく側近のカジケープに、パイルの所感を尋ねた。まあ、解答はなんとなく想像できるが。
「私は、ハルウォーガン様に害がないのなら特に何もございません。」
「なるほど。」
予想通りだ。次からは時間の無駄なので、聞かないことにしよう。……さて、明日の楽器演奏試験では、何を見せてくれるのか。試験ではなく、確認だったか。まあどちらにしろ、使えぬのならそれまでだ。
次の日。
特段気負った様子もなく、パイルが神官長室へとやってきた。
ふむ。選んだ楽器は、シュトラウスか。楽器の中では、あまり選ばれない楽器だ。狙った音を出すことが難しく、練習すればするほど指の皮が厚くなってしまう。男女問わず、貴族の子女からあまり選ばれることのない楽器だ。
さて、何を基準に選んだのか。
「それでは好きなタイミングで演奏を始めるように。演奏と言っても、音階を奏でるだけか?」
「かしこまりました。お許しいただけるのなら、昨日私が歌った曲をシュトラウスの演奏をしながら、歌わせていただいてもよろしいでしょうか。」
……ふむ。元々が演奏付きの物だと聞こえるが、楽器のない孤児院の環境を考えるとそうではないのだろうか。おそらく、つたない演奏を自信のある歌でカバーしたいということか。まあ、美しければそれもまた一興か。
「ふむ。構わない。」
「ありがとうございます。では、始めさせていただきます。」
ピンッ。
高く清らかな音色と共に演奏が始まった。まだ成人していない幼い少女の手からつま弾かれているとは思えないほど、豊かで綺麗な前奏だ。そして、その演奏に負けず劣らずの歌が始まった。歌詞は昨日と同じだ。リズムも同じ。だが、演奏が付くことで昨日の歌だけの物とは全くべつのものとなっていた。
奏でるとはこういうものだと教えられるような感覚に陥った。それは、歌や演奏がうまいこともあるが、1番は当の本人から歌に対する情熱や楽しさが遺憾なく伝わってくるからだろう。
演奏は、あっという間に終了した。本人は満足そうに、だが、もっと歌いたそうにしながら、シュトラウスを下ろした。
「ふむ。なかなかの演奏だった。褒めて遣わそう。」
「……ありがとう存じます。」
「其方には、掃除終了から昼食の時間まで、楽師としての技術向上を命じる。私を落胆させぬよう、励むように。」
「ありがとう存じます!」
こうも、答えにのせる感情に差異があると指摘したくなるが、まあいいだろう。貴族にとっては、あらゆるものが武器。優秀な貴族ほど、そのことを骨の髄までしみこませている。
私が退出の合図を出すと、パイルは満足そうにシュトラウスを抱えて退出した。
「ユットゲーに1つ仕事を命じる。孤児院時代のパイルについて、情報を集めておくように。」
「御意。」
孤児たちの選別。
これほど、悪趣味なものは他にないだろう。貴族にもなれぬ神官や巫女たちの欲望を吐き出す場だ。昔は、優秀なものを取り立てようという志の元、始まったはずだった。この様に歪んでしまったのも、あの痴れ者がこのミレッジナーベ領に嫁いできたことが原因だ。
その悪趣味な場で私は、不本意ながら立場上、進行をしなければいけない。今回の選別対象は3人と少ないゆえに、あらゆるところから不満の声が上がっているのは知っている。ただし、調書だけを見ると粒ぞろいだ。コミュニケーション能力が高く、体力のあるコニー。病弱さを克服し、知識量と器量の良さを持ち合わせるイール。そして、過去の選別対象者の追随を許さない神童、パイル。まあ、あくまで孤児院の中ではの話だ。ただ、貴族にもなれぬ者たちにとっては、孤児であっても優秀なものは欲しいところだ。かくいう私は、指導の手間を考えると追加で人材を得たいとは思っていない。現状で充分問題ないからだ。
などと思考しているうちに、選別が始まった。
例年どおりの進行となっているが、今年は幾分か平和だ。最初の2人は、割とまともなところに召し上げられたと言っていいだろう。
次は、孤児院の神童か。よほど使えそうならまあ召し上げてもいいが、何しろ女なのだ。過去、何人か召し上げたことはあるが、誰もかれも色目を使ってきて面倒なのだ。私を見て、一瞬でもその気配を見せたら早々に見切りをつけるとしよう。
扉が開き、桜色の髪に翡翠の瞳をした少女が入室してきた。
ほう、容姿はなかなかだ。それに、入室してから正面だけを見据え、我々を視界に入れていない。ぶしつけな視線は不敬に当たると、理解しているのか? 桜色の少女は部屋の中央に来ると、なめらかな動作で跪いた。
「名を名乗れ。」
「パイルと申します。」
「面を上げよ。」
定型的な名前の確認をし、私は起立の許可を出した。
合図を受けて静かに立ち上がった少女は、正面にいる我々を視界にとらえた。
……ふむ。すぐに取りつくろったが、一瞬冷めた視線になったな。この者は、ここがどういう場か理解してここにきているのだろう。そういえば、前回も1人理解していそうな孤児がいたな。あの者は確か、あやつが召し上げていたな。
「調書は配布したとおりだ。この者を側仕えに希望する者は挙手せよ。」
私がそういうと、ほぼ全員の手が上がった。さて、私はどうするか。机上の成績だけが優秀な者ならば要らぬが、一連の行動を見る限りそういうわけではなさそうだ。それに調書の特記事項欄に書かれている「歌が得意」という一文。孤児院長がわざわざ書いたのだ。彼女は嘘がつけない。孤児院長の彼女が判断するレベルで、得意なのだろう。ならば、聞いてから判断するのも一興か。
「時に、其方。歌が得意と調書に書いてあるようだが、どれくらいのものかこの場で示すことはできるか? その結果次第では、成績がいいだけの其方などいらぬからな。」
「はい。ご命令、確かに承りました。」
「ふむ。孤児院では歌に触れる機会などないと思うのだが、どういうものを歌うのだ?」
「わたくしが作ったものにございます。」
「ほう。では、なんでもいいから歌ってみよ。」
少し挑発を混ぜてやり取りしてみたが、粗相をすることなく無難に返したな。まあ、内心では頭にきていることが読み取れたがな。ただ、この場にいる多くの無能どもでは、気づかないレベルの些細なものだ。
やり取りもそうだが、歌を自分で作ったといったか? 孤児院では音楽に触れる機会などないと思うが、何がきっかけで歌をつくるという発想に思い至ったのか。孤児院長が、歌を聞かせでもしたか。
「承知いたしました。それでは、不肖の身ではございますが、歌わせていただきます。」
桜色の少女はそういうと、大きく息をすった。孤児にとっては上位者しかいないこの場で、物おじしない度胸は大したものだ。さて、どのような子守唄を歌うのか。
「~~~~~♪」
しかし、少女の歌は子守唄なんて言葉で表現していいものでは無かった。歌声に歌詞に、少女の感情が確かにこもっていた。そして、歌だけのはずなのに、まるで壮大な音楽がともに聞こえているかと思わされるほどの表現力だった。
ふっ。なるほど。この少女は、才をもって生まれた側の人間だ。途中で神殿長の横槍があったが、私はこの少女を召し上げた。
ーー
その日の午後。
私は側近の2人を連れて、いつもどおり馬車で移動していた。
「ユットゲー、其方。パイルについて、何か思うことがあったか?」
私は側近のユットゲーに、パイルの所感について尋ねた。ユットゲーは文官でもある。情報収集に精通し、人を見る目は信用できる。
「おもしろいですね。今日見た情報を総合すると、多才であると言えます。それから、彼女の頭の中をのぞいてみたいですね。とても面白そうです。」
人好きのする笑顔を浮かべて、とんでもないことをのたまう事を除けば、私も同意見だ。まあ、彼女が何を考えているのかはだいたいわかるような気もするが。
「カジケープはどうだ?」
次に同じく側近のカジケープに、パイルの所感を尋ねた。まあ、解答はなんとなく想像できるが。
「私は、ハルウォーガン様に害がないのなら特に何もございません。」
「なるほど。」
予想通りだ。次からは時間の無駄なので、聞かないことにしよう。……さて、明日の楽器演奏試験では、何を見せてくれるのか。試験ではなく、確認だったか。まあどちらにしろ、使えぬのならそれまでだ。
次の日。
特段気負った様子もなく、パイルが神官長室へとやってきた。
ふむ。選んだ楽器は、シュトラウスか。楽器の中では、あまり選ばれない楽器だ。狙った音を出すことが難しく、練習すればするほど指の皮が厚くなってしまう。男女問わず、貴族の子女からあまり選ばれることのない楽器だ。
さて、何を基準に選んだのか。
「それでは好きなタイミングで演奏を始めるように。演奏と言っても、音階を奏でるだけか?」
「かしこまりました。お許しいただけるのなら、昨日私が歌った曲をシュトラウスの演奏をしながら、歌わせていただいてもよろしいでしょうか。」
……ふむ。元々が演奏付きの物だと聞こえるが、楽器のない孤児院の環境を考えるとそうではないのだろうか。おそらく、つたない演奏を自信のある歌でカバーしたいということか。まあ、美しければそれもまた一興か。
「ふむ。構わない。」
「ありがとうございます。では、始めさせていただきます。」
ピンッ。
高く清らかな音色と共に演奏が始まった。まだ成人していない幼い少女の手からつま弾かれているとは思えないほど、豊かで綺麗な前奏だ。そして、その演奏に負けず劣らずの歌が始まった。歌詞は昨日と同じだ。リズムも同じ。だが、演奏が付くことで昨日の歌だけの物とは全くべつのものとなっていた。
奏でるとはこういうものだと教えられるような感覚に陥った。それは、歌や演奏がうまいこともあるが、1番は当の本人から歌に対する情熱や楽しさが遺憾なく伝わってくるからだろう。
演奏は、あっという間に終了した。本人は満足そうに、だが、もっと歌いたそうにしながら、シュトラウスを下ろした。
「ふむ。なかなかの演奏だった。褒めて遣わそう。」
「……ありがとう存じます。」
「其方には、掃除終了から昼食の時間まで、楽師としての技術向上を命じる。私を落胆させぬよう、励むように。」
「ありがとう存じます!」
こうも、答えにのせる感情に差異があると指摘したくなるが、まあいいだろう。貴族にとっては、あらゆるものが武器。優秀な貴族ほど、そのことを骨の髄までしみこませている。
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